突然起きるしびれに注意 しびれは脳や神経の病気の危険信号
一概に「しびれる」と言っても、なかには関節リウマチの際に起こる「手指のこわばり」、あるいは手足に力が入らないこと(麻痺)を「しびれ」とおっしゃる方もおられます。しかし医学的な「しびれ」とは、「正座した後に足がジンジン、ピリピリとしびれる」というような感覚神経の症状のことを言います。
神経は脳からの命令を体の各部位に伝えたり、皮膚や筋肉、関節から受け取った感覚情報を脳の感覚中枢に伝えたりする役割を果たしています。この感覚神経の経路のどこかに障害が起こると、異常な刺激が脳に伝わることになり、「しびれ」が起こります。つまり「しびれ」は、神経や脳が発している、異常を知らせる危険信号でもあるのです。
ところで「しびれ」は、神経内科の珍しい病気を除けば、神経の圧迫病変、すなわち何かが神経を圧迫しているために起こっていることがほとんどです。そして、あらゆる「しびれ」の中で最も多いのは,手根管症候群、すなわち手首のところで、手に行く神経が圧迫されて手指がしびれる病気です。
「心配なしびれ」には、多くはありませんが、脳血管障害(脳卒中)によるものがあります。すなわち「一番怖いしびれ」が、脳梗塞など脳卒中によるものです。様子を見ているうちに「しびれ」だけではなく、手足の麻痺が起こったりして、手遅れになることもないとは言えません。
動脈硬化で細くなったせいで脳への血液が欠乏すると、一時的に手足のマヒ、しびれ、言語障害といった症状が起きることがあります。片方の手足が短時間でもしびれたり、力が抜けた時は、「一過性脳虚血発作 TIA」と言って「脳梗塞の前ぶれ」の場合があります。すぐに良くなったからといって、安心できません。
めまいやふらつきと同時に、片側の口唇の外側がしびれた時は、脳幹部の血流が悪くなって起こっている場合があります。また、朝起きた時に「手や足がしびれている」、「力が入らない」と言った症状に気づいた時は、脳梗塞かもしれません。
脳梗塞など脳卒中の特徴は「突然に起こる」ことです。そこで突然しびれが起こったなら、たとえ軽いしびれでも念のため医療機関を受診したほうが良いでしょう。
左手がしびれたり痛んだりする時は、心臓病(狭心症や心筋梗塞)のこと(放散痛)があります。
夜間に両足がしびれたり、痛んだりする時は、知らないうちに糖尿病にかかっていることがあります。糖尿病神経障害では、最初に感覚神経が障害され、足の先がしびれたり、痛みを感じなくなるのです。“はだしで歩いた時に足の裏と床の間に紙が1枚あるように感じる”ことや、夜間に痛みが悪化し、不眠の原因になることもあります。
それから、比較的多いもので、なかなか診断がつかなくて患者さんが悩んでおられるのは、太股の部分がしびれたり痛んだりする大腿外側皮神経痛(外側大腿皮神経痛)、あるいは足の裏がしびれる足根管症候群です。
顔面の感覚は3本の枝を持つ三叉(さんさ)神経が司っています。この三叉神経の3番目の枝である第3枝、下顎神経の経路のどこかに障害が起こりますと、頤部(おとがい、アゴ)および下口唇あるいはその外側に限局したしびれなどの感覚異常(頤しびれ症候群numb chin syndrome)が起こります。高齢者で顎がしびれる悪性腫瘍、とくに血液・リンパ系悪性腫瘍の下顎骨転移で起こる場合があり、注意が必要です。
三叉神経の2番目の枝である第2枝上顎神経の先にある眼窩下神経に障害が起こりますと頬部(ほっぺた)にしびれなどの感覚鈍麻を生じます。稀に癌などの「できもの」によって神経が圧迫されて起こることがありますので、やはり注意が必要です。
脳幹部(橋)にある三叉神経核の血流が悪くなると片側の口唇の外側が短時間、しびれたりすることがあって、これは脳梗塞の前触れのことがありますので注意しましょう。
心臓の病気、例えば狭心症では、稀にアゴが痛くなったり、ノドが締め付けられるような感覚が起こることもあります。三叉神経の障害には、それ以外に稀な原因として、トロザ・ハント症候群(Toloza-Hunt 頭の中の海綿静脈洞というところの病気 )、グラデニゴー症候群(Gradenigo 頭の中の錐体骨というところの病気)などで起こることがあります。
「しびれ」の原因には、大きく分けて二つあります。ひとつは@全身の病気によるもの、もうひとつはA手から始まり、手首、肘、肩を通って首のところで脊髄(頸髄)に入り、さらに上行して反対側の脳の感覚中枢に至る感覚神経の経路のどこかで障害を受けて起こるものとがあります。
全身の病気によるものの代表は糖尿病などによる「しびれ」ですが、このような場合、必ず「しびれ」は両側性であり、片側だけが「しびれる」ことはありません。また通常、長い神経の先から障害を受けますので最初は、両側の足先の「しびれ」から始まるのが常であり、先に手から「しびれ」始めると言うことはありません。
したがって、片側もしくは両側の手だけの「しびれ」で、足のしびれがない場合は、@の全身の病気による「しびれ」は考えにくいので、Aの経路のどこかの部位での神経の障害を考える必要があります。
脳が原因で「しびれ」が起こる場合は、多くの場合半身すなわち上肢に強い、あるいは下肢に強いというような程度の差はあっても、通常片側半身の上下肢の「しびれ」が起こります。そこで、半身が「しびれ」た場合は、最初に脳の病気を考えるべきです。
なお脳の病気では、手だけ、あるいは足だけということは少ないのですが、手だけが「しびれる」ということは、稀ではありますが、小さな脳梗塞の場合(pure sensory stroke)などで起こることがあります。
また脳が原因の場合、同時に同じ側の顔面半分の「しびれ」を伴うことも多く、「顔面のしびれ」を伴った場合、脳が原因である可能性は高くなります。
脳が原因で起こるしびれのうち、典型的な症状を示す病気があります。ひとつは延髄外側症候群(Wallenberg症候群 ワレンベルグしょうこうぐん)で脳幹部というところの脳梗塞により、顔面半分と、その反対側の上下肢、体幹の温痛覚障害が起こります。もうひとつは手掌・口症候群(cheiro-oral syndrome)で、突然口の周り、特に片側だけのしびれと、同じ側の手のひらもしびれた場合、視床というところの脳梗塞が疑われます。
手の「しびれ」の主な原因には 脳の病気、頸髄(首の部分の脊髄)の障害、頸部神経根(首の部分の脊髄から出て手に行く枝)の障害、胸郭出口症候群、すなわち首から出た神経の束(腕神経叢)が首から肩の部分を通るあたりの通り道での障害、あるいはそれより先の末梢神経部分での障害などがあります。多い順に手根管症候群(正中神経障害)、肘部管症候群(尺骨神経障害)、胸郭出口症候群、頸部神経根症、脳の病気をあげることができます。
なお、たとえば手根管症候群と、同時に他の病気を合併(ダブルクラッシュシンドローム)していて、症状が重なりあい病態が分りにくくなっている場合があります。手根管症候群と頚部神経根症の合併はよく見られますが、一方だけ治療しても、なかなか良くならないというような場合があります。
しかし、むしろ問題になるのは、本当は手根管症候群なのに、間違って頚椎症による症状であると診断され、頚椎牽引など頸椎の治療を受けていても、症状は一向に良くならないというような場合です。
ある程度の年齢になってくると、脊椎は誰しも老化現象により変形してきます。そこでレントゲンやMRIを撮影すると、多くの方では異常所見、例えば頚椎症性変化による骨棘(骨の飛び出し)や椎間板ヘルニアなどがみつかります。しかし、たとえこのような所見が見付かっても無症状の場合の方が多く、それが症状を引き起こしている病変であると考えるにあたっては、十分な検討が必要です。
頸椎に「骨棘:トゲ」が出来たり、椎間板ヘルニアが起こると、脊髄や神経を圧迫して、手足のしびれや歩行障害が起こります。
高齢化社会を迎え、最近増えているのが、このタイプのしびれです。頸椎には、脳から手足への命令や、逆に手足からの感覚の通り道である脊髄が通っています。加齢とともに頸椎の骨(椎体)の間にある椎間板の老化が始まります。老化により、この椎間板が薄くなると、飛び出したり(椎間板ヘルニア)、骨の飛び出し(骨棘:トゲ)ができたりします。この椎間板ヘルニアや骨棘が脊髄、あるいは手に行く神経の枝(神経根)を圧迫すると、手足のしびれが起こります。
ひどくなると手足の運動麻痺が起こり、手では手指の巧緻運動障害(細かいことができにくくなる)、すなわち箸が使いにくい、字が書きづらい、ボタンを留めがしにくいなどの症状、そして下肢の症状としては、階段を上りにくい、歩行に際し「つまづく」、平地でもうまく歩けないなどの歩行障害を引き起こすことになります。
同じく、腰の部分から足にゆく坐骨神経が、腰の椎間板ヘルニアなどにより圧迫されると、下肢のしびれや痛みが起こります。
頸椎部分の脊髄を頸髄(けいずい)と言います。脊髄の横断面を観察しますと、内側のグレーの部分(灰白質)に神経細胞があり、その神経細胞から伸びた神経線維が外側の白い部分(白質)に分布しています。 運動をつかさどる運動神経は脊髄の外側を走る皮質脊髄路(錐体路)という部分を通っています。一方、知覚をつかさどる知覚神経は脊髄白質の内側を走る脊髄視床路という部分を通っています。頸髄が障害された場合、下肢の「しびれ」が起こっていない状況で、手の「しびれ」だけが先に始まるということはあまりありません。
なぜなら温度覚や痛覚を伝えるための情報を伝える神経は、脊髄に入り脊髄白質内の側索、前索にある脊髄視床を通ります。その経路のうち脊髄の表面には下肢の感覚神経が、一方、上肢や手の感覚神経はその奥、すなわち脊髄の深部を走行します。そこで正中型(真ん中に起こった)の椎間板ヘルニアなど脊髄を前方から、すなわち外側から圧迫する病気では、通常最初の段階で下肢への神経線維を圧迫します。そこで「下肢のしびれ」から始まるのです。
もちろん症状が進むと両方の手足がしびれますし、さらに麻痺が起こって動きが悪くなったりします。すなわち「箸やボタンかけがむずかしくなる(手指の巧緻運動障害myelopathy hand)」、「階段を降りるのがこわくなり手すりが必要になる」、「平地でもうまく歩けなくなる(歩行障害)」、さらには「排尿や排便の障害(膀胱直腸障害)」などの症状がでます。
脊髄内部の病気では、もちろん「手のしびれ」から起こることもありますが、脊髄空洞症、脊髄腫瘍、脊髄血管奇形(AVM)など、いずれも極めて稀な病気です。なお、側方に突出もしくは脱出した椎間板ヘルニアでは、脊髄とその側の神経根を同時に圧迫し、手のしびれが起こることもあります。なお脊髄自体の障害では、非常に狭い範囲に左右両側の神経が走行しています。そこでその障害では、通常両側性の症状が起こり、片側だけの症状が出るということは稀です。
なお例外として、稀に脊髄の病気でもブラウンセカード症候群(Brown‐Sequard’ syndrom:脊髄半側切断症候群)と言って、半身の麻痺と反対側の半身の感覚障害が起こることがあります。
一方、頸髄から出て、手に行く神経である頸部神経根が障害された場合では、「手のしびれ」が起こります。頸髄からは8本の神経根が出ていますが、その神経根の手での分布(支配領域)は、拇指(親指)と第2手指の部分が第6神経根。第3手指の部分のみが第7神経根、第4,5手指(小指)の部分を第8神経根が支配しています。
通常は1本の神経だけが障害され、それぞれの支配領域にしびれが起こります。そのため手指全体がしびれるということはまずありません。なぜなら第6,7,8神経根は、それぞれ上下にかなり離れていますので、同時に圧迫され、すべての手指がしびれるような病気は極めて稀だからです。
一方、腰椎では神経根が斜めに垂れ下がるように走行し足に行きますので、例えばひとつの椎間の椎間板ヘルニアなどの病変で、横に並んだ上下2本の神経根が同時に圧迫され、複数の神経根の症状が同時に現れるというようなことがしばしば起こります。
一般に頸椎の病気では、頚椎を後ろへそらせると「しびれ」や痛みが強くなります。そこで上方を見たり、うがいをしたりすることが不自由になります。すなわち、頚椎を後方へそらせるとしびれなどの症状が増悪する場合、頸椎の病気を疑う根拠となります。
首から出て手に行く神経は、途中で正中神経(せいちゅう)、尺骨神経(しゃっこつ)、橈骨神経(とうこつ)の3本の枝に分かれます。親指側を橈側(とうそく)、小指側を尺側(しゃくそく)と言います。
手のしびれの原因のうち一番多いのは、神経絞扼(こうやく)障害、すなわち神経が、その通り道で締め付けられることによって起こる末梢神経の障害です。なかでも手根管症候群(正中神経障害)が多く、この病気は正中神経が手首(手関節)にある手根管という狭いトンネル内で圧迫された状態です。
この病気は、しばしば手首(手関節)の運動を繰り返すことによって発症します。手根管は手関節部にある複数の手根骨と横手根靱帯(伸筋支帯)で囲まれた伸び縮みのできない狭いトンネルで、その中を1本の正中神経と指を動かす9本の腱が滑膜性の腱鞘を伴って走行しており、とても窮屈な状態となっています。
手根管症候群では指のしびれが起こり、特に夜間、早朝にしびれが強いのが特徴です。拇指(親指)から第4手指の橈側(第5手指側)半分がしびれ、小指はしびれません。特に第2、第3手指の先端のしびれが強いのが特徴です。なお4本すべてがしびれない場合もあります。たとえば、人差し指と中指にしびれが強い方などもおられます。
急性期には、このしびれの痛みは夜間や明け方に強く、目を覚ますと手がしびれ、痛みます。そして、その際に手を振ったり、指を曲げ伸ばしたりするとしびれや痛みは楽になるという特徴があります。また手のこわばり感を訴える方もあります。
一般的な原因は手の酷使で、手を酷使することは手根管症候群を悪化させます。また妊娠、出産期や更年期の女性に多く生じるのが特徴です。女性は家事や育児などで手首を酷使することが多く、この病気にかかりやすいのかも知れません。そのほか、骨折などのケガ、仕事やスポーツでの手の使いすぎ、透析をしている人などにも起こります。稀にガングリオン(手関節にできる良性のゼリー状の液体をいれたできもの)による圧迫、その他、単なる肥満でも起こります。
症状が進むと、親指の付け根の筋肉(母指球筋)がやせてきます(筋肉の委縮)。その頃になると手指の筋力低下も出現し、母指と示指できれいな丸(OKサイン)を作ることができなくなります。そしてボタンをかける、つまむなどの指先の細かい動作が困難になってきます。
手首(手関節)の部分を打腱器(ハンマー)などでたたくと、普段はどうもないような刺激でも神経が反応し、しびれや痛みが指先に走ります。これをティネルサイン陽性と言います。
また両手の手首(手関節)を直角に曲げて手の甲をあわせて保持し、1分間以内にしびれ、痛みが悪化するかどうかを見ます(手根管症候群かどうかをみる誘発テスト)。症状が悪化する場合はフーァレンテスト陽性と言います。検査として手根管をはさんだ正中神経の神経伝導速度を測定します。
つまようじテスト
つまようじの先端で指先をちくちくする方法です。まず、親指や人差し指、中指の先をちくちくしたときの感覚と、小指の先をちくちくした時の感覚を比較します。明らかに差があれば(つまり、小指の感覚が正常だな、と思えれば、手根管症候群の可能性あります。つぎに、くすり指を調べます。くすり指の小指側と中指側をちくちくしてみて下さい。明らかに、中指側の方をちくちくする時にジーンとしたしびれがあったり、鈍い感じがすれば、手根管症候群の可能が高くなります。
前骨間神経と後骨間神経は、前腕の橈骨と尺骨という2つ骨の間を繋ぐ骨間膜の前後を走る神経です。前骨間神経は肘の辺りで正中神経から分岐して主に母指(親指)と示指の第1関節を動かす筋肉を支配します。浅指屈筋の起始部で前骨間神経が絞扼を受けた場合を前骨間神経症候群と言います。
前骨間神経症候群は、肘関節付近で正中神経が圧迫され、肘関節前面の痛みや手のしびれを生じる病気です。回内筋は上腕の骨である上腕骨と前腕の骨である尺骨顆と橈骨という3つの骨をつなぎ、肘から前腕の中間までに付いている筋肉です。正中神経は肘窩そして、上腕骨内側上顆の下方2.5pから4pを通ってから円回内筋の上腕骨頭と尺骨頭の間にある回内筋の筋線維の間(回内筋トンネル)を通ってゆきますが、その入り口付近で正中神経が圧迫されるものを回内筋症候群と言い、前腕近位部の鈍痛、灼熱痛、倦怠感とともに、橈側3手指のしびれ、異常知覚が出現します。
このしびれは手根管症候群と異なり、夜間に増悪することはありません。また手指、ことに母指、示指の脱力、麻痺が急性、あるいは亜急性に起こります。前骨間神経麻痺では母指と示指の第1関節の屈曲ができなくなり、そこで母指、示指で丸を作らせると、正しいマルができません(Perfect O test)。また母指と示指で丸を作らせると母指の第1関節過伸展(そり返り)、示指の第1関節過伸展となり、涙のしずくに似た形となり、これを“涙のしずくサイン”陽性と言います。
他覚所見としては円回内筋に一致する前腕屈側部分での圧痛、すなわちそこを圧迫すると前腕から手に放散する痛みを覚えます。この病気は回内筋を酷使している人に多く、たとえば大工さんでドライバーをよく使う方、野球、ボーリングなどのスポーツ、長時間のパソコン作業、ピアニストの方などです。
後骨間神経は肘の辺りで橈骨神経から分岐して回外筋にもぐりこみ、指を伸展する(伸ばす)いくつかの筋肉を支配します。後骨間神経麻痺では、下垂指(drop finger)になりますが、皮膚の感覚障害がありません。下垂指になると、手首の背屈は可能ですが、手指の付け根の関節の伸展ができなくなり、指のみがぶら下がった状態になります。後骨間神経麻痺は下垂手と感覚の障害がないことで診断できます。
次に多いのが尺骨神経の障害です。たいていの方では、机の角などで肘(ひじ)をぶつけたときに、指先に「しびれ」が走った経験があるでしょう。この肘の内側の部分には尺骨神経が通る狭いトンネルがあり、これを肘部管と言います。そこを通る尺骨神経が、このトンネルが狭くなったせいで長く圧迫されると、手の小指(第5手指)と薬指(第4手指)の小指側(尺側)半分がしびれるようになります。これを「肘部管症候群」といいます。また、この神経は、親指を使って物をはさむ動作を行う筋肉の支配も行っています。
なお尺骨神経は肘部管の部分での障害が多いのですが、手関節の尺側にあるギオン管の部分も通りますので、ここで圧迫されて起こることもあります。
肘の内側を通る尺骨神経は、肘の内側の部分を通り、上腕骨内側上顆についている尺側手根屈筋の間にまたがるファイブロス・バンドFibous band(Osborne靱帯、筋膜バンド)の下をくぐるようにして走行しています。この狭いトンネルを「肘部管」と言います。この部分はとても窮屈になっており、その中を通る尺骨神経は外からの圧迫を受けやすくなっています。
肘の骨の変形により、あるいはこのFibrous bandが何らかの原因で緊張すると、肘部管がさらに狭くなり尺骨神経が圧迫され、圧迫された部位の上側の神経が瘤のように腫れてきます。これを「偽神経腫」と言います。
肘部管症候群の発生原因のうち多いものは、大工仕事や工場での作業などで、肘関節が酷使された結果、変形性肘関節症を生じて発症する場合、また過去(たとえば小児期)に肘の骨折をした後の後遺症で肘が変形(外反肘)し、そのせいでずいぶん経って、成人になってから発症する(遅発性尺骨神経麻痺)方もあります。
神経への圧迫期間が長くなると、手の小指側の筋肉(小指球)が痩せてきます。そして小指と薬指が曲がったままになって(近位、遠位指節間関節で軽く屈曲する。これをワシ手、カギ爪手、Claw handと言う)、伸ばすことができなくなったり(小指と環指の変形)、また、親指と人差し指の間で紙を挟んで両手で引っ張ろうとしても、親指の挟む力が弱くなっているせいで、指先が曲がって紙を押さえようとしてしまいます。そして指の力が紙に伝わらず、指の間から紙が抜けてしまいます。
小指、薬指がうまく伸びず合わさらないため、顔を洗うときに水がもれてしまう、箸がうまく使えないなどの症状が現われることもあります。
なお両手の母指と示指で紙をつかみ引っ張ると、障害のある方の母指の指節間関節が屈曲することをフロマン(Froment)徴候陽性と言います。
肘部管症候群を起こす原因には次のようなものがあります。
1、神経を固定している靱帯やガングリオンなどの腫瘤による圧迫
2、加齢に伴う肘の変形
3、子供のときの骨折による肘の変形
4、野球や柔道などのスポーツによる肘関節の酷使
5、睡眠中に肘関節をまげて、手を枕のかわりにして長時間寝ていた
6、長期間の運転
7、慢性関節リウマチ
8、その他
肘部管症候群では、肘関節の内側を叩くと、尺骨神経が刺激され、手の小指側にしびれや痛みが走ります(ティネルサイン陽性)。
診断には知覚神経伝達速度を測定します。尺骨神経の神経伝導速度が低下していた場合、肘部管症候群と診断します。
尺骨神経は手首の部分でギオン管という筋膜で覆われた狭いトンネルを通過します。ここで尺骨神経が圧迫された際の症状は、肘部管症候群とよく似ています。しかし、しびれで始まることよりも、手の小さな筋肉の痩せで始まることが多いようです。すなわち、しびれが目立たないのに、指がうまく伸びたり、合わせたりできず、顔を洗うときに水がもれてしまうといった症状の場合、この病気を疑います。
一番少ないのが橈骨神経の障害です。この神経はほとんど運動神経なので 手が動かない(ドロップハンド、下垂手、幽霊の手、手を背屈できない)というのが主な症状となり、「手がしびれる」と言っておいでになる方はあまりありません。しびれも多少起こりますが、親指と第2手指の付け根の間(水かき部分)と言います)がさわってみると感覚がないと言った程度です。
橈骨神経は腕の付け根あたりから、腕の骨(上腕骨)を回るように走行しています。原因としては橈骨神経への圧迫、すなわちうたた寝をして、長時間腕の外側が圧迫されていたとか、飲み過ぎて気がつくまで腕を下にしたまま寝てしまったというような場合などが多いようです。
なで肩の女性や、重いものを持ち運ぶ労働者の方に、肩や首・肩甲骨などのこりやだるさ、上肢のしびれや痛みなどの症状があれば、胸郭出口症候群の可能性があります。
首から出て上肢へ伸びる神経は、首から鎖骨のあたりを通って腕へ向かいます。この病気は、なで肩で事務仕事などの多い方に多く、長時間パソコンを使うなど、手を下ろしていたり、あるいは重い荷物を持ったりすることで、この神経の通り道が狭くなり症状が出るのです。一方、長時間、腕を上に上げて黒板に字を書く、つり革につかまる、物干しの際など、腕を挙げる動作でしびれが起こるといった場合も胸郭出口症候群が疑われます。
頸髄から出た頸部神経根は頸椎の椎間孔を出たあと、頸部の諸筋の間を通り、その後鎖骨と第1肋骨との間を通って上肢に向かいます。これらの通り道のどこかで、神経が圧迫されると手のしびれが起こりますが、しびれの範囲としては漠然としていることが多く、しばしば尺側に強いことが多いようです。同時に上肢への血管や運動神経が圧迫されることも多く、上肢がだるい、あるいは冷感(冷たい)と言った訴えもよくみられます。
この通り道のなかでも、特に狭くなりやすいところが3箇所あります。まず@首の付け根の部分にある前斜角筋と中斜角筋、そして鎖骨の3つで囲まれた隙間(斜角筋症候群)、次にA鎖骨と第1肋骨の間の隙間(肋鎖間隙:肋鎖症候群)、最後にB鎖骨に近いところで小胸筋の肩甲骨烏口突起停止部の後方(小胸筋症候群:過外転症候群)です。
それぞれの部位で神経や血管が絞めつけられたり、圧迫されたりする可能性があります。なお圧迫の原因に時に頸肋という頸椎から飛び出した骨(奇形)が原因となっていることもあります。
首を通る脊髄(頸髄)からは8本の神経が出ており、そのうちの第5頚神経から第8頚神経と第1胸神経が上肢や肩の運動や感覚を司っています。頸髄から出たこの複数の神経の束を腕神経叢(わんしんけいそう)と呼び、「胸郭出口」と呼ばれる首から肩にかけての神経と血管の通り道を通っています。この通り道が狭くなって神経や血管が圧迫されると、上肢のしびれや痛み、頚肩腕痛(けいけんわんつう)など様々な症状が出てくるのです。
胸郭出口症候群では、前腕尺側から手の小指側に沿ってしびれ感、ビリビリ感、痛みなどの症状に加え、手の握力低下と細かい動作がしにくいなどの運動麻痺の症状が出ることもあります。また動脈が圧迫されると、上肢への血行が悪くなって腕は白っぽくなり、痛みを生じたりします。静脈が圧迫されると、手や腕からの静脈血の戻りが悪くなり、むくんだり、冷たく感じたりすることもあります。
胸郭出口症候群の診断
手首の部分で橈骨動脈の脈を見ながら、顔をしびれのある腕の方向に向けて上を見ます(首を反らせる)。大きく息を吸って(深呼吸)、吸った状態で息を止めます。しびれが強くなり、動脈の脈が弱くなるか止まってしまうようでしたら、この病気です(アドソンテスト陽性)。
座位で両肩関節90度外転、90度外旋、肘90度屈曲位をとらせると、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなり、手の血行がなくなり白くなります(ライト テスト陽性)。
また、同じ肢位で両手の指を3分間屈伸させると、手指のしびれ、前腕のだるさのため持続ができず、途中で腕を降ろしてしまいます(ルース テスト陽性)。
座位で胸を張らせ、両肩を後下方に引かせると、手首のところの橈骨動脈の脈が弱くなるか触れなくなります(エデンテスト陽性)。
3分間上肢拳上負荷テスト
両方の上肢を外転外旋した状態で拳上し、その姿勢で指の屈伸を3分間ほど繰り返す。しびれが生じた場合は陽性と判断します。
指神経は手首の方からきた神経から枝分かれし、それぞれの指の両端を走って指の先端に至ります。これを「指神経」といいます。 この指神経が、指の途中の神経走行路のとこかで圧迫などの刺激を受け続けると、指先がしびれてきます。この神経は感覚をつかさどる神経なので、症状としては指先がしびれるだけで、指の動きが悪くなったり、筋肉が痩せて来るなどの問題は起こりません。親指に多いのですが、他の指に出ることもあります。
ボーリングをしすぎると、ボールの穴の角で指神経が圧迫摩擦され、そのような小外力の繰り返しにより、指神経の回りに線維性索状物が出来、これが指神経を圧迫し、拇指の掌側にしびれ、知覚障害、圧痛が出現します。
しびれではありませんが、あまり知られておらず診断が付きにくい病気を次に紹介します。
指先に激痛を起こす病気として有名なのですが、案外長年見逃されていることもしばしばで、この病気を知らない医師も少なくなく、診断がつくまで何人もの医師を受診することも少なくありません。そのため診断がつくまでに十年以上かかったりすることもあります。
グロームス腫瘍は、指先の爪の下にできるので、爪に何かが当たるとひどく痛みます。腫瘍は爪の下に生じることが多い青色の良性腫瘍で、皮膚抹消の動静脈吻合の特殊器官に発生します。この腫瘍の症状は、摘出することで完治します。指神経は左右の指の脇を上がってゆき、神経の終点は爪先の両脇付近です。そこで指先の脇にグロームス腫瘍が出来た場合、神経の真上に存在することとなり、触れたり当たったりするとひどく痛みます。
次のような症状があればグロームス腫瘍の可能性を疑います。
1、爪の下に blue spotと呼ばれる青い影が見える。大きくても直径5〜6mm程度、多くは2〜3mmぐらい。
2、冷水に手をつけるテスト:この腫瘍は温度に過敏で、指を冷水につけると耐えられないぐらいものすごく痛みます(cold intolerance)
3、blue spotの上の一点を押さえるとものすごく痛みます(pin-point tenderness )
いわゆる「しびれ」ではありませんが、「腕がしびれる」とおいでになる方が多い病気を紹介します。
この病気では、「物をつかんで持ち上げる動作」や「タオルをしぼる動作」をすると、肘の外側から前腕にかけて痛みが出現します。
この病気は、テニスされる方に多いのでテニス肘と呼ばれています。しかしテニスをされている方だけでなく、よく手を使う作業をされる方や、パソコン操作をされる方、あるいは家事で忙しい主婦の方々にもよくみられます。
腕を持ち上げたり、手首を返したりするのに働くのが前腕の筋肉で、それには、@長橈側手根伸筋(手首(手関節)を伸ばす働きをします)、A短橈側手根伸筋(同様に手首を伸ばす働きをします)、B総指伸筋(指を伸ばす働きをします)などの筋肉があり、肘の外側にある上腕骨外側上顆という骨の隆起部分についています。
なかでも、短橈側手根伸筋を使い過ぎると、肘の外側にあるこの筋肉の付着部に繰り返し負担がかかり炎症が起こります。すると物を持ち上げるたびに肘が痛くなるという症状が現れます。
また、この短橈側手根伸筋は手首(手関節)を伸ばす働きをしていますので、「雑巾をしぼったり」など、物をねじる瞬間に肘が痛くなるといった症状が見られます。
しびれとは異なりますが、首から出る神経の障害で起こる病気をいくつか紹介します。
肩甲背神経は主にC5神経根に由来し、中斜角筋を貫通して下降し、肩甲挙筋、小、大菱形筋に筋枝を送ります。
首を傾けたままの姿勢を長時間続けると中斜角筋が過緊張し肩甲背神経は絞扼されるのです。症状としては側頸部の痛みがあり、この痛みは手にも放散します。頸を患側へ傾け患側の手を後頭部へ挙げるという特異な姿勢をとることが多く、これは中斜角筋の緊張を和らげ手の痛みを軽くするためと考えられています。
腕が上がりにくくなる原因には、肩腱板損傷が多いのですが、なかには神経が麻痺して起こるものもあります。その一つに「肩甲上神経麻痺」という病気があります。
頚椎の側面から出た神経(C5,C6)の束は首の後ろを通り、肩甲骨に向かって肩甲上神経という枝を伸ばします。この神経は、肩甲骨上縁にある肩甲切痕と上肩甲横靱帯との間の狭い隙間を通過して肩甲骨の後面に至り、最後に棘上筋と棘下筋へ分布します。すなわち肩甲上神経は肩の動きで大切な役割をする棘上筋と棘下筋を支配しています。
特にバレーボールや、野球など腕を上げる事を繰り返すスポーツでは、肩甲上神経が引っ張られ、かつ周囲の組織によって圧迫を受けるのでこの病気がよく起こるようです。
また、肩関節を構成する臼蓋唇の一部が損傷してガングリオンという良性のできものが出来、これによって神経が圧迫されることで、麻痺症状が出る場合もあります。
症状としては、肩から肩甲部にかけての疼痛、とくに夜間に痛むことが多く、また肩の運動で痛みは増強します。
病状が進むと、腕を上げる動作や、腕を外に広げる動作(外旋)の力が弱くなるなどの、肩の動作の力の入りにくさなどの症状が起こります。この症状は、いわゆる五十肩や頸椎疾患の症状と似ているので、見逃されることが多い病気です。
もし肩の痛み、肩が上がらないと言った症状に加え、肩の周りの筋肉が痩せてきている(筋萎縮)といった症状が出たら、この病気を疑います。
腕が上がらなくなったという病気には、肩腱板断裂がありますが、それ以外に腕が上がらなくなる原因に、四辺形間隙症候群すなわち「腋窩神経麻痺」による場合があります。
この病気の特徴には、腕が上がらないという症状と、肩の外側のあたりの感覚が低下するという症状とをあげることができます。
頚椎の間から出た神経は首から肩、そして腕に向かって下りてきます。腋下神経は、腕神経叢の後神経束より分枝して肩甲骨と上腕骨の間を通り、その後上腕骨に向かって巻きつくように走っています。この肩甲骨と上腕骨との間の腋窩神経の通り道は、上腕骨・上腕三頭筋長頭・大円筋・小円筋で囲まれ、とても狭く窮屈になっています。この部分で圧迫を受けることにより、「腋窩神経麻痺」が生じます。
この筋肉や上腕骨で囲まれた部分を「Quadrilateral space(後方四角腔)」と言います。腋下神経は、この部を通り、小円筋、三角筋へ行く筋枝と、肩外側の知覚を司る上外側上腕皮神経に分かれます。たとえば繰り返し投球動作を行ったりすることにより肩甲骨関節窩後下方に骨棘を生じ(Bennet病変)、腋窩神経を慢性的に圧迫・刺激され神経の障害が起こります。
この神経が障害されると、肩関節後方から外側にかけての疼痛や倦怠感、脱力感、しびれ感、そして肩から上腕の外側にあり腕を持ち上げるのに働いている三角筋が麻痺し、肩の挙上が困難になります。進行すると、この三角筋の萎縮と肩の外側の知覚障害、すなわち腕の付け根の外側あたりに感覚の低下が起こります。
この長胸神経麻痺はリュックサックを長時間背負って神経が圧迫されることにより起こることで知られています。首から出る腕神経叢という神経の束から腕や肩に向かって枝分かれして行く神経のうち、長胸神経は第5,6,7番目の神経の枝から出てきます。
そして、鎖骨の周辺を下降し、前鋸筋(ぜんきょきん)と呼ばれる筋肉を支配します。前鋸筋は肋骨と肩甲骨に付着していて、肩甲骨を体幹に引き寄せて安定させる作用があります。その神経の通り道をリュックサックの紐などで長時間圧迫を受けますと、神経が麻痺してしまうのです。リュックサックに限らず、荷物を担いだり、重たい物を担ぐ運送業などの方にもみられる神経麻痺です。
主に障害を受ける神経は、長胸神経の他、腋窩神経や筋皮神経などがあります。長胸神経が麻痺しますと、手をついて力を入れた際に、前鋸筋が利かないので肩甲骨が浮いて見えます。これを翼状肩甲と言います。
腋下神経が麻痺しますと、腕を上げて力を保持するのに働く三角筋が麻痺し、腕を上げることができなくなります。筋皮神経が麻痺しますと、肘を曲げるのに働く上腕二頭筋が麻痺し、肘を曲げることができなくなります。
「大腿外側皮神経痛」は太ももの外側がしびれたり、痛んだりする足の神経痛のひとつです。
この神経は、第2、3の腰椎の傍から出て前に回り、太ももの付け根のあたり、骨盤の内側にある鼡径(そけい)靭帯のところを通り、大腿部の中央からやや外側と側面の部分の感覚を支配しています。この鼡径靭帯のところが長時間、圧迫されるとこの神経痛が起こり、太ももの外側のかなり広い範囲でしびれや痛みが起こります。「大腿外側皮神経」は、皮膚の感覚を担当する神経なので、足の動きが麻痺して足が上がらないとか、筋肉が痩せてゆくなどということはありません。
一方、腰から出る大腿神経(femoral nerve、第2、第3、第4腰神経の腹側から分枝)の障害では鼠径部、大腿の前面、内側面及び、下腿の内側面のしびれ(感覚障害)が起こります。
この大腿神経を障害するような高位腰椎の椎間板ヘルニアはどちらかと言えば稀であり、太もものしびれの原因としては、この大腿外側皮神経痛の方が多いこと、また大腿神経の障害では、同時に運動神経も障害されて麻痺が起こり、ひざを伸ばす力が失われ、階段を上れなくなったりする点が異なります。
大腿外側皮神経は、股関節の前面部で鼡径靭帯の下をくぐって、大腿前面にある縫工筋の間に出てきます。この神経は鼡径靭帯と縫工筋との間の狭い空間を通るので、外部からの圧迫を受けやすく、それにより神経痛を発症し、大腿の外側に灼熱感を伴う痛みが出現するのです。
股関節を伸展させると、この神経が引っ張られますので、痛みが増します。また反対に深く屈曲しましても、神経自体を圧迫してしまいますので、これでも痛みが憎悪します。そこで長時間座位をとる、すなわち座っていることで起こることもあります。
神経痛を起こされると、大腿外側皮神経が鼡径靭帯の下をくぐるところあたりで神経が刺激され、Tinel sign(ティネルサイン)と呼ばれる叩くとひびく場所があります。
大腿外側皮神経痛は、鼡径部を圧迫することになる原因、すなわち肥満、妊娠、ベルトやガードル、コルセットなどの絞めすぎ、あるいは窮屈なズボン(ジーンズなど)や下着を付けることなどによって起こるといわれています。
なお骨盤から下腿の脛骨までの大腿部の外側を走る腸脛靭帯が炎症を起こしたせいで、膝の外側だけでなく大腿全体の痛みを訴える方が結構おられます(腸脛靭帯炎)。
坐骨神経は、腰から出て足の指先にまで伸びている末梢神経で、太さがペン軸ほどある末梢神経の中でも最も太い神経です。また非常に長い神経で、末梢までの長さは1m以上もあります。
坐骨とは骨盤の一部で、座るとお尻にあたる部分の骨のことを言います。腰椎(腰の背骨)と仙椎(骨盤の中心部の骨)から出て足に行く、いくつもの神経がまとまって坐骨神経となり、骨盤の中を走り、お尻の部分から外へ出て脚に向かいます。この神経は腰から出る第4、第5番目の腰神経と、仙骨から出る第1から第3仙骨神経などの複数の神経が合わさった神経で、膝を曲げる筋肉と下腿と足の全ての筋肉に分布しています。そして、膝から下のほとんどの皮膚の感覚を司っています。
坐骨神経痛とは、病名ではなく症状を表す言葉です。何らかの原因によってこの坐骨神経が圧迫されると、腰や臀部から大腿後面、下腿の外側や後ろ、そして足の甲あたりまでのしびれや痛みをきたしますが、これを「坐骨神経痛」と呼んでいます。この神経が障害を受けると、痛みやしびれが現れるだけでなく、下肢の麻痺や痛みによる歩行障害を伴うこともあります。
坐骨神経痛を起こす原因にはいろいろなものがあります。一番多い原因は、腰の椎間板ヘルニアで、飛び出した椎間板で神経が圧迫されることによります。また坐骨神経は骨盤内を通り脚に向かって走行しますが、途中のお尻のところで梨状筋(りじょうきん)という筋肉の下を潜り抜けます。そこでこの梨状筋で神経が圧迫されて起こることもあります(筋梨状症候群)。
それ以外に腰椎スベリ症では神経が引っ張られて、また腰部脊椎管狭窄症では、狭くなった脊椎管の中で神経が圧迫されて起こります。それ以外に腫瘍や血腫、感染、内臓の病気、脊髄の異常などの重大な原因が隠れていることもあります。
腰の部分にある腰椎は、5つの骨(椎体)が繋がっており、その下の骨盤の一部である仙骨の上に乗っかっているという構造になっています。それぞれの椎体と椎体との間には椎間板というクッションの役目をする弾力性のある組織があり、この椎間板は、中央の柔らかい髄核と周りをとり囲む丈夫な線維輪とで出来ています。椎間板が加齢などにより変性すると、この線維輪が断裂し、その亀裂から髄核が後ろに脱出したりしますが、それを椎間板ヘルニアと呼びます。
椎間板ヘルニアが起こりますと、腰痛、そしてヘルニアにより圧迫された神経根の支配領域のしびれや痛みが起こります。そして圧迫が強いと足や足指の麻痺を来たすこともあります。
腰椎椎間板ヘルニアの9割はL4/5 (第4腰椎と第5腰椎との間)とL5/S1(第5腰椎と第1仙骨との間)にある2つの椎間板で起こります。そしてL4/L5やL5/S1に起こった椎間板ヘルニアでは、坐骨神経に沿って大腿後面から下腿外側後面さらに足指に放散するしびれや痛みが起こります。L4/L5のヘルニアの場合、L5とS1の神経根が障害されます。またL5/S1ヘルニアでは、S1神経根が障害されます。
足背または第1足指への放散痛ならL5、足底または第5足指への放散痛ならS1の神経根症状であり、L5神経根の障害では膝の外側から足の甲にかけての知覚が鈍くなり、S1神経根の障害では膝の後ろから足の甲の外側の知覚が鈍くなります。
L5神経根の障害では踵(かかと)歩きができにくくなり、S1の神経根の障害ではつま先歩きができにくくなります。なお、多くはありませんがL3/4のような高位腰椎に起こった椎間板ヘルニアの場合は、大腿神経に沿って大腿前面から膝内側にかけてのしびれや痛みが起こり、膝の病気と間違われることがあります。
下肢伸展挙上試験(SLR ラセーク兆候:straight leg raising 膝を伸ばしたまま下肢を挙上し坐骨神経痛の出現を見る)や下肢の感覚が鈍いかどうか、足の力が弱くなっていないか等で診断します。さらに、X線(レントゲン)撮影、MRIなどの検査を行い診断を確定します。
最近の知見では、椎間板ヘルニアによる単なる神経への圧迫だけでは痛みは起こらず、ヘルニアが神経を圧迫し、その部分に炎症が起こるため痛みを生じていると言うことが分りました。すなわち炎症がなくなれば、単なるしびれや、だるさは多少残るかもしれませんが、痛みはなくなってしまいます。
つまり椎間板ヘルニアの治療は、飛び出したヘルニアを引っ込める、あるいは切り取ってしまうというよりは、その部分に起こった炎症をとる。すると症状は治ってしまうということが分りました。
腰椎椎間板ヘルニアを、手術をせずに放っておくとどうなるのでしょうか?
椎間板ヘルニアにかかったら、「すぐ手術を受けないと」と考える方も多いと思います。以前は、一度飛び出たヘルニアはけっして引っ込むことはないと考えられていました。しかし近年、椎間板ヘルニアの経過をMRIで観察できるようになり、多くの方を対象とした研究の結果によれば、しばらくするとかなりの方で飛び出したヘルニアが消えてしまったり、縮んで引っ込んだりする場合もあることが分ってきました。
また、手術を受けた患者さんと、受けなかった方の長期間の症状の変化を比べた研究報告によれば、1年後ぐらいでは手術を受けた方のほうが良い成績でしたが、4年後にはほとんど差がなくなってしまったと言います。ですから椎間板ヘルニアはもちろん例外もありますが、手術を受けなくても、数年の間には治ってしまう方が多い病気であるといえます。
脊椎の中にあって椎体、椎間板、椎間関節、黄色靱帯などで囲まれたトンネルを脊柱管と言います。そして腰の部分の脊椎管を腰部脊椎管と呼び、この中を脊髄(腰髄)、そして腰髄から出て足に行く馬尾(ばび)と呼ばれる神経が通っています。
年をとると加齢に伴う変化、すなわち靭帯が緩んで腰椎がずれたり、椎体に骨の棘(とげ)(骨棘(こっきょく))ができたり、椎間板が膨らんだり、飛び出したり(椎間板ヘルニア)して脊柱管全体が狭くなり(狭窄)、中を通る神経が圧迫を受けることがよくあります。圧迫を受けると神経への血流が低下し腰部脊柱管狭窄症の症状が発症します。
症状としては腰痛や下肢のしびれや痛みなどで、下肢のしびれや痛みは臀部から太もも、そしてふくらはぎ、足の裏など(坐骨神経痛)に出ますが、これが両側に出る場合や片側だけに出る場合もあります。
脊椎管が狭くなって、神経への圧迫がひどくなると、しびれや痛みだけでなく、足先が持ち上がらなくなって階段を昇りにくくなったり、平地でもつまずいたりすることがあります。また足の症状だけで、腰痛は全くない場合もあります。なお背骨を後ろに反らすと脊柱管が狭くなって症状は悪くなり、前に曲げると広がるので、良くなる傾向にあります。そこで自転車に乗ったり、乳母車を押している際には、姿勢が前かがみになりますので、具合が良いとおっしゃる方が多いようです。
それ以外に、間欠性跛行(かんけつせいはこう)という腰部脊柱管狭窄症に特徴的な症状があります。これは普段はなんともないのですが、歩き出すと足がしびれたり痛んだりして歩けなくなるり、そして、しばらく休むとまた歩けるようになるという症状です。
この間欠性跛行は腰部脊椎管狭窄症以外に閉塞性動脈硬化症(ASO:慢性動脈閉塞症)でも起こります。下肢の動脈が動脈硬化のせいで狭く(狭窄)なったり、詰まったり(閉塞)すると、その末梢への血液の流れが悪くなり、血流障害に応じた下肢の虚血症状が出現します。
筋肉には安静時には需要に応じた血流が保たれています。しかし歩行時には下肢の筋肉は10〜20倍の血液を必要としますが、動脈が狭くなったり詰まったりして、その先への血行障害があると、その需要に応じた血液が下肢の筋肉に供給されず、筋肉の酸素不足症状が起こります。これが足の痛みとして現れるのです。
この症状は歩行を止めると短時間(約5分以内)で消失し、再び歩行が可能になるのです。
梨状筋というのは、臀部の奥で仙骨(骨盤の真ん中に位置する骨)と大腿骨の付け根の大転子とをつなぐ筋肉で、股関節を動かしたり固定したりする働きを持っています。坐骨神経は骨盤内から臀部後方に出る際に梨状筋の下縁を通ります。
この神経が梨状筋により圧迫(絞扼)されると、坐骨神経痛と同じ症状、すなわち臀部から太ももの裏、下肢にかけてのしびれや痛みを訴えるため、腰椎椎間板ヘルニアと間違えられやすいのです。梨状筋症候群の場合では、腰痛はなく、しゃがんだ状態で痛みのある側の股関節に力をいれて膝を外側に開くなどの動作で痛みが増悪します。
この障害は、一般にスポーツ選手にみられることが多く、なかでもランニングなど股関節の屈伸を繰り返すスポーツでは、坐骨神経を摩擦し圧迫することが多いため起こりやすいと言われています。
大腿神経は第2、第3、第4腰神経(L2〜L4)の前肢から起こり、第4腰神経からのものが最も大きく、第2腰神経からのものは非常に小さいのが普通です。大腿神経が絞扼された場合、痛みを訴える部位は大腿神経の内側皮枝、中間皮枝の部位、すなわち大腿前面からやや内側部です。鼠蹊部の内側を走行する大腿神経を押さえると大腿部に痛みが走ります。この圧痛の程度を左右比べますと、患側の鼠径部では割と広い範囲で強い圧痛がみられますが、この圧痛は前上腸骨棘寄りよりも大腿動脈の外側の大腿神経の部位に強いのが特徴です。
この部分では内側から大腿静脈、大腿動脈、大腿神経の順に走行しています。大腿動脈の内側にも圧痛はみられますが動脈の外側ほど強くはありません。「太ももに焼け付くような、ビリビリした、電気が走るような、激しい痛みを訴える。」というと異常感覚性大腿痛(外側大腿皮神経の障害)を考えますが、外側大腿皮神経の障害だと、鼠径部の圧痛は、もっと前上腸骨棘に近い側に出て、痛みを訴える部位も大腿外側になります。
閉鎖神経は第2,3,4腰神経根により構成され、大腰筋の後内縁を下し、仙腸関節上を走り、恥骨の上方を走ってから閉鎖孔に至り、最後は大腿内転筋群に運動枝を送ります。閉鎖管の上縁は恥骨、下縁は内・外閉鎖筋に囲まれ、閉鎖動脈と閉鎖神経が通っています。閉鎖神経の圧迫は妊娠時、乗馬による外傷、下腹部の外科手術後などによくみられますが、稀に骨盤内の悪性腫脹による場合があります。局所の知覚障害、痛み、下腿や膝関節内側への放散痛などがみられます。
「ハンター管症候群」では膝から下のふくらはぎの内側あたりがしびれます。しびれる範囲が、足の他の神経痛と似通っていることから、他の病気と間違われてしまうこともあります。
大腿神経の枝である伏在神経は内転筋と呼ばれる筋肉の傍を通り、ハンター管(内転筋管)と呼ばれる筋膜の管を通って、さらに下の方へと降りていきます。そして膝の内側あたりで、膝蓋下枝と、内側下腿皮枝に分かれて、さらに下方へと伸びていきます。すなわちハンター管の部分を圧迫されると膝内側や下腿から足内側への放散痛やしびれが起こります。
大腿の内側への直接の圧迫、スポーツなどの運動によるハンター管周辺の筋肉の繰り返す収縮などによって圧迫される場合が多いようです。伏在神経は感覚を司どる神経なので、しびれがあっても、麻痺が起こって足が曲がらなくなる等、足の筋肉が痩せてしまうということはありません。
膝の外側の部分の隆起は「腓骨頭」と呼ばれる骨の隆起です。総腓骨神経は、坐骨神経から枝分かれし太ももの後ろを通って膝の裏のすぐ下のあたりでふくらはぎの外側の皮膚の表面を通っている神経で、下腿の骨の腓骨頭の後ろを巻きつくように走行します。
この神経は、主に足首や足指を上へ向けたり、足首を外へ向ける役割を持っています。麻痺してしまうと、下腿の外側から足背ならびに第5趾を除いた足趾背側にかけて感覚が障害され、しびれたり、触った感じが鈍くなります。また足首(足関節)と足指(趾)が背屈で出来なくなり、下垂足(drop foot)になります。歩き方としては、つまづかないようにするために、膝を高く持ち上げるように足を上げ、着地するときは、つま先から床につきます。蹴り出しは、力強く前へ蹴り出せなくなり「鶏(にわとり)様歩行」と言われています。
この神経の麻痺が起こる最も多い原因は、膝の外側にある腓骨頭部が外部から圧迫されることです。そしてこの麻痺が起こりやすいのは、寝たきりのやせた人、安全ベルトのかけ方を間違えたまま車いすに座っている人、あるいは長時間脚を組む癖がある人などです。骨折の後にギプス固定をしている時に起こることもあります。
下垂足を呈し、上記の感覚障害があり、ティネルサイン(神経傷害部をたたくとその支配領域に疼痛が放散する)があれば傷害部位が確定できます。腰部椎間板ヘルニアや坐骨神経障害との鑑別診断が必要なこともあります。
足の外くるぶしの外側あたりから足部の外側がしびれる場合、坐骨神経痛による場合も多いのですが、「腓腹神経麻痺」である可能性もあります。腓腹神経が支配している箇所は、足の小指からくるぶしの外側、ふくらはぎの外側です。膝の裏から通ってきた内側腓腹皮神経と、外側腓腹皮神経がふくらはぎのところで合流し腓腹神経となって、ふくらはぎの外側を通って足の外側の方まで下りてゆき、一部は踵の外側を通ります。
腓腹神経は知覚神経なので、筋肉の動きを担当していません。そこで腓腹神経が麻痺しても指が動かしにくいとか、足が動かしにくいなどといった症状はありません。
腓腹神経はふくらはぎの外側で皮膚に近いところに出てきますが、ふくらはぎの下3分の1ぐらいの位置で皮膚に最も近くなり、この位置で外からの圧迫などの影響を受けやすくなっています。
長時間同じ姿勢が続けたせいで、足に靴などの圧迫が続いて、足の甲あたりから先がしびれることがあります。「浅腓骨神経麻痺」を疑います。
総腓骨神経が枝分かれした浅腓骨神経は下腿の中を通って下へ降りてきて、足首の前あたりで中間足背神経と、内側足背神経に枝分かれします。この神経は、足の甲から足指の上側の感覚をつかさどっています。
浅腓骨神経麻痺は、足の甲あたりの感覚をつかさどる神経なので、麻痺が起こって足指が動かなくなったり、筋肉が痩せるなどの症状は出ません。しかし、しびれる原因が腰からであるといわれたり、足の先の血流障害であると疑われたりして、浅腓骨神経麻痺であることが見逃される場合があります。
足の関節にはレントゲン写真上異常が見当たらず、なのに足首に違和感を覚える、もしくは、捻挫を繰り返す、そんな症状をお持ちの方の場合、考えられるのが、「足根洞症候群」と呼ばれる疾患です。「足根洞症候群」では、足首の違和感や足関節付近での不安定感、でこぼこ道や路肩などの傾斜で歩行時に痛みが増強するなどがあげられます。
足関節付近では「骨間距踵靱帯」と呼ばれる靭帯が距骨(足首の骨)と踵骨(踵の骨)をつなぎとめ、足首の安定を図っています。足根洞とは、踵の骨(踵骨)と足首の骨(距骨)によって囲まれた空間で、筒状の構造になっており、その近くには足関節の大切な靭帯が多数存在します。
足関節を捻挫すると、足首の外側に存在する前距腓靱帯が断裂します。その際、この前距腓靭帯が断裂することにより、同時に周囲のいろいろな靱帯が損傷を受け、足根洞内に出血し、これが瘢痕組織や線維組織に変わり滑膜炎や浮腫を起こし、後になって運動時の痛みの発生原因になります。
また足根洞窟部には神経終末が集合しており、足部の固有知覚に重要な役割があるため、足根洞部の損傷は足関節の不安定性も引き起こすようです。原因の約70%は足首の内反捻挫や外傷後に適切な治療をしないまま放置していたため、後になって起こると言われています。
前足根管症候群(深腓骨(しんひこつ)神経麻痺)では足指の第1足指(拇指)と第2足指との間の部分が痺れます。これはスポーツに限らず、日常履いている靴が原因で起こる障害です。
深腓骨神経は足関節の前面で、バンド状の「下伸筋支帯」の下のトンネルをくぐって足の甲の部分に出てきます。そして足先に向かって走り、第1、第2足指の間の部分の感覚を司っています。なお深腓骨神経の一部は足の甲にある「短趾伸筋」という筋肉を支配しています。窮屈な靴やサンダルなどを履いたせいで、この神経が伸筋支帯の部分や足の甲の短趾伸筋のあたりで長く圧迫されますと、しびれが起こってくるのです。
足の指の間での神経(足底趾神経)の絞扼もしくは神経腫により起こる足の中指、薬指の付け根の間の痺れや痛みをモートン病と呼んでいます。
足の裏のしびれ感や痛みの中で、多く見られるのがこの「モートン病」です。靴が原因であることが多く、足の裏の前のあたりに衝撃が繰り返されると、そこで炎症が起こって神経が圧迫され症状が出てきます。第3趾と第4趾の間に好発し、また第2趾と第3趾間、あるいは他の指の間でも起こります。この病気の特徴2本の趾にまたがって症状が出てくる点で、以下のような特徴があります。
1、第3趾と第4趾(中指、薬指)の付け根から指先にかけての痛み、しびれ
2、ダンスなどでつま先で立つと痛い
3、靴を履いて歩くと痛い(特に幅の細い靴など)
原因として多いものは次のようなものです。
1、革靴やスキーやスノーボードなどで合わない靴
2、ハイヒールの使用や仕事やスポーツなどで指を過伸展させるような姿勢を長く続けたことにより神経が圧迫されるために起ったりします。
3、旅行などで長い距離歩いた
4、ほとんどの人で外側に体重がかかるような立ち方、歩き方、これは常に第3趾と第4趾に荷重がかかっている状態です。
5、足の構造で重要な、縦のアーチと横のアーチ、モートン病は扁平足・アーチ構造が崩れていると発生リスクが少し高くなります。縦より横アーチの低下が関係することが多いようです。
足のしびれを訴える方の多くが足根管(そっこんかん)症候群という病気です。この病気は中高年の女性に多く、足の裏がしびれたり痛んだりします。
「足の裏にモチ(餅がひっついているようだ」、「ザラザラ砂を踏んでいるようだ。素足で砂利道を歩いているようだ」、「足裏がピリピリ、ガサガサ、ヒリヒリする」と訴えられます。「足指もしびれる」とか、「足全体がしびれる」と訴えられることも多いのですが、足の裏はしびれても、足の甲はしびれません。
足関節(足首)の内側、内くるぶしの部分にある骨のでっぱり(脛骨内果:けいこつないか)のかかと側のすぐ下に、足根骨と屈筋支帯に囲まれた足根管と言う神経、動脈、そして指を曲げる筋肉の腱などが通る通り道(トンネル)があります。この狭いトンネル内で後脛骨神経が締め付けられると足の裏のしびれが起こります。
足の裏に行く神経(足底神経)は、ふくらはぎの内側に沿って降りてくる後脛骨神経から枝分かれし、その後内側と外側の足底神経、そして踵骨(しゅこつ)枝に分かれます。踵(かかと)の部分に行く踵骨枝は、頚骨神経が内踝の下を回るよりもずっと中枢で枝分かれして降りて来るため圧迫を免れます。そこで踵はしびれず、足の裏の前方がしびれます。なお足の裏はしびれますが、足の甲はしびれません。 足の内側のくるぶしの下を叩いてみてください、足の裏のしびれているところに電気が走るようでしたら、この病気です。
なお他の医療機関でMRIなどの精密検査を受けたが、腰のヘルニアが見つからなくて、結局「足のしびれの原因がわからない」とか、あるいは「腰からのしびれだろうと言われ、治療を受けているが、一向に改善しない」という方では、腓骨神経という神経の障害や、この足根管症候群の可能性を考えてみる必要があります。
このトンネルの入口のところでは、神経は骨の上を走るため、外からの圧迫にも弱い場所です。最近きつい靴を穿いて歩きませんでしたか?特定の靴を履いた場合に痛みを生じる事があります。なお足根管症候群は、 スポーツなどの運動が発症のきっかけとなる事が多いようです。
足根管症候群の原因の多くは、下腿から足の筋力低下です。そのせいで足が徐々に変形し扁平化してしまい、足根管の部分が圧迫されるためです。この病気では、扁平足や外反母趾、足指の槌趾変形を合併していることが多く、それ以外に糖尿病、関節リウマチ、慢性腎不全(血液透析)などの合併症として起こることもあります。
また足根管の部分に出来た「できもの」、例えばガングリオン、神経鞘腫、血管腫などによる神経の圧迫で起こることもあります。またこの足根管症候群に、糖尿病性の神経障害や腰部脊椎間ヘルニアなどが合併していることもあります。
足根管症候群とまぎらわしい病気
1、足底腱鞘炎(腱膜炎、踵骨棘):歩いた時の痛みや、足の裏を押した際の痛み、すなわち足の裏の痛みが主な症状で、しびれることはありません。
2、有痛性外脛骨腫:運動した際や、足に体重がかかった時に足の付け根の内側あたり(舟状骨結節部:しゅうじょうこつ)に痛みが起こります。
3、Morton病(モートン病):第3と第4足指の間がしびれたり、痛んだりします。
足が「むずむずする」、「アリが這う」と表現される「しびれ」ですが、問題はそのために我慢できずに動き回ってしまうとか、脚が「むずむず」して寝れないという点にあります。
「むずむず脚症候群」は、海外ではレストレス(じっとしていられない)レッグス症候群と言われ、夜間や横になって安静にしているときにしばしば起こります。寝ていると脚が「むずむずする」ような我慢できない不快感が起こり、そのせいで脚をじっとしていられず、イライラが高じしばしば不眠になります。
この不快感は「むずむずする」「虫が這っている」「ピクピクする」「ほてる」「いたい」「かゆい」などと表現されます。症状は夕方から夜間にかけて現れやすいことから「入眠障害(眠りにつくことができない)」、「中途覚醒(夜中に目が覚める)」、「熟眠障害(ぐっすり眠れない)」などの睡眠障害の原因となり、不眠のせいで日中仕事や家事に集中できないなど、日常生活に大きな支障をきたすことになります。
また、脚を動かすことで不快な症状は一時的に楽になりますが、会議中や乗り物の中などでは自由に脚を動かすことができず、そのため大きな苦痛を感じ、気分が滅入ってしまうなど患者さんのQOL(Quality of Life:日常生活の質)は著しく低下します。
治療法は、ドーパミン作動薬という薬が第一選択となっており、およそ8割の人に効果があると言われます。軽症の場合は、昼間の軽い運動などの生活習慣の改善によって軽減できる場合もあります。
多発神経炎は左右対称に四肢遠位部ほど程度が強くなる手袋靴下型「glove-stocking type」の感覚障害を特徴とする末梢神経が障害される病気です。
最初は足から、すなわちつま先や足底がまず障害され、徐々に症状が上行し、進むと手のしびれも出現し「手袋、靴下型」すなわち手袋や靴下を履いた部分の知覚障害となります。原因には糖尿病によるものが多く、それ以外にビタミン不足、薬剤(抗がん剤など)など様々なものがあります。
糖尿病の三大合併症のうち、最も早期に出現してくるのが糖尿病性神経障害です。神経障害は網膜症(目)や腎症と同様に、高血糖が持続することにより神経が変性したり、神経を栄養する毛細血管の障害が起こり、神経への血流が低下することなどによって起こります。
高血糖が持続すると、まず長い末梢神経の感覚神経から障害が現れてきます。すなわち、最初は足の先から、そして左右対称に出現してくるのが特徴です。例えば、足の指先がじんじんしたり、しびれや痛みを感じたり、虫が這っているような知覚異常としてみられます。
さらに進行すると手にも症状があらわれ、続いて運動神経にも障害が現れ、筋肉に力が入りにくくなったり、顔面神経麻痺や外眼筋(目を動かす神経の動眼神経や滑車神経)麻痺を生じて物が二重に見えたり(複視:ふくし)するようになります。
糖尿病による血管障害が原因で、最初に起こるのは神経障害です。糖尿病に至る前の境界型の時でも、既に神経障害が発症している場合もあります。つまり、糖尿病罹病期間が長い人や、血糖値が長期間高かったような人では、神経障害は100%起こっていると考えられます。
糖尿病神経障害の大半は知らないうちに発症している足の先がしびれですが、そのたために、わずかな傷があっても、あるいは炬燵などで火傷をしても患者さんが気付くのが遅れ、傷から細菌が入って壊疸(えそ)を起こすこともあります。壊疽を起こし下肢の切断が必要になったりすることもありますので、注意が必要です。
糖尿病性神経障害では下肢の腱反射、特にアキレス腱反射が低下もしくは消失していることが多く、早期診断に有効です。
また糖尿病では、初期の段階から「振動覚」の低下が現れるので、両側足関節内顆部での振動覚を測定し低下の有無をチェックすることが役に立ちます。
脚気は古くからある病気で、ビタミンB1の摂取不足で発病し、神経障害や心臓疾患を引き起こす危険な病気です。年配の人に伺うと、昔は医者に行くと聴診器を当てられる以外に、「膝の下をハンマーで叩かれた」などとおっしゃいますが、これは脚気の診断のため膝蓋腱反射を調べておられたのです。
日本では江戸時代から大正時代に大流行しました。その頃、丁度玄米を主食としていた日本人が、精製された白米を主食とすることが広まったからです。また戦争中や戦後の食料不足の時代にも増えました。脚気が怖い理由はその死亡率の高さからも伺えます。
脚気は神経障害を引き起こすだけではなく、心不全を引き起こし死に至る病気です。
脚気はビタミン欠乏症の一つであり、ビタミンB1の不足により発症することが確認されています。ビタミンB1が不足することで、代謝が上手く機能できなくなり「疲れ倦怠感」「食欲不振」などが表れます。また神経障害も発症し、全身や下肢の「麻痺」「痺れ」なども表れて、進むと「運動麻痺」に進行します。血圧も低下し動くことも出来なくなり、最後には心不全により死亡することになります。脚気はビタミンB1を適切に摂取していれば問題のない病気であり、豚肉や大豆、魚類などの食品を適正に摂取していれば、十分に摂取可能です。
日本人の栄養状態の改善に伴い、いったんなくなったかに見えた脚気が、このところ再び増加しています。1970年前後にインスタント食品の普及とともに若年者を中心に発症者が散発し一旦、再び注目を集めました。
近年、脚気が再び増加している原因は、「アルコール性のビタミンB1欠乏症」が増えているからです。「日本酒」や「ビール」は糖質を多く含んでいます。つまりお酒を大量に飲むと、糖質を分解するために多くのビタミンB1が必要になり、そのせいでビタミンB1欠乏症になってしまうのです。
またアルコールを多く飲む人は食事内容も偏りがちで、つまみのみで食事をする方もしばしばで、それがビタミンB1不足の原因と考えられます。
大昔には白米を食べることができる上流階級の人がかかることから、「贅沢病」とも言われた脚気ですが、現代においては「大酒飲み病」とも言えるのかも知れません。
他に、ビタミンB1欠乏による神経障害として有名なものにヴェルニッケWernicke脳症があり、急性発症の意識障害・眼振・外眼筋麻疹・小脳失調で特徴付けられます。
胸部や腕から手にかけてのしびれや痛みに加え、咳やくしゃみをした時、あるいは用を足す際にいきんだ時に後頭部の痛みが起こる場合、稀な病気ですがキアリ奇形の可能性があります。
この病気は、小脳の一部が頭の付け根(大後頭孔)から下の脊柱管内に落ち込んでしまっている病気で、同時に脊髄に空洞(脊髄空洞症)を伴うことが多いとされています。病気の進行に伴い、上肢の筋萎縮を伴う筋力低下(麻痺)がみられるようになり、さらに上肢を中心に温度や痛みの感覚が鈍くなってきます。脊髄空洞症では、脊髄の中心部(ここで皮膚感覚の経路が交叉する)が障害されるので、対応する両側皮膚感覚が障害され、衣紋掛け(えもんかけ)状ないし帯状の領域にしびれや痛みが出ます。
多発性硬化症とは、脳や脊髄、視神経のあちらこちらに病巣ができ、様々な症状が現れ、その症状が出たり(再発)、良くなったり(寛解)することを繰り返すのが特徴の病気です。
多発性硬化症は英語で“Multiple(多発する)Sclerosis(硬化)”といい、その頭文字をとって“MS(エムエス)”と呼ばれています。MSは厚生労働省が指定する「特定疾患」の1つです。
たとえば突然に目が見えなくなる、腕がしびれてあがらなくなる、お風呂に入っても熱い冷たいの感じがわからなくなる、といった症状で発病します。その他ふらふらして歩けなくなるなどの症状が出ることもあります。
多発性硬化症の原因は、脳や脊髄などの中枢神経に脱髄をきたすことによります。脳や脊髄の神経細胞には、軸索(じくさく)と呼ばれる突起があり、この突起が他の神経細胞につながり、細胞と細胞の間で情報伝達を行っています。
軸索には、それを包む鞘(さや)のようなものがあり、髄鞘(ずいしょう)と呼ばれます。髄鞘は、軸索を保護したり、軸索を通じての情報伝達をスムーズに行うように働いています。
この髄鞘が、炎症により壊された場合、これを脱髄(だつずい)と呼びます。脱髄が起こると、神経細胞間の情報の伝達がうまくいかず、そのせいで麻痺やしびれをきたします。多発性硬化症は欧米ではとても多い病気ですが、日本で起こるタイプでは視神経、脊髄の障害がよく現れます。脊髄の症状としては手足の運動麻痺や、しびれ(感覚障害)が起こります。
以下の記載は、難病情報センターのホームページの内容を参考にしています。
末梢神経に障害が起こり、手足のしびれや筋力が低下をきたす病気のひとつです。このため足に力が入らなく、転びやすくなったり、手の脱力のため物をうまくつかめなくなったりします。また、感覚神経の障害のせいで、手足のしびれ、ピリピリする痛みなどが起こともあります。
発病はゆるやかで、慢性的に進行する場合と、再発・緩解(病状が一時的に和らいだり、再び発病したり)を繰り返す場合とがあります。何らかの原因で免疫反応に異常、すなわちウイルスや細菌などの外敵から体を守るはずの免疫が、誤って自分自身を攻撃してしまう「自己免疫疾患」の一種と考えられています。
そのため末梢神経の髄鞘(神経の表面をおおっているカバー)が破壊されて発病するものと考えられています。過労やストレスによって免疫力が低下し、あるいは上気道感染や感冒、ワクチン接種などが引き金となって免疫のバランスが崩れると免疫システムに誤作動が生じます。免疫で重要な役割を果たしているものに「リンパ球」と呼ばれる免疫細胞がありますが、CIDPではこのリンパ球が、自分の末梢神経組織の髄鞘を異物と間違って認識し、攻撃してしまうのではないかと考えられています。
この病気は血管炎を来す全身性の病気に続発し末梢神経が障害を受ける病気です。末梢神経がバラバラに、しかも多発性に障害を受けるため、複数の主要な神経幹が左右非対称に障害を受けるのが特徴です。
このタイプの神経障害は膠原病にかかった方で、それによる血管炎が増悪した際に見られることが多いとされます。この多発単神経炎をきたす血管炎としては、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa,PN) 、慢性関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病で起こるものが代表的です。神経への栄養を司る小動脈〜細動脈が血管炎で詰まってしまうことによって、多発性の末梢神経の障害をきたすためと考えられています。
筋肉を動かす運動神経の障害のため、急に手や足に力が入らなくなる病気です。手足のしびれ感をしばしば伴います。多くの場合(約7割程度)風邪をひいたり下痢をしたりなどの感染の後1〜2週してから症状が始まります。
この病気の原因は、自分を守るための免疫のシステムが異常となって、間違って自分の神経を攻撃してしまうためと考えられています。この病気にかかった約60%の患者さんの血液中に、神経に存在する「糖脂質」という物質に対する抗体がみとめられます。それ以外にリンパ球などの細胞成分やサイトカインなどの液性成分も加わって、これが自分の神経を攻撃する「自己抗体」として働いてしまっているのではないかと考えられています。
症状は、かかってからだいたい2〜4週以内にピークとなり、その後は、次第に良くなってゆきます。症状の程度はさまざまですが、もっとも症状のひどい場合には寝たきりになったり、呼吸ができなくなることもあります。
頭部打撲後の両手のしびれや痛み
ラグビーやフットボール等のスポーツだけでなく、水泳の飛び込みや柔道、落馬などにより頭部を打撲した際、頸椎に衝撃が加わることが多いのですが、脱臼や骨折など頸椎自体が損傷されると頸髄損傷をきたし、損傷を受けたレベル以下の知覚障害や運動神経の麻痺が起こります。
すなわち頸椎の骨折や脱臼で脊髄が外側から圧迫を受けると、足のほうから運動神経が麻痺します(頸髄損傷)。
一方、中心性脊髄損傷では手のしびれや痛みなどの感覚障害が主です。なぜなら感覚神経の神経路は頸髄の中心に近づくほど上肢に分布する神経の線維が通っています。そこで、骨の損傷がなく、頸髄が強く揺すられたような場合では、頸髄の中心部の循環障害が起こり、そのせいで主に知覚神経が障害を受け、上肢(特に手)に強いしびれや痛みをきたすのです。
片頭痛発作時によくみられます。その際に痛み調節・抑制系に障害が起こり、痛みが増幅され、本来は痛くない刺激を痛みと感じるような症状が出現します。これを皮膚過敏(アロディニア異痛症)と言います。
皮膚では熱い冷たい、機械的刺激に対する感受性が亢進します。その際に頭髪をとかすのも嫌がる人もいますし、手指のピリピリ感などが起こることもあります。すなわち感覚過敏としては、頭髪・頭皮膚の過敏(50%)、額・顔の皮膚過敏(37%)、手指の過敏(28%)が証明されます。更に、光過敏(87%)音過敏(83%)、嗅覚過敏(50%)もよく見られます。
顔に風が当たると痛い、メガネやイヤリングが不快、髪を結んでいるのがつらい、くしやブラシが痛くて使えないといったものを頭部アロディニアと呼び、さらに脳が過敏になると、頭部だけではなく、手足のしびれや腕時計、ベルトが不快になることもありこれらは頭蓋外アロディニアと呼びます。
骨折、捻挫、打撲などの外傷をきっかけとして、その後四肢に起こる慢性的な痛みと浮腫、皮膚温の異常、発汗異常などの症状を伴う難治性の慢性疼痛症候群。すべての例が萎縮性であるとは限らないという意見がとり上げられ、最近ではCRPS(複合性局所疼痛症候群)と呼ばれます。
焼けるような痛みと機械的な刺激による痛覚過敏、局所的な交感神経の活動により、四肢の冷感、過度の発汗、爪の肥厚などを呈する場合もあります。