「急に意識を失って倒れた」などと言う場合、「脳卒中かもしれない。これはいかん」と言うことで、すぐに救急車を呼ばれるでしょう。しかし、一見、たいしたことがないように見えるような症状の場合でも、脳の病気の始りであることがあります。軽いからと言って様子を見ていたり、放っておいたりすると大変なことになって、手遅れになったりすることもあるので油断出来ません。
それまでどうもなかったのに「急に頭が痛くなった」と言う時はくも膜下出血が疑われます。心配な頭痛なのに、しばしば「風邪を引いたせい」、「血圧が高いせい」、あるいは「いつもの頭痛だろう」などと間違えられます。一般に、どんな頭痛でも、痛くなり始めてから、時間がたつにつれ痛みがひどくなって頭痛のピーク、すなわち一番痛い時を迎えます。ところが、くも膜下出血の場合は、突然にガーンと痛くなって、その痛くなった時点が一番痛いのです。普段から頭痛もちの方でも、いつもの頭痛と違う頭痛が突然に起こった時には、すぐに専門医の診察を受けた方が良いでしょう。
脳腫瘍などによる頭痛は、日時の経過とともに、だんだん強くなってくるのが特徴のひとつです。また、この頭痛は、朝起きた時に強くて、また吐いたりすると、一瞬、頭痛が軽くなる特徴があります。
片方のマブタが下がる症状は「眼瞼下垂」、物が二重に見える症状は「複視」と言って、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤あるいは脳梗塞が原因で起こる場合があります。
急に「片方の手足に力が入らなくなった」とか、「しびれた」とか言う時は脳梗塞などの脳卒中の疑いがあります。それ以外に「ろれつが回らない」と言う症状もよくみられます。手足の麻痺が軽い時は、それに気付かない時もあります。しかし、例えば手の場合は、「食事中にハシを落とす」、「茶碗を落とす」、「字がうまくかけない」、足の場合は、「歩く時に片方の足を引きずる」、「つまずく」、「スリッパがぬげる」、「片側へ傾いてゆく」などと言う症状で気付かれます。それ以外に「鏡を見たら顔がゆがんでいた」、「言いたいことが言葉になって出てこない」、「物が二重に見えた」などと言う症状もよくみられます。脳梗塞は夜寝ている間に起こることが多く、そのため脳梗塞を起こした患者さんの60〜70%は、朝起きた後に様子がおかしいことに気付きます。そこで、朝起きた時に症状に気付いたと言う時は、特に要注意です。
なお、突然に片方の目が真っ暗になると言う症状は「一過性黒内障」と言って、手足の力が一時的に抜けたりしびれたりする一過性脳虚血発作と同じく脳梗塞の前ぶれと言われます。たいてい10分位で治ってしまうので、ああ良かったと安心してしまう方が多いのですが、繰り返しているうちに本物の脳梗塞になってしまうことが多いのです。
またある朝目を覚ましたら、激しいめまいがしたと言う症状も、急激に発症していることや、朝に出現していることなどから脳梗塞が疑われます。
脳梗塞にかかっても、すぐにこの治療を受ければ、劇的に良くなる可能性があります。脳梗塞は脳への動脈が詰まることによって、その先に血液が流れなくなり脳細胞が死んでしまう病気です。この詰りを溶かしてしまえば脳梗塞が治るのではないか? これが血栓溶解療法です。この血液の塊り(血栓)を溶かすための薬がt-PA(アルテプラーゼ)で、平成17年10月から日本でも治療に使えるようになり、すでに、この治療を受け劇的な改善を得た方もおられると思います。
ただし、これまでこの薬の使用は、発病から3時間以内とされていました。その理由は、治療が遅れて、血管が傷んでしまった後に血液が流れると、脳出血を起こしかえって悪くなってしまう危険があるからです。
しかし発病から3時間以内に治療を開始すると言いましても、近くに専門病院がなかったり、病院へ行くまでに時間がかかったり、着いてから診察や検査を受けてからとなりますと、アッと言う間3時間が過ぎてしまい、そのため、なかなか、この条件を満たすのが難しかったのです。
最近、その後の研究や調査の結果をふまえ、これまでの3時間から4.5時間に延ばしても安全に治療できることが分かりました。そこで2012年8月から4.5時間以内であればこの治療を行ってもよいことになったのです。
発症3時間超4.5時間以内の虚血性脳血管障害患者に対するrt-PA(アルテプラーゼ)静注療法の適正な施行に関する緊急声明
(抜粋)日本脳卒中学会
国内でも虚血性脳血管障害患者へのアルテプラーゼ静注療法の開始可能時間を3時間から4.5時間に延ばすことについて「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」で評価され、2012年8月に薬事・食品衛生審議会で公知申請の事前評価が終了し、保険適用が可能となった。わが国において、発症後3〜4.5時間の虚血性脳血管障害患者に対して本治療を適正に行うための診療指針を明らかにすることは、日本脳卒中学会の極めて重要な使命であり、今回の緊急声明をもって国内に診療指針を周知させることとした。
(推奨)
1、アルテプラーゼ静注療法は、発症から4.5時間以内に治療可能な虚血性脳血管障害患者に対して行う。
2、発症後4.5時間以内であっても、治療開始が早いほど良好な転帰が期待できる。このため、患者が来院した後、少しでも早く(遅くとも1時間以内に)アルテプラーゼ静注療法を始めることが望ましい。
3、発症後3〜4.5時間に投与開始する場合、慎重投与のうちとくに「81歳以上」、「脳梗塞既往に糖尿病を合併」、「NIHSS値26以上」、「経口抗凝固薬投与中」に該当する場合は、適応の可否をより慎重に検討する必要がある。
脳梗塞、血栓溶解療法(t-PA療法)を受けるには時間との勝負早期発見がポイント、それには「FAST」という言葉を知っておこう