最近、脳ドックなどを受診され、MRA検査で未破裂脳動脈瘤が発見される機会が増えています。MRAとはMRIで描出される無信号領域を3次元的に再合成した画像ですので、血管そのものではなく、血流を現したものです。そして、その分解能の問題があって、分岐した動脈の曲がりの部分が、あたかも動脈瘤のようにみえることも、決して少なくありません。そこで、MRAで疑わしい部分がみられた場合には、次に、3D-CT angio(これを3D-CTAと言います)で本当にそうかどうか調べるのが普通です。この3D−CTAでは血管の状態がとても良く分かります。この3D-CTAを行うに際して、水溶性ヨード造影剤を経静脈的にvolus injection(ドーッと注入し、手ではとても入りませんので、専用の注入器を使用します。)し、続いて撮影が行われます。
脳動脈瘤は、これが破裂するとくも膜下出血を起こすわけです。一般に、一旦破裂しますと、初回破裂の時点で、死亡(突然死)もしくは、disabled(廃人)の状態になる確率が50%と言われ、この方々は病院まで到着しないか、もしくは到着しましても手術の対象になりません。そして残りの50%が生き残る可能性があります。しかし、速やかに外科的治療を行わないと、再破裂(初回破裂後、24時間以内に最大の確率)により全体のうちの30%以上(初回破裂と合計して80%以上)がさらに死亡します。また、外科的治療に成功しましても、その後に起こる脳血管れん縮(spasm)などにより、死亡したり、片麻痺、失語などの重篤な後遺症を被ることも少なくありません。
そんなことで、放っておくのも心配で、どうしたら良いのか悩むことになるのです。
さて、未破裂脳動脈瘤が見付かったとして、お知りになりたいポイントは、おおむね以下のようなものでしょう。
1、これが破裂するのか、しないのか?
要するに放置しておいた場合、今後、どの程度の確率で破裂するものなのか?
ひいては生命にかかわるのか?
2、治療するならば、どのような方法があるのか?
3、治療に際してのリスクはどの程度のものなのか?要するに治療によってこおむる可能性のある危険性と、この未破裂脳動脈瘤が今後、破裂し生命が危険になる確立とを天秤にかけて考えるしかありません。
4、そして治療してもらうとするならば、近所に名医(神の手)がいるのかどうか?
未破裂脳動脈瘤の破裂率は、その大きさ、部位によっても異なります。以前は、一般に未破裂脳動脈瘤の破裂率は年間1〜3%とされていました。仮に2%とすると、例えば30年では累積は裂率が60%となることから、積極的に手術が勧められてきました。ところが、1998年に米国から、くも膜下出血の既往のない未破裂脳動脈瘤の年間の破裂率について、動脈瘤の大きさが10mm未満では0.05%、10mm以上では1%であるとの共同研究の結果が報告され、従来の報告より非常に低いことから、それを受けて、積極的な手術の見直しがなされるようになりました。しかし、この報告については研究のデザインに問題があるのではないか、すなわち動脈瘤のサイズや、発生部位に偏りがあること、また、その頻度が、従来の報告(年間1〜2%の報告が多い)と較べ極端に低いこと、さらに、その頻度が、大多数の日本の脳外科医の日頃の感覚とかけ離れたものであることから、人種による差異がある可能性なども指摘されています。そんなことで、日本人における実際のところを知る目的にて、現在、日本脳神経外科学会が中心となり、UNCUS JAPANという会が発足しました。そして多数の施設からの未破裂脳動脈瘤を登録し、その自然経過について予後調査が行われていることころです。おそらく、後、数年である程度の結果が出るものと思われます。
なお、最近の報告の中でRinkelらの56,304例の解析(1998)では、全体の破裂のリスクは年1.9%、このうち10mm以下の動脈瘤では年0.7%。
ISUIAの研究(2003 Lancet)では、4060例の未破裂脳動脈瘤のうち、1692例が未治療であって、その9年間のフォローアップの結果、その大きさが7〜10mmのものでは年0.7%、6mm以下では年0.1%と報告されています。
また日本の安井(秋田脳研)の報告では年2.2%となっています。
Juvelaによる142例、17.2年間の長期フオローの報告(2000年)では無症候性、くも膜下出血の既往のないもので年1%です。
UNCUS JAPANの中間集計では。未破裂脳動脈瘤の年間破裂率は1%弱ぐらいになりそうだとのことです(平成18年4月)。
動脈瘤で破れやすいものとは、以下のようなものであると言われています。
1、直径が5mm以上のもの
2、動脈瘤の形がいびつで、いかにも破れそうなもの
3、複数の動脈瘤を持つもの
4、くも膜下出血の家族歴を持つもの
5、高血圧症などの持病があるもの。喫煙歴、習慣のあるもの
日本における未破裂脳動脈瘤の破裂リスクが判明(UCAS Japanの報告)
日本では実地臨床の経験や後ろ向き研究に基づき「未破裂脳動脈瘤の破裂リスクは、およそ年率1%,動脈瘤の径増大に伴ってリスクが上昇する」と認識されていた。しかし未破裂脳動脈瘤国際調査チーム(ISUIA)の調査結果(N Engl J Med 1998; 339: 1725)が報告され、その調査結果では破裂リスクが年率0.05%となっており,この数値は、これまでの関係者の予測を大きく下回っていた。
この日本の実態と異なる国際調査の結果を受け「日本での破裂リスクを明らかにしなければならない」という多施設共同調査のモチベーションにつながった。そこで全国規模での以下の調査研究が行われ、その結果が明らかとなった。
日本人の未破裂脳動脈瘤破裂の可能性は年間0.95%
― UCAS Japan研究における3年間の観察結果 ―
日本人の未破裂脳動脈瘤の自然歴と破裂の危険因子を明らかにする目的で、日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査(UCAS Japan: The Unruptured Cerebral Aneurysm Study of Japan)が日本脳神経外科学会のプロジェクトとして行われた。
その結果が、平成24年6月28日のN Engl J Med誌に掲載された。日本人における未破裂脳動脈瘤の年間の破裂率は0.95%で、サイズが大きくなるに従い破裂のリスクも上昇することが確認された。また、中大脳動脈の動脈瘤より、前交通動脈または内頸動脈-後交通動脈の動脈瘤の方が破裂のリスクが高いこと、不整な突出を有する場合は高リスクであることも分かった。女性の破裂リスクは高かった。出血を引き起こす他部位の動脈瘤の存在や、喫煙歴、クモ膜下出血の家族歴、複数の動脈瘤の存在と破裂リスクは関連しなかった。
破裂リスクの高い脳動脈瘤の特徴としては、(1)サイズが7mm以上である、(2)前交通動脈または内頸動脈-後交通動脈分岐部に位置する、(3)daughter sacを有する、の3点を挙げた。
開頭手術は、日本では、これまで50年の歴史があり、血管内手術も9年の歴史があります。血管内手術は侵襲が少ないのですが、万にひとつ、術中に破裂させてしまいますと、どうしようもなくなります。開頭では、その点、すぐに対処できます。また、血管内手術では、動脈瘤を完全に閉塞出来ない場合もあります、しかし、いずれの方法をとるにしても、それぞれ、少ないながらも合併症を被る危険性がないとは言えません。
クリッピング術のリスクは、もちろん、動脈瘤の部位によって、また、術者の技量によって大きく変わってきます。
1995〜1996年厚生省 循環器病研究委託事業 全国8施設における「未破裂脳動脈瘤に関する共同研究」154例の無症候性脳動脈瘤の手術成績は、社会復帰94%、罹病6%、死亡0%でした。一般に、平均的な内頸動脈系の無症候性脳動脈瘤の手術成績は、死亡1%、罹病5%程度と言われています。