くも膜下出血は、いわゆる脳卒中と呼ばれる病気のうちのひとつです(脳卒中には他に脳出血や脳梗塞があります)。くも膜下出血のほとんどは脳の血管(動脈)に知らないうちに゛こぶ゛が出来ていて、ある日突然にこれが破裂して、頭の中に出血することによって起ります。この゛こぶ゛のことを脳動脈瘤と言います。突然に起こる、ひどい頭痛と嘔吐が特徴ですが、昏睡状態で見つかることもあります。この病気には全国で1年間に約1万3000人もの方がかかりますが、放置された場合ほとんどの方が死亡します。米国での共同研究によれば内科的な治療では約70%の方が亡くなられるとのことであり、最近の報告では約50%は初回の出血により死亡もしくは社会生活不能の状態となり、治療を行わねば再出血のためさらに25〜30%の方が死亡するとのことです。顕微鏡を使用しての手術で動脈瘤のくびをクリップで留め、出血を防ぐことが出来るようになりました。この病気は手術しか助かる道はないとも言えます。死亡の原因となる再出血は初回出血後24時間以内に起ることが多く、通常、急いで手術を行ないます。現在、脳動脈瘤の手術は年間10万人あたり3人に行われている程度であり、手術を受けることが出来ずに亡くなっている方がまだまだ多いのではないでしょうか。くも膜下出血は脳卒中のひとつであり、40〜50歳台の働き盛りの方を襲う恐ろしい病気です。その原因の約80%は脳動脈瘤と言う血管のこぶが知らない間に出来て、これが破裂することによります。
ひどい頭痛と嘔吐が突然に起るのが特徴で、頭をハンマ−でたたかれたようだとか、いまだかって感じたことのないほどの痛みだなどと表現されます。また出血が強いときには昏睡状態になることもしばしばです。この脳動脈瘤と言う血管のこぶは小さな風船のようなものですが、非常に小さなことがほとんどですので破れる前に症状を出すことはまずありません。この病気は結構多いものであり、年間10万人あたり約12人の方に起こります。すなわち日本では1年間に約1万3000人の方がかかられていることになりますから結構多い病気と言えます。
このくも膜下出血は脳血管障害のなかでも最も恐ろしい病気なのです。といいますのはいったん脳動脈瘤が破れてくも膜下出血を起こしますと、血止めの薬や点滴などのいわゆる内科的な治療を行いましても、約70%の方が亡くなられるからです(アメリカでの共同研究のデ−タ− 1966年)。またたとえ生命をとりとめましても、重篤な後遺症が残ることが多いのです。この点につきましては、いろいろな報告があるのですが、最も新しくまた信頼できるデ−タ−から詳しく説明します。−くも膜下出血を起こされた方のうち、約50%は初回の出血により死亡するか又は社会生活不能の状態となり、治療を行わねばさらに25〜30%の方が再出血により死亡する(ドレ−ク氏の報告 1981年)。ここで再出血と言う言葉が出ましたが、どういうことかと申しますと、一度破れた脳動脈瘤は必ずと言ってよいほどもう一度、しかも割りと早い時期に破れるのです。すなわち一回目の破裂で助かっても、二回目の破裂を起こされて亡くなる方が大変に多いのです。先にも申上げましたように、この再出血は点滴や薬などの内科的治療で防ぐことは出来ません。この再出血を防ぐためには手術を行う必要があります。脳動脈瘤は脳の奥深い所にできますので、けっして簡単な手術と言う訳にはゆきませんが、顕微鏡を用いての脳の手術の進歩により、現在では手術の成功率は大変高くなっています。結局のところ、この病気は手術を行うしか助かる方法はないと考えて頂いて間違いがありません。しかも手術は手後れにならぬうちに行う必要があります。最も新しい報告では、この再出血が最も多かったのは初回出血が起こったのと同じ日であったと言います(カッセル氏の報告 1983年)。また出血がその日に起こらなかった場合でも、それ以後の日も毎日起こる可能性があることになります。大事なことは、特に早い時期に再出血を起こされて亡くなられる方が多いということです。すなわち手術は出来るだけその日のうちに行うのが良いのです。しかし出血を起こされた後、意識の悪い特に重症の患者さんや非常に高齢の方などでは、手術の成功率が低くなりますのでしばらく状態の改善を待って手術を行うこともありますが、手術が必要なことには変りがありません。この場合、状態が悪く手術が出来ないために待つわけで、この間、状態が改善せずに亡くなられる方もありますが、この時はどうしようもありません。
突然に起こった頭痛ではくも膜下出血を疑う
くも膜下出血では、ひどい頭痛と嘔吐が突然に起ります。この゛突然゛に起こると言うことがこの病気の特徴で、急に起こった頭痛では、常にくも膜下出血を疑う必要があります。一方、だんだん痛くなってきたと言うような頭痛はくも膜下出血ではありません。一般にくも膜下出血の頭痛は、「いまだかって経験したことのないほどひどい」と表現されるほど激しいものです。また、頭痛に続いて、あるいは始めから意識を失うこともあって、昏睡状態で見つかることもあります。
くも膜下出血は手遅れになると命にかかわる
この病気には日本全国で、1年間に約1万3000人もの方がかかりますが、放置された場合ほとんどの方が死亡してしまうと言われるほど恐ろしい病気です。例えば、米国での研究によれば、点滴や薬での治療では約70%の方が亡くなってしまうとのことです。結局、くも膜下出血では、一旦、出血が起こった場合、なるべく早く手術を受けませんと、もう一度、動脈瘤からの出血が起こって、そのために亡くなってしまう方が多いのです。そこで手遅れにならないうちに顕微鏡を使用しての手術で動脈瘤の首をクリップで留めてしまい、二度と出血が起こらないようにします(図2)。
脳の血管に動脈瘤が出来る原因は先天的なものと言われ、まだよく分かっていません。血圧とも関係ないようで、血圧の低い方にも起こります。脳動脈瘤は頭の中に出来ていたとしても、とても小さなものなので、あらかじめ症状にでることはまずありません。そこで、ほとんどの場合、気付かずにいて、破裂して始めて分かると言うことになります。くも膜下出血はやや女性に多い病気ですが、もちろん男性にも起こります。
多くはありませんが、家族内での発生がみられますので、くも膜下出血にかかった方の娘さん、あるいは姉妹の方はあらかじめ動脈瘤が出来ていないかどうかの検査を受けておいた方が良いかもしれません。破裂する前の脳動脈瘤はCTスキャン検査に写りませんので、この場合、血管を写す特殊な検査が必要となります。
くも膜下出血で手術を受けた後の方に
頭の中に出来た動脈瘤は、一般にあらかじめ症状を出すことはありません。しかし例外として特殊な部位に出来た動脈瘤では動眼神経麻痺を起こすことがあります。複視(物が二重に見える)と眼瞼下垂(まぶたが下ってくる)は動眼神経麻痺によって起こります。動眼神経麻痺の原因として最も多いのは糖尿病です。しかし、なによりもまずくも膜下出血の原因として結構多い内頚動脈、後交通動脈分岐部と言うところに出来た脳動脈瘤を疑う必要があります。なぜならば動眼神経麻痺が動脈瘤による場合では、放置すると、早晩、動脈瘤の破裂をきたして生命の危険を生じることになるからです。そこで、まず脳外科での精密検査を受けることが大切です。その他、複視があれば副鼻腔炎あるいは副鼻腔もしくは上咽頭の腫瘍の有無も調べる必要があります。
急に半身の手足の動きが悪くなったと言う場合には、脳に出血が起こった脳出血、あるいは脳の血管が急につまった脳梗塞(脳血栓)のどちらかが疑われます。どちらの病気も脳卒中のひとつで、以前の日本ではこの脳卒中が死因の第1位をしめていました。そのころの脳卒中は脳出血が多かったのですが、最近の特徴として、脳梗塞が急速に増えています。脳卒中は、このところ日本人の死因の第3位となっていましたが、最近になって再び増加したことから、第2位に浮上してきており油断できません。なお、頭痛や嘔吐を伴ったり、意識障害がある場合には高血圧性脳内出血を、また朝起きた時に麻痺に気付いたという場合などでは脳梗塞を疑います。なお短時間でよくなる手足のしびれや麻痺を繰り返すことがあり、これを一過性脳虚血発作と言います。このような方は近いうちに脳梗塞を起される可能性が高く、手後れにならぬうちに精密検査を受ける必要があります。
右脳の病気では左半身、左脳では右半身の症状が出る
両手のしびれや脱力あるいは四肢(両手、両足のこと)のしびれや脱力と言う体の両側の症状は普通、脳の病気では起こりません。脳の病気では体のどちらか半分の手足や顔面、すなわち半身のしびれや麻痺が起こります。そして右の脳の病気では普通、左半身の症状が、また左の脳の病気では右半身の症状が出ます。
[脳出血]
まず脳出血についてお話をします。脳出血の原因は高血圧です。すなわち高血圧が長く続いたため脳の血管がもろくなって、ある日突然に血管の弱くなったところが破れて脳の中に出血するのです。
脳出血の原因は高血圧
脳出血を予防するためにも、あるいは脳出血を起こされた後の患者さんでは脳出血が再発しないために、常に血圧を適切なレベルに保っておくことが大切です。血圧の高いのが恐ろしいところは、高血圧による脳出血などの合併症が起こらない限りは、血圧が高くても普段、体の異常を感じることがほとんどないと言うことです。そのため、血圧が知らないうちに高くなっていてもそれに気付かない方が多く、脳出血などの合併症が起こって始めて「しまった」と思う場合が多いのです。あるいは、たまたま血圧を計って高いと分かっても、「痛くも、かゆくもない」ことがほとんどなので、血圧の薬を飲む気になかなかならない方が多いのです。
さらに一般の方の間には「血圧の薬は副作用があって怖い」とか、「血圧の薬は、飲み始めると一生やめられなくなるから、絶対に飲んではダメだ」などと言う、無責任なウワサがはびこっていて必要な治療を受けて頂けない場合がしばしばみられます。高血圧の方で、塩分制限や運動療法を行なっても安全なレベルの血圧に下がらない方では、血圧の薬(降圧剤)が処方されることになります。血圧の薬は、最近では1日1回で良い薬が主流となって便利となってきました。これらの血圧の薬は、医師の指示なく勝手にやめたり、自分で飲む量を調節したりしてはいけません。また、毎日、忘れずに確実に薬を飲むことが大切です。なお、血圧は高くてもいけませんが、逆に下がりすぎても良くありません。それぞれの年齢あるいはその時点での血管の状態によって最適な血圧のレベルと言うものがあるのです。例えば、もともと血圧の高かった方では、体が高い血圧に慣れてしまっていますので、あまり血圧を下げすぎますと、体の調子が悪くなったりすることもあります。血圧の薬をもらって飲んでいる方で、最初は適切な血圧となっていた方でも、季節によって、あるいは体の具合によって、いつの間にか、血圧が上がったり下がったりしていることもあります。そのため定期的に血圧をチエックして、いつも血圧が良いところにあるかどうかを調べておくことが必要になるのです。そんなことから「忙しいので、診察はいらないから血圧の薬だけを下さい」とおっしゃる方もありますが、血圧を計らずに血圧のお薬だけを差上げると言うのは勧められません。
血圧の高い方は寒さに注意
なお、脳出血は、血圧の上がりやすい冬に多くみられます。寒さによって手足の血管が縮んで血圧が高くなるのです。そこで血圧の高い方は、冬には寒さに注意して血圧が上がらないように注意する必要があります。具体的には部屋の暖房に注意して、また外出する時は暖かい服装で出かけるようにします。また血圧の薬を飲んでいる方で、普段の血圧が落ち着いていた方でも、冬には同じ薬を同じ量、飲んでいても血圧が暖かい時にくらべて上がってしまうことがしばしばみられます。その場合には、安全のため、寒い間だけ血圧の薬を増やす必要があることもあります。
それ以外に、普段から良質の蛋白質(例えば魚など)をなるべく摂取するようにしましょう。良質の蛋白質は脳の血管の壁を強くして、出血が起こりにくくする役目をはたします。
[脳梗塞]
脳梗塞とは脳の血管がつまって、その先に血液が流れなくなり脳の細胞が死んでしまう病気のことを言います。脳梗塞と脳血栓とはほぼ同じ言葉と考えて頂いて差し支えありません。脳の血管がつまりますと、いろいろな脳の症状が起こります。多いものとしては、顔面や半身(体の半分)の手足の麻痺、また言葉がししゃべれなくなったり、人の言っていることが分からなくなったりする失語症(しつごしょう)、その他半身の感覚が分かりにくくなったり、手や足がしびれたり、また物が半分見えなくなったりする半盲(はんもう)症と言う症状もよく起こるのです。なお、一般に高血圧による脳出血は血圧の上がりやすい昼間に起こりやいのですが、脳梗塞は血圧が下がって、血液の流れがゆっくりとなる夜中に起こって、朝に目が覚めた時に症状に気がつくと言う場合が多いようです。脳梗塞に対して手術が行われることはあまりなく、点滴や薬を用いての、いわゆる保存的治療が主体となります。そこで、それにかからないように、普段から予防しておくことがとても大切です。しかし、最近では、血管内手術(血管内治療と同じ意味、血管内に入れたカテーテルから、薬剤を流したりして行う治療)の手技を用いて、詰まった血管を再開通させて通すと言う治療が一部の施設で行われ始めています。しかし、発病から時間がたってからでは、血管に開通が起こった場合、脳に出血が起こって、かえって状態が悪くなったりします、つまり、この治療は、発病の超早期、すなわち数時間以内(3時間とも)でないと効果がありません。さらに言えば、病院についてからの診察や検査の時間を入れますと、現状では発病してから1時間以内に病院に到着した方が望ましいのですが、このような治療を行える施設がどこにでもある訳ではありません。
動脈硬化が進みますと脳の動脈は細くなってきます。その細くなった部分に血液の塊(かたまり)が出来たりして、血管がつまってしまう病気を脳血栓(のうけっせん)と言います。血管がつまりますと、その先には血液が流れなくなりますので脳の細胞は死んでしまいます。この脳の細胞が死んだ状態を脳梗塞(のうこうそく)と言います。少し分かりにくいと思いますが、一般の方では脳血栓も脳梗塞もほぼ同じ病気と考えていただいて結構です。
その他、心臓に不整脈がある方では、心臓の中に血液の塊ができることがあります。この血液の塊が心臓から頭の血管の方に流れて行って、そのために脳の血管がつまつてしまう場合もあります。こういうものを脳塞栓(のうそくせん)というのですが、やはり脳に血液が流れなくなりますので脳梗塞が起こることになります。
いずれにしましても脳の血管がつまりますと、いろいろな脳の症状が起こってきます。多いものとしましては、顔面の麻痺(動かなくなること)や半身(体の半分)の手足の麻痺、そして言葉がしやべれなくなったり、人の言っていることが分からなくなったりする失語症(しつごしょう)、そして半身の感覚が分かりにくくなったり、物が半分見えなくなったり(半盲症)と言う症状も起こります。高血圧、動物性脂肪の摂取による高脂血症、タバコなどは動脈硬化を悪化させます。また糖尿病の方では動脈硬化が早く進みますので、脳血栓を起こされる方が多いことはよく知られています。
脳の細胞はひとたび死んでしまいますと回復することはありませんから、その予防は心掛けたいものです。特に注意していただきたいことは、大きな発作の起こる前に一過性脳虚血発作と言つて小さな発作を何回か繰り返すことがあると言うことです。これは短時間で治ってしまう手足のしびれや脱力(麻痺)等の発作ですが、すぐに良くなるからと安心していますといつのまにか大きな発作を起こし大変なことになります。手おくれにならないうちに検査そして治療を受ける必要があります。
脳の血管がつまって脳の細胞が死んでしまいますと、CTスキャン検査(脳のコンピュ−タ断層検査)でその部分は黒く写ってきます。
脳の血管がつまってしまつた場合、つまった部分を手術で開くと言うことは現在の医学では不可能です。そのため血液の流れを良くするような薬を用いての治療が主となります。なお一度脳梗塞を起こされた方で脳梗塞の再発を予防するためには、抗血少板剤と言う薬を使用することが多く、中でもアスピリン(商品名 バッフアリン、頭痛の薬としても使用される)の少量投与がよく行なわれます。
動脈硬化とは文字どうり動脈がかたくなってきた状態をさしています。そう言った部分では動脈の壁にコレステロ−ルやその他の脂肪が沈着し壁が著明に厚くなり、その内腔が狭くなっています。そして動脈硬化が進みますと脳梗塞、また心臓の冠状動脈の硬化による狭心症や心筋梗塞などが起ることになります。この動脈硬化は年をとって初めて始るのではありません。すなわち非常に若いうちから始って年齢とともに次第に進行すると言うことが分かっています。そして若いうちは無症状で経過し、40代、50代になって発病するのです。従って動脈硬化の予防は若いうちから始めなければなりません。
動脈硬化を促進する因子としては高脂血症(血液中のコレステロ−ルや中性脂肪が増加した状態)、高血圧、糖尿病、タバコ、そして痛風(高尿酸血症)があげられます。動脈硬化の予防には食事療法が最も大切です。
脳梗塞の3大原因は、高血圧、動脈硬化、不整脈である
脳梗塞には大きく分けて3つの原因があります。
ひとつは高血圧によって起こる穿通枝梗塞(ラクナ梗塞とも言います)と言われるもので、日本人の脳梗塞で一番多いのがこのタイプです。この穿通枝梗塞がたくさん出来ますと脳血管性痴呆症と言ってボケてくるこもあります。このタイプの予防は、高血圧によって起こる脳出血を予防するのと同じく、血圧を常に適切なレベルに保っておくことにつきます。このタイプの血管のつまり方は脳血栓(のうけっせん)、すなわち血栓が出来ることにより血管がつまって起こります。そのため症状は病気の起こりはじめから2、3日の間、進行して悪くなることがあります。
なお無症侯性脳梗塞と言って、これまで何の覚えもないのに、たまたま脳の検査をしてみたら脳に知らないうちに脳梗塞が出来ていたと言うようなことが結構あることが分かりました。この無症侯性脳梗塞もやはり脳梗塞であって、一度起こったことは二度、三度と起こる可能性があります。そして将来、手足の麻痺をきたすような大きな脳梗塞が起こる危険性があるため、脳梗塞の予防薬などによって脳梗塞の再発予防を行なっておく方が安全であると言われます。
次に高脂血症(血液中のコレステロールが高い状態)によって血管に動脈硬化が起こり、そのため血管が狭くなって起こる皮質枝梗塞と言うものがあります。西洋ではこのタイプの脳梗塞が多く、最近、日本でも食生活の急速な西洋化から動物性脂肪の摂取が増えた結果、急激に増加してきております。糖尿病では動脈硬化が早く進み、脳血栓や心筋梗塞を起こす方が多いことはよく知られています。
動脈硬化を防ぐには、動物性脂肪を控えること
このタイプの予防には、もちろん高脂血症に対する治療が必要であって、動物性脂肪の摂取を控える食事療法だけを行なっても血液中のコレステロールが下がらない方では、飲み薬による治療が必要となります。高脂血症の薬としては、最近では動脈硬化の予防に働く善玉コレステロール(HDLコレステロール)の値を下げずに、血液中のコレステロールの値だけを下げるタイプの薬が主流となっています。
最後に脳塞栓と言われるものがあります。心臓に心房細動と言う不整脈が起こりますと、心臓の中に血液の塊が出来やすくなります。この血液の塊のことを塞栓(そくせん)と呼びますが、これが脳の血管の方に流れて行って脳の血管がつまってしまうことによって起こります。 最近、年配の方に心房細動が増えてきていることから、このタイプもやはり増加してきています。脳塞栓の方ではワーフアリンと言う薬を再発予防のために飲む必要のあることが多く、この場合、定期的にトロンボテストと言う血液検査を行なって、飲む薬の量を調節する必要があります。またワーファリンを飲んでいる方では、納豆、ホウレン草などを摂取しますと薬の効果が弱くなりますので注意が必要です。
短時間で良くなる手足のしびれや脱力には要注意
なお脳梗塞の「前ぶれ」として、短時間で良くなる手足のしびれや麻痺を繰り返すことがあり、こう言ったものを一過性脳虚血発作と言います。この一過性脳虚血発作を起こされた方は、近いうちに大きな脳梗塞を起される可能性が高いと言われています。手後れにならぬうちに精密検査を受け、さらに治療を始めて脳梗塞にならぬように予防しておく必要があります。
脳梗塞を起こされた方では、再発予防のために抗血少板剤と言う薬をもらっていることが多いと思います。この薬は、脳の血液の流れを良くして、脳の血管をつまりにくくする作用があります。なお、この薬を飲んでいる方では、歯を抜いたり、あるいは手術を受けたりする時に、若干、出血が止りにくくなることがあります。そこで、そのような場合には、あらかじめ主治医の先生に相談するようにしましょう。
この抗血少板剤としてよく使われるのがアスピリンと言うお薬で、皆さんがよくご存知のバッファリンのことです。バッファリンは頭痛薬としても使われますが、脳梗塞の方にはその予防薬として出しています。しばしば「頭は痛くないのに、なぜ頭痛薬を飲まねばならないんですか」と言う質問を受けますので、念のため。
脳梗塞の予防には常に水分をよくとること
さて脳梗塞は汗をかいて脱水になりやすい夏に多発します。なぜかと言うと、脱水になりますと血液がドロッとして流れにくくなり血管がつまりやすくなるからです。例えば、炎天下のテニス場、ゴルフ場、あるいは登山に際して汗をかいて脱水となり、脳梗塞を起こして倒れる方が多いのです。そこで夏には常に十分な水分の補給に心掛け、血液をいつもサラッとした状態にしておくようにすることが大切です。タバコは多血症を引き起こします。多血症とは血液中の赤血球が増えて血液がやはりドロッとした状態となっていることを言いますが、この場合も血管がつまりやすくなります。その結果、脳梗塞が起こりやすくなるのです。禁煙が必要です。なお多血症の方では、異常に増えた赤血球は体にとって、かえって害になるだけですので、冩血(しゃけつ)と言って、体からその不要な血液を抜いてしまう治療を行なうことがあります(献血で血液を抜かれるのと同じことです)。
脳出血
脳出血は高血圧の方に多く、出血は大脳の中央にある被殻(ひかく)と視床(ししょう)と呼ばれるふたつの部分によくおこります。この被殻や視床のすぐ近くには脳の運動中枢から手や足への命令の通り道として大切な内方(ないほう)と言う部分があります。出血によってこの内包が障害されますと半身の麻痺が起こるのです。さらにこのすぐ下には脳幹部(のうかんぶ)という大事なところがあり意識や呼吸、そして循環(心臓)をつかさどつています。すなわち出血が大きくなりますと脳幹部への障害が出現し、そのため次第に昏睡状態となり、ついには生命の危険を生じます。このように大きな出血で意識の障害が出現して来るような場合には、命を助けるための手術が必要となります。また内包が出血により圧迫されている場合、出血を取り除くことによつて麻痺の回復を期待することも出来ます。最近開発されたCT定位脳手術は全身麻酔ではなく、局所麻酔で出来ますので患者さんへの侵襲が少なく、また脳には細い針を入れるだけですから他の正常な脳を傷つけることが少なく、あまり大きな出血には使えませんが中等度までの出血にはまず試みて良い方法と考えられます。
その他、小脳(しょうのう)などにも出血はよく起りますが、小脳はさらに脳幹部に近いため生命の危険を生じやすく、ここに出血した場合には救命のため急いで手術を行う必要のあることがほとんどです。 脳の中の出血は発症直後からCTスキャン検査で白く写ります。脳出血は出血の部位や出血の大きさによつて治療が異なりますが、CTスキャンではこれがたちどころに診断出来ますので、現在ではなくてはならない検査になっています。
2、頭の中に出血する場合
もう少し詳しく説明しましょう。高血圧が長く続きますと全身の臓器に障害が起こつてきます。なかでも脳、心臓、腎臓は特に高血圧によって特に障害を受けやすい臓器です。また同じ脳の中でも特に高血圧に弱い部位があるようです。高血圧が長く続きますと、そういった部分の血管はもろくなって、ついには破れて出血を起こすことになります。脳の中でも大脳基底核(きていかく)と言う大脳の中央にある部分が最も出血が多い部位です。そしてこの大脳基底核のうちでは被殻(ひかく)と視床(ししょう)と呼ばれる2つの部位に多く、出血した場合、それぞれ被殻出血、視床出血と言います。この被殻や視床のすぐ近くには内包(ないほう)と言う部分があります。この内包は脳の運動中枢から手や足へ行く命令の通り道として重要な所です。被殻や視床に出血した場合にはこの内包が同時に障害を受けることが多く、それによつて半身の手や足、また顔面の麻痺が起こることになります。さらにこの大脳基底核のすぐ下には脳幹部(のうかんぶ)という大事なところがあり、意識や呼吸、そして循環(心臓)をつかさどっています。すなわち大脳基底核部の出血が大きくなりますと脳幹部の障害のため意識の障害が出現し、昏睡状態となってゆき、ついには生命の危険を生じることになります。
この大脳基底核以外にもやや少ないのですが、出血のよく起こる部位があります。それは大脳皮質下(ひしつか)、橋(きょう)そして小脳(しょうのう)です。このうち小脳は大脳基底核よりさらに脳幹部に近いため生命の危険を生じやすく、ここに出血した場合には救命のために早く手術を行う必要のあることがほとんどです。一方、橋は脳幹部の一部であり、ここに出血した場合はまず助かりませんし、手術も出来ません。
脳の中の出血はCTスキャン検査で白く写ってきます。このCTスキャンでは出血を起こした脳の部位や大きさがたちどころに診断出来ます。先に説明しましたように脳出血にもいろいろな部位のものがあり、出血の起こった部位また出血の大きさによって治療が異なります。そのためCTは、現在ではなくてはならない検査となっています。
ところが高血圧の方には長い年月にわたり自覚症状のないことがほとんどですので、すすんで血圧を計ってもらおうという方は少なく、また血圧が高いと分かっても治療を受けようという方はさらに少ないのが現状です。そして大部分の方は結局、病気にかかってはじめてしまったと思うことになります。
高血圧を悪化させる因子には次のようなものがあります。すなわち塩分の取りすぎ、飲酒、肥満、ストレス、寒冷などです。寒さは血管を収縮させ血圧を上げます。そのため通常夏よりは冬には血圧が高くなります。冬にトイレの中やふろ上がりの脱衣場、また玄関先などで脳出血を起こす方が多いのは、暖かい所から急に寒い所に出たため血圧が急激に上昇するためです。
高血圧の方では以下のような注意が必要です。
めまいを起こすたくさんの病気のうちのほとんどは、あまり心配のないことが多いのです。しかし中には生命にかかわったり、放置すると手遅れになって後遺症を残すような病気の場合があります。その中で脳幹部と言われるところに起こった脳梗塞では進行性卒中と言って何日もかけて症状がだんだん悪化するような経過をとることが多く、始めは、めまいだけなどと言う軽い症状だけのこともあって油断出来ません。単なるめまいと思っていると病気が進んで命にかかわることもあります。脳幹部梗塞では進行性卒中と言って数日かけて症状が悪化するような経過をとることが多く、はじめは軽い症状だけのこともあって油断出来ません。単なるめまいと思っていると生命にかかわることがあります。小脳出血は救命のための手術を要することが多いため、脳外科施設に急いで移送する必要があります。有名なメニエール病はめまいの発作をくりかえす病気ですが、回転性のめまい発作に際し耳鳴りと難聴を伴うことが特徴でそれほど多い病気ではありません。
年配の方のめまいは要注意
脳幹部にあるめまいの中枢(前庭神経核)の近くには、顔面の感覚を司どる三叉神経核と言うところがあり、めまいと同時に口の回りがしびれたりする時には、脳幹部の虚血が疑わしく要注意です。小脳出血ではめまいに加えて、頭痛を伴うことが多く、またしばしば嘔吐が見られます。そんなことで、くも膜下出血と間違えられることもあります。
くも膜下出血は突然に昏睡に陥いることがあり、高血圧性脳内出血でも大きな出血や、脳幹部に出血した時には昏睡状態となります。路上で倒れているところを発見された場合には頭部外傷、脳血管障害、けいれんの後、また低血糖などを考えます。もちろん頭部外傷では頭に傷のあることがほとんどです。しかし脳卒中などで突然に倒れ頭に傷を受けることもありますので、頭に傷があるからと言って頭を打っただけとは限りません。倒れた原因をつきとめることが重要です。脳卒中では嘔吐を伴うことが多く、特に昏睡の場合では嘔吐により窒息することがあり移送中にはこの点に対して注意が必要です。そして嘔吐が見られたならば体を真横にして窒息を防止します。
思春期までに起こったけいれんは大部分がてんかんと言う病気によるものですが、成人になってから起こったけいれんでは脳に治療を要する原因のあることが結構あり精密検査が必要です。脳腫瘍のかなりの方がけいれんを初発症状としています。また脳波検査でてんかんの波が出ているかどうかでてんかんと診断します。解説:30歳頃までに起こったけいれんは、大部分がてんかんと言う生まれつきの病気によるものです。この場合、脳の奇形などが見られることもありますが、一般にCTスキャン検査では異常がみられません。てんかんは脳波検査で異常波が出ているかどうかで「てんかん」と診断します。脳動静脈奇形と言う脳の血管の奇形を生まれつき持った方では、けいれんが起りやすく、けいれんが起こったため、念のためと受けた精密検査でしばしば見つかることがあります。そこで、若い方でけいれんが起こった方でも脳動静脈奇形のこともないとは言えませんので、けいれんの起こった場合には、脳波検査だけではなく、CTスキャンなどの精密検査を一度は受けておく方が良いでしょう。一方、成人(特に30歳以上の方)になってから始めて起こったけいれんでは脳に治療を要する原因のあることがあるしばしばですから、どうしても精密検査が必要です。例えば脳腫瘍のかなりの方がけいれんを初発症状としています。
脳動静脈奇形は先天性の脳の血管奇形のひとつで、けいれんやくも膜下出血の原因となります。この血管奇形の部分では圧力の高い動脈の血流が壁の薄い静脈に直接流れ込んでいます。そのため圧に耐えられなくなって壁の薄い異常血管の部分が破れて出血を起すのです。この病気の頻度は脳動脈瘤の1/6とやや少なく、くも膜下出血の大部分の原因である脳動脈瘤の破裂に比べて若い方に起ります。すなわちしばしば、青年の脳卒中の原因となります。脳動静脈奇形のある方ではけいれんが起ることが多いので、けいれんを起こされた方ではこの病気を疑い精密検査を行う必要があるのです。脳動静脈奇形の方では、出血が起こると重篤な結果を招きますので、将来の出血を予防するための手術が必要なこともあります。近年、顕微鏡を用いての脳外科手術、あるいはガンマーメスと言う方法での治療が行なわれます。
抗けいれん剤を処方されている方へ
てんかんの方では、もしけいれんが起こりますと、転倒によってケガをしたり、事故にあったり、あるいは、けいれんが、お風呂の中で起こった時には溺れて命にかかわることもあります。それ以外に、多くはないのですが、けいれんの後に手足の麻痺などの後遺症が出たり、もしくは、けいれんが止らなくなって重積(じゅうせき)と言う状態となって命にかかわることもあります。すなわち、けいれんが起こると危険なことが多いため、別に毎日発作が起こる訳でもない方であっても普段から抗けいれん剤を飲んでおく必要があるのです。
てんかんの方でも、抗けいれん剤さえ確実に服用されたなら、ほとんど発作が起こることはありません。そこでほぼ普通の社会生活が送れます。しかし発作は飲むのを忘れたり、勝手に飲むのをやめてしまった時に起こりやすいので、1回も忘れずに確実に飲んで頂くことが大切です。なお、薬を同じように飲んでいても季節によって、あるいは体調によって薬の効果が変ることがあります。そこで、定期的に血液検査を行なって血中濃度を測って、逐一飲む薬の量を調節してゆく必要があります。
けいれん止めの薬は1回も忘れてはいけない
風邪などを引いて風邪薬を飲んだりする時に、「薬が重なるのでは」と自己判断で、勝手にけいれん止の薬の方をやめてしまう方があります。しかし、実は風邪を引いて熱が出た時などには発作はよけいに起こりやすくなるのです。すなわち、このような時こそ確実に薬を飲んでおく必要があります。つまり自己判断はしばしば危険をともないますので、どうすれば良いか分からない時は、どんなことでも遠慮なく医師に問い合せるのが正しいやり方です。なお抗けいれん剤を飲んでいる方でも、長い間には、まれに発作の起こることがありますから、危険な場所での仕事や車の運転をなさってはいけません。また溺れたりすると、命にかかわりますので、一人でお風呂に入った時には、時々どなたかに声をかけてもらうように、あるいは水泳なども監視する人のある状況でしか泳いではいけません。注:現在の日本の法律では、てんかんの方は運転免許を持てないことになっています。
ボケ症状も原因により手術でよくなる場合が結構あり、必ず精密検査を受けられるべきです。特に慢性硬膜下血腫では放置されますと命にかかわりますので注意が必要です。年配の方に、いわゆるボケ症状が見られた時は、一般に「年のせいだから仕方がない」とあきらめてしまいがちです。確かにボケの原因としては、未だに原因も治療法もはっきりしないアルツハイマー病とか、あるいは高血圧や動脈硬化が長く続いたことによる脳血管性痴呆などが多いのですが、同じようにみえて実は手術で治る痴呆の場合もあるのです。その代表的なものが慢性硬膜下出血、脳腫瘍、正常圧水頭症などの場合です。
慢性硬膜下出血とは、頭の骨の内側にある硬膜と言う膜と脳との間に出血が貯まって、次第に脳を圧迫してくる病気です。頭を打ったあと何ケ月かたってから起ることが多く、普通、ボケ症状や頭痛、また半身の麻痺などの症状で始まります。かなり日がたってから起こることが多いため、頭を打ったこと自体を忘れてしまっていることもしばしばです。そこで、このような症状が見られたなら、年のせいでボケたとあきらめないで、一度は精密検査を受けてみる必要があります。年をとった方に多いので老人ぼけと間違われたり、単なる頭痛として見過ごされたり、一方、半身の麻痺だけの時は脳卒中と間違われることもあります。また精神病と間違われ精神科に入院させられていることも結構あります。この病気の怖いところは手後れになると命にかかわることですが、一方、簡単な手術を行い血を抜きますと見違えるように良くなります。なお、この病気はお酒をよく飲む方に多く見られる特徴があります
頭痛や嘔気、嘔吐もよく見られる症状で、脳腫瘍では朝に頭痛がひどいと言うのが特徴です。麻痺の症状は通常上肢では『ハシや茶腕をよく落とす』とか、下肢では『よくスリッパがぬげる、よくつまずくようになった』などと言う症状で気付かれます。そして時間の経過とともに症状が悪くなって行くのがもうひとつの特徴です。脳腫瘍とは頭の中に出来る「できもの」のことを言います。この中にはいろいろな種類のものがあって、良性のものも、悪性のものもあります。近年、脳腫瘍の治療は大変に進歩しました。なかでも脳の外に出来る良性の脳腫瘍は顕微鏡を用いた手術で全摘出が可能となり完治が望めます。
脳腫瘍は発生した場所によって症状が異なるため一概には言えませんが、腫瘍が大きくなるにつれその症状が進行性、すなわち次第に悪くなると言う特徴があります。すなわち次第に強くなる頭痛や嘔吐、手足の運動麻痺、言語障害、そしてボケ症状、またけいれんなどの見られた時には脳腫瘍を疑って精密検査を行う必要があります
頚椎症性脊髄症は中年以後に多く、手足のしびれやハシが持ちにくい階段が降りにくいと言った運動麻痺の症状で始ります。症状が進みますと歩けなくなり、両手も麻 痺してしまいます。この病気は今後、高齢化社会を迎えますます増加するものと思われます。脳外科医の行う顕微鏡手術では脊髄への障害を最小限にとどめることが可能です。頚椎症性脊髄症は中年以後の方に多く、手足のしびれ感や冷感、あるいはハシが持ちにくいボタンが止めにくいと言った上肢の運動麻痺の症状、また階段が降りにくい、歩行がふらつくと言った下肢の運動麻痺の症状で始り、次第に進行します。症状が進みますと全く歩けなくなり、また両手も麻痺してしまいます。そもそも首の骨、すなわち頚椎は7つの骨からなり、それぞれの骨と骨の間には椎間板と言うクッションとなる組織があってつながっています。ある程度の年齢となって老化現象が起こってきますと、この椎間板は水分を失って固く、また薄くなってきます。その結果、椎間板が飛出したり(ヘルニア)、新しく骨(骨棘、こっきょくと言います)が出来てこれらが脊髄などの神経を押さえることがあります。つまり、この病気は首の椎間板や骨が傷んだために、これらが脊髄を圧迫するようになって起るのです。この病気は今後、高齢化社会を迎え、ますます増加するものと思われます。脳外科医の行う顕微鏡手術では神経に対する圧迫を安全にとり除くことが出来ます。脊髄は一旦障害されてからでは回復は望めません。すなわち手後れにならぬよう早期発見、早期治療を行なうことが特に大切です。なお、脊髄にできものが出来る脊髄腫瘍でも同じ様な症状が出ます。さて、いずれにしても脊髄や脳の病気は、一旦、症状が出てからでは手遅れになって、元通りに戻らないと言うことがしばしばです。すなわち、病気の早期発見、早期治療の大切さはいくら強調しても、強調しすぎることはありません。
頭の中に出血が起こっている疑いがあります。以上の症状に続いて意識障害また半身の麻痺や瞳孔不同が出現します。そしてそのまま放置しますと短時間のうちに死亡することになります。すなわち頭を打った後は1〜2日の間は厳重に経過をみる必要があるのです。また特にお酒を飲んでいる方では以上のような症状の変化が分かりにくく、酒を飲んで寝ているなどと間違われて放置され手後れになることがあり要注意です。必ず時間ごとに起してみて起きるかどうかをチェックします。出血はほとんどの場合、頭を打った直後に意識を失った方やレントゲンで骨折のある方に起こりますが、そうでないからと言って安心は出来ません。特に子供の急性硬膜外血腫には骨折がないことが多いことに注意します。また子供の場合で特に後頭部を打った時には良く嘔吐がみられます。これは心配のないことがほとんどですが、一度専門医に見てもらった方が良いでしょう。一方、大人では単なる頭部外傷で嘔吐が見られることはあまりありませんので出血を疑ってすぐに検査をします。また頭を打ったあと低血圧のショックになることはまずありません。すなわち血圧が異常に低い時には合併損傷である腹腔内出血などの有無を徹底的に調べる必要があります。
頚椎の脱臼骨折が疑われます。意識を失っている場合、麻痺が分かりにくく頚椎の骨折に気付かぬことがあります。このような時、頚椎を不用意に動かしますと障害が回復不能の状態となりますので特に注意が必要です。また第一頚椎と第二頚椎間の脱臼では頭を前屈させただけで呼吸が止ります。頭を打ったすべての患者の頚椎はレントゲンで骨折がないと判明するまでの間、愛護的に扱われるべきであり、特に意識が悪い患者には頚椎固定装具があてがわれるべきです。