顔面の感覚を司る神経が三叉神経、この三叉神経には3本の枝がある。この3本の枝のうち第1枝は眼窩から前額部の感覚を支配している。緊張型頭痛により後頭部に痛みがある場合、後頭神経への刺激が起こる。すると、後頭神経と頭の中でつながっている三叉神経第1枝の領域に痛みが放散する。この三叉神経第1枝への関連痛により、さまざまな目の付近の症状、すなわち「目の奥の痛み」や、「目の疲れ」、「まぶしさ」などの症状が起こることがある。これを大後頭神経三叉神経症候群と呼び、その頭文字をとってGOTSと呼んでいる。緑内障や副鼻腔炎、また年配の方では側道動脈炎との鑑別が必要である。
三叉神経のうち、第1枝 (眼神経)の由来の神経線維と、頸神経系(C1・C2)の一部の神経線維は脊髄上部で同じ細胞に接続しており、後頭神経の興奮 (後頭部痛・項部痛)が三叉神経の第1枝(眼神経)に伝搬して、前頭部および眼窩部への関連痛症状(目の奥の痛みなど)を引き起こすことによる。
大後頭神経は、後頭部にある外後頭隆起(後頭骨下部中央の骨のでっぱり)の外側2.5cm、小後頭神経は、さらにその外側2.5cmから上に伸びている。これらの神経の出口を圧迫(バレーの圧痛点)すると放射されるように痛みが走る。
片頭痛では痛みが片側性で、ズキンズキンと脈拍と同期して痛む(拍動性頭痛)ことが多い(60%)が、必ずしもそうとは限らないことに注意が必要である。例えば、片側だけではなく、両側性の頭痛の場合が40%であったと言う。また片頭痛の痛み方の特徴は拍動性(ズキン、ズキン、ガン、ガン)であるが、非拍動性の頭痛の場合も50%にみられたという。そのような場合の片頭痛かどうかを見分けるポイントは、頭痛が発作性であること、体動により増悪し、家事や階段昇降など日常生活に影響するほどのひどい痛みであること、悪心、嘔吐を伴う、しばしば光過敏・臭い過敏を伴うなどである。
最近、片頭痛患者でも、緊張型に多いと考えられている「肩凝り」を併せ持つ方が少なくなく、片頭痛患者でも肩凝りを自覚している割合いが75%あったとの報告がある。また片頭痛の予兆として、「肩こり」や「生あくび」、「空腹感」などの体調変化をきたすことも多く、中でも予兆のうち一番多いのが「肩こり」である。さらに頭痛の直前に前兆症状を生じる方が多いが、前兆症状のうち肩や首に強い張りを感じ始め、続いて後頭部までのコリを感じ、その後、片頭痛発作に移行することも多く、このような場合、患者自身も「肩こりからくる頭痛:緊張型頭痛」だろうと思っておられることが多い。
女性の方の片頭痛は月経前後に起こることが多い。月経時に起こった頭痛を生理痛と思っておられるむきもあるが、この頭痛のほどんどは、月経によって誘発された片頭痛である。実際、片頭痛を持つ女性の約半数が、片頭痛が月経と関連して起こることを自覚している。
月経時に起こる片頭痛は、通常、月経開始2〜3日前から、開始後2〜3日の間に集中し、さらに排卵日を挟んで前後3日間にも起こることが多い。エストロゲン(女性ホルモン)分泌量は、月経周期に伴って大きく変動しており、排卵日と月経開始期に急激に低下する。このエストロゲン分泌量の急激な変動が片頭痛発作に大きく関係しており、例えば、エストロゲンの変動が少ない妊娠中は一時的に片頭痛が起こりにくくなり、出産後は元のように月経に関連した片頭痛が起こるようになることが多い。月経中は、普段の頭痛より頭痛の程度が強く、かつ頭痛の持続時間が長い、また再発しやすいことが知られている。またエストロゲン(女性ホルモン)の影響もあって、トリプタン製剤の効果が十分に得られないことも多い。このような場合にはトリプタン製剤とNSAIDs(非ステロイド系消炎鎮痛剤)を同時に服用させることで効果が得られることがある。
なお、経口避妊薬(ピル)を服用した場合も、片頭痛が生じやすくなることがある。ピルにはエストロゲンとプロゲステロンが含まれており、通常、21日間服用し、7日間休薬するが、片頭痛は血中のエストロゲン量の低下する休薬期間に生じることが多い。
片頭痛もちの方には、子供の頃から「車酔い」や「船酔い」にかかる方が多いことが知られている。このような方が、思春期をすぎると、片頭痛発作を起こすようになることが少なくない。また片頭痛もちの方では、頭痛のない時でも、ギラギラ「めまい」感が起こることがある。すなわち外界が異常に眩しく感じられたり、あるいは縞模様や格子縞の模様を見ると、グラグラッとする「めまい」を覚えたりすることがある。
平衡感覚の誤った情報が脳に伝わり、バランス感覚に異常が起こると「めまい」が起こる。体の平衡感覚の情報を脳に伝える働きをなしているのが前庭系であり、耳の奥にある三半規管から前庭神経を経て脳幹部、そして大脳の平衡感覚中枢までの経路のことを言う。片頭痛の約1割の方では、この前庭系の異常を合併すると言われており、頭痛と「めまい」がほぼ同時に起きることもあれば、頭痛だけの時もあるし、あるいは「めまい」だけの時もある。片頭痛に伴い神経伝達物質が過剰に分泌されるが、この神経ペプチドは片頭痛を起こすだけでなく、前庭と呼ばれる三半規管などの平衡感覚を司る器官にも過剰に作用するために「めまい」が起こると考えられている。
片頭痛の方に起こる「めまい」には、(1) 頭痛の前兆として起こる「めまい」、(2) 頭痛発作の最中に生じる「めまい」、そして(3) 頭痛発作のない間欠期に生じる「めまい」がある。
「前庭性片頭痛」は、2013年に初めて国際頭痛分類第3β版に取り上げられた新しい概念である。この病気は回転性めまいや頭位変換により誘発される嘔気を伴うめまい感といった前庭症状の発作(5分〜72時間持続)に片頭痛的要素を伴うものであるが、必ずしも毎回の発作に頭痛を伴う分けではなく「めまい」だけの場合もある。
前庭性片頭痛は全人口の約1%が罹患していると推計されるほど多いもので、たとえば、有名なメニエール病の5から10倍も多いとも言われ、めまいを訴える患者さんの約1割、また、逆に片頭痛患者の約1割がこの前庭性片頭痛だとする報告もある。
前兆(前ぶれ)として回転性の「めまい」、耳鳴り、呂律が回らない、物が2つにだぶって見える(複視)、両眼の視力障害、歩行不安定(ふらつき感)などを生じる片頭痛発作は、脳底型片頭痛と呼ばれ、若い女性に多く見られる。
脳は (1) 大脳 (2) 脳幹部 (3) 小脳からなり、脳幹部は 中脳、橋、延髄からなる。脳幹部には、眼球を動かす3つの神経(動眼、外転、滑車)の核、平衡感覚に関する前庭神経核、言語に関する顔面、舌咽、迷走神経核などがあって、それぞれの障害により、複視、めまい、言語障害(構音障害:ろれつ困難)などの症状が起こる。また小脳が障害されれば運動失調が起こる。この脳幹部の前方を走り、脳幹部に栄養血管を送るのが脳底動脈である。
脳幹性前兆を伴う片頭痛とは、片頭痛の前兆症状の責任病巣が明らかに脳幹にあると考えられるものであり、前兆として以下の脳幹症状のうち少なくとも2項目以上を満たすものをいう。
1.構音障害 2.回転性めまい 3.耳鳴 4.難聴 5.複視 6.運動失調 7.意識レベルの低下
このタイプの片頭痛は1961年に脳底動脈片頭痛(Basilar artery migraine)として、脳底動脈系(脳幹・小脳・大脳後頭葉に分布する動脈血管)の多彩な症状を示す例が報告されたのが最初である。もともと「脳底動脈片頭痛」、「脳底片頭痛」という用語が使われていた。その後、脳底動脈の攣縮(可逆的に縮んで細くなること)が「発作の原因ではない」とされ、すなわち脳底動脈関与の可能性は低いため「動脈」の文字が除かれ、1988年の国際頭痛学会の頭痛分類では脳底片頭痛(Basilar migraine)と呼ばれることになった。2004年の頭痛分類第2版では脳底型片頭痛(Basilar type migraine)とされ、さらに最近では「脳幹性前兆を伴う片頭痛」と呼ばれる。
脳底型片頭痛における「めまい」は頭痛の前兆として起こり、「めまい」の持続時間は数分から60分である。また「めまい」以外に、耳鳴、複視(両目で見たら物が二重にダブって見える)、運動失調(力は入るのに、手足を器用に使えない)、構音障害(言いたい言葉がうまくしゃべれない)、意識障害(失神、興奮、一過性の健忘などの意識レベルの低下)などの脳幹症状が伴うことがある。また、見ているものが大きくなったり、小さくなったりする「不思議の国のアリス症候群」がみられることもある。若年者、特に女児に多く、10歳以下では珍しくはないと言われる。一方、30歳代以降では少ない。頭痛は後頭部に比較的多い。
このタイプへの頭痛発作の頓座薬(頓服)としては、トリプタン系薬剤は脳梗塞など発生の危険性を考え使用禁忌(使ってはいけない)とされている。治療としては、塩酸ロメリジン(ミグシス、テラナス)などの片頭痛の予防薬で、頭痛そのものを予防する治療が主に行われる。
片頭痛患者では、片頭痛発作のない一般人に比べ、脳梗塞を起こす確率が高いことが知られている。片頭痛もちの方に生じる脳梗塞は、主として小脳や下部脳幹に生じ、小さい梗塞が多いと言われる。なお、これらの場所に生じる脳梗塞では、発症時に「めまい」が起こることがある。
片頭痛発作時には、痛み調節・抑制系障害が起こり痛みが増幅される。その現象を感覚過敏(アロディニア皮膚過敏)と言う。皮膚では、熱い冷たい、機械的刺激に対する感受性が亢進する。そこで頭髪をとかすのも嫌がる人もいるし、手指のピリピリ感などが起こることもある。すなわち感覚過敏として、頭髪・頭皮膚の過敏(50%)、額・顔の皮膚過敏(37%)、手指の過敏(28%)が起こったり、また光過敏(87%)、音過敏(83%)、嗅覚過敏(50%)といった症状もよく見られる。片頭痛発作時、このアロデイニアが起こってからでは、服薬のタイミングが遅れ、薬剤の効果が乏しくなるため、頭痛が起こってから、出来るだけ早期の服薬が推奨されている。
視野の中心辺りにチカチカと輝く光や、キラキラとした稲妻のような光が現れ目の前が見えづらくなるといった症状を閃輝暗点(せんきあんてん)と呼び、片頭痛の前兆として知られている。片頭痛では、最初に、この症状が20〜30分ほど続き、続いてズキンズキンとした痛み、すなわち頭痛発作が起こる。閃輝暗点は、視覚中枢(物を見る中枢)がある後頭葉に血液を送っている血管が縮み、その血管を流れる血液が減少するために起こる。実際、前兆の発現前または発現時に大脳皮質において局所脳血流減少が認められている。なお前兆のある片頭痛のことを、古典的片頭痛(classic or classicalmigraine)とも呼ぶ。閃輝暗点、すなわり視覚性前兆は、前兆のある片頭痛の90%以上に認められる。その他の前兆として、稀に感覚障害や言語障害、脱力などの症状が現れることもある。また、片頭痛発作の予兆として、数時間〜1日または2日前から疲労感、集中困難、頚部のこり、光または音(あるいはその両方)に対する過敏性、悪心、霧視、あくび、顔面蒼白などの症状が起こることがある。
中高年の方の頭痛を伴わない閃輝暗点には注意
中高年の方で、閃輝暗点だけが起こって、その後に片頭痛などの頭痛を伴わない場合は注意が必要である。なぜなら、閃輝暗点が、一過性脳虚血発作(脳梗塞の前ぶれ)である場合、すなわち動脈硬化などによって狭くなった血管に起こった脳循環障害が原因であるかもしれないからである。
トリプタン製剤は片頭痛の前兆段階で服用しても頭痛抑制効果はなく、必ず痛み始めてから服用することとされている。もうひとつの理由として、前兆期には脳血管が収縮傾向にあって、そのせいで血流流低下を起こしているものと推定されている。この時期に血管収縮作用をもつトリプタン製剤をさらに服用することによって、血管の収縮傾向を助長する心配があることによる。しかし、多くの前兆期は30から40分ぐらいであり、経口トリプタン製剤の服薬後の最高血中濃度到達時間からみて、前兆の中ごろに服用した方が効果的であるとの意見もある。しかし、いずれにしても前兆の初期にトリプタン製剤を服用することは避けるべきである。
妊娠、授乳期の片頭痛に対する薬物治療は、胎児もしくは乳児への影響の有無を十分に考慮した上で行わなければならない。幸いにして、一般に妊娠中は前兆のない片頭痛発作の70%、前兆のある片頭痛発作の40%が改善すると言われる。
妊娠中の薬剤の胎児に対する安全基準としてFDA(アメリカ食品医薬品局)カテゴリーがある。A(対照試験でリスクなしが証明されているもの)、B(リスクは報告されていないが、妊婦での対照試験のないもの)、C(ヒトでの対照試験はなく、動物実験では胎仔にリスクがあるか、対照試験がないもの)、これらカテゴリーA〜Cの薬が一般的に使用可能と考えられている。ただしCは治療上の利益が危険性を上回る場合にのみ使用することとされている。
非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDS)については、人での催奇形性の報告はないが、添付文書にて妊娠中禁忌とされているのは、インドメタシン(B)、ジクロフェナック(B)、ロキソプロフェン(妊娠末期のみ禁忌)である。またアスピリン(C)、イブプロフェン(B)、ナプロキセン(B)、アセトアミノフェン(B)は、治療の有益性が危険を上回るときのみ投与可とされ、カロナール(アセトアミノフェン)を除いて妊娠末期は投与しないことが望ましいとされている。結論として妊娠を考慮した場合、第一選択はアセトアミノフェン、第2選択はブルフェン(イブプロフェン)とナイキサン(ナプロキセン)(ただしともに妊娠後期は避ける)と考えられる。
トリプタン系薬剤に関しては、催奇形性の報告はないが、いずれのトリプタンも添付文書上、妊娠中投与禁忌ではなく、FDAカテゴリーはCである。妊娠中のトリプタン投与に関しては、イミグラン(スマトリプタン)が最も多くのデータがあり、これまで重篤な有害事象の報告もないことから、そこで使用するなら、スマトリプタンが最も無難な選択と考えられる。
制吐剤を使用する場合、ナウゼリン(ドンペリドン)は妊娠中禁忌(ラットでの催奇形性の報告)なので、妊娠中禁忌ではないプリンぺラン(メトクロプラミド)(B)を使う。
予防薬は投与しないほうが望ましいが、ミグシス(ロメリジン)は添付文書上妊婦に使用禁忌(ラットでの催奇形性の報告)であり、ヒトでの催奇形性の報告はないが、服用中に万一妊娠した場合は服用を中止する。トリプタノール(アミトリプチリン)(D)、デパケン(バルプロ酸)(D)も妊娠中の服用は回避すべきである。妊娠中あるいは妊娠する可能性を前提にどうしても投与するのであればβ遮断剤、特にプロプラノロール(C)(インデラル)を選択して、少なくとも出産2週前までに中止する方法が提唱されている。
日本の薬剤添付文書上、授乳中の投与に制限がない消炎鎮痛剤としてはアセトアミノフェンがある。AAPガイドラインでは、アセトアミノフェン、イブプロフェン、ポンタール(メフェナム酸)、ナプロキセンが投与可能(日本の添付文書ではアセトアミノフェン以外は投与時授乳不可)とされている。従って第一選択薬はアセトアミノフェンと考えられる。なおロキソニンは添付文書に、妊娠中・授乳中の服用は避けるようにと明記されている。
トリプタン製剤は乳汁中に分泌される。各薬剤の添付文書ではすべてのトリプタン製剤は、投与時授乳を避けることとなっており、服用後24時間授乳を避けることとされている。トリプタン製剤を使用する場合、授乳中はイミグランでコントロールするのが良い。イミグランの血液中濃度は服薬後2〜3時間でピークを迎え、4時間後には下がり始め、24時間後には0になる。授乳中はデータの多い、イミグランでコントロールするのが良い。イミグランの血液中濃度は服薬後2〜3時間でピークを迎え、4時間後には下がり始め、24時間後には0になる。内服前の母乳は哺乳できるので、まず哺乳してから内服する。そして、内服後24時間の間の母乳を破棄すれば安全である。しかしメルクマニュアルには、より短い服用後8〜12時間の母乳を破棄すれば良いとの記載がある。スマトリプタンのみ2005年9月、添付文書が12時間授乳を中止することに改訂された。
制吐薬
妊娠中の制吐薬の使用についてはプリンペラン、授乳中はナウゼリンというのが原則である。片頭痛時に使われる制吐剤の内、ドンペリドンは日本の薬剤添付文書上、授乳婦には大量ではない通常量の投与は認められている。またAAPのガイドラインでも授乳時投与が可能な薬剤とされている。一方、メトクロプロミドは日本の添付文書上、投与時は授乳を避けることとされ、AAPガイドラインでも乳汁中への蓄積性があるとして、授乳中の投与は問題ありとされている。
ナウゼリンの添付文書では、妊婦、産婦、授乳婦等への投与への記載に、
1)妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。[動物実験(ラット)で骨格、内臓異常等の催奇 形作用が報告されている。]
2)授乳中の婦人には大量投与を避けること。[動物実験(ラット)で乳汁中へ移行することが報告されている。]との記載がある。
プリンペランの添付文書では、妊婦、産婦、授乳婦等への投与への記載は、
1)妊婦等:妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[妊娠中の投与に 関する安全性は確立していない。]
2)授乳婦:授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は授乳を避けさせること。[母乳中に移行することが報告されている。]と記載されている。
一次性運動時頭痛」は、各種の激しい運動によって誘発される頭痛で、重量挙げ選手頭痛 (weight-lifters' headache)が知られている。初発時には、くも膜下出血、動脈解離などを除外することが重要である。暑い環境あるいは高所で起こることが多い。
これまでに誘因としてあげられた運動には、次のようなものがある。ランニング、ボートこぎ、テニス、レスリング、クリケット、サッカー、水泳とくにダイビング、エアロビクス、ジョギングなど、あらゆる運動で誘発される。運動時の頭痛は、拍動性であり、持続時間はおおよそ半数の症例で5分未満であるが、長時間続くこともある。大多数の例で、インテバン(インドメタシン)が効果がみられる。
その機序は、未だ不明であるが、おそらく原因は血管性であり、身体的な運動によって二次的に静脈あるいは動脈が拡張することによって、痛みが発現するのではと考えられている。近年の研究では、一次性運動時頭痛の患者で、有意に内頚静脈弁の不全がみられる(対照者の20%に対して70%でみられる)ことから、頚静脈の逆流による頭蓋内静脈のうっ血がこの疾患の病態生理において重要な役割を担っているものと推測されている。
運動時に起こる頭痛の、その他の原因としては、次のようなものがある。
急性緊張型頭痛(後頭下部の筋付着部の損傷によるもの)
高血圧に伴う頭痛
脳圧亢進に伴う頭痛
動脈の拡張に伴う頭痛
無酸素脳症に伴う頭痛
元来有している頭痛(片頭痛など)が運動により誘発されたもの
なお、頚椎上部に先天性の奇形(キアリ奇形など)が存在すると、労作時や、「いきむ」ことで頭痛を起こしやすくなる。
睡眠時頭痛とは、夜間就寝中の一定の時間に頭痛のため覚醒し(目覚まし時計頭痛)、随伴症状を伴わない良性の一次性頭痛である。原因ははっきりわかっていない。
次のような特徴がある
飛行機頭痛は、降下時に突然出現することが多いが、離陸時にも出現することがある。男性に多く、比較的若い人に多い。頭痛は、通常は一側性で眼窩周囲や前頭部に限局する。痛みの性状はjabbing (突き刺すような)、stabbing(刺すような)、sharp(鋭い)と表現されることが多い。頭痛は突然に始まり数秒で最高に達し、15〜30分で自然に消失する。しかし、稀に激しい頭痛が30分以上、さらに数時間から数日にわたり持続することがある。
飛行機に乗った際に生じる頭痛には、次の二つのタイプがある。(1)これまでに頭痛の既往がなく、飛行機に乗った時、特に降下時に生じる頭痛。(2)片頭痛や群発頭痛の既往があり、飛行機に乗った時にこれらの頭痛が惹起される。純粋な飛行機頭痛は(1)に相当する。
飛行機頭痛が起こる機序として、機内の気圧や湿度の変化が副鼻腔や耳などの空洞を有する器官に影響を与え炎症・浮腫などを生じさせ、これが頭痛を引き起こすのではと考えられている。治療には、飛行機に乗る1時間前に非ステロイド系消炎鎮痛剤を内服することが有用である。
中華料理に調味料として多量に含まれるグルタミン酸ナトリウム(味の素)の摂取により、頭痛、顔面紅潮、発汗、顔面や唇の圧迫感などの症状が起こることによる。グルタミン酸ナトリウムが末梢のグルタミン酸受容体を刺激し、NO濃度が上昇するため過度に血管が拡張し、この症候群が出現するとする仮説がある。
中華料理店症候群に似た頭痛としてホットドッグ頭痛(ニトログリセリン頭痛、ダイナマイト頭痛)がある。ホットドッグ頭痛はソーセージなどに保存剤として含まれる硝酸や亜硝酸から生じるNOが血管を過度に拡張させるために起ころ両側前頭側頭部に起こる拍動性頭痛である。
首をひねったことで血管の壁が裂ける−こんな“ゴルフ頭痛”にご用心
ドライバーで球を打った瞬間、後頭部に激痛が走り、この頭痛はその後何日も続き、そうこうしているうちに「めまい」や吐き気、ふらつきと言った症状が現れる。スイング直後の後頭部の激痛は、首を急にひねったことにより頸椎の中を走る血管の内膜が裂けた痛みであり、動脈壁が徐々に裂け(椎骨動脈解離)、そのせいで動脈が狭くなり、その先の脳幹部や小脳への血液の流れが悪くなって、さらに詰まってしまうと脳梗塞を起こすこともある。それ以外に「カイロプラクティックで施術者に首を左右にひねられた後、椎骨動脈が解離した」などの報告もある。なお動脈解離の際、血管の中膜が裂けると外膜が膨隆し(解離性動脈瘤)、さらに外膜も裂けると「くも膜下出血」を起こすこともある。
最近、群発頭痛は自律神経症状を呈することから、国際頭痛分類第 2 版において、「群発頭痛およびその他の三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)」に分類された。
TACsはtrigemmalautonomiccephalalgiasを簡略化した用語で、群発頭痛の病態に三叉神経から自律神経への反射が関与しているとの考えが取り入れられたからである。TACsは短時間の片側性の頭痛発作と結膜充血、流涙、鼻漏などの頭部副交感神経系の自律神経症状を伴うことが特徴である。TACsでは三叉神経系の活動が高まり、この興奮が上唾液核に達し、翼口蓋神経節から頭蓋内の大血管や涙腺・鼻粘膜にいたる副交感神経系が興奮し、そのため自律神経症状を呈すると考えられている。
三叉神経・自律神経性頭痛(TACs)とは、「顔面(三叉神経領域)の激烈痛み」と「自律神経症状(涙、鼻水、結膜充血など)」が同時におこる「発作」を特徴とする。「頭痛」とはいっても実際は「顔面補」で、特に眼窩を中心とした痛みとして感じる。三叉神経・自律神経性頭痛には、「群発頭痛」「発作性片側頭痛」「SUNCT(サンクト:結膜充血および流涙をともなう短時間持続性片側神経痛様頭痛発作)」の3種類がある。それぞれの症状はよく似ているが、治療法が根本的に違う。なお、顔に短時間の激痛発作が起こる病気には、他に三叉神経痛や舌咽神経痛がある。群発頭痛については、頭が痛い「頭痛の知識」に記載の群発頭痛の項を参照。
インドメタシン反応性頭痛
他の多くの薬剤が無効でありながらインドメタシンが著効する頭痛がいくつか知られている。その理由はよく分かっていないが、治療に際してはインドタシン内服が第1選択となる。
インドメタシンが有効な頭痛
絶対的に有効な頭痛
発作性片側頭痛
持続性片側頭痛
絶対的ではないが有効とされる頭痛
一次性穿刺様頭痛
一次性咳嗽性頭痛
一次性運動時頭痛
性行為に伴う一次性頭痛
睡眠時頭痛
貨幣状頭痛
このうち発作性片側頭痛と持続性片側頭痛の2つはインドメタシンが絶対的有効性を示す頭痛であり、インドメタシンが有効であることが、診断基準に含まれている。また「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」においてもインドメタシンの有効性が記載されている。
発作性片側頭痛は三叉神経・自律神経性頭痛の1種で、頭痛と同側の顔面に結膜充血または流涙(あるいはその両方)、鼻閉または鼻漏(あるいはその両方)、眼瞼浮腫、縮瞳または眼瞼下垂(あるいはその両方)など副交感神経刺激症状を伴うのが特徴であり、群発頭痛に似るが、発作時間はより短く(2〜30分)、発作頻度はより多く(1日に数回以上)、男性より女性に多い。発作は片側性であり、眼窩部を中心に眼窩上部または側頭部に強い痛み痛みを生じる。群発頭痛と違って飲酒により誘発されない。インドメタシンが絶対的な効果を示すことが特徴である。
7日から1年持続する発作が1か月以上にわたる緩解期を挟んで生じる場合に反復性発作性片側頭痛と診断され、慢性発作性片側頭痛は、1年間を超えて発作が繰り返され、緩解期がないもの、または緩解期があっても1か月未満の場合を言う。
発作性片側頭痛の治療
発作性片側頭痛は、インドメタシンが絶対的な効果を示すことから、インドメタシンが効くかどうかが診断目的としても用いられる。投与量は効果不十分を避けるため、インドメタシンを用量150mg/日以上が用いるとされているが、維持量はこれより少ない量で十分な場合が多い。なお、わが国ではインドメタシン経口薬は75mgまでとされている。したがってインドメタシン有効頭痛かどうかの鑑別の場合、最高量75 mg まで使用して効果なければ、無効と判断してよい。インドメタシンの副作用としては、胄腸症状が出現することが少なくなく、その他の薬剤としては、ベラパミル(ワソラン)、非ステロイド系鎮痛薬NSAIDsおよびトピラマート(トピナ)が有効とする報告がある。
(結膜充血および流涙を伴う短時間持続性片側神経痛様頭痛発作)
SUNCT症候群という名前は結膜充血と流涙を伴う短期間持続性・片側性の神経性頭痛発作と言う言葉を短縮したものである。男性に多い、刺すような強い痛みが目の奥から側頭部に生ずる、眼球結膜の充血や鼻閉などの自律神経症状を伴う点など、多くの面で群発頭痛と類似するが、非常に稀な病態である。結膜充血または流涙のいずれか1つのみが認められる場合もあれば、これ以外の頭部自律神経症状として鼻閉、鼻漏、眼瞼浮腫が認められる場合もある。
SUNCT症候群は、持続時間が群発頭痛よりも短く(群発頭痛は15分以上、SUNCT症候群は数秒から数分以内)、群発頭痛や三叉神経痛に有効な治療法がまったく無効であるという特徴をもっている。頭痛自体は群発頭痛や三叉神経痛よりも弱いが、有効な治療法がないという点が問題である。
SUNCTの治療
抗けいれん剤(三叉神経痛に有効)、非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDS)、エルゴタミン製剤(片頭痛に有効)、カルシウム拮抗薬(片頭痛に有効)、スマトリプタン(片頭痛の特効薬)、酸素吸入(群発頭痛の特効治療法)などの治療がすべて効果がない。最近の研究では、スマトリプタンとカルバマゼピン(三叉神経痛に有効な抗けいれん薬)の併用や、新しい抗けいれん薬であるガバペンチン(ガバペン)、ラモトリジン(ラミクタール)、トピラマート(トピナ)などがある程度有効という報告もある。
「国際頭痛分類 第2版」 では(局所構造物または脳神経の器質的疾患が存在しない状態で自発的に起こる一過性かつ局所性の穿刺様頭痛)とされ、従来、アイスピック頭痛(ice-pick pains)、ジャブ、ジョルト(jabs and jolts)、眼内針症候群、周期性眼痛症、鋭利短時間持続頭痛などと呼ばれた頭痛である。アイスピック頭痛とはアイスピックで突き刺されたような鋭い痛みが起こる頭痛であり、数秒以内の穿刺様頭痛が繰り返し起こる。それぞれの穿刺様の痛みは多くの場合3秒以内(80%)であるが、数秒まで持続することもある。痛みは不規則な頻度で、1日に1回から多数回再発する、結膜充血・流涙などの頭部自律神経症状がない。
穿刺様頭痛は70%の例で三叉神経領域外に起こり、1つの領域からほかに移動し、同側あるいは反対側の頭部にみられることがある。1/3の例では部位が固定している。頭部自律神経症状がないことから、短時間持続性片側神経痛様頭痛発作」と一次性穿刺様頭痛」を鑑別する手立てとなる。インドメタシンの有効性が以前から指摘されており、インドメタシン反応性頭痛のひとつとされてる。
突発する重度の頭痛で、脳動脈瘤破裂時の頭痛に似る。雷鳴頭痛はしばしば重篤な血管性病変、特にくも膜下出血に伴って起こる。くも膜下出血、頭蓋内出血、脳静脈血栓症、動脈解離、可逆性脳血管掌縮症候群(RCVS)、および下垂体卒中は必ず否定されなければいけない。他の原因には、髄膜炎、第三脳室コロイド嚢胞、低髄液圧、および急性副鼻腔炎がある。一次性雷鳴頭痛」がみられた際は、以上の器質的原因を否定する必要がある。
RCVSによる頭痛は、国際頭痛分類第3版β版で新たに分類されたものであり、突然に起こる激しい頭痛を主徴とし、頭痛は1〜3時間持続する。吐き気や嘔吐を伴うこともある。頭痛は1〜3週間の間繰り返し起る特徴がある。20〜30歳代の女性に好発し、脳血管に12週以内に消失する可逆性の分節状撃縮を認める。頭痛を発症した直後では血管攣縮が確認できず、経時的に繰り返し検査を行うことで明らかになることもある。他の症状としては、攣縮を起こした脳の動脈に栄養されている領域の症状、すなわち一過性脳虚血発作としての視覚異常や片麻痺、構音障害、失語、失調等の症状を伴うこともある。また、くも膜下出血、脳出血、動脈解離、脳梗塞などを合併することがある。RCVSの発症には、妊娠・分娩、血管作動薬、カテコラミン産生腫瘍などとの関連が示唆されているが、誘因が認められない例も30%ある。RCVSは、基本的に予後良好でほとんどの症例で完全寛解する。治療はRSCVの原因疾患に対する治療、あるいは原因薬剤の中止、カルシウム拮抗薬の投与などである。
参考にした資料