「急に意識を失って倒れた」などと言う時、どなたも「脳卒中かもしれん。これはいかん」と言うことで救急車を呼んだりします、一見たいしたことがないように見える症状の場合でも、脳の病気の始りであることがあります。軽いからと言って様子を見ていたり、放っておいたりすると大変なことになったり、手遅れになったりすることもあるのです。特に注意しなければならない症状とは、次のようなものです。
☆突然に起こった頭痛
それまでどうもなかったのに急に頭が痛くなったと言う時は、くも膜下出血が疑われます。しばしば「風邪を引いたせい」、「血圧が高いせい」、あるいは「いつもの頭痛だろう」などと間違えられてしまいます。普段から頭痛もちの方でも、いつもの頭痛と違う頭痛が突然に起こった時には、すぐに専門医の診察を受けた方が良いでしょう。なお、急に片方のマブタが下がったと言う症状は、くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤が原因で起こる場合があります。
☆突然に起こった半身の麻痺やしびれ
急に「片方の手足に力が入らなくなった」とか、「しびれた」とか言う時は脳梗塞の疑いがあります。それ以外に「ろれつが回らない」と言う症状もよくみられます。麻痺が軽い時は、それに気付かない時もありますが、例えば手の場合は、「食事中にハシを落とす」、「茶碗を落とす」、「字がうまくかけない」、足の場合、「歩く時、片方の足を引きずる」、「つまずく」、「スリッパがぬげる」、「片側へ傾いてゆく」などと言う症状で気付かれます。それ以外に「鏡を見たら顔がゆがんでいた」、「ろれつが回らない」、「言いたいことが言葉になって出てこない」、「物が二重に見えた」などと言う症状も良くみられます。脳梗塞は夜寝ている間に起こることが多く、そのため脳梗塞を起こした患者さんの60〜70%は、「朝起きた後に様子がおかしい」ことに気付きます。そこで、朝起きた時におかしな症状に気付いたと言うような時は、特に要注意です。
なお、「突然に片方の目が真っ暗になった」と言う症状は一過性黒内障と言って、手足の力が一時的に抜けたりしびれたりする一過性脳虚血発作と同じく脳梗塞の前ぶれと言われます。たいてい10分位で治ってしまうので、ああ良かったと安心してしまう方が多いのですが、繰り返しているうちに本物の脳梗塞になってしまうことが多いのです。
また「ある朝目を覚ましたら、激しいめまいがした」と言う症状も、急激に発症していること、朝に出現していることなどから脳梗塞が疑われます。
急にフーとなった。フラフラとした。頭がクラクラとしたと言うような症状は、脳の血液の流れが悪くなって起こることが多く、すぐに治ったからと言って安心は出来ません。なぜなら、このような症状は、脳の酸欠(酸素欠乏、酸素の足りない状態)から起こることが多く、脳梗塞の前ぶれかもしれないからです。特に暑い夏に起こった時には、要注意。汗をたくさんかくせいで、体内が脱水状態となりやすく、血液がドロドロになって、脳の血液の流れが悪くなることが多いからです。
夏は脳梗塞の多発する季節。のどが渇いたと感じた時、血管内は、すでに水分が足りない状態になっています。のどが渇く前、つまり普段から、水分補給を怠ってはいけません。年配の方は、炎天下に出ないようにして、歩いたりするような運動は、朝の涼しいうちに行いましょう。汗の中には、多量の電解質が含まれています。たくさん汗をかいた時の、水分補給には、同時に電解質を補う意味からスポーツドリンクがよいでしょう。一方、ひどく汗をかいたわけでもないのに、スポーツドリンクをたくさん飲みますと、電解質、すなわち塩分のとりすぎになったりしてもいけません。暑い時期の普段の水分補給なら、お茶やミネラルウオーターがよいと思います。
頭痛は、しばしば「血圧や風邪のせい」にされることが多いようです。例えば、頭が痛い時に血圧を測って、たまたま血圧が高ければ「血圧が高いせいだろう」と考えてしまいがちです。しかし一般に血圧と頭痛とは無関係で、たとえ血圧が高くても、そのせいで頭が痛むことはまずありません。また、頭が痛いと、「風邪でもひいたのかな?」と考える方も多いようです。しかし風邪と言うのは、ウィルスによる急性上気道感染で、のどや鼻の痛みもなく、咳も痰も出なくて、症状が頭痛だけと言うような風邪はありませんし、たとえ風邪をひいておられるとしても、発熱もないような風邪で頭が痛むことも、まずありません。
もちろん血圧が高いのを治療しないで放っておいた場合、近い将来、脳や心臓の重い病気を引き起こしてくる可能性が高いことは事実です。また「風邪は万病のもと」とも言われるように、普段から、かからないように予防しておくことが大切ですし、また、かかってしまったなら早目に治療しないといけません。つまり高血圧や風邪は普段は「悪者」には違いないのですが、こと頭痛に関しては、「血圧や風邪」は、その「犯人」ではなくて「無実」なのです。
多くはありませんが、頭痛は命にかかわるような病気によって起こる場合があります。一番の問題は、そのような頭痛を「血圧や風邪のせい」と考えてしまい、しばらく様子を見ているうちに、手遅れになってしまうと言うようなことが、現実に、しばしば起こっていることです。つまり、早く「真犯人」を探し出して治療しなければいけない場合があります。
最も注意が必要な頭痛とは、脳卒中によって起こるもの、なかでも「くも膜下出血」によるものです。このような「危険な頭痛」は、そうとは知らずに何もしないで様子をみていますと、命にかかわることが多いのです。この「くも膜下出血」の頭痛の特徴は、頭痛が「突然に」起こることです。すなわち、それまでどうもなかったのに急に、「何かに当たったように」、あるいは、「何かで殴られたように」、ガーンと痛くなります。そのような場合には、たとえ夜中に痛くなった時でも、朝まで様子を見てはいけません。すぐに医師に相談する必要があります。
世の中で、慢性の頭痛を訴える人は少なくありませんが、その原因のうちの80%は筋収縮性頭痛(緊張型頭痛)と呼ばれるものです。このタイプの頭痛は長時間うつむいた状態で仕事や勉強をする人によくみられます。うつむいていると首の筋肉が収縮して固くなり、その結果、筋肉の中の血液の流れが悪くなって、頭の後から痛みが始ります。特に頭の重さの割に首が細長い方では、頭をささえる首の後の筋肉に常に負担がかかりやすいので、このタイプの頭痛がしばしば起こります。この型の頭痛を訴える患者さんの2/3は女性、なかでも「首がほっそりとした゛なで肩゛の美人タイプ」に多いのです。
「肩こり」もやはり゛なで肩゛の女性に多いようです。これは゛なで肩゛の方では腕の重さをささえる僧帽筋に常に負担がかかりやすいからです。僧帽筋は後頭部のところから、首、肩、背中にかけてついている大きな筋肉で、腕を吊り上げるのが大きな役目のひとつになっています。腕をブラ下げていると肩の筋肉に負担がかかりますが、常に筋肉が収縮していることになるため、血流が悪くなって肩こりが起こってくるのです。
片頭痛で困っておられる方は全人口の5〜6%にものぼり、実際、高血圧の方より多いと言われます。片頭痛とは、頭痛発作を起こす体質的な病気で、痛みの原因は頭の表面を走っている動脈(頭の中ではなく、頭の骨の外です。)がひろがって、その動脈の壁がひっぱられて痛むことによります。そのため、脈に一致してズキンズキンと痛むのが特徴で、発作中に、しばしば吐き気や嘔吐を伴います。この頭痛はいつもではなくて、時々、発作的に起こるのが特徴で、平均、1ケ月に2〜6回の発作を起こす方が多いようです。そして、いったん頭痛がおきると数時間から2日くらい続きます。
ところで、片頭痛を「頭の半分が痛む病気」と思っておられる方が多いようですが、これは必ずしも正しくありません。確かに、片頭痛は片側に出ることが多い(60%)のですが、両側が痛む場合(40%)も結構あります。頭痛もちの方が、「頭の半分が痛んでいる」から自分は片頭痛だとおっしゃっている場合がよくあります。しかし、よく聞いてみますと、脈を打つ頭痛ではなくて、頭の筋肉がこって痛む緊張型頭痛であることも多いようです。また片頭痛は30歳までに発病することが多く、30歳以降では急に発病が減って、結局、95%くらいは若い時期に発病します。逆に言えば40歳以上で初めて片頭痛が発病する可能性は低いので、このような場合は別の病気を考えなければいけません。
片頭痛の発作には、一般の頭痛薬は効果が少なく、ひろがった動脈を元に戻す酒石酸エルゴタミンと言う頓服のお薬がこれまで使われてきました。しかし、このお薬は頭痛の起こりかけの時期に飲まないと効果がないと言う欠点があり、また使いすぎると、かえって別の型の頭痛が出て困ることになってしまうと言う問題もあったのです。ところが最近、頭痛の回数を減らして頓服の服用を減らすことの出来る新しい薬ミグシスが発売になっています。
また欧米では何年も前から頭痛が出てからの服用でも効果があるスマトリプタン系の特効薬が主流になっていて、日本での発売が長年、待たれていました。それがやっと発売となり片頭痛患者さんの間で大変な話題となっています。このスマトリプタン系のお薬として現在、レルパックス、ゾーミッグ、イミグランの3つのお薬が発売されています。
なお、片頭痛発作の方のうち、30%の方ではアルコールが発作を誘発すると言われ特に赤ワインによって起こる方が多い。その他、チョコレート、チーズ、味の素などにより誘発されることがあります。また、ぎらぎらした光や明るい光、映画やテレビの点滅する光などによって誘発される方もあって、夏にはサングラスを手放さない人もあります。なお月経周期と関連して生じる方もあります。なお、妊娠中は発作の頻度が減少することが知られています。
通常の頭痛薬(非ステロイド系消炎鎮痛剤:バファリン、セデス、ロキソニンなど)で頭痛が治る場合は、それを使います。偏頭痛の特効薬(頓服)としては、これまで酒石酸エルゴタミンと言うお薬が使われてきました。しかし、この薬は、頭痛がひどくなってからでは効果がなく、必ず頭痛発作の始まりの段階に飲まないといけません。また連用していますとクセになると言う問題がありました。それで、最近では、そのような欠点のないスマトリプタン系のお薬が使われるようになりました。スマトリプタン系のお薬には、現在、レルパックス、ゾーミッグ、イミグランと言う3種類のお薬があり、最も適したものを選びます。なお、この系統のお薬は狭心症などの動脈硬化性疾患方や妊娠中の方には使えません。
なお、偏頭痛では、頭痛発作が始まると、吐き気がして嘔吐する方が多く、せっかく飲んだお薬を吐いてしまうことがあります。それではお薬の効果が期待できませんので、吐き気止めのお薬をいっしょに飲んだ方が良いようです。また、偏頭痛の発作が、週に2回以上起こる場合には、普段から毎日、飲んで頭痛発作を起こりにくくする偏頭痛予防薬を使います。ミグシスと言うお薬をまず使いますが、それでも効果のない方では、他にもいろいろ予防薬がありますので、それを試すことになります。
頭痛にもいろいろあって、「あなたの頭痛は神経痛です」と申し上げますと、「エッ、頭にも神経痛があるの?」とビックリされる方が多いのですが、頭にも神経痛があります。ところでおじいちゃん、おばあちゃんは手足が痛むたびに、「また神経痛が出た」とよくおっしゃっいます。ところが、これは「筋肉痛や関節痛」の場合がほとんどで、神経痛ではありません。神経痛とは、神経が刺激を受けたせいでビリッとした電撃的な痛みが走る場合を言います。例えば、どなたも肘のところで神経の通っている部分を打った時、手先に向かってビーンと痛みが走った経験があるでしょう。これが神経痛で、ズキッ、ズキズキッとか、ピリッ、ピリピリッなどと痛み、ビリッとした次の瞬間には痛みは止る特徴があります。つまり痛みの続く時間は実際は数秒間、このような短時間の痛みを繰り返して、だらだらと痛みが続くことはありません。そして痛みと痛みの間には、間欠期と言って必ず痛みの止っている時期があり、その間は、全く痛くないので患者さんはニコニコしていると言う特徴があります。顔面が痛むので有名な三叉神経痛、胸が痛む肋間神経痛も神経痛ですから、ずーっと痛むことはなくて、間を置いて短時間の痛みを繰り返すと言う特徴があります。ずーっと痛むのなら、別の病気を考えなくてはいけません。
さて頭の皮膚にも、皮膚の感覚に働いている神経が分布しています。そして髪の毛の生えているところを走っている何本かの神経をまとめて後頭神経と言います。この後頭神経に神経痛が起こりますと、後頭部や側頭部から頭頂部にかけピリッ、ピリッもしくはビリッ、ビリッとした痛みが間欠的に走ります。後頭神経は首の部分の脊髄から枝分れし出ていて、神経が頚椎の間を通り抜ける椎間孔と言う部分で圧迫されたり、神経が通る後頭部の筋肉で圧迫されたりして神経痛を起こすと考えられています。つまり、頭は痛いけれど、その原因は首にあると言う訳です。
なお、神経痛が起こるには、神経を刺激する何等かの原因が必ずあり、単に痛みだけが勝手に起こると言うことはありません。つまり痛みを抑えておけば良いのではなくて、その原因を確かめておくことが大切です。
顔面がゆがんでしまったとか、顔面が痛い時に、よく患者さんが「顔面神経痛になった」と言ってやってこられます。しかし顔面の半分が動かなくなってゆがむ病気は「顔面神経麻痺」と言う病気ですし、いずれにしても顔面神経痛と言う病気はありません(専門的になりますが非定型顔面神経痛と言う稀な病気はあります)。と言いますのは、顔面が痛い時、顔面の痛みなどの感覚に働いているのは三叉(さんさ)神経ですから、それを言うなら顔面神経痛ではなくて、三叉神経痛と言うことになります。ただし神経痛と言うのは、ズキッとか、ズキ、ズキッとか短時間痛んで、しばらく痛みが止ったかと思うと、また痛むと言う具合に、間を置いて痛む特徴があります。顔面がそのように痛めば、もちろん三叉神経痛ですが、多少の差はあってもズーッと長い時間、例えば1日中痛いなどと言うのは三叉神経痛ではありません。顔面がズーッと痛む原因で多いものとしては、蓄膿症(副鼻腔炎)などからくる痛みがあり、風邪の後に多くて、うつむくとよけいに痛んだりする特徴があります。
その他、注意しておかなければいけない顔面の痛みにヘルペス(帯状疱疹)によるものがあります。額(ヒタイ)の部分は、この帯状疱疹のよく起こる場所で、ブツブツとした発疹のでる何日か前から神経痛様の痛みが始ります。発疹が出てからでは、すぐに診断がつきますが、痛みだけあって発疹がない始めの時期では、ヘルペスかどうか分からないのです。しかし、このヘルペスはちゃんと治療しておかないと、後で帯状疱疹後神経痛と言って、一生、痛みで苦しむことになりますから、すぐに医師に相談しましょう。
顔面が痛む病気のうち代表的な病気です。顔面が痛む病気には三叉神経痛ばかりではなく、例えば蓄膿症や歯科疾患による痛み、あるいはヘルペスなど、他にもいろいろなものがあります。しかし、巷では何でも三叉神経痛と診断されてしまう傾向がみられます。
まず、代表的な72歳男性の場合を紹介しましょう。この患者さんは「右ヒタイの発作性の激しい痛みで困っている」と来院されました。始めは、62歳の時、ある日、急に右のヒタイに激しい痛みが走るようになって、それ以来、この痛みに悩まされていました。右ヒタイの痛みは発作性で急に起こり、右マブタの上に軽く触れるだけでもするどい痛みが走ります。痛みの持続時間は短いのですが、傷口をキリで突くような激しい痛みで、風が吹いたり、大声を出したり、物を飲み込んだり、マバタキをしたり、上を見ただけでも起こることがあります。痛みが始りますと洗顔、ヒゲ剃り、食事、歯磨きなどが出来ないぐらいでした。
結局、三叉神経痛には、次のような特徴があります。
「三叉神経痛」などの神経痛の特効薬として、一番よく使われるお薬はテグレトール(カルバマゼピン)と言うお薬です。この薬は「顔面けいれん」や「てんかん」のお薬としても使われます。この薬は始め少量から開始して、期間を置いて、少しづつ飲む量を増やしてゆきます。と言いますのは、テグレトールは飲み始めの時期に血液中の薬剤濃度が少し上がることがありますので、そのせいでフラツキが出たりする人があるからです。もしフラツキが出ても、しばらく様子をみていると、ほとんどの場合、慣れてフラツキは治ってきますので心配ありません。なお、少量のお薬から始めますので、薬の量が増えて、効果が出るまでしばらく時間がかかります。それまであきらめずに飲んで頂く必要があります。
テグレトールは約80%の方に有効ですが、効果がみられない方には、アレビアチン(フエニトイン)と言うお薬が用いられます。アレビアチンと言うお薬も、顔面けいれんやてんかんの治療にも使用されます。
年をとれば誰でもボケると思っている方が多いようですが、これは正しくありません。例えば85歳以上の方のうち痴呆は約27%の方にみられますが、それでも正常な方(73%)の方が多く、実際、高齢になってもボケない人の方が多いのです。つまり、痴呆は単に年をとったから起こると言うものではなくて病気なのです。痴呆になる病気の代表で、脳の神経細胞が壊れて萎縮が進むアルツハイマー病の患者さんは、現在でも日本に50万人以上おられ、高齢化社会を迎えさらに増加すると予測されています。そしてエイズとアルツハイマ−病とは、現代における2大難病とも言われています。ところが、この病気の原因は、いまだ完全には分かっておらず根本的な治療法もないのが現状です。しかし、最近、病気を治す効果はありませんが、症状の進行を遅らせると言う国内初のアルツハイマー病治療薬、アリセプトが発売となりました。この薬は欧米ではすでに広く使用されていて一定の効果をあげています。ただし、3割バッターとも言われるように、全員に効果が出る分けでもありませんし、病気が重症になる前、すなわち出来るだけ早いうちに始めないと効果がありません。しかし、ボケは治らないとあきらめずに、試してみる価値は十分にありそうです。
なお、それ以外に手術で直る痴呆と言うものが結構あります。そのうち代表的なものが慢性硬膜下血腫と言う病気です。この病気は頭を打ったことによって起こることが多いのですが、頭を打ったと言いましても、例えば鴨居(かもい)でコツンと打ったなどきわめて軽い外傷であることもしばしばですから、かかってからでは、頭を打ったこと自体を忘れてしまっていることも多いようです。いずれにしても頭を打ってから、だいたい数週間あるいは数ケ月してから頭痛、精神症状、物忘れなどの症状で発病してきます。この病気は見つかりさえすれば簡単な手術で完全に治ってしまう病気ですから、アルツハイマ−病などの痴呆症と間違えないことが大切です。つまり、ボケ症状が見られたならば、単に年のせいなどとあきらめてしまわず、医師のもとを訪れて、直る可能性のある病気であるのかどうかを早いうちに診断してもらうことが大切です。
老化を促進する強力な原因のひとつに体内に発生する有害な活性酸素を挙げることが出来ます。老化や動脈硬化は、活性酸素によって酸化されることが原因です。老化の予防には、この活性酸素の害を打ち消す抗酸化作用を持った物質を自然食品から摂取することが大切です。抗酸化物質を摂取すると、細胞の老化を防ぐばかりでなく、コレステロールの酸化を抑え、動脈硬化を防ぐ作用もあります。
ベーターカロチン、ビタミンC、ビタミンEなどには強い抗酸化作用がありますが、これらを豊富に含む食品には、まず、ニンジン、トマト、カボチャ、ホウレンソウ、ピーマンなどの緑黄色野菜をあげることができます。カブ、ブロッコリー、キャベツ、ハクサイ、小松菜、チンゲンサイなどのアブラナ科の野菜にも、やはりベーターカロチン、ビタミンC、ビタミンEなどが豊富に含まれています。レモン、ミカン、オレンジ、グレープフルーツなどの柑橘類、またイチゴやブルーベリーなどのベリー類にはビタミンCが豊富に含まれています。ナッツ類にもビタミンEが多く含まれていますが、なかでも強い抗酸化物質が見つかったのがピーナッツです。赤ワインやオリーブオイル、ゴマ、緑茶に含まれるカテキンなどに多量に含まれるポリフエノールも同様に強力な抗酸化作用を持っています。
魚(特に青魚)に多く含まれる脂肪酸の一種であるDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)には、血液中のコレステロールや中性脂肪の値を下げて動脈硬化を予防する作用、さらに血栓を出来にくくして血管がつまるのを防ぐ作用があります。つまり脳梗塞や心筋梗塞を強力に予防する効果があるのです。そればかりでなく、脳の神経細胞を活性化しボケ予防にも効果がみられます。代表的な青魚には、アジ、サバ、サンマ、マグロ、イワシ、ブリ、サケ、カツオなどがあります。
脳梗塞とは、脳へ血液を送る血管(動脈)がつまるために起こる病気です。脳への血管がつまってしまいますと、その先の大切な脳細胞へ血液が流れなくなって、脳細胞が死んでしまい脳梗塞が起こることになります。
脳梗塞は、いわゆる危険因子を持った方に起こりやすいのですが、その危険因子にはいくつかのものがあります。そのうち重要なものには、高血圧、高脂血症(血液中のコレステロールが高い)、糖尿病、多血症(しばしば喫煙者にみられる)、心臓病(心房細動などの不整脈)などをあげることが出来ます。そんなことから脳梗塞も、いわゆる生活習慣病のひとつと言われたりします。一般に脳梗塞などの脳卒中は、何の症状の前触れもなく、突然に起こる特徴があります。そこで、普段から、これら脳梗塞の危険因子の有無のチエックを行い、そう言った危険因子の見つかった方では、食事療法、運動療法、薬物療法などで、正常の状態に戻しておかなければなりません。
なお、血液中の水分が不足した状態を脱水と言います。汗をかいたりした時に水分の摂取が不足しますと脱水となって、脳の血管を流れる血液が濃くなることからつまりやすくなります。そこで特に、汗をかきやすい夏期にはよく水分をとるようにしましょう。
ところで、一過性脳虚血発作と言って脳梗塞の本物の発作(大きな発作)を起こす前に、短時間の手足のしびれや、脱力(力が抜けること)の発作を何度か繰り返すことがあります。これは脳梗塞の前ぶれで、すぐに良くなるからと安心し放置していますと、早晩、大変なことになります。一過性脳虚血発作は一度でも起こしたら、すぐに精密検査を受けて脳梗塞の予防の処置を行っておく必要があります。
頭痛などの精密検査を受けた際に、知らないうちに脳梗塞にかかっていたことが、たまたま分かることがあります。脳梗塞にかかっても、症状がほとんどない場合があって、症状がなければ、かかったことに気付かないのです。こう言ったものを無症候性脳梗塞と言います。しかし無症候性であったからと言って、脳梗塞には違いがありません。脳梗塞に一度かかったら、必ずと言って良いほど再発します。次に起こった時も無症状であるとは限りません。こう言った場合には、普段から脳梗塞を予防するお薬を飲んで再発を防いでいく必要があります。
本態性振戦は、年配の方の手のふるえ(振戦)の原因として一番多い病気です。ある調査によると40歳以上の方の6%に見られると言います。もうひとつ有名な振戦にはパーキンソン病によるものがありますが、パーキンソン病の場合には安静時振戦と言って手を動かさないでいる時にふるえが出ていて、動作により消失する特徴があります。一方、本態性振戦の場合は、ものをつまむ、切る、つつく、コップで水を飲む、あるいは字を書いたり、絵を描いたりなどの、手の動作時にふるえが生じることが多いのです。命にかかわったり、手足が動かなくなったりする病気ではありませんが、ふるえがひどくなると日常生活にかなりの障害となります。この本態性振戦のふるえは飲酒により消失する特徴があり、飲み始めた時はふるえていますが、杯を重ねることによりふるえが消失することから「二杯目のカクテル現象」と呼ばれます。場合によってはふるえを止めようとアルコールを飲み過ぎてアルコール中毒になる人もある位です。このタイプのふるえにはベーター遮断薬と言う薬が効果があります。
手指が痛む原因のうち多いものに腱鞘炎があります。手指を動かす腱は腱鞘と言うトンネルのような鞘(さや)の中を通っています。手指をよく使う人では、腱が厚くなったり、あるいは腱の表面が傷ついたりして腱の動きがスムーズにゆかなくなって、腱鞘との間に摩擦が起こって痛みを生じたり、時にはひっかかって指の動きが悪くなったりします。
さて手指の親指側には親指を動かす2本の腱が通っていて、この腱が通る手関節の親指側の部分の腱鞘に起こった腱鞘炎をドケルバン病と言い、腱鞘炎の中でもよく見られます。よく指を使う、中年以降の女性に多くて、手関節の親指側が痛みます。この病気では、指をあまり使わないようにすることが大切で、炎症を起こしている場所に炎症を抑えるブロック注射をしたりしますが、症状がひどくてよくならない場合には手術をします。
腱鞘炎がひどくなりますと、腱鞘の部分で腱がひっかかって、指を曲げたり、伸ばしたりする時にポキン、ポキンと音がしたり、あるいは、伸ばそうとすると抵抗があってなかなか伸びず、急にパチンと音がして曲がったりするようになることがあります。また、ひどくなると指が曲がりっぱなしになって伸びなくなったりしますが、このような場合には手術が必要でしょう。
寝ている間、知らないうちに何度も呼吸が止ってしまう病気です。そのせいで夜間の睡眠が浅くなり、いつも寝不足になって、昼間にやたらと眠くなったりして日常生活に支障をきたすことになります。例えば、眠くて仕事に集中出来ないとか、ひどい時には運転中の事故につながることもあります。そればかりではなく、呼吸が止っている間は、体に十分に酸素を取り込めなくなり、寝ている間の酸素欠乏状態のため、心臓や脳に大きな負担がかかって、高血圧、狭心症、心筋梗塞や脳梗塞の原因となることもあります。ひどい時には、八千メートル級の高山に、酸素ボンベを持たないで登った時と、同じ位の低酸素状態になるとも言われます。この病気は、けっして珍しい病気ではなく、国内で100〜200万人もの患者さんがおられるとも言われます。その原因の多くは肥満で、太ったことにより空気の通り道である気道が狭くなったことによります。家族の方から、いつも大きなイビキをかいているとか、睡眠中に時々、息が止っているなどと言われる方、昼間いつも眠気があるような方は要注意です。疑わしい方は、夜間の酸素欠乏状態を調べる検査がありますので、ご相談下さい。
年配の方に多い病気で、片側の胸部や腰部、あるいは額(ヒタイ)などに、いくつもの小さな水泡をともなった発疹が起こり、それが、ひどく痛む病気です。その原因は、水痘帯状疱疹ウィルスによるもので、これは子供さんがかかる水痘(水ボウソウ)と同じウィルスです。このウィルスに大人がかかった場合、長い間、神経(正確には後根神経節と言うところ)に潜んでいて、体の抵抗力が弱った時をねらって活動を始めるのです。すると、ウィルスが潜んでいた神経の領域に沿って、まず鋭い痛みが走るようになり、2〜3日してから発疹が現われます。発疹を生じる前なら、症状としては痛みしかありませんので、例えば、胸なら、肋間神経痛などと間違えられたりします。そうこうしているうちに、いくつもの赤い斑点状の発疹が出現し、続いて、それぞれの発疹の上に小さな水泡が現われます。しばらくの間は、痛みが激しく、しばしば夜も眠れないほどです。
特に高齢の方では、早く治療を始めませんと、帯状疱疹後神経痛と言って激しい痛みが何年も続くことがあり要注意です。また額に起こった場合では、帯状疱疹眼症と言って視力に影響が出る場合があり、やはり注意が必要です。
これからの季節、寒くなってくると血圧の上がってくる方が増えてきます。今回は、お年寄りの高血圧についてお話しましょう。年をとると、もちろん低いままの方もありますが、一般に血圧が高くなってきます。これは、年をとると動脈硬化が進んで全身の臓器の血液の流れが悪くなるため、血圧を上げて流れを良くしようと言う生体の自然な反応でもあるのです。しかし、必要以上に血圧が高くなった状態が続きますと、やはり、いろいろな合併症が起こってきます。
治療が必要な場合、若い方では収縮期血圧(高い方の血圧)が140mmHg以上になったら治療を始めるのですが、お年寄りの場合、もともと血圧が高めであることから、若い世代の方にくらべ、高めの血圧になってから始める方が安全です。そこで大体、160 mmHg以上になれば開始し、ゆっくりと目標血圧へ下げて行きます。血圧の下げすぎにも注意が必要で、血圧を下げすぎると、各臓器への血流量が減ってしまい、さまざまな障害が起こることにもなりかねません。例えば、必要以上に血圧が下がって、脳への血液の流れが減りますと、めまいやフラツキを起こすことになり、ひどい時には脳梗塞になったりすることもあります。また、高血圧の方では、全身の臓器が高い血圧に慣れてしまっていることが多く、急激に血圧を下げたりしますと、臓器への血流量が急激に減ってしまい、そのせいで病気になったりすることもあります。そこで2ヶ月くらいかけてゆっくり下げてゆくのが良いと言われています。
1、今かかっている先生は、この前、血圧が150mmHgもあったのに薬を出してくれません。大丈夫でしょうか?(65歳女性)
血圧は1日中かなり変動しています。そこでたまたま1回だけ計った血圧が高かったと言って、いつも高いとは限りません。例えば、いつもは低いのに、その時だけ高かったと言うような場合もあります。このような方があわてて薬を飲んだりすると血圧が下がりすぎて、逆に問題が起こったりすることもあります。そこで、まず、日をあけて何度か血圧を測って、本当に高いのかどうかじっくり確かめた方が安全です。また、年をとると一般に血圧が上がってきます。これは体にとって必要があって上がっている部分もあり、それなのに若い方と同じように考えて血圧を下げたりしますと、お年寄りの場合には臓器の障害が起こることもあります。そこで160mmhg以上の場合になってはじめて治療を始めるのが普通です。
2、血圧が高くて薬をもらいました。飲み始めてから2週間もたつのに血圧が160mmHgより下がりません。この薬で大丈夫なんでしょうか?(65歳女性)
高血圧の方では、血圧が高かった間、全身の臓器が高い血圧に慣れてしまっていることが多いのです。あわてて、急に血圧を下げたりしますと、臓器の血液の流れが悪くなって、逆にいろいろな問題が起こる可能性があります。そこで、血圧を下げる時は、安全のため体が低い血圧になれるよう、2ヶ月くらいかけて、ゆっくりと少しずつ下げてゆくようにします。むしろ、あわてて一辺に下げない方が良いのです。
ビタミンQ(コエンザイムQ):最近、老化、成人病予防に注目されているのがこのビタミンQです。全身の細胞の中にあるミトコンドリアは、体が必要とする全エネルギーの95%を作っていて、体内の「エネルギー工場」とも言える重要な器官です。人体は、摂取した栄養素をこのミトコンドリアの中で燃焼させ生命活動に必要なエネルギーを作り出しているのですが、その効率を高めるために働いている重要な補酵素が、今回、ご紹介するコエンザイムQです。そのため細胞内のコエンザイムQが不足するようなことがあると、細胞の機能が低下し十分にエネルギーを作り出すことが出来なくなります。また体内では、取り入れた酸素の一部が活性酸素に変化していますが、この活性酸素が増えすぎると「酸化ストレス」となって、正常な細胞を傷つけ、その結果、成人病にかかったり、老化をきたしたりする原因となっています。
このコエンザイムQには、ビタミンCやビタミンEとならんで、活性酸素の害を防ぐ作用、すなわち「抗酸化作用」も持っているのです。このコエンザイムQはレバー、豚肉、カツオイワシなどの食品に多く含まれています。
乳酸菌LG21 :胃腸病は「日本人の国民病」とも言われるほど多いのですが、慢性胃炎や胃、十二指腸潰瘍さらには胃がんの原因のかなりが、実はヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)と言う細菌が、胃の壁に住み着いた(感染)ために起こると分かったのは最近のことです。そこで、このところ抗生物質を用いた除菌療法が盛んに行われているのです。そして、この除菌療法はうまく効くと大変効果があるのですが、このところ耐性菌と言って薬が効かないピロリ菌が増えてきていると言う問題があります。ところが、最近、LG21と言う乳酸菌が入ったヨーグルトを用いて、ピロリ菌を退治する方法が注目されています。この乳酸菌LG21 は、ピロリ菌など人体に害をおよぼす菌を排除する働きがあることから善玉菌とも呼ばれています。30名のピロリ菌感染者の方に、LG21の入ったヨーグルトを8週間食べてもらった実験では、胃の中のピロリ菌の量が平均して10分の1に減り、著しい例では100分の1に減ったと言います。もともとヨーグルトは腸にも良く、カルシウムもたっぷり含まれていますし、なんと言っても薬のような副作用がありません。いつも胃の調子が悪いなどとおっしゃっている方は、この方法を一度、試してみられてはいかがでしょうか。
脂肪肝:肝臓の細胞に中性脂肪が貯まる病気。肝臓には正常でも、その重さの2〜5%の脂肪がありますが、これが10%を越えて異常に貯まった場合を脂肪肝と言います。脂肪肝の3大原因は肥満、アルコール、糖尿病です。標準体重より20%以上重い場合、その20〜30%の人に脂肪肝がみられます。アルコールについては1日に日本酒で3合以上を5年以上飲み続けた人の大部分の方が脂肪肝になっていると言われます。また、コントロールが不十分な糖尿病の患者さんの50%に脂肪肝がみられます。血液検査ではAST(GOT)、ALT(GPT)と言う数値が上昇することが多く、この数値は肝細胞の破壊の程度を示します。γGTPはアルコール性の脂肪肝で上昇します。脂肪肝の治療には肥満や過度の飲酒、糖尿病など、その原因となる生活習慣の改善や病気の治療を行うことが最も大切です。
中性脂肪:血液中の中性脂肪が高い、または中性脂肪とコレステロールが高い時は高脂血症と呼ばれます。自覚症状はなく、血液検査を行って初めて、それと分かります。中性脂肪が高いと、ひとつは急性膵炎にかかりやすくなります。もうひとつは、特に女性の方では動脈硬化が進行し狭心症や心筋梗塞などの心臓病にかかりやすくなります。また、男性でもやはり動脈硬化が進みやすくなるとも言われています。中性脂肪が高くなっている場合、食べすぎ、飲みすぎ、肥満、運動不足などの生活習慣に原因のあることが多いようです。中性脂肪はアルコールの飲みすぎや、甘いものをたくさん間食したりすることが原因になることが多く、まず体重と食生活を見直しましょう。なお、糖尿病など、他の病気のせいで高くなることもあります。
最近の研究によると、アポリポ蛋白E4と言う遺伝子を持っている人は、それを持っていない人にくらべ、あきらかにアルツハイマー病にかかりやすいことが分かった。例えば、このE4の遺伝子を1個持っている人は、アルツハイマー病になる危険が持っていない人の2〜3倍となる。そして2個持っている人は、その危険が10〜30倍となり、さらに3個持っている人の場合では、その90%以上の人が80歳までにアルツハイマー病になることが分かった。一方、現実には、この遺伝子を持っていなくてもボケる人はいるし、逆に、この遺伝子を持っているけれどもボケない人もいる。すなわち、アルツハイマー病になるにあたっては、それ以外にも、いくつかの複数の危険因子が関与していると言われており、あらかじめ、そのような危険因子に対する対策をたてておけば、遺伝的にアルツハイマー病にかかりやすい人でも、それにかからなくてすむ可能性があるし、一方、そのような遺伝子を持っていない人でも、普段から危険因子に対する対策を怠っていれば、アルツハイマー病にかかる可能性が出てくるのである。
それでは、アルツハイマー病の危険因子にはどのようなものがあるかと言うと、自分の努力ではどうにもならないものとして老化、性別(女性に多い)、家族性、あるいはアポリポ蛋白E4遺伝子などの危険因子があり、一方、これを自己努力で改善し、アルツハイマー病を予防出来る可能性がある因子として頭部外傷、動脈硬化、喫煙、アルミニウム、フリーラジカル、あるいはライフスタイルなどの因子があげられている。以下、それぞれについて説明する。
患者さんの中には、風邪とインフルエンザが同じ病気と思っている方がおられるようです。どちらもウィルスと言う病原体が体の中に入って起こることは同じなのですが、ウィルスにはいくつもの種類があって、風邪とインフルエンザでは病気を起こすウィルスが全く違いますし、重症度もインフルエンザの方がはるかに強く、例えば、お年寄りがかかると命にかかわる場合もあるくらいで、全然違った病気と考えた方良いと思います。なかにはインフルエンザの予防注射をすると、風邪をひかないと思っている方もありますが、この予防注射は、あくまでインフルエンザにしか効果がありません。
風邪
風邪は「鼻やのど」などの上気道にウィルスが感染して起こりますが、風邪を起こす原因になるウィルスは100種類位あると言われています。ところで、なぜ風邪が冬にはやるのかと言いますと、実は「風邪のウィルス」は、寒くて乾燥したところを好み、冬の気候が大好きだからです。ところで、いかに寒いからと言っても、ウィルスがいないせいで南極では風邪にかかる人はいないそうです。体の中に風邪のウィルスが入ってきますと、いろいろな方法でこのウィルスを対外に排除しようとする働き(防御反応)が起こります。そのひとつが「咳、せき」で、これで上気道のウィルスを体の外へ吹き飛ばそうとする分けです。また風邪をひくと、鼻水や痰が出ますが、これは鼻や気道についたウィルスを「水ぜめ」にして殺してしまおう、あるいは体外に排出してしまおうと言う働きでもあります。風邪をひいたら熱が出たりすることがありますが、風のウィルスはとても熱に弱く、まわりの温度が1度上がるだけで死んでしまう場合もあります。要するに、熱が出ると言うのは体温を上げてウィルスを殺そうとしている防御反応のひとつなのです。熱が出ると、すぐに熱さましの座薬などで下げてしまおうとする方がありますが、これは考えもので、熱を下げることによって、かえって風邪がひどくなったり、長引いたりすることにもなりかねません。
また、風邪をひいたら抗生物質を飲まねばならないと思っている方も多いようですが、抗生物質は細菌にしか効きません。風邪はウィルスによる病気なので、抗生物質は風邪には効果がないのです。いわゆる「風邪ぐすり」と言われるものは風邪を治すと言うよりは、風邪によって起こった炎症などを和らげる、対処療法のお薬なのです。それでは、どうして風邪が治るのかと言うと、風邪をひいてしばらくすると、体の中で免疫が働き、その原因となったウィルスを殺す作用のある抗体が出来るからです。そこで、風邪をひいたら1、暖かくして、2、気道粘膜の乾燥を防ぐため室内を加湿したり、水分をよくとって、3、体の抵抗力を高めるためおいしいものをたくさん食べて、4、十分に休息をとることが最も大切です。
インフルエンザ
インフルエンザにかかりますと、特徴的な症状、すなわち急に39度位の発熱と、全身倦怠感、手足の関節の痛みなどが起こり、風邪と違って、いかにも重い病気にかかったと言うような感じになります。年配の方の場合、インフルエンザにかかってから肺炎を併発したりして命にかかわることもあります。かって、スペイン風邪や香港風邪と言われたインフルエンザの大流行で、たくさんの方が亡くなったことを覚えておられる方もおられるかもしれません。 インフルエンザに関して皆様に知っておいて頂きたいことは次のようなことです。
心臓自体に酸素や栄養を送る冠動脈と言う動脈が狭くなって、一時的に血流が悪くなり心臓の筋肉が酸素不足を生じて起こる発作性の病気で、最近増加している虚血性心疾患のひとつです。冠動脈が狭くなる原因としては、動脈硬化による場合と、動脈が縮んだり、一時的に詰まったりして起こる場合とがあります。
症状としては、胸が痛くなるのですが、痛いと言うよりは「胸がしめつけられる」とおっしゃる方が多いようで、「絞るような」、「つかまれるような」、「圧迫されるような」、「息が詰まるような」、「重苦しい」などと表現されることが多く、「鋭い痛み」や「チクチクした痛み」であることはありません。狭心症の痛みは多くは3分位、長くて20分位以内で、ニトログリセリン(ニトロペン)の舌下錠で速やかに(30秒から数分)症状は消失します。寒い時期に多く、また明け方に痛むことが多くて、痛みの多くは胸部ですが、肩や手、あるいは頚部や顎のあたりまでひろがることがあります。胸の痛みが起こった時は、よく調べて、狭心症かどうかを見きわめなければなりません。なぜなら狭心症の場合、心筋梗塞など命にかかわる病気につながることがあるからです。例えば急性心筋梗塞の方の半数は、発病前に狭心症にかかっていることが分かっています。狭心症の中で多いものは、労作性狭心症と言って、階段を上ったりなどの運動を行なった際、あるいは興奮した時に起こるものです。あと全体の2〜3割ですが、安静時狭心症と言って運動と関係ないものもあります。狭心症では、発作すなわち胸が痛い時に心電図をとりますと特徴的な異常が出ます。しかし、発作以外、すなわち痛くない時に心電図をとりましても異常が出ません。労作性狭心症の場合、運動負荷試験(マスター負荷試験)と言って、階段を上り下りして心電図をとりますと異常をみつけることが出来ます。あるいは24時間心電図検査(ホルター心電図)と言って、心電図を記録する器械をつけて普通に日常生活を送って頂き、後で狭心症の異常が出ているかどうかを調べたりします。
最近、「どうも咳や痰が増えた」、「動くと息切れがするようになった」、「若い頃からタバコを吸っている」と言うような方は慢性閉塞性肺疾患COPDにかかっておられる可能性があります。聞き慣れない名前かもしれませんが、このところ、この病気が大変増えてきているのです。慢性閉塞性肺疾患COPDとは、慢性気管支炎と肺気腫の2つの病気を併せてこう呼ぶのですが、それは、どちらも肺の閉塞性の換気障害、すなわち末梢気管支レベルでの気道(空気の通り道)の狭窄や閉塞のため、肺への空気の流れが制限されるために起こる病気だからです。慢性とは年に3ヶ月以上、ほとんど毎日、2年間以上にわたって、このような症状が続く場合を言います。この病気は、長年タバコを吸っている方に起こりますが、気づかれないうちに発病して、じわじわと進行するのが特徴です。そして、60歳を越えた頃になって始めて、日常生活に支障をきたすような症状が出現することが多いのですが、一旦、壊れた肺胞の機能はこの時点では、もう元に戻ることはなく、重症になると酸素吸入が必要な状態になります。慢性閉塞性肺疾患の80〜90%は喫煙が原因で起こると言われますが、例えば、毎日20本、30年間吸った人の20%がこの病気を発病すると言われます。この病気の診断にはスパイロメーターを使用した呼吸機能検査が大変有用で、最大限に吸って思い切り強く吐き出した量と、最初の1秒間に吐き出せる量の比率、すなわち「1秒率」を用いて診断します。この病気の進行を食い止めるには、禁煙するしかありません。しかし慢性閉塞性肺疾患にかかっていても症状が出現する前なら、そうと気付かれることはありません。しかし、実は、その間も病気はじわじわと進んでいて、症状が出現しだした時には、すでに手遅れとなっていることが多いのです。スパイロメーター検査では、症状が出現する前に、これを発見することが出来ます。そこで、一定の年齢に達した方では、この病気の予防のため、積極的にスパイロメーター検査を受けて、自分が慢性閉塞性肺疾患にかかっていないかどうかをチエックしておくことが大切です。
血圧と言えば、血圧が高いのを気にされる方が多いようです。それはそれで大切なことなのですが、その一方で、血圧が下がりすぎて、脳への血流が悪くなり、そのせいで立ちくらみやめまい、ふらつきなどの症状が起こり、それで困っている方も結構おられるのです。しかし、それが低血圧のせいであると気づいていない方も多いようです。もともと血圧は普段、1日のうちでも様々な要因の影響で、上がったり、下がったりして変化しています。しかし、血圧の変動があまりに激しいと、そのせいで臓器への血液の流れが悪くなったりして問題が起こる可能性があります。それでは困りますから、血圧が大きく変化しないよう、体内では血管をひろげたり、縮ませたりして、異常な範囲にまで変動したりしないよう常に調節が行なわれています。
この血管の拡張や収縮に働いているのが自律神経と言われるもので、この自律神経の働きが不十分な場合には、適切な血圧の維持が出来なくなってしまい、その結果、血圧が下がりすぎたりすることがあります。この自律神経の働きのうち、血管を縮ませるのが交感神経、ひろげるのが副交感神経と言われるものの役目です。例えば、緊張した時には交感神経の活動性が高まって血管が収縮し、血圧は上がることになります。あるいは、お風呂に長くつかっていますと副交感神経の活動が高まり、血管がひろがって血圧が下がったりしますが、そのせいで脳貧血を起こして倒れたりする方もあります。
なお、脳へゆく血流が少なくなった状態を脳貧血と言います。脳貧血も軽い時にはフーッとするだけなのですが、ひどい時には、意識を失って倒れたりすることもあり、これを失神と言います。
ところで、もともと自律神経の反応性には個人差があり、つまり何かあった時に働いてくれるこの自律神経の働きが、もともと弱い方も結構おられるのです。例えば血管を縮ませる交感神経の力が弱いと、血管は十分に収縮しませんので、血圧は低くなります。
ところで、横になっている時にくらべて、体を起こした時や立った時に血圧が下がる現象を起立性低血圧と言いますが、普通は血圧が下がりすぎて脳貧血を起こしたりしないよう、自律神経が働いてうまく調節しているのです。ところが自律神経に障害があるため、立上った時などに著しい低血圧をきたす場合を起立性血圧調節障害と言います。この場合でも、普段160mmHgの血圧であった人が140mmHg に下がってもたいしたことはないのですが、もともと低血圧で例えば100mmHg であった人の血圧が20mmHg下がりますと、80mmHgになって問題が起こることになるのです。
また、年配の方で頭の血管に動脈硬化が進み、動脈が細くなっているような方ですと、わずかの血圧の低下でさえも血流が悪くなって、フーッとなったり、あるいは失神をきたしたりすることもあります。
私たちの脳は、自分の体の運動や姿勢の状態を、耳の中にある三半規管などからの信号、目からの視覚情報、手足、首などの筋肉や関節からの位置に関する情報などを元に逐一、正確に判断しています。ところが、そのうちのどこかに不具合が起こり、そこから異常な誤った情報が脳に伝えられた場合、それは、ほかのところからくる情報と、うまく一致しません。このような運動や姿勢に関する情報のアンバランス(不一致)があると、脳は、一瞬、自分の体の運動や姿勢の状態が分からなくなってしまいます。この際に、「めまい」を自覚することになります。つまり、めまいとは自分の体の位置や運動を誤って感じた際に起こる症状なのです。
めまいには大きく分けて2つのタイプあります。ひとつは「回転性めまい」で、目の前や自分自身がぐるぐる回っているように感じるものです。もうひとつは「浮動性めまい」で、フラフラして真っ直ぐ歩けない、雲の上を歩いているような感じがするというものです。めまいの原因には大きく分けて2つのタイプがあり、平衡感覚を司る三半規管や前庭の病気で起こる「耳が原因」のタイプと、体のバランスを制御する「脳が原因」のタイプとがあります。そのため、病気が耳にあるのか、脳にあるのかを十分に検査して調べる必要があります。一般に「耳からのめまい」は回転性であることが多く、「脳からのめまい」は浮動性であることが多いのですが、脳の異常でも、急激に起こった場合、それに伴って起こるめまいは回転性であることもしばしばです。結局、心配なめまいとは脳が原因で起こるもので、めまいと同時に「手足に力が入らない」、「手足がしびれる」、「ろれつが回らない」、「頭痛がする」、「意識を失う」などの症状がある時は、恐い脳卒中からくるめまい、なかでも脳梗塞を疑う必要があります。
夏は汗をかいて、血液中の水分が不足し、血液がドロドロとした状態になりやすいのです。また、暑さのせいで、血管がひらいて血圧が低下しやすいことも加わって、いっそう、血液の流れが悪くなりやすいことから、夏は脳梗塞にかかる人が増える季節です。常に、「水分補給」に心がけて、脳梗塞を予防することが大切です。
ところで、脳梗塞を起こした方の、かなりの方が朝、起きた時に症状を自覚しています。めまいを起こす原因には、いくつもの病気がありますが、朝、目が覚めた時に、「めまい」が起こった時、あるいはフラツキが起こったような時は、そのなかでも脳梗塞を疑う必要があります。脳の中の椎骨脳底動脈(ついこつのうていどうみゃく)という血管の領域で、血液の流れが悪くなるとめまいが起こります。この椎骨脳底動脈領域に脳梗塞が起こった時は、進行性卒中と言って、何日もかけて症状が悪くなってくることがあります。そこで、最初に起こった症状が軽いからと言って油断できません。
椎骨脳底動脈で血液の流れが悪くなると、めまい以外に、急にフーとなって倒れそうになる、急に目の前が暗くなる、立ち上がって血圧が下がった時にフーとなる、頭を動かした時にクラクラしたり、フーとなったりすると言った症状が起こりやすいので、このような症状には注意が必要です。
血液がドロドロになると、血管が詰まりやすくなって、恐い心筋梗塞や脳梗塞の引き金になります。血液の55%は液体ですが、残り45%は細胞成分、それには赤血球、白血球、血小板などがあり、このうち最も多いのが赤血球で全細胞成分の90%以上を占めます。タバコを吸う方では、多血症、すなわち赤血球が異常に増えていることが多く、そのせいで血液がドロドロとした状態になりがちで、注意が必要です。また、水分の摂取が不足しますと、脱水、すなわち血液中の水分が足りなくなって、やはり血液がドロドロとした状態になります。そこで、日々、こまめに水分を補給することで、血液が粘り気を帯びるのを防ぐことができます。
一方、血小板は、もともと血管に傷ができた時に、その部分で血液を固まらせ傷口をふさぐという、大切な働きに関係しています。この血液の凝固は、まず血液中の血小板が凝集することから始まるのですが、この血小板の凝集が、起こってはいけない時に起こるととても困ったことになります。例えば、これが動脈硬化などで狭くなった部分の血管で起こりますと、血液の塊(血栓)を作って、この血管を詰まらせてしまうことになります。つまり、血管が詰まる最大の原因のひとつが血小板の凝集なのです。では、血栓ができるのを防ぎ、常に血液がサラサラと流れるようにするには、どうしたら良いのでしょうか?
それには、血液サラサラに役立つ食品を積極的に摂取することです。中でも。クエン酸、納豆に含まれるナットウキナーゼ、そして青魚に含まれるEPA.を第一にあげることができます。クエン酸には血液が固まってドロドロになる反応を妨げる働きがあります。クエン酸の効果は、その化合物であるクエン酸ナトリウムが、輸血の際など、血液が凝固すると困る場合の薬剤として、よく使われることからも分かります。クエン酸を含む食品には、梅干、レモンなどの「すっぱい食べ物」をあげることが出来ます。また、お酢に含まれる酢酸にも同様の働きがあるので、折に触れ、「すっぱい物」を摂取することが大切です。
納豆に含まれるナットウキナーゼは強力な血栓溶解酵素で、その効力は、人間が生まれながらにして持つ血栓溶解酵素プラズミンより強く、血管をつまらせる原因となる血液の塊(血栓)を溶かす作用があります。
背の青い魚の油に含まれているEPAは、血小板の働きを整えて、血栓ができにくくする作用があります。いつも青魚を食べているアザラシの肉を主食にしているのがグリンランド地方に住むエスキモー達です。彼らには、心筋梗塞の発生がほとんどみられないと言う事実がよく知られています。
最近、老化、成人病予防に注目されているのがこのビタミンQです。全身の細胞の中にあるミトコンドリアは、体が必要とする全エネルギーの95%を作っていて、体内の「エネルギー工場」とも言える重要な器官です。人体は、摂取した栄養素をこのミトコンドリアの中で燃焼させ生命活動に必要なエネルギーを作り出しているのですが、その効率を高めるために働いている重要な補酵素が、今回、ご紹介するコエンザイムQです。そのため細胞内のコエンザイムQが不足するようなことがあると、細胞の機能が低下し十分にエネルギーを作り出すことが出来なくなります。また体内では、取り入れた酸素の一部が活性酸素に変化していますが、この活性酸素が増えすぎると「酸化ストレス」となって、正常な細胞を傷つけ、その結果、成人病にかかったり、老化をきたしたりする原因となっています。このコエンザイムQには、ビタミンCやビタミンEとならんで、活性酸素の害を防ぐ作用、すなわち「抗酸化作用」も持っているのです。このコエンザイムQはレバー、豚肉、カツオイワシなどの食品に多く含まれています。
胃腸病は「日本人の国民病」とも言われるほど多いのですが、慢性胃炎や胃、十二指腸潰瘍さらには胃がんの原因のかなりが、実はヘリコバクターピロリ(ピロリ菌)と言う細菌が、胃の壁に住み着いた(感染)ために起こると分かったのは最近のことです。そこで、このところ抗生物質を用いた除菌療法が盛んに行われているのです。そして、この除菌療法はうまく効くと大変効果があるのですが、このところ耐性菌と言って薬が効かないピロリ菌が増えてきていると言う問題があります。ところが、最近、LG21と言う乳酸菌が入ったヨーグルトを用いて、ピロリ菌を退治する方法が注目されています。この乳酸菌LG21 は、ピロリ菌など人体に害をおよぼす菌を排除する働きがあることから善玉菌とも呼ばれています。30名のピロリ菌感染者の方に、LG21の入ったヨーグルトを8週間食べてもらった実験では、胃の中のピロリ菌の量が平均して10分の1に減り、著しい例では100分の1に減ったと言います。もともとヨーグルトは腸にも良く、カルシウムもたっぷり含まれていますし、なんと言っても薬のような副作用がありません。いつも胃の調子が悪いなどとおっしゃっている方は、この方法を一度、試してみられてはいかがでしょうか。
急激に起きた腰痛のことを「ぎっくり腰」と言い、重い物を持ち上げたり、体をひねったりした時によくみられます。急に起こった腰痛には、椎間板ヘルニアの場合、尿路結石など内臓の病気からくる場合、年配の方では骨粗しょう症で骨が弱くなっていて、自分の体重で腰の骨が折れてしまった場合(腰椎圧迫骨折)、あるいは、知らないうちに内臓に出来た癌が腰椎の骨に転移したせいて起こる場合などもあって、油断できません。
実際のところ、「ぎっくり腰」の原因うち一番多いものは、腰や骨盤を支える筋肉、筋膜、じん帯、軟骨などの軟部組織が傷ついて起こるものです。骨盤の仙骨と腸骨と言う2つの骨の間には、仙腸関節と言う関節があります。最近、「ぎっくり腰」の原因のうち、なかでも、この仙腸関節に付いている筋肉や靭帯などの軟部組織が傷ついて、そのせいで関節の隙間がわずかに開いてしまい、その結果、腸骨が後下方にズレたために起こる場合が多いと分かってきました。ではどうして仙腸関節に付着する軟部組織が傷ついて、腸骨がズレたりするのでしょうか?その原因には、骨盤を支える筋肉が弱くなってしまったせいでズレる場合もあります。あるいは、もともと仙腸関節の動きをスムーズにし、かつ体重を支えるため、その回りで軟部組織が働いています。ところが、その機能を維持するために必要な栄養分が不足し、そのせいで、仙腸関節を支持する力が落ちてしまった結果、腸骨が後下方にズレたりするのではないかと考えられています。
筋肉が弱くなる原因としては、骨盤や腰椎を支えている筋肉が、運動不足、あるいは疲労やストレスの蓄積により徐々に弱くなっていったり、あるいは交通事故や打撲・捻挫・スポーツのしすぎなどの影響で弱くなってゆくのではないかと考えられています。日々の生活で体にストレスが加わると、それに抵抗して副腎からホルモンが分泌されるのですが、そのホルモンを作るのにビタミンCが必要です。関節の栄養不足を起こす原因のひとつとして、もともと食生活などでビタミンCの摂取の少ない人の場合、普段の生活の際に受けるストレスとの戦いに体内のビタミンCが消費されてしまうせいで、仙腸関節の中のビタミンCが不足してくるのではないかと推測されています。その結果、仙腸関節の支持能力が低下してしまい、関節がズレてぎっくり腰になってしまうという分けです。
ところで、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアにかかる人には、重労働の人は意外と少なく、デスクワーカーや車に長く乗る人に多いというデータがあります。例えば、イスに座りっぱなしだと、腰を支える筋肉内の血液の循環が悪くなってしまい、椎間板に負担がかかって、そのせいでヘルニアが起こり、神経が圧迫されて痛みが出てくることが多いのです。長時間イスに座りっ放しは、いちばん腰に良くありません。腰痛の予防には、時々イスから立ち上がり、軽く体を動かすことがお勧めです。
漫才師の「トミーズ雅さん」がこの病気で頭の手術を受けたのはつい先日のこと。ご存知の方も多いのではないでしょうか。慢性硬膜下血腫とは、脳の表面を被う硬膜とクモ膜との間に出血してできた血腫(血の袋)が脳を圧迫して起こる病気。頭を打ったことが原因になって、しばらく時間が経ってから起こることが多いのです。ひどく打った時はもちろんですが、頭を「机のかどでコッンと打っただけ」などの軽い打撲、「しりもちをついただけ」などの軽い衝撃で脳が揺さぶられて起こったりすることもあります。年配の方では脳が萎縮してきていて、脳とクモ膜の間に隙間ができていることが多く、特に出血が起こりやすいのです。アルコール多飲者に多いのですが、これは長年の飲酒により脳が萎縮していること、アルコールにより肝臓が悪くなって、そのせいで出血が止まりにくくなっていること、酩酊状態でひっくりかえって頭を打つ機会が多いことなどがその原因と言われています。症状としては「頭痛」が多いのですが、「物忘れ」などボケ症状だけのことや、脳卒中に似た半身麻痺で起こる方もあります。年配の方、特にアルコールをたしなむ方では、ちょっとした衝撃による「慢性硬膜下血腫」に注意したほうがよさそうです。
コエンザイムQ10は、「老化から人類を救う健康成分」として注目を集めています。水泳選手が飲んだところ8割の選手が記録を更新したと言います。このコエンザイムQ10は体内の細胞の中にあるエネルギー工場、ミトコンドリア内でエネルギーの源、ATP(エーテーピー)を作るのに欠かせない物質です。加齢とともに減少してしまうため、これが体力低下、老化などに影響すると言われます。このコエンザイムQ10は、イワシなどの青魚、牛や豚などの肉類、卵、ピーナッツブロッコリーなどに多く含まれています。しかし、いずれも含まれる量自体が少なくて、1日の必要量60〜100mgを摂取するには、例えばイワシなら20匹、牛肉なら3kg、ブロッコリーなら12kgが必要と言われ、食品だけからではどうしても不足しがちです。そこで、サプリメント(健康補助食品)による補給が手軽で望ましく、それによって全身の細胞を活性化することが可能なのだそうです。疲労回復のほか、シワやシミが少なくなるという美肌効果も注目されています。「なんだかしんどい、疲れが抜けない」という体の不調に悩む人にとって、元気を底上げしてくれるサプリメントなのです。またコエンザイムQ10は有害な活性酸素の害を抑える強力な抗酸化剤で、ビタミンEの酸化を抑え本来の力を発揮させる作用もあります。但し、あまりに有名になってしまったため、現在、どこの薬局でも品切れ状態が続いています。私も試しに飲んでみましたが、確かに元気になったような気がしました。
これからの季節、寒くなってくると血圧の上がってくる方が増えてきます。今回は、お年寄りの高血圧についてお話しましょう。年をとると、もちろん低いままの方もありますが、一般に血圧が高くなってきます。これは、年をとると動脈硬化が進んで全身の臓器の血液の流れが悪くなるため、血圧を上げて流れを良くしようと言う生体の自然な反応でもあるのです。しかし、必要以上に血圧が高くなった状態が続きますと、やはり、いろいろな合併症が起こってきます。治療が必要な場合、若い方では収縮期血圧(高い方の血圧)が140mmHg以上になったら治療を始めるのですが、お年寄りの場合、もともと血圧が高めであることから、若い世代の方にくらべ、高めの血圧になってから始める方が安全です。そこで大体、160mmHg以上になれば開始し、ゆっくりと目標血圧へ下げて行きます。血圧の下げすぎにも注意が必要で、血圧を下げすぎると、各臓器への血流量が減ってしまい、さまざまな障害が起こることにもなりかねません。例えば、必要以上に血圧が下がって、脳への血液の流れが減りますと、めまいやフラツキを起こすことになり、ひどい時には脳梗塞になったりすることもあります。また、高血圧の方では、全身の臓器が高い血圧に慣れてしまっていることが多く、急激に血圧を下げたりしますと、臓器への血流量が急激に減ってしまい、そのせいで病気になったりすることもあります。そこで2ヶ月くらいかけてゆっくり下げてゆくのが良いと言われています。
1、今かかっている先生は、この前、血圧が150mmHgもあったのに薬を出してくれません。大丈夫でしょうか?(65歳女性) 血圧は1日中かなり変動しています。そこでたまたま1回だけ計った血圧が高かったと言って、いつも高いとは限りません。例えば、いつもは低いのに、その時だけ高かったと言うような場合もあります。このような方があわてて薬を飲んだりすると血圧が下がりすぎて、逆に問題が起こったりすることもあります。そこで、まず、日をあけて何度か血圧を測って、本当に高いのかどうかじっくり確かめた方が安全です。また、年をとると一般に血圧が上がってきます。これは体にとって必要があって上がっている部分もあり、それなのに若い方と同じように考えて血圧を下げたりしますと、お年寄りの場合には臓器の障害が起こることもあります。そこで160mmhg以上の場合になってはじめて治療を始めるのが普通です。
2、血圧が高くて薬をもらいました。飲み始めてから2週間もたつのに血圧が160mmHgより下がりません。この薬で大丈夫なんでしょうか?(65歳女性) 高血圧の方では、血圧が高かった間、全身の臓器が高い血圧に慣れてしまっていることが多いのです。あわてて、急に血圧を下げたりしますと、臓器の血液の流れが悪くなって、逆にいろいろな問題が起こる可能性があります。そこで、血圧を下げる時は、安全のため体が低い血圧になれるよう、2ヶ月くらいかけて、ゆっくりと少しずつ下げてゆくようにします。むしろ、あわてて一辺に下げない方が良いのです。
コレステロール低下剤に痴呆予防効果
血液中のコレステロールが高いとアルツハイマー病にかかりやすいが、血中のコレステロール値を下げるために使われるスタチン系コレステロール低下剤を服用すると、アルツハイマー病にかかるリスクが7割低くなることが報告された。このスタチン系薬剤は副作用も少なく、安全な薬とされていて、アルツハイマー病予防への応用に期待がかかっている。
炎症を抑える薬に痴呆予防効果
リウマチを患い、炎症を抑える薬を飲んでいる人ではアルツハイマー病にかかる人が少ないことが報告された。これらの非ステロイド系消炎鎮痛剤(イブプロフエン、アスピリン、インドメタシンなど)を2年以上毎日服用するとアルツハイマー病の発病率が最大80%減少することが分かった。ただし、これらの薬剤を長期に服用すると、副作用として胃腸障害が起こる可能性があり、今後、この点が解決されなければならない。
抗酸化ビタミンを摂取すると痴呆を予防できる。
体内で発生する活性酸素(フリーラジカル)の害が老化や痴呆と関係している。その害を防ぐ抗酸化作用を持つビタミンEを投与したところ、アルツハイマー病の進行が抑えられたという研究の結果が出た。これはビタミンEが持つ抗酸化作用によると考えられている。ビタミンCも同様の効果を持っている。
ボケ予防には赤ワイン、緑茶が一番
脳内のビタミンC、ビタミンEなどの抗酸化ビタミンが分解されるのを防ぎ、長もちさせるのが、赤ワインの中のアンソシアニン、緑茶に含まれるカテキンである。最近の調査によると、健康なお年寄りは日本茶(緑茶)を1日5杯以上飲んでいることが分かった。日本茶に含まれるフラボノイド(カテキン)には抗酸化作用があり、この作用が関係しているものと考えられる。フランスでの疫学調査の結果、定期的に赤ワインを飲んでいる人はアルツハイマー病の危険性が減ると言うことが分かった。また金沢大、山田教授らが、赤ワインに含まれるポリフエノールがアルツハイマー病の原因とされるタンパク質、βアミロイドを分解することを実験で確認した。
イチョウ葉エキスはボケ予防に有効
イチョウの葉にはフラボン、カテキンなど20種類以上の成分が含まれている。なかでもイチョウに特有のギンコライドが活性酸素の発生を抑え、脳虚血を防ぎ、神経細胞の死滅を防ぐ作用がある。痴呆症状を改善する効果があるとの臨床成績が多数、ドイツで報告されていて、ドイツでは正式にボケ治療薬として承認されている。
肝臓の細胞に中性脂肪が貯まる病気。肝臓には正常でも、その重さの2〜5%の脂肪がありますが、これが10%を越えて異常に貯まった場合を脂肪肝と言います。脂肪肝の3大原因は肥満、アルコール、糖尿病です。標準体重より20%以上重い場合、その20〜30%の人に脂肪肝がみられます。アルコールについては1日に日本酒で3合以上を5年以上飲み続けた人の大部分の方が脂肪肝になっていると言われます。また、コントロールが不十分な糖尿病の患者さんの50%に脂肪肝がみられます。血液検査ではAST(GOT)、ALT(GPT)と言う数値が上昇することが多く、この数値は肝細胞の破壊の程度を示します。γGTPはアルコール性の脂肪肝で上昇します。脂肪肝の治療には肥満や過度の飲酒、糖尿病など、その原因となる生活習慣の改善や病気の治療を行うことが最も大切です。
中性脂肪:血液中の中性脂肪が高い、または中性脂肪とコレステロールが高い時は高脂血症と呼ばれます。自覚症状はなく、血液検査を行って初めて、それと分かります。中性脂肪が高いと、ひとつは急性膵炎にかかりやすくなります。もうひとつは、特に女性の方では動脈硬化が進行し狭心症や心筋梗塞などの心臓病にかかりやすくなります。また、男性でもやはり動脈硬化が進みやすくなるとも言われています。中性脂肪が高くなっている場合、食べすぎ、飲みすぎ、肥満、運動不足などの生活習慣に原因のあることが多いようです。中性脂肪はアルコールの飲みすぎや、甘いものをたくさん間食したりすることが原因になることが多く、まず体重と食生活を見直しましょう。なお、糖尿病など、他の病気のせいで高くなることもあります。
ヘルペス(帯状包疹(たいじょうほうしん))とは、水泡をともなった発疹を生じ、それが、ひどく痛む病気です。片側の胸や腰、あるいは背中や額(ひたい)などによく起こります。原因は、水痘帯状疱疹ウィルスによるもので、実は、このウィルスは子供さんがかかる水痘(水ボウソウ)と同じウィルスです。
ヘルペスウィルスに大人がかかった場合、これが何年もの間、神経に隠れていて、体の抵抗力が弱った時をねらって活動を始めます。すると、ウィルスが潜んでいた神経の領域に沿って、鋭い痛みが走るようになり、2〜3日してから、その部分に発疹が現われます。発疹を生じる前は痛みしかありませんので、例えば、胸なら、肋間神経痛、額なら頭痛などと間違えられたりします。何日かして、痛んだ場所に、いくつもの赤い斑点状の発疹が出現し、続いて、それぞれの発疹の上に小さな水泡が現われます。しばらくの間は、痛みが激しく、しばしば夜も眠れないほどです。
ヘルペスにかかった場合、一刻も早く治療を始めないといけません、なぜなら、治療が遅れると、帯状疱疹後神経痛と言う後遺症のせいで、激しい痛みが何年も続くからです。
また額に起こった場合、帯状疱疹眼症と言って視力に影響が出る場合がありますから、やはり注意が必要です。
「急にフーとなった」。「フラフラとする」。「頭がクラクラとした」と言うような症状は、脳の血液の流れが悪くなって起こることが多く、すぐに直ったからと言って安心は出来ません。なぜなら、このような症状は、脳の酸欠(酸素欠乏、酸素の足りない状態)から起こることが多く、年配の方に起こった場合、「脳梗塞の前ぶれ」かもしれないからです。特に暑い夏に起こった時には、要注意。汗をたくさんかくせいで、体内が脱水状態となりやすく、血液がドロドロとなって、脳の血液の流れが悪くなったせいで起こることが多いからです。
夏は脳梗塞の多発する季節。のどが渇いたと感じた時、血管内は、すでに水分が足りない状態になっています。ですから普段から、水分補給を怠ってはいけません。年配の方は、炎天下に出ないようにして、歩いたりする運動は、朝の涼しいうちに行います。暑い時期の水分補給は、お茶やミネラルウオーターがよいでしょう。
なお、一般に夜間に血圧が下がりやすいせいで、脳の血液の流れが悪くなった時の症状は、朝起きた時に気づくことが多いのです。目が覚めた時からフラフラすると言う症状があれば、特に要注意です。
誰れしも「健康で長生きしたい」、年をとっても「ボケたくない」と願っておられることでしょう。ところで、従来、使用されてきた「痴呆症」や「ボケ」と言う名前は差別的な言葉であることから、2004年に、厚生省により「認知症」と言う名前に変更することになりました。この認知症の原因のうち、最近、増加しているのがアルツハイマー病です。これからの日本は高齢化社会を迎えますが、この病気は年配の方に多い病気です。そこで今後、このアルツハイマー病にかかる方は、急速に増加してくるものと予想されています。ところが、このアルツハイマー病の原因は、まだはっきりとは分かっていません。しかし、近年の医学の進歩から、早期に発見し、早期に治療を行えば、症状の改善や生活の質の改善が計れることが分かってきました。そこで、これを早期に発見するには、認知症にかかった場合に、どんな症状があらわれるのかについて、あらかじめ知っておくことが大切なのです。
認知症の主な症状は、なんと言っても「もの忘れ」です。認知症の早期には、「物を置いた場所」や「自分が言ったこと」をすぐに忘れたりするようになります。ところで、年をとると脳の働きが低下し、誰でも多少は「もの忘れ」をするようになります。この老化現象のひとつとしての「もの忘れ」の場合、「最近、物忘れが多いな」などと自分で忘れたことを自覚しているのが普通です。一方、認知症では自分が「物忘れ」をしていることを自覚出来ないと言う特徴があります。そこで、ひどい物忘れをしているのに、「自分は物忘れなどしていない」と言い張ったりします。また、サイフや通帳などを置き忘れた際も、老化現象による場合では、自分がどこかに置いたこと自体は覚えています。そこで、忘れたとしても、記憶の一部、例えば「どこに置いた」かを忘れたりする程度で、自分が置き忘れをしたこと自体を自覚しているのが普通です。ところが認知症の場合は、「自分で置いた」と言う行為自体を含めて、記憶の全部を忘れてしまうと言う特徴があります。そこで「置き忘れなどしていない」とか、「誰かに盗られた」とかという話になったりするのです。
認知症の初期では、次のような症状があらわれることが多いので、おかしいなと思われた場合には、早目に医療機関を受診することです。
コラーゲンを飲んだら膝の軟骨が増えて、痛みが治ると聞きましたが?
60才以上の4人に1人が膝の痛みで困っていると言われますが、そのほとんどは変形性膝関節症によります。これは関節の動きをスムースにする役目の軟骨が、年齢のせいですり減って、関節に炎症が起こることが原因です。膝関節の軟骨が老化現象のため、すり減ってしまったことが原因ですから、自然に治ることはありません。また、現状では飲み薬や健康食品で膝の軟骨を増やせるようなものもないのです。「コラーゲンを飲んだら治る」など言う高価な健康食品の宣伝をみかけますが、口から飲んだり食べたりしたものは、胃に入って、強酸である胃酸によりたちどころにアミノ酸にまで分解されてしまうため、膝の軟骨の再生に効果があるとはとても考えられません。
膝が痛いので、歩いて治そうと毎日1時間歩いています??
関節は筋肉により支えられています。そこで膝を支える筋肉、なかでも大腿四頭筋と言う筋肉を鍛えると良く、膝関節体操として勧められています。また痛いからと言って、運動しないでいると、筋力が低下して、ますます悪化しますし、筋肉やじん帯が固まって関節が曲がらなくなってしまいます。但し、膝が痛いと言うことは炎症が起こっているのですから、やはりこのような時に無理な運動を行うことは禁物で、膝に負担をかけ逆に悪化してしまうこともあります。つまり運動と言っても時期を選ぶことが大切で、ウオーキングは痛みが落ち着いて、歩いても強い痛みを感じなくなってから始めます。痛みの強い時期は、膝に重みをかけない運動や膝関節のストレッチングがお勧めで、温水プールでの歩行、お風呂でのストレッチングなどが良いでしょう。
五十肩は自然に治ると聞きましたが?
肩関節の動きをスムースにする役目を持つのが関節周囲にある滑液胞で、これが老化のため炎症を起こした病気が五十肩です。日本人の20〜30%の人が一度は、かかるほど多いもので、「高いところに手が届かない」、「後ろに手が回らない」など肩関節の運動障害、肩の痛み、なかでも「夜間の痛み」が特徴です。痛みのため肩を動かさなくなり、そのせいで関節が固くなって動かなくなってしまいます。そこで欧米ではフローズンショルダー(凍結肩)とも呼ばれるのです。一般に、このような症状が1年ほど続き、自然に治るにはさらに1年ほどかかります。つまり自然に治ることは治るのですが、大体2年ほどかかります。つまり治療をなさった方が圧倒的に早く治るし、痛みで悩まなくてすむと言えます。治療としては、肩関節の外側から滑液胞にヒアルロン酸液の注射をしたりしますが、痛いからといって動かさないと、どんどん関節が硬くなってしまいますので、関節を暖めて、肩関節体操などの運動療法をします。
夏は汗をかくせいで血液中の水分が不足し、ドロドロとした状態になるせいで、脳梗塞が起こりやすい季節です。水分をよくとって脳梗塞を予防しましょう。脳梗塞は突然に起こる病気。かかってからでは手遅れ、しまったと思ってからではもう遅いのです。多くはないのですが、脳梗塞には、前ぶれのあることがあります。それが一過性脳虚血発作。しかし、それが起こっても、これが脳梗塞の前ぶれであると気付くかどうかが問題。普通、数分から十数分で良くなる発作なので見逃されてしまうことが少なくありません。すぐに治ったから、もう大丈夫だろうと放置してしまう方がほとんどです。前ぶれがあればラッキー。なぜなら、それに気づいて予防すれば、後に起こる脳梗塞を防ぐことができるのです。「疲れのせいかな?」、「年のせいかな?」、「風邪でもひいたのかな?」、「血圧を測って高かったら、血圧のせいだろう」とか、一瞬、「エライコッチャ」と思っても、すぐに治ってしまったので、「なんだ、たいしたことなかったわ」と様子をみたり、「もういっぺん起こったら医者にゆこうか」などと、放っておかれることがほとんどです。しかし、この一過性脳虚血発作を放置すれば、20〜30%の方は数年以内に脳梗塞を発病すると言われます。また、脳梗塞を起こした人の1/3が一過性脳虚血発作を経験し、約20%の人がその1ヶ月以内に、半数が半年以内に脳梗塞を発症するとも言われます。本格的な脳梗塞を未然に防ぐことが大切なのですが、発作が短時間で終わり、その後、何もないような状態が長く続くと、ついつい油断をしてしまいがちになります。症状が消えてしまったからと言って、安心できないことを覚えておいて下さい。どんな症状が起こるのかと言いますと、食事中に急にハシを落とした。ハシがうまく使えない。字がうまく書けない。茶碗を落としたりする。電車に乗っていて、急に足が動かなくなり、電車から降りられなくなった。まっすぐ歩いているつもりなのに、片側へ寄って行く。口から食べ物をボロボロとこぼす。ろれつ困難となり、うまくしゃべれない。片方の目が見えなくなる。特に片目だけ幕がおりるように見えなくなった。めまいが起こった。などと言う症状に注意して下さい。
知らないうちに、いつのまにか脳梗塞にかかってしまっている場合があります。このような、症状のない小さな脳梗塞を、無症候性脳梗塞、隠れ脳梗塞、微小脳梗塞などと言います。この隠れ脳梗塞が見つかってから数年以内に3割の人が再び脳梗塞の発作を起こすと言うデータもあるのです。この隠れ脳梗塞は、検査を行なうと40代の3人に1人、50代の2人に1人、60代の8割以上にみつかるとも言われるほど結構多いものです。このような脳梗塞を自分で発見できる方法が話題になっています。手は第二の脳とも呼ばれ、最も脳と密接に結びついている部分です。そこで脳の障害や老化、疲労などの状態の変化が手の運動に現れやすくなることから、手の動きを検査することによって、おおまかではありますが脳の異常を知ることができます。そのひとつが、「人差し指合わせ」検査です。まず、目を閉じて両手を左右の外側に、肩の高さまで上げます。このとき、一差し指だけをまっすぐに伸ばします。次に、開いた両手をゆっくり内側に回して、左右の人差し指を胸の前で合わせるようにします。ぴったり合ったと思うところで目を開けてみましょう。お互いの一指し指が5cm以上離れていたら要注意です