腰痛にはいろいろな原因がある。時には内臓の病気の痛みが腰にひろがっている場合、あるいは癌が腰の骨に転移して痛みを起こしている場合などもないとは言えない。そこで腰が痛んだ時には、念のため一度は精密検査を行っておく方がよい。検査もせずに漫然と治療だけ行なっていると、病気によっては、手遅れになることもあって注意が必要である。
腰痛の原因の中で、実際、最も多いのが姿勢性腰痛症(別名、筋性腰痛症、または筋筋膜性腰痛症)と言われるものである。筋性の腰痛とは、腰の筋肉の疲労により生じるもので、頚部における「肩こり」とよく似た状態と考えられている。すなわち、腰椎を支える傍脊椎筋(主に腰背筋をさす)に疲労が起こって、それが蓄積した結果、そのせいで生じた腰の痛みと言える。例えば、腕を長い間、持上げていると、疲れのため痛くなってくる。それと同じように腰の筋肉に無理がかかり、疲れが貯まってくると痛みが出てくることになる。しかし、腰が痛いからと医者に行って、「これは筋性腰痛症、つまり腰の筋肉の疲労です」と言われても、例えば長く歩いた後に足が痛くなったとか、あるいは身体を動かす仕事をして体のアチコチが痛くなったとかと言うことなら理解しやすいが、実際、運動らしい運動もしていないのに腰の筋肉が疲労するのはなぜか。あるいは疲労するほど運動していないのになぜに腰が痛くなるのか。また寝て安静にしていただけなのに腰が痛みだしたけれど、これが筋肉の疲労の結果であると言われても、たいていの方にはなかなか理解しにくいようである。
立っている時はもちろん、座っている時も、寝ている時も腰の筋肉は休んでいるわけではなく、常に働いている。ところが、同じ姿勢を長く続けていると、その間、腰の筋肉は緊張し固くなったままとなり、そのせいで筋肉内の血流が悪くなってしまいます。伸びたり(やわらかくなる)、縮んだり(固くなる)を繰り返す際に筋肉内の血液が循環し、これが滞った疲労物質をおし流すポンプ作用をはたしている。ところが、筋肉の緊張が持続した状態では血流が悪くなって、筋肉内に老廃物や疲労物質が貯まり、そのせいで筋肉が疲労し腰の痛みが出てくることになる。いったん疲労した筋肉は固くこわばったままとなって、そのため筋肉内の血管が圧迫され血液の流れはさらに低下します。そして、疲労の回復が遅れる結果、さらに筋肉の緊張が強くなり、そのせいで筋肉内の血流が悪くなって行くと言うような悪循環を繰り返して慢性化してしまうことになる。
その証拠に、腰痛は同じ姿勢を続けていると強くなり、一方、腰が痛くなった時に、何回か腰を屈伸をすると痛みが和らぐ。また痛いところを指圧してもらったり、叩いてもらうと、あるいは入浴したり、腰に温湿布をすると痛みが軽くなると言うのは、それによって筋肉内の血流が改善されるため疲労も痛みも軽くなるからなのである。
腰の病気の理解には、まず腰の支柱である骨(腰椎)と、その周囲を支える筋肉の構造について理解する必要がある。
脊椎とは骨を指す言葉で、上の方から頚椎(くびの部分)、胸椎(背中の部分)、腰椎(腰の部分)、そして仙椎(骨盤の中央の骨)に分れる。この中で腰痛に関係があるのは、腰椎と仙椎です。一般に腰部の骨と言えば、5つの骨が縦につながった腰椎と、その下の骨盤をさしています。なお腰椎は骨盤の中央にある仙椎に連なっている。
腰椎と仙椎の中には脊髄や、脊髄から出て足に行く神経が通っている脊椎管と言う管がある。脊髄には脳から手足に行く命令や、手足の感覚(痛い、熱い、冷たいなど)を脳に伝える神経が通っており、その脊髄から出て足に行く神経のうち、脊椎管の中を走っている部分のことを馬尾神経と言う。足に行く神経は、脊椎管から外に出てからは、大きくふたつの神経に分れます。ひとつは坐骨神経、もうひとつが大腿神経と呼ばれる。この馬尾神経に病気がおよぶと(例えば神経が椎間板のヘルニアなどで圧迫されると)、いわゆる坐骨神経痛や大腿神経痛が起こることになる。
腰椎は正常では、前方に凸の後に反り返ったカーブ状となっており、このカーブが強くなると腰痛がひどくなる(腰椎の前弯)。
正常な腰椎を横からレントゲンで見ると、誰でも後に反り返ったカーブ状になっている。このような中央が前に飛出したカーブ(曲り)のことを前彎と言う。この腰椎の前弯が強くなると腰痛がひどくなると言うことが分かっている。
骨盤は横から見ると、正常では前方に40度(下向きに)傾いており、このように前に傾いていることを前傾と言う。腰椎の前彎と、骨盤の前傾の程度とは腰の痛みに密接に関連しており、腰痛の対策をたてる上でとても重要である。
骨盤の上にある腰椎は、いわば斜の土台の上に立っている状態である。この傾きが強くなった場合、その上にある上半身をまっすぐに保つためには、腰を後に反り返らせる、つまり腰椎の前彎が強くならざるを得ないと言う関係にある。結局、骨盤の前傾が強くなると、腰椎の前弯が強くなり、腰椎の前弯が強くなると腰痛がひどくなると言う関係になっている。なおハイヒールをはくと、骨盤の前傾が強くなるため、腰椎の前弯が強くなり腰痛を生じることになる。そこで、腰痛のある方では、ハイヒールをやめてカカトの低いくつをはくことを勧める。
骨盤の前傾が強くなると、それ自体によっても腰部の疲労をきたすことになる。なぜなら、もともと骨盤は前傾していることから、この上にある腰椎は、常に前にスベリ落ちようとしている。これを引っ張って食い止めているのが腰の靭帯(じんたい)、筋肉、椎間板、(ついかんばん)、椎間関節(ついかんかんせつ)などであるが、そのため常に大きな負担がかかっている。特に筋肉には持続的な緊張が起こっているので、骨盤の前傾が強くなると、ささえるのにさらに大きな力が必要となり、筋肉の疲労が大きくなる。
お腹の筋肉すなわち腹筋が腰痛と関係があると言うのは、理解しにくいかもしれない。腹筋は、それが緊張することによりお腹の中、すなわち腹腔内の圧力(これを腹圧と言います)を高く保つ作用を果たしている。そして、この腹圧は上半身の重さなど腰にかかる負担を腰椎と分かち合うことによって、腰椎への負担を軽くする役目を果たしているのである。つまり上半身が腹腔と言う大きな「風船」の上に乗っているのと同じような形になっている。ところが腹筋の力が弱くなると、腹圧が減少し、その結果、上半身の重さを、お腹で支える力が減って、腰椎にかかる負担は増えることになる。
たとえばサーカスでピエロが大きな風船の上に乗っているところを想像してみよう。ピエロが上半身で、風船が腹腔にあたる。まず、堅く空気が入ったパンパンにはった風船(強い腹筋で囲まれた腹圧の高い腹腔の場合)の上では、ピエロは安定しており、楽に立っていられるであろう。一方、空気の抜けた柔らかい風船(腹筋の弱いフニャフニャの腹腔)の上ではピエロは不安定でまともに立っておれない。すなわち、上半身は安定せず、その結果、腰背筋に大きな負担がかかることになるのである。また、ある学者によると、前かがみで物を持上げる時に腰椎にかかる負担は、十分な腹圧がある場合では、腹圧のない場合に比べて約30%も少なくてすむと述べている。すなわち腹筋が弱くなると腹圧が低下して腰椎にかかる負担が大きくなり、これがしばしば腰痛の原因となってくる。その証拠に腰にコルセットをはめると腰痛が軽くなるが、このコルセットの作用のひとつが腹圧を上げて腰椎にかかる負担を軽くすることにあるのである。また、重量上げの選手が腰に太いベルトを巻いている理由も、腹圧を上げて重いバーベルを持上げる際に、腰に負担がかからないようにするためである。
そこで腹筋と腰背筋のバランスを考えると腹筋は浅く広く、腰背筋は厚く太い。そのため腰椎を支える筋肉のうち、腹部の筋(いわゆる腹筋)の筋力は腰部の筋(腰背筋、腰の後にある筋肉)の筋力に比べて正常でも弱いが、筋肉の疲労は筋肉の持久力(持ちこたえることの出来る力)が弱いほど早く起こる。そこで腹部の筋肉の方が常に早く疲労してしまい、その結果、身体を支える仕事が腰背筋の方に大きく頼らざるを得なくなる。こう言った状態が長く続くと、腰背筋の過労状態を招き腰痛の原因となるのである。
腰部の筋肉の疲労を防止し、腰痛を予防するため、特に、中年以降の女性では、腹部の筋力を強化することが大切である。特に腹筋の筋力は運動不足が続くと急激に低下する。そうならないように普段から鍛えておくことが大切である。
中腰の姿勢は腰背筋に非常 に大きな力がかかり、腰痛 の原因となる。中腰で重いものを持上げる時の力学的なことを考えてみると良い。てんびん棒の両端に重さがかかっているところを想像してみよう。物を持上げる際には、腰椎の椎間板の部分が支点(中央)となる。そして、手や腕、胴がテコの前方の腕(長い方の腕)となり、そこに重量物や上半身の重さがかかることになる。一方、椎間板の中心から後にある棘突起までの長さが後方の短い腕となり、重量物を持上げる歳には、この短い腕を腰背筋が引っ張ることになる。この長い腕と短い腕の比率は15:1となるとのこと。この場合、例えば前方の腕で50キログラムの重さの物体を持上げようとすると、テコの原理から、腰背筋が後方の腕である棘突起を50キログラムの15倍の750キログラムの力で引っ張る必要がある。つまり腰背筋から腰椎までの距離は短く、すなわちテコの柄としての距離が短いため重量物を持上げる際に、腰背筋には、その重量よりはるかに大きな力がかかることになり、疲労し易すくなって腰痛の原因となるわけである。
つまり、物を持ち上げる際には、決して、膝を伸ばしたまま腰を曲げて上半身を前に倒すような姿勢から持上げてはいけない。このようなやり方は腰に大きな負担となって、しばしばギックリ腰の原因となるからである。まず膝を曲げて腰を落とし、腰はできるだけ地面に真っ直ぐのまま、荷物を胴に近づけて、しゃがみ込んだ位置から膝で立ち上がるようにして物を持ち上げることが大切である。
骨盤が前に傾く程度が強くなると腰椎の前彎は強くなり、一般に腰椎の前弯が強くなると腰痛がひどくなることは先に説明した。一方、逆に骨盤の前傾の程度が少なくなり(これを後傾とも言う)、それが原因で腰背筋に無理なストレスがかかることによって起こる腰痛もある。この場合、その原因のほとんどは、ハムスリング(大腿屈筋、ふとももから膝にかけての後の筋肉)と呼ばれる膝を曲げ、股関節を伸展する筋肉群が拘縮(固くなって縮むこと)のために短くなったために起こる。すなわち骨盤が平背の状態となってしまう分けである。つまり、これらのハムストリングの筋肉群が骨盤をひっぱって、正常より後側に傾ける方向に作用するため、骨盤が後傾となる。その結果、背中側で骨盤の後についている腰背筋が無理にひっぱられることになって、この腰背筋にストレス性、筋緊張性の腰痛を引き起こすことになるのである。
この場合に行なう腰痛体操としては、ハムストリングのストレッチングが有効である。具体的には、まず足を肩巾より少し広めに開いて立つ。次に膝を折らないようにして、股関節の部分で上半身を屈曲、すなわち前に倒す。なお、この時、猫背にならないように、上半身をむしろそらすようにして、つまりおヘソを突出すようにする。大腿後面のハムストリングが有効にストレッチ、すなわち引き伸ばされたならば、大腿後面に痛みを感じるようになる。この体操は、お風呂上がりで体の筋肉がほぐれた時に15〜30分行なうのが良く、少し痛みを感じるぐらいにストレッチ体操をされることをお勧めする。
加齢現象のため、あるいは重労働を長く続けた方などは、腰椎の骨の間にある椎間板や軟骨が傷んで、ついには変形してくる。そして、これが原因となって慢性の腰痛が起こることがある。この場合、椎間板や軟骨の変形が進んで神経を圧迫するようになれば、しばしば殿部(おしりの部分)の痛みや、下肢のシビレ感を起こす原因となる。
腰痛外来に来られる患者さんの20〜30%がこのタイプの腰痛である。その原因としては、加齢現象により椎間板や、腰椎の後にある椎間関節と言うところが痛んで、そこから起こる痛みであることが多いようである。但し、それ以外の原因で起こる場合もあるので、炎症や変形、あるいは癌など、他に原因がないかをよく調べておくことが大切である。
それ以外に、変性スベリ症(仮性スベリ症)と言って、椎間板や軟骨が傷んで支持力が弱くなった結果、腰椎の骨(椎体)が前方へずれたりすることがあり、この場合も神経を圧迫して下肢がしびれたり、頑固な腰痛を引き起こしたりすることがある。なお変性スベリ症の痛みは、腰をコルセットで固定すると和らぐ。
なお腰椎の後には、下肢へ行く神経が通っている脊椎管と言う管があるが、椎間板や軟骨の変形が強くなってくると、この管が狭くなってきて、そのため神経や神経を栄養している血管が圧迫されることもある。その場合、神経の圧迫や阻血(血行不全)のために、殿部の痛みばかりでなく、下肢の痛みや、下腿(フクラハギの部分)、また足のシビレが起こったりする。
また、ひどい時には間欠性跛行と言う特徴的な症状が起こることもある。間欠性跛行とは、しばらく歩くと足が痛くなって歩けなくなり、しばらく休むと痛みが和らぎ、また歩けるようになると言う症状を繰り返すことである。
なお間欠性破行は、それ以外に、下肢への動脈に動脈硬化が起こって血液の流れが悪くなって起こる場合もある。
腰椎椎間関節症は腰痛の原因として中年の女性に多い病気で、腰椎の椎間関節の老化現象により起こってくる。痛みは片側の腰痛と殿部の痛みで、しばしば痛みは大腿部(ふともも)の外側に放散する特徴がある。腰椎椎間関節症の痛みは通常、朝起床時に生じ、前かがみでは比較的良いけれども、それから腰を反り返らせたりするとお尻や、鼠径部のあたりまでにも痛みが走る。すなわち前かがみから腰を伸ばそうとする時に、痛みが起こるために急に反り返ることが出来ない。このような症状で、腰痛が左右どちらかに偏っていたら腰椎椎間関節症を疑う。ヘルニアの場合は、痛みが朝起床時に強いのではなく、反対に日中で活動時間が長くなるほど強くなり、臥床安静により軽快すると言う特徴がある。このタイプの腰痛の治療には、運動療法、理学療法、またコルセット療法などを組合わせて根気よく続けることが大切である。また腰椎の椎間関節の部分へのブロック注射も有効である。
腰椎の椎体と椎体との間には椎間板と言うクッションの役目をする組織がある。脊髄や神経の通る脊椎管は、その椎体や椎間板に接して、そのすぐ後にある。そして脊髄から枝分れして手足に行く神経を神経根と言うが、この神経根は脊椎管から椎間孔と言う孔を通って外へ出て行き、腰から出る神経では、最後に坐骨神経や大腿神経となる。
腰椎椎間板ヘルニアとは椎間板が飛出して神経を圧迫する病気のことを言う。典型的には腰痛が出現し、しばらくしてから神経痛、例えば坐骨神経痛などが起こることが多いようである。これは椎間板が後や横に飛出してヘルニアを起こすと、腰の痛みばかりではなく、ほとんどの場合、脊髄から出て足の方へ行く神経(馬尾神経)を圧迫して、下肢のしびれや痛みが起こってくるからである。腰の椎間板ヘルニアは、腰椎の4番目と5番目の骨の間および5番目の骨と仙椎(せんつい)との間によく起こる。その部分にヘルニアが起こると、それぞれ腰の神経の5番目の枝(神経根と言う)、また1番目の仙髄の神根が圧迫される。そうすると5番目の腰の神経根では下腿(膝より下の足の部分)の外側から足の背面、すなわち足の甲の部分、また小指以外の足の指のしびれが起こることになる。また1番目の仙髄の神経根では下腿の後面から足の外側部分、かかと、および足底(足の裏の部分)のしびれが起こることになる。
腰椎椎間板ヘルニアの治療としては、まず、腰部の安静、腰の牽引などの理学療法、ブロック注射療法などを行なうが、症状がひどい場合には手術が必要になってくる。ベッド上安静を行なうと椎間板の内圧を下げ、神経根への刺激を減らす作用がある。ベッド上安静に際しては腰椎の前彎を減らす体位が勧められ、両膝の下に枕をいれたりして、下肢を挙上(持上げること)した体位が良いと言われる。
脊椎の中にあって椎体、椎間板、椎間関節、黄色靱帯などで囲まれたトンネルを脊柱管と言う。そして腰の部分の脊椎管を腰部脊椎管と呼び、この中を脊髄(腰髄、第2腰椎レベルまで)、そして腰髄から出て足に行く馬尾(ばび)と呼ばれる神経が通っている。
腰部脊柱管挟窄症とは生まれつき、もしくは年をとられてから老化現象により出来た骨や軟骨、あるいは椎間板の飛出などのせいで、腰部の脊柱管が狭くなった病気である。腰部の脊柱管が狭くなると馬尾神経や、神経に行く血管が圧迫されて、症状としては腰痛や下肢のしびれや痛みなどを生じ、下肢のしびれや痛みは、臀部から太もも、そしてふくらはぎ、足の裏など(坐骨神経痛)に出るが、これが両側に出る場合や片側だけに出る場合もある。また特徴的な馬尾神経性間欠性破行が起こる。
脊椎管が狭くなって、神経への圧迫がひどくなると、しびれや痛みだけでなく、足先が持ち上がらなくなって階段を昇りにくくなったり、平地でもつまずいたりすることがある。また足の症状だけで、腰痛は全くない場合もある。なお背骨を後ろに反らすと脊柱管が狭くなって症状は悪くなり、前に曲げると広がるので、良くなる傾向がみられる。そこで自転車に乗ったり、乳母車を押している際には、姿勢が前かがみになるので、具合が良いとおっしゃる方多いようである。
間欠性破行とは、しばらく歩いていると殿部の痛みや、下肢の痛みが起こり歩けなくなり、しばらく休憩しているとまた歩けるようになるといったことを繰り返す症状のことを言う。
なお、馬尾神経性間欠性破行では下肢が痛くなって休まざるを得なくなった時に、「体を前かがみにして休憩する」と言う特徴があるが、これは前かがみの姿勢では、腰椎の前弯が減って脊椎管が広くなり、神経の圧迫が軽減され、症状が軽くなるからである。
すなわち腰椎の前弯を減らす体位では、腰痛や下肢の痛みが軽くなりるため、例えば、乳母車(うばぐるま)を前かがみで押して歩くようなことは普通に出来るし、自転車に乗ることについても問題がない。しかし長時間の歩行が出来ないことになる。
閉塞性動脈硬化性間欠性跛行(足への動脈が細くなったり、つまったりする病気)でも、同じように間欠性破行の症状が出るが、この場合は痛みやしびれが腰椎の姿勢と関連しない。
馬尾神経性間欠性破行の治療としては腰椎前弯を減らすことが重要で、腰椎前弯を減らすウイリアム体操とウイリアム装具(腰の伸展を制限する装具)が用いられる。この装具のことをフレクションブレース(腰椎前弯強制装具)とも言う。そして、ひどい症状の時には、手術を行なって脊柱管を広げる(脊柱管開大術)ことも行なわれる。
参考までに血管性病変で同じ症状(間歇性破行)を呈する病気を説明しておく。
血管の病気で腰部脊椎管挟窄症と同じ間欠性破行を呈する場合がある。 足に行く動脈が動脈硬化のために、細くなったりあるいはつまったりしている場合、阻血(血行障害)、酸素不足のため足がしびれたり、足が冷たく感じたりする。この場合の特徴的な症状は、閉塞性動脈硬化性間欠性破行と言って、しばらく歩いていると足がしびれたり、痛んだり、あるいはふくらはぎがつっぱったりしだして歩けなくなってしまう。そしてしばらく休んでいると楽になってまた歩けるようになり、また、しばらく歩くと痛くなってと言うことを繰り返すことになる。
筋肉には安静時には需要に応じた血流が保たれている。しかし歩行時には下肢の筋肉は10〜20倍の血液を必要とするが、動脈が狭くなったり詰まったりして、その先への血行障害があると、その需要に応じた血液が下肢の筋肉に供給されず、筋肉の酸素不足症状が起こることになる。これが足の痛みとして現れるのである。この症状は歩行を止めると短時間(約5分以内)で消失し、再び歩行が可能になる。
閉塞性動脈硬化症の危険因子は動脈硬化疾患と同様であり、高血圧、糖尿病、脂質異常症のある患者さんは、四肢の動脈閉塞の有無に絶えず注意を払う必要がある。ちなみに糖尿病患者のうち、四肢の動脈に閉塞性病変を持つ症例は1.5〜11.5%と報告されている。また下肢への血流が悪くなると、壊疽と言って足が腐ってくることがあり、そうなると切断する必要が起こってくる場合もあり、注意が必要である。
この病気の治療としては、下肢の血液の流れを改善するプロスタグランヂンE1製剤の点滴もしくは注射がとても有効である。
急に起こった腰痛のことを関西では「ぎっくり腰」、関東では「きやり腰」、東北では「びっくら腰」、九州では「びっくり腰」、西欧では「魔女の一撃」などと呼ばれる。その原因としては、椎間板のヘルニアあるいは椎間関節ヘの滑膜のはさまり、傍脊椎筋の肉離れなどが原因と言われる。
急性の腰痛は、しばしば物を持上げる時や、身体をねじるなどの動作によって、急に生じる。なお老人の方では骨粗鬆症が原因で椎体の圧迫骨折(骨がへしゃげる形の骨折)を起こしていることもあるので、一度はレントゲン検査を受けておいた方がよい。
急性腰痛症の原因には、いろいろなものがある。中でも多いのが「腰椎のねんざ」で、重い物を持ち上げたり、体をひねったりした際に、腰の回りの筋肉や筋膜の一部が切れて、そのせいで背骨の両脇あたりに痛みが走るものである。それ以外に、椎間板ヘルニアの場合、すなわち脊椎の骨と骨の間にあってクッションの働きをしている椎間板が飛び出し、脊椎を支えている部分や神経を刺激するため痛みが走るものもある。また、それ以外に椎間関節ヘの滑膜のはさまりなどが原因の場合もあるし、骨盤を構成する仙骨と腸骨との間の関節、すなわち仙腸関節の損傷(捻挫)により起こるものもある。仙腸関節の損傷は骨盤の上にある背筋を緊張させ、そのせいで腰が痛んだり、腰というより臀部(尻えくぼのあたり)に痛みがでることもある。
なお、「ぎっくり腰」の中には心配な原因で起こるものもあり、注意が必要である。例えば、背部にかけての痛みの場合では、腎盂腎炎、腎結石や尿路結石、膵炎、膵臓癌など内臓からくる痛み、年配の方では骨粗鬆症から腰椎の骨が骨折(腰椎圧迫骨折)したための痛み、男性では前立腺癌の腰椎への転移による痛み、あるいは腹部大動脈瘤、大動脈解離などの場合もあって油断ができない。
急性の腰痛の治療としては、まず安静が大切であり、これに勝る治療はない。また安静なしで、早く治してくれと言う方もあるが、そうはゆかない。なお腰痛の起こり始めの時期に最も大切なことは、一日も早く痛みを軽くすることである。それには安静が最も大切であることは言うまでもない。加えて薬や注射、神経ブロックも大切な治療のひとつである。「単なる痛み止めの薬ならいらない」と言う人もいるが、この時期に一番大切な治療は痛み止めであって、痛みを早く止めて悪循環に陥いって慢性化しないようにすることが大切である。また痛みが良くなっても、その後の注意として、姿勢の注意、運動訓練といった自分でやるしかない自己管理の努力がないと、再発を繰り返すことになる。
腰椎の骨は5個の骨がつながって出来ているが、椎体の後の方の椎弓の外側の部分の両側に椎間関節と言う関節があって、これが腰椎の骨がズレタたりしないようにするストッパーのひとつになっている。この椎間関節は上の腰椎からの関節突起と下の腰椎からの関節突起とが咬み合ったような形となっている。この上下の関節突起と関節突起との間の部分に裂け目が出来て、本来、ひとつのものであった前にある椎体の部分と後にある椎弓の部分とが分離してしまった状態のことを腰椎分離症と言う。腰椎分離症になっていても、かなりの方では、特に症状を自覚することなく経過する。しかし一部の方では腰椎が不安定となって、上部の椎体が下部の椎体より前方にスベリ出すようにズレたりする。こうなったものを腰椎スベリ症と言う。
腰椎分離症には、生まれつきのものもあるが、その頻度は多くはない。その大部分は、関節突起の間の部分の骨がまだ未熟な成長期の間に、腰に負担のかかるスポーツあるいは重労働を行なったため、その部分に繰り返し外力が加わったことによる疲労骨折(金属疲労で金属が折れるようなもの)に似た病態と考えられている。そのため腰椎分離症は腰椎でも、普段から、その運動性が大きく負担のかかりやすい下の方の部分の腰椎によく見られる。腰椎分離症を起こしやすいスポーツとしては、幅飛び、走り高飛び、バレーボールのアタッカー、バタフライ泳者などのように腰を反らすような運動を繰り返して行なう場合にしばしばみられる。
なお腰椎スベリ症には、他に老化による椎間板の変性すなわち痛んでくることによって腰椎がズレてくるようなタイプのもの(仮性スベリ症)もある。
腰椎分離症の腰痛は同じ姿勢をとり続けることによって、上半身の重さが次第に椎弓の骨折部やズレかけた椎間板にかかってくるために起こる。つまり同じ姿勢を長くとると腰が痛くなりやすいと言う特徴がある。
腰椎スベリ症は一旦発症すると慢性化しやすく、頑固な腰痛の原因となりやすい。
腰椎スベリ症では腰痛ばかりでなく、ズレかけた椎体の裏側にある神経根がひっぱられたり、圧迫されたりして、おしりから足の後側の痛みやしびれ、すなわち坐骨神経痛や間欠性破行を起こすこともある。
腰椎分離症の腰痛は腰椎が不安定なことによるため、腰椎を支える周辺の筋肉の筋力強化体操を一生続けることが大切
腰椎分離症では、まず、腰を支える周囲の筋肉を強化して、ズレがひどくならないようにすることが大切である。なお分離した部分の不安定性が進んだ方では、腰部にコルセットを装着して腰部の筋力を助ける必要がある。
高齢化社会を迎え、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)にかかる方が増えている。骨粗鬆症とは、骨からカルシウムが抜けて、鬆(す)が入ったように骨の中がスカスカの状態になり、骨がもろくなる病気である。骨がスカスカになると、わずかな衝撃でも骨折しやすくなり、しりもちをついた程度で骨折することもある。特に高齢の女性は骨粗鬆症にかかりやすいので、注意が必要である。
骨折という言葉からは我慢できないような激しい痛みを想像しやすいが、「転んだ後、腰や足の痛みが続く」「腰痛が続いて腰が曲がってきた」、高齢者でこんな症状がある時は、腰椎圧迫骨折が知らない間に起こっていることがある。腰椎圧迫骨折とは腰椎の骨が圧迫されて、つぶれるような形で折れることをいい、第11〜12胸椎と第1腰椎の胸腰椎移行部によく起こる。骨折というと枯れ枝が折れるように、ぽっきりと折れるのを思い浮かべると思うが、骨折にはいろいろな形があって.圧迫骨折は、背骨(脊椎)に垂直方向の力が加わることで起こり、ケーキの入った箱を上からつぶすと変形することを想像してもらうと分かりやすい。
坐骨神経痛です。坐骨とは骨盤の一部で、座るとお尻にあたる部分の骨である。坐骨神経は腰椎(腰の背骨)と仙椎(骨盤の中心部の骨)から出てくるいくつもの神経がまとまって坐骨神経となり、骨盤の中を走ってから、お尻の部分から外へ出て脚に向かう神経である。この神経は腰から出る第4、第5番目の腰神経と、仙骨から出る第1から第3仙骨神経などの複数の神経が合わさった神経で、膝を曲げる筋肉と下腿と足の全ての筋肉に分布している。そして、膝から下のほとんどの皮膚の感覚神経を司る。
坐骨神経痛という名前は症状を表す病名であり、一般に何らかの原因でこの神経が圧迫されると神経痛が起こることになる。この神経の神経痛を起こす原因にはいろいろなものがある。一番多い原因は、腰の椎間板ヘルニアで、飛び出した椎間板で神経が圧迫されることによる。また坐骨神経は骨盤内を通り脚に向かって走行するが、途中のお尻のところで梨状筋(りじょうきん)という筋肉の下を潜り抜けている。そこでこの梨状筋で神経が圧迫されて起こることもある(筋梨状症候群)。それ以外に腰椎スベリ症では神経が引っ張られて、また腰部脊椎管狭窄症では両側の脚の坐骨神経痛が起こる。それ以外に腫瘍や血腫、感染、内臓の病気、脊髄の異常などの重大な原因が隠れていることもある。
腰椎は5つの骨が重なって出来ている。腰椎の間にある椎間板は、英語でLumbarなので、その頭文字を取って、第1腰椎と第2腰椎の間の椎間板ならL1/2、3と4の間にあるものならL3/4と呼ばれる。一方、第5腰椎と仙骨の間にある椎間板は、仙骨の英語名Sacrumの頭文字をとってL5/S1と呼ばれる。
L2/3の腰椎椎間板ヘルニアでは、足の付け根やそけい部が痛んだり、だるくなったり、ときにはしびれたりする。L3/4の腰椎椎間板ヘルニアでは大腿部(太もも)の前の部分が痛んだり、しびれたりする。腰痛の原因の中で多いのがL4/5の腰椎椎間板ヘルニアであるが、臀部(おしり)から太ももの横、膝の下や、外側のすねが痛んだりしびれたりする。親指の力が入らなかったり、足首があげられなくなる。L5/Sの腰椎椎間板ヘルニアでは、おしりの真ん中、太ももの裏、ふくらはぎ、かかとから足の裏、足の小指がしびれたり痛んだりする。またアキレス腱の反射が弱くなり、つま先歩きができなくなる。
この部分のしびれは、大腿外側皮神経と呼ばれる、大腿の外側の皮膚の感覚を伝える神経の障害で起こる。この外側大腿皮神経は、太ももの付け根のあたり、骨盤の前面にあるソケイ靭帯と呼ばれる骨盤部の靭帯のところを通るので、このソケイ靭帯のところが長時間、圧迫されると神経痛が起こることになる。神経痛が起こると、太ももの外側のかなり広い範囲でシビレや痛みが起こる。
神経が圧迫される原因のうち多いものは、きついズボンやパンツ あるいはガードルなどで圧迫されたり、ポケットに物を入れていたりして起こることがよくある。ちょっとお洒落をしようと、きつめのガードルを穿きませんでしたか?また、ジーンズのような硬い生地のズボンを穿いてしゃがんで仕事をしませんでしたか?妊娠していませんか?
股関節を伸展させると、この神経が引っ張られるので、痛みが増す。また反対に深く屈曲すると、神経自体を圧迫してしまうので、これでも痛みが憎悪する。そこで長時間座位をとる、すなわち座っていることで起こることもある。
なお骨盤から下腿の脛骨までの大腿部の外側を走る腸脛靭帯が炎症を起こしたせいで、膝の外側だけでなく大腿全体の痛みを訴える方が結構おられる(腸脛靭帯炎)。
神経ブロック療法とは局所麻酔剤の注射により筋肉の緊張を和らげ、腰痛などの痛みの悪循環を断つ治療のことを言う。ブロック注射を行なうと一時的な効果だけではなく、麻酔の効果がなくなっても、痛みは徐々に消失する。そしてこれを数回繰り返しますと悪循環が断ち切られて案外、痛みは軽くなって行くものである。腰痛に対して行なわれる神経ブロック療法には腰部および仙骨部硬膜外ブロック注射、またトリガーポイント注射などがある。この治療は痛みや炎症の悪循環を断ち、痛みを和らげることにより筋肉のコリをほぐすことが出来る。さらに神経の炎症、浮腫(腫れ)をとり、また神経を養う血流を改善することにより神経の回復機能を強める効果がある。こう言った治療をペインクリニック(痛みの外来)と言う。同じ理屈で痛みの部分に低出力レーザーをあてて治療する方法もある。
湿式と乾式がある。具体的にはホットパック、マイクロ波照射などを用いて、皮膚より深い深度にまで温熱を加えることにより、血行改善作用、筋弛緩(筋肉をゆるめ、リラックスさせる)作用、老廃物(腰痛物質の毒素)を排除する作用がある。
電気刺激を用いて筋肉を繰り返し収縮あるいは弛緩させる。これによるポンプ作用で筋肉内の血流を改善し筋疲労の回復、筋弛緩作用が得られ腰痛が改善される。また筋萎縮を予防する作用もある。
腰椎を引っ張って椎間や椎間孔を開大させることでヘルニアなどによる神経の圧迫を軽減する作用がある。また牽引により筋肉がストレッチ(引き伸ばされ)され筋肉内の血流の改善作用や、筋弛緩作用も得られる。なお、時には牽引の方向によっては神経を圧迫する方向に牽引の力が働くこともあるので、その場合はすみやかに牽引を中止すること。
この体操の基本は筋力強化とストレッチ体操である。下記の運動を痛みのない体操より始めて徐々に増やして強化していくことが大切である。
運動療法は慢性腰痛の予防に最も大切である
腰椎をささえる筋肉には、体幹の屈曲(前に曲げる)を行なう腹筋群、伸展(後に伸反り返らす)を行なう腰背筋群、そして骨盤の前傾を増加させる腸腰筋群、骨盤の前傾を減少させる大殿筋群、大腿屈筋群(ハムストリング)などがある。
運動によりこれらの筋肉の強化、もしくは固くなった筋肉のストレッチ(引き伸ばす運動)を行なって、腰椎の前弯や骨盤の前傾、後傾の程度を正常に戻すことにより腰痛を軽くしたり、予防したりすることが出来る。具体的には腰椎の前弯(腰の反り)に作用するのが背筋と腸腰筋、そして腰椎の後弯(腰のかがみ)に関係するのが腹筋と殿筋です。腰椎の前弯が強くなると腰痛が起こる分けであるので、体操により腹筋と殿筋を強化し、一方、背筋と腸腰筋をストレッチ、すなわち伸ばしてやれば腰痛を軽くすることが出来るのである。
なお若い方ではストレッチと筋力強化訓練の両者を行なうが、60歳以上の方では、筋力強化を極端に行なうとかえって良くないことがあり、ストレッチを主体とした運動に留めておく方が無難である。また腰痛の激しい時に体操を行なってはいけない。ある程度痛みがとれた時に行なうこと。
腰痛に対する運動療法の理論には、骨盤の前傾と腰椎の前彎を減らすことによって腰痛の予防を行なう「ウイリアムスの理論」がある
ウイリアムスは腰椎の前彎が腰痛の主な原因と考え、これを減らすことを目的とした腰痛体操と日常生活での注意を提唱した。すなわちこの体操は、骨盤の前傾を減らすための骨盤の回旋運動と腸腰筋のストレッチング(筋肉を伸ばすこと)、そして腰椎の前彎を減らすための腹筋強化運動と腰背筋のストレッチングから出来ている。
骨盤回旋運動とは骨盤の前傾を減らす方向へ骨盤を回転させる運動であり、腸腰筋ストレッチングと大殿筋強化運動などを行なう
腸腰筋は股関節を屈曲する筋肉であり、腸腰筋が固くなって股関節が屈曲位(曲った位置)に固定していると、立った時に骨盤が前に引かれ骨盤の前傾状態が強くなる。そこで固くなった腸腰筋をストレッチ(引き伸ばし)し、股関節を伸展させておくと骨盤の前傾を弱くすることができるのである。具体的には股関節を伸展させることにより腸腰筋をストレッチさせる。これを腸腰筋ストレッチングと言う。
大殿筋は股関節を伸展する筋肉で、これが弱いと股関節が屈曲位(曲った状態)となり、立った状態の時に骨盤の前傾が増加する。そこで大殿筋の強化運動を行なうことによって骨盤の前傾を減らすことができる。大殿筋の強化には、うつぶせに寝て、足を後上方へ持上げる運動を行なう。ただ両足を一度に持上げると大殿筋ではなく、腰背筋の筋力強化となってしまうので、大殿筋を強化するためには片足ずつ行なうようにすること。
腰椎の前弯を減らすためには腹筋の強化運動と腰背筋ストレッチングを行なう
腹筋強化運動は腰椎の前彎を減らすことにつながる。腹筋の運動は、上を向いて寝た状態で上半身を持上げるが、完全に起き上がる必要はない。起上がると腰椎に負担がかかりすぎることがあるので、起上がらない位置で、おへそを見るようにしてしばらく、その状態を保持する。なお、この運動は腰に負担がかからぬように、必ず膝を曲げて行なうこと。
固くなった腰背部の筋肉を引き伸ばし、軟らかくすると腰椎前彎を減らすことが出来る。その目的のため腰背筋のストレッチングを行なう。具体的には、 腰部を前に曲げる運動をすると腰背筋はストレッチされる。これらと同様に骨盤の後傾による腰痛に対してはハムストリングのストレッチングがさらに重要になってくる。
腰椎の装具療法には軟性コルセット(簡易固定ベルト、ダーメン式コルセット)、半硬性コルセット、また硬性コルセットやジュエット式コルセットなどと呼ばれる装具が使用される。
コルセットには腹腔内圧を高く保ち、それにより腰椎の椎間板にかかる負担を減らす作用がある。それに加えて腰椎の動きを制限することにより腰椎の安静を保つのも大事な作用のひとつで、腰痛の治療にしばしば使用される。しかしコルセットの長期使用は腰背筋の筋力低下をきたすため、連続した使用は2〜3ケ月以内に限るべきである。一方、腰痛のひどい時に、腰椎への負担を軽くしてやることは、とても大切なことである。期限さえ守ればコルセットの使用は大変に有効であり、必要な時には、いたずらにその使用をためらうべきではない。
日常生活のいろいろな場面で腰痛が起こる。腰痛持ちの方では、腰痛の起こりやすい姿勢と、腰痛が起こりにくい姿勢とを知っておくことが大切である。まず、立っている時、お腹を突出したような姿勢では腰椎の前弯が強くなって腰痛が起こりやすくなる。腹筋に力を入れ腰のそり(腰椎の前弯)を抑えた休めの姿勢の方が、腰への負担は少なくてすむ。
また座る時は、低めの椅子にリラックスした姿勢で座って、膝が股関節(殿部)より高くなるようにする。この時、膝をくんだり、足を台に乗せたりすると、腰が軽く曲って腰椎の前弯を少なくすることが出来る。
自動車の運転は、座席を前に出して腰を軽く曲げる状態が、腰にやさしい姿勢である。いずれにしても長時間にわたって同じ姿勢を続けると、この間、筋肉の緊張が続いて、筋肉内の血液の流れが悪くなり、腰が痛くなりやすいので、時々休んで、サービスエリアなどで体操することが勧められる。
夜に休む際には、固めのベッドで寝るようにする。腰痛の方では、腰椎の前彎を減らして寝るようにするのが良く、横向きで膝を引き寄せるようにエビのように丸くなるか、あるいは仰向けで寝る場合、腰椎の前弯を減らすには、膝の下に大きなマクラを入れたり、両方のフクラハギの下にザブトン4〜5枚入れて持上げた姿勢が良く、また、お年寄りで背中の曲った方では、同時に背中にもマクラを入れて頭を高くすると、背骨や腰に無理な負担がかからず楽な姿勢となる。
仕事にも肉体労働からデスクワークまで、いろいろあるが重い物を持ったり、長時間、中腰でいたりする仕事は腰に負担がかかる。やむをえず重い物を持つ時には、中腰を避け膝を曲げて、持上げるようにする。立ち仕事の多い人は、時々、片足を交代に何かの台の上に乗せてやるようにすると、腰椎の前弯が軽減し腰痛の予防になる。
デスクワークの場合でも長時間にわたって悪い姿勢でいると腰痛が起こりがちである。デスクワークの多い人はイスも机も低めのものが良く、イスは座った時に膝の位置がやや高くなるようなものを選ぶと良い。
そして股関節や膝を正しい位置とする。この姿勢では腰椎の前弯を軽減させることにより腰痛の発生を予防もしくは軽減することが出来る。なお、適時、足を組んだ姿勢をとることにより、骨盤の前傾を元に戻し腰椎の前弯を軽減させることができる。
しかし、腰痛の軽減のためには、こればかりではだめで、再発を防ぐためには本人の努力が大切である。すなわち腰痛の原因である悪い姿勢を直し、運動を行なって腰椎の支持性を高めてゆくことがやはり大切と言える。
1、 腰痛のない人にMRI検査を行ってみたところ、椎間板ヘルニアがあるのに症状がない方がたくさんおられることが分かった。
2、 これまで、一旦、椎間板ヘルニアにかかったら、手術をしないと治らないと思われていた。しかし手術をせずに、しばらく経過を観察していると飛び出した椎間板ヘルニアを白血球の一種「マクロファージ」が食べてしまい、消えてしまうことも結構あることが分かった。
3、 「椎間板ヘルニアの手術」をした方と、「保存的治療、すなわち手術以外の治療」をした方とをたくさん集め、2〜10年経ってからの症状の回復の程度を比較したところ、両者の回復満足度にあまり差がないことも明らかになってきた。
4、 椎間板ヘルニアを手術で切除し神経への圧迫が無くなったのに、腰痛が治らない人も結構おられることが分かってきた。
資料、文献
1、腰椎のMRI検査で時折見つかる“異常”所見が、どの程度の臨床的意味を持つか明らかではない。この研究では、腰痛の既往がない20〜80歳の成人98人を対象に腰椎MRIを施行し、高率に異常所見が見つかったと報告している。
腰椎MRlで全椎間板の5椎間に椎間板ヘルニアがあるかどうか、以下の所見を基に観察した。椎間板膨隆、対称性に椎間板が脊椎管内に膨れている。椎間板突出、局所的に非対称性に椎間板が膨れてる。椎間板脱出、さらに高度に椎間板が突出している。診断する放射線科医の予断を減らすため、これら98例のMRIに腰椎患者の異常所見のあるMRIを交ぜ合わせた。その結果、98人中52%に少なくとも1椎間以上の椎間板膨隆が見られ、27%に椎間板突出が、1%に椎間板脱出が見られた。加齢と共に椎聞板膨隆の頻度は増え、椎間板突出は活発な肉体活動を行っている人に多く見られた。2椎間以上の異常所見は38%に認められた。その他の異常所見として線維輪欠損14%、椎間関節炎8%、脊椎分離、および脊椎滑りがそれぞれ7%に見られた。
N Engl J Med 1994 Jul 14;331:69-73
2、MRlの普及は目覚ましく、特に脊髄髄内病変の観察には今や欠くべからざる検査法となった。しかし、椎間板病変に関しては、従来よりMRIのみを過度に評価することの危険性が指摘されている。事実ここで示されたデータでは、正常人の腰椎椎間板においてもかなりの頻度で異常所見が検出されており、輿味深い。またこの報告は、腰椎椎間板ヘルニアの診断と治療に際して、神経学的評価を基盤に多面的検査手段、あるいは経時的観察が必要であることを示唆している。頸椎椎間板病変の診断治療に際しても念頭におくべきことと思われる。
東北大医学部脳神経外科・冨永悌二/吉本高志
3、新潟がんセンター整形外科が行なった後ろ向き研究によると、手術をしなくても非内包性椎間板ヘルニア(椎間板脱出・遊離脱出)は約8週間で自然に消失する事実が明らかとなり、この方針に従って椎間板手術の年間件数を50%低下させることに成功。
ItoT,1,TakanoY,Yuasa,N.Spine(PhilaPa1976). 2001 Mar15;26(6):648-51.PMID:11246377
4、坐骨神経痛を訴える椎間板ヘルニア患者126名を対象に、保存療法群とラブ法群の治療成績を10年間追跡したRCT(ランダム化比較試験)によると、1年目まではラブ法群が優れていたが4年目以降は両群間に差はなくなっていた。長期成績は両群とも同じ。
Weber H.Spine (Phila Pa 1976).1983 Mar;8(2):131-40.PMID:6857385
5、2年間にわたる追跡調査によると、坐骨神経痛を有する椎間板ヘルニアの手術は保存療法より有益とはいえない。職場復帰率や長期活動障害率においても手術の優位性は認められなかった。坐骨神経痛は手術を受けるか否かに関わらず時間が経てば改善する。
Atlas SJ, Tosteson TD, Blood EA, Skinner JS, Pransky GS, Weinstein JN.Spine(PhilaPa1976).2010Jan1;35(1):8997.doi:10.1097/BRS.0b013e3181c68047.PMID:20023603
6、椎間板ヘルニアに対する手術に関する論文81件を厳密に検討した結果、椎間板ヘルニアの手術成績は短期的に見れば良好だが長期的に見れば保存療法とほとんど変わりがなく、心理社会的因子の影響を強く受けていることが確認された。
HoffmanRM,WheelerKJ,Deyo.RA.J.Gen.InternMed. 1993 Sep;8(9):487-96.PMID:8410420
1、 膀胱、直腸障害、例えば膀胱への神経が強く圧迫されたため尿がでにくくなるなどの排尿障害が出ている場合
2、 腰痛、あるいは下肢の痛み、もしくはシビレなどが次第に強くなって、日常生活に支障をきたすようになった場合
3、 痛みがひどくなって痛み止めがきかなくなったような場合。
4、 下肢に力が入らず、よく転倒するようになった場合。あるいは持続して歩ける距離が100m〜200mで、しかも休み休みでないと歩けないと言うような場合。
なお神経が障害され足のつま先を持上げる筋肉(足背屈筋)の筋力低下が起こると、つまずきやすくなるし、つま先を伸ばす筋肉(足底屈筋)の筋力低下が起こると、歩幅が急に短くなって大股で歩けなくなり、歩行が困難となってつたい歩きとなってくる。
以上のような神経が強く圧迫されている状態を何時までも放置していると、手術の時期を失して、手遅れになり、症状の改善が得られない、すなわち治らなくなったりする。また以上のような症状が1ヶ月以上続くと、全身の体力や筋力が低下してしまう、これを長期に放置しておくとかえって術後の回復に長時間を要すことになったり、結局、そうならないうちに手術をした方が得策と言える。
腰痛がなかなか改善しない場合、ストレスが関係している可能性がある
最近、日本整形外科学会と日本腰痛学会がまとめた治療や診断の指針「腰痛診療ガイドライン」によると、腰痛のうち、椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症など原因が特定できる腰痛は実は約15%。ぎっくり腰を含め、病態不明の「非特異的腰痛」のほうが多い。そして、今回、このガイドラインに『非特異性腰痛』の原因の一つに「心理的・社会的なストレスがあり、これが改善を遅らせる要因にもなる」との記載が加えられた。
発症から3か月以上続く腰痛を慢性腰痛と呼ぶ。腰痛の原因がはっきりせず、保存的治療を受けても痛みが長引き、なかなか改善しない場合、骨や筋肉、椎間板などに異常がある「器質的要因」以外に、心理的要因、ストレスが関係している可能性があることが分かってきた。欧米ではすでにいくつかの研究でストレスと腰痛の因果関係が証明されている。たとえば家庭や職場などの「環境的要因」、うつや不安などの「心理的要因」などがあげられる。精神的なストレスが強いと、そのせいで痛みを抑える脳内物質が放出されにくくなったり、楽しいときには痛みを忘れるような仕組みが、うまく働かなくなったりするからと考えられている。
痛みの悪循環を断ち切る
慢性腰痛の治療に使われる薬には、まず消炎鎮痛剤があげられるが、最近では、それ以外に抗うつ薬、抗てんかん薬、オピオイド(医療用麻薬)などが使用される。抗うつ薬は、「うつ」に対する効果ではなく、それ以外に痛みを抑えるしくみを改善し、痛みを軽減する効果がある。たとえばサインバルタは、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の 1 つであり、保険適応は、うつ病・うつ状態、および、「糖尿病性神経障害に伴う疼痛」であったが、海外では、線維筋痛症や慢性筋骨格痛にも使用されており、最近、繊維筋痛症、「慢性腰痛症に伴う疼痛」への保険適応が追加された。それ以外に抗てんかん薬は神経過敏を抑え神経由来の痛みに有効である。オピオイドは非常に強い痛みや難治性の痛みに使われるが、医師の指導に従い正しく用いれば安全に使用できる。
慢性腰痛には安静より運動が有効
長引く腰痛がストレスに関係している場合、「痛みがあるから何もできない」、「何もできないからさらにストレスがたまる」という悪循環を自分で断ち切るようにする必要がある。そのうえで、なるべくウオーキングなどの運動をしたり、趣味や外出をしたりと、できることから行動を起こし、ストレスの軽減をはかることが大切である。すなわち腰痛で受診したら、これまでは「まずは安静に」と指示される。こうした常識が変わり、「安静は必ずしも有効な治療法とはいえない」という考え方が広がってきた。
なかなか治らない原因不明(85%)の腰痛の正体
様々な論文で、ストレスが高まると「腰痛」が増えることが指摘されていたが、現在、研究者が注目しているのが「脳」と「腰痛」との関係である 。福島県立医科大学の研究者が、原因不明の腰痛患者の脳血流量を調べたところ、健康な人に比べ、7割もの腰痛患者において脳血流量が低下していることが分かった。
アメリカの脳生理学の権威、バニア・アプカリアン教授が発表した論文では、慢性腰痛の患者は健康な人に比べ、前頭葉の灰白質の一部の体積が減少していたことが明らかになった。灰白質は神経細胞が密集するところで、痛みや情動(つらい、楽しい、悲しいなどの気分)にも関わる部分である。慢性腰痛の患者さんは健康な人に比べて脳の一部の機能が低下しているため、痛みに過剰に反応し、感情も増すのではないかと考えられるとしている。
アメリカのノースウエスタン大学の研究では、活動が特に低下しているのは脳の中でも「側坐核(そくざかく)」という部分であることが分かってきた。「側坐核」は、痛み信号が脳に届くと、鎮痛物質を働かせる命令を出す部位と考えられている。これによって、脳は大きな痛みを自動的に抑えているのであるが、慢性的なストレスを受けると、この側坐核の働きが低下し、鎮痛物質に命令がいかないので、痛みがおさえられず、激痛を感じてしまうことになるという。
どうすれば痛みの悪循環を絶つことができるのか?
鎮痛を司るとされる「側坐核(そくざかく)」は、快楽と強く関連する場所なので、自分の好きな食べ物や音楽、におい 好きな食べ物や音楽などを生活に積極的に取り入れることで、その働きがよくなり、結果として鎮痛作用が高まるとされている。腰が痛いから、家に閉じこもって痛みに耐えるのではなく、できるかぎり自分の好きなことをしたり、考えたりすることが、腰痛の治療になるというわけである。
「ストレス」と「腰痛」の関係に注目して治療に取り組んでいるのが本邦では福島県立医科大学である。腰痛が患者に大きなストレスとなり、脳の鎮痛システムが働かなくなって痛みが増加しているという。そのストレスとば痛みへの強い恐怖心だという。強い恐怖心が脳の中で生まれるとDLPFC(背外側前頭前野)にストレスがかかり、次第に活動が衰えていく。このような痛みの連鎖を断ち切ることで、脳が正常にはたらき、痛みが治まるという。
DLPC(背外側前頭前野)には痛みの興奮を抑える機能がある。
(1) 判断、意欲、興味をつかさどる,この機能が低下すると、活力を失い、やる気がなくなる
(2) 扁桃体(へんとう体)のバランスを整える、扁桃体(へんとう体)は、不安、悲しみ、自己嫌悪、恐怖などの感情をつかさどる。(DLPCは扁桃体の正常な活動を制御している)この機能が低下すると、これらの色々な感情が強く出てしまう。
(3) 痛みを制御する、幻痛(まぼろしの痛み)を制御し、痛みを減少させ、ついには痛みを無くしてしまう。
1回3秒のこれだけ体操(東京大学医学部附属病院 准教授 松平浩) 痛みの恐怖心を取り除けば、「側坐核」の機能は元に戻る
松平医師が提案する1回3秒の「これだけ体操」の理論とは、腰を反らせる姿勢は、腰痛の人にとっては痛みの恐怖を感じさせるものであるけれど、これをあえて行うことで、痛みが伴わないということを認識させ、恐怖心を取り除く方法である。方法は簡単で猫背姿勢が続いたあとに、腰を1〜2回、後ろに反らしたりするだけなので、仕事や家事の合間に短時間で行うことがである。
実際の方法とは、足を肩幅よるやや広めに開き、両手を骨盤にあて、それを支点に腰をしっかり反らす。息を吐きながら最大限に反らした状態を3秒間保つ、これを1〜2回行う。
松平医師によると、「デスクワークや洗面をはじめ、日常のさまざまな場面で前かがみの姿勢をとりがちであるが、不用意に前かがみの姿勢をとると、椎間板の中にある髄核が後ろにずれるなど椎間板内の環境が悪くなる可能性がある。
腰の鈍痛や違和感は、このような髄核がずれたことで生じることがあるが、不良姿勢が続いて髄核がずれたまま放置していると、ぎっくり腰や椎間板ヘルニアになるリスクが高まる。そこで、同じ姿勢が続いたり、重い物を持ったあとに少しでも腰に違和感を覚えたら、髄核のずれがちょっと増えた可能性があり、すぐにその場で髄核のずれを戻すというイメージで行うのが良い。 「これだけ体操」を習慣化すれば、このような髄核のずれに伴う腰痛の悪化を未然に防ぐことに役立つとのことである。
これまでの研究では、85%が原因が特定できない腰痛、すなわち原因が特定できない「非特異的腰痛」とされている。手術を行ったのにもかかわらず半数以上は腰痛が改善できないともいわれている。すなわち、ヘルニアの手術は上手くいったはずなのに、臀部痛あるいは下腹部痛が残ってしまっている患者さんが少なくはない。このような、なかなかよくならない腰痛のひとつとして上殿皮神経障害による場合がある。
上殿皮神経障害とは、腰から臀部にかけ走っている上殿皮神経が障害されたことにより、体を動かした時などに腰痛がでる病気。最近はこの神経障害が原因の腰痛が多いのではないかと、注目されつつある。MRIなどによる診断ができないため、症状で見極め、上殿皮神経ブロックを行って診断を確定する。
上殿皮神経は、第2第3腰椎の間から出て腰背部を下外側へ走行し、脊柱起立筋の隙間を通り下部に下り骨盤周辺の皮膚知覚を司っている。この神経が骨盤の骨である腸骨を乗り越える際に障害され痛みを出すことがある。上殿皮神経障害による腰痛は、腸骨陵(ちょうこつりょう)上のレベルで後正中より約7-8センチ、すなわち上臀皮神経がちょうど腸骨陵を乗り越える部分で胸腰筋膜を貫通する際に圧迫されるのが原因である。腸骨陵上の上臀皮神経の部分を押すと、臀部への放散痛(チネルサイン)を確認できる。
腸骨稜とは、骨盤の部位の名前であり、骨盤をつくっている腸骨の上縁が上向きに弧を描いている縁の部分である。骨盤のもっとも上の部分で、体表からも触ることができ、腰の横に手を当てたとき触ることができる骨の部分が腸骨稜である。胸腰筋膜とは、腰から背中にかけて存在する厚く強靭な筋膜であり、いわゆる背筋といわれる脊柱起立筋など腰を支える複数の筋肉を被っている筋膜のことをいう。腰の筋肉と胸腰筋膜の関係を例えるならば、魚肉ソーセージとそれを包むフィルムのような関係である。
上殿皮神経絞扼障害の症状
上殿皮神経絞扼障害による腰痛は、上殿皮神経の支配領域に一致する障害側の腸骨稜および殿部、下肢の痛みであり、腰をそらす、ひねるなどの運動で痛みが強くなる特徴があり、また、長く立っていたり、歩いたりすることでも痛くなることがある。
「肩こり」とは、医学用語では、頚肩腕症侯群と言う病名が、これに近い病態をあらわすものと思われる。頚部から肩、そして上肢にかけて、いろいろな症状を呈する病気を総称して、頚肩腕症候群と呼ぶ。
頚部や肩で血管や神経が圧迫されたり、あるいは炎症をおこしている場合、しばしば頑固な肩こり感が起こる。これらの中で原因が、はっきりしないものを一般に肩こりと呼んでいる、このような症状を起こす病気のうち原因がはっきりとしているものは、それぞれ、その原因に基づく名前で呼ぶのが普通である。例えば代表的なものに、頚椎椎間板ヘルニア、胸郭出口症候群、変形性頚椎症などがある。なお肩凝りのほとんどは心配のない肩こりであるが、なかには心配な病気の症状の1つとして起こる「症候性肩凝り」がある。心臓につながる神経が肩や首の周囲を通っているため、心筋梗塞や狭心症で左肩が痛むのは有名。その他、頸椎椎間板ヘルニアなどの頸椎の病気、慢性扁桃炎、顎関節症、歯周病などが原因の場合もある。普通の肩こりは、両肩に症状が出ることが多く、休むと楽になるという特徴があるが、症候性は、常に痛みを感じたり、いつも特定の部分だけが痛んだりして、だんだんひどくなることが多い。
まず、一般的な肩こりについて説明する。
人間の肩から首にかけての 筋肉には、常に大きな負担 がかかっており、そのため 肩こりを生じやすい
2本足で立つ人間は、頭の重さを首から肩甲骨(肩の背中側にあるかいがら骨のこと)の周辺の筋肉で支えている。頭の重さは結構重いもので、体重の1/8位と言われている。例えば体重60キログラムの方では、約8キログラムの重さを首から肩にかけての筋肉で支えなければならない。そのため長時間、同じ姿勢や無理な姿勢を続けていたりすると、首の骨や肩の筋肉に大きな負担がかかることになる。また人間が2本足で立つことになって以来、肩は支える働きばかりではなく、同時に手や腕(結構、重さがあります)を体につなぎとめる作用もはたすようになった。そこで腕のいろいろな動きに伴って常に肩の筋肉に負担がかかることになり、肩こりを生じやすいのである。また肩こりは後頭部にひろがって、しばしば頭痛を起こす原因となることがある。 肩こりが起こると、筋肉内の血液循環が悪くなり、痛みを生じ、痛みを生じるとさらに筋肉が縮んで固くなると言う悪循環を形成する。肩こりは、普通、肩の筋肉の筋肉疲労や血行不良によって起こる。その原因としては、例えば「悪い姿勢、無理な姿勢、同じ姿勢で長く仕事をした」、「コートが重かった」、「枕が高かった」、「極度の緊張やストレスが続いた」などで始り、それが蓄積し慢性化してゆくのである。
筋肉がこって固くなると、筋肉内の血液循環が悪くなり、老廃物が貯まってくる。すると、それにより痛みが始り、痛みを生じると、痛みによって筋肉が縮んでさらに固くなってくると言う悪循環に陥ってくる。肩こりは慢性化してからでは直りにくいので、慢性化させないように早目に治療を受けた方が良い。
さて肩こりの原因となっている主な筋肉には、僧帽筋、胸鎖乳突筋、棘上筋、棘下筋、菱形筋などがあり、これらのこっている筋肉の痛みをとり、筋緊張の悪循環をとってあげることが有効な治療につながるのである。
首の細い人やなで肩の方では肩こりが起こりやすい
人によっては肩こりを起こしやすい体形である場合がある。例えば、生まれつき肩が体の外にゆくに従って下がっている「なで肩」の方、首が長くて細いきゃしゃな体形の方、こう言った方は頭を支えるのに首の筋肉に、あるいは腕の上げ下げなどで肩の筋肉に余分な緊張がかかり肩こりを起こしやすい。
つまり、なで肩の人では、肩が下に向かって傾斜しているために、腕の重さをささえる僧帽筋にかかる負担が大きくなるから、肩こりが起こりやすい。僧帽筋は、頭の後から首、肩、背中にかけてついている大きな筋肉で、腕を吊り上げるのが重要な働きのひとつであるが、腕をつっているだけで、肩の筋肉には負担がかかって収縮している状態となり、筋肉内の血流が悪くなりやすい。例えば、イスに座っている時を考えてみると、手を宙に浮かせた状態では、手を机の上あるいはヒジかけに乗せていた時より肩の筋肉は20倍の負担がかかるようになる。そして筋肉内の血流は1/3に減ってしまう。そして、宙に浮せたままでの仕事を続けると、痛みを伴った肩こりが起こってくることになる。時々、腕を肘掛などに置いて、肩を休めてやることが大切である。また普段から壁押し体操あるいは腕立て伏せを行なって肩の筋肉を鍛えておくことも肩こりを防ぐためには大切なことと言える。
腰や背中の曲った老人の方は常に上を向いて歩いていることになり、肩がこりやすい
最近、お年寄りの方がふえている。そんなことで腰や背中の曲った円背の方をよく見かけるが、この方々はたいてい「肩こり」で悩んでおられる。例えば、腰や背中が曲ったため、中には上半身が地面と平行になって歩いているような方もおられる。このような方は、そのままでは顔を地面に向けたままとなってしまい、それでは前が見えずに、歩く時に前の障害物にぶつかってしまう。そこで頭を上げて顔が正面を向くようにしておられるのが普通である。この姿勢では極端に首を後に曲げる形となり、常に首の後や肩の筋肉に大きな負担がかかることになる。なお、背中が真っ直ぐの人にしてみれば、の姿勢は後に頭を反り返らせて天井をずっと見ながら歩いているのと同じことになる。肩こりが起こるのもうなずけるのではないか。
胸郭出口症侯群は、なで肩の女性に多く、肩こりや腕から手のだるさ、しびれ、痛みが起こる
首から出て手や腕の方に行く神経や血管は、首から出てすぐのところで斜角筋と言う筋肉の隙間を通り、さらに肩の部分で肋骨のうちの一番上にある第一肋骨と鎖骨との間に出来た隙間を通る。この隙間のことを胸郭出口と言う。なで肩の方では、これらの隙間が狭くなって、神経や血管がこの部分で圧迫され、頑固な肩こりばかりでなく、脇の下から小指までの腕の内側の部分のしびれや痛みが起こってくることがある。これを胸郭出口症侯群と言う。
この病気は10歳台後半から30歳台の女性に多いようで、なかでも手や腕をよく使うことの多い職業の方にしばしば見られる。例えばキーパンチャー、タイピスト、電話交換手など、あるいは腕を上げていることの多い美容師さん、高く腕を上げて黒板にチョークで字を書く学校の先生などに多いと言われている。症状としては手や腕の痛み、しびれ、だるさ、あるいは肩こり、肩甲骨付近のこった感じや痛み、また動脈が圧迫され、血液の流れが悪くなって腕や手の冷たい感じなどが起こってくる。なお、しびれは、しばしば手や腕の内側の部分(尺骨神経と言う神経の領域)に起こる特徴がある。治療としては、軽いものでは運動療法、ブロック注射療法、飲み薬を用いての治療が行なわれるが、ひどい症状の場合には、手術の必要なこともある。
頚椎の老化現象から肩こりや、上肢のしびれや痛みが起こることもある
首すじの痛みや上肢の痛みあるいはしびれなどを起こす原因として、それ以外に、頚椎々間板ヘルニアや、頚椎の老化現象、すなわち変形性頚椎症などによる場合もある。そのため、肩こりのひどい方では、レントゲンやMRIなどの検査を行ないチェックを行う。また、肩こりや肩の痛みは、時には狭心症、心筋梗塞、肺の腫瘍、胆石症など内臓疾患による場合もあり、注意が必要である。
首の骨の老化現象によって首の後から後頭部にかけての痛みや肩こりが起こることがよくある
日本人では頚椎(首の骨)やその間にある椎間板が老化現象を起こし、傷んでくることによって、首や後頭部のこりや痛みを起こしてくる方がたくさんおられる。このような首の骨の老化現象のことを変形性頚椎症と言います。このような場合、首の痛みや後頭部の痛み以外に、同じく、しばしば天柱(東洋医学で言う後頭部にある頭痛のツボ)の部分や肩甲骨(かいがら骨)の内側の部分に痛みを感じます。この原因は先に述べましたように、頭の表面へ行く大後頭神経や小後頭神経は首から出ていること、また肩や肩甲骨の内側へ行く神経も、同じく首から出ているため、首が悪いと首だけではなくいろいろな部分に痛みがひろがって行くからなのです。このような場合には、ブロック注射や理学療法に加えて、頚椎牽引(首を引っ張る)治療が有効である。
年配の方では首の骨の老化現象によって出来た骨の飛出しが神経を押えて、手足がしびれることがある
首の骨は7つの骨がつながって出来ている。そして、椎間板と言う「ざぶとん」、あるいは「クッション」みたいなものがその骨と骨の間をつないでいる。ところが、ある程度の年になってくると、誰でもこの椎間板が老化現象を起こしてくる。これがひどくなってくると、しばしば椎間板が後や横に飛び出してヘルニアを起こしたり、あるいは老化現象のため首の骨自体に骨棘と言う骨の飛出しが出来てくる。この骨棘や椎間板ヘルニアが首の骨の後を通っている脊髄(手足から脳への神経の通り道)、あるいは首の骨の横を通る神経根(手から脊髄への神経の通り道)を圧迫すると、その結果として手足のしびれが起こってくる。そして脊髄が圧迫された場合を頚椎症性脊髄症、神経根が圧迫された場合を頚椎症性神経根症と言う。
圧迫も軽いうちは手足のしびれや痛みだけであるが、次第に足の力がぬけて階段が降りにくい、あるいは登りにくい、さらに進むと平地でも歩きにくいと言うような症状が起こってきて、最後には歩けなくなり両手足ともに麻痺してしまうことになる。また、手の症状としては、次第にボタンをとめたり、字を書いたり、あるいはハシをもったりと言う細かい動作がしにくくなってくる。治療としては、はじめは頚部の安静や頚椎牽引などの理学療法が行なわれる。しかし、進んでくると、手足が動かなくなって治らなくなってしまうので、手遅れにならないうちに手術で神経への圧迫を除去する必要がある。
脊椎椎体の後面にある後縦靭帯に骨が出来て、これが脊髄を圧迫するために、手足のしびれが起こることもある
脊椎を一本の柱のように連結するため椎体の回りには種々の靭帯が存在している。このうちの椎体の後面にある靭帯のことを後縦靭帯と呼び、この靭帯に骨が出来てきたものを後縦靭帯骨化症(英語で略してOPLLと呼ばれる)と言い、脊椎の中でも、しばしば頚椎に起こる。この後縦靭帯骨化症は人口10万人あたり約6人とそれほど多い病気ではないが、男性に多く、若干の遺伝性があると言われている。この後縦靭帯は脊椎椎体の後にある分けであるが、見方を変えればその部分は、椎体の後にある脊椎管の前の壁にあたる。一方、脊椎管の中には手足に行く神経が通っている脊髄があり、もともと脊椎管と脊髄の間のスキマには、それほど余裕がある分けではない。この靭帯に骨が出来て、これが次第に厚くなってくるということは、前の壁がふくらんでくることになり、結局、脊椎管が狭くなって脊髄が圧迫されることになる。そこで手足のシビレや運動麻痺が起こってくることになるのである。
後縦靭帯に骨が出来る原因は、残念ながら、まだ良く分かっていない。そこでこの病気には根本的な治療はないが、脊髄の症状がひどくなってきた場合には、脊髄への圧迫を取り除く手術が行なわれる。
頚椎後縦靭帯骨化症の方は転倒や頭部外傷に注意。急激に脊髄の症状が悪化することがある
なお頚椎後縦靭帯骨化症の方では、しばしば転倒や頭部外傷により急激に脊髄の症状が悪化し、ひどい時には手足が全く動かなくなってしまうことがあり、普段から転倒に注意しておくことが大切である。
朝、起床直後に首から肩にかけて、はっきりしない不快感に気付く。そして洗面や食事などの日常生活を始めると、首を回すと痛い、あるいは回らないことに気付く。痛みを軽くするために首を横や前に曲げている方もあるし、歩いたり、体を動かすと痛みが走るので動作を静かに、またゆっくりとしなければならない場合もある。また、後を振りかえる時には、首を回すのではなく体ごと回すようにするようなこともみられる。寝違いとはこのような症状のことを言う。
昼間は首の筋肉の作用によって首が無理な姿勢にならないように守られているが、寝ている間は首の筋肉の緊張がゆるんでしまうことから、この防御反応がなくなっている。この間に、首や頭の位置が変になった時に椎間関節への関節包のたくれこみや一部の筋肉への過剰な負担が起こり、寝違いの痛みを生じるのではないかと言われている。なお寝違いの症状が長引く場合には、他に椎間板ヘルニアなどによって起こる場合もあるので精密検査が必要なこともある。 治療としては、まず安静が大切であり、安静を無視してはどんな治療も効果が期待出来ない。これに消炎鎮痛剤などの薬剤を併用すると効果的である。
首や肩の筋肉をストレッチすることにより「肩こり」を和らげたり、首や肩の筋肉を普段から鍛えておくことで「肩こり」を起こりにくくすることが出来る。
消炎鎮痛剤と筋弛緩剤の併用(飲み薬)が有効である。単なる痛み止めはいらないとおっしゃる方もあるが、消炎鎮痛剤すなわち痛みを和らげ炎症を抑える薬は肩こりにおける悪循環を断ち、良い方向へ向かうため、とても大切なお薬であると言える。
こった筋肉の血液循環を良くして、こりをとることに繋がる。
筋肉のストレッチにより、こりをとる効果と、椎間板ヘルニアや変形性頚椎症などでの神経への圧迫を軽くする作用がある。
痛みを起こす神経に対し局所麻酔剤を注入し痛みを和らげ、同時に筋肉を弛緩させてうっ血をとる。この治療は、一時的な作用ではなく、こりの悪循環を改善させる効果もある。
K点ブロック
首や肩は多くの筋肉によって支えられており、それらの筋肉を支配する神経が障害されると、肩こりが起こる。特に、肩甲骨と背骨の間を縦に走っている肩甲背(けんこうはい)神経、肩甲骨の上を通って回り込む肩甲上神経、首の側面から後ろを走る副神経の3つのうち、どれか1つでも異常があると肩こりが起こりやすい。肩甲背神経は肩甲挙筋と大菱形筋、小菱形筋、肩甲上神経は棘上筋と棘下筋、副神経(ふくしんけい)は胸鎖乳突筋と僧帽筋を支配する運動神経である。神経が筋肉により圧迫されたり、引っ張られたりすることが原因と考えられている。肩こりの原因が神経にある場合の、神経周辺へのブロック注射が効果的であり。代表的なブロック注射として、肩甲背神経と副神経が交差する場所K点へのブロック注射が特に効果があると言われる。
なお、頚横動脈、肩甲上動脈などの血管が、凝った筋肉の中で圧迫され血流が悪くなること、すなわち筋肉への血流も「肩こり」にかかわっていると言われる。
「五十肩は放って置けば治る」とよく言われる。しかし、はたして、本当だろうか? 五十肩のことを英語ではフロズンショルダーと言いますが、フロズンとは「凍って固まってしまう」と言う意味で、この病気の特徴をよく表わしている。すなわち五十肩を放置しておくと、しばしば肩の関節が固くなって(これを拘縮と言う)、腕が動かなくなる後遺症を残すことになるが、そうなってから治そうとしても、なかなか治療は困難で、また長期間を要することになる。つまり正しい知識のもと、手遅れにならないうちに治してしまうことが大切である。
肩甲骨(かいがら骨のこと)と上腕骨(手の肩に近い方の骨)が繋がっている部分を肩関節と言います。この肩関節は動く範囲の大きな関節で、その周囲には肩を動かすための筋肉や筋肉の先端部分である腱が肩板と言う膜を形成し関節を取り巻いている。そして肩関節の動きをスムースにするため、関節周囲の筋肉や腱、腱板の間には滑液包と呼ばれる液体を入れた袋がいくつも存在している。ところが年齢とともに、これらの各組織は老化現象を起こし、さらに肩関節の周囲の腱や滑液包などに炎症が起こってくると、肩がなめらかに動かなくなってくるが、こうしたことにより腕を上げようとしても痛んで上がらない、手が後に回らないと言った症状が出てくる。すなわちこの病気は、肩の骨が悪い分けではないので、肩関節周囲炎と呼ばれ、別名、五十肩と言う。すなわち肩関節の周囲にあって腕がスムーズに動くために働いているいろいろな組織の炎症、つまり上腕二頭筋腱炎、三角筋下滑液包炎、肩回旋筋腱板炎、肩峰下滑液胞炎などが原因である。
五十肩では、肩での自由な関節の動きが障害され、運動を行なった時の痛みが強く、病気が進むと肩の動きが固くなって、肩が凍ったような状態となる(英語ではフローズン、ショルダー:凍結肩とも呼ばれる)。
主な症状としては:
1、肩の運動時の痛み
2、夜間に肩の痛みで目がさめる。
3、腕を上に上げたり、後ろに回したりできなくなり、結髪(頭の後で髮をゆう動 作)、結帯(腰の後で帯を結ぶ動作)が困難になる。ひどくなると、自分一人では服を着ることができない、お風呂で背中を洗うことができないなどの症状が現れる。
4、肩が上がらない、肩に力が入らないなどの症状が起こる。
この病気は中年以後、特に50歳代に多くみられ、急性期には痛みが強く、次第に肩関節での運動制限が起こる。そして慢性期には痛みに加えて、必ずと言って良いくらい肩関節の拘縮(著明に運動が制限されること)が起こるのが特徴と言える。
五十肩は肩関節の老化現象のひとつとして起こり、ある日突然着替えをしようとしたら手が上がらなくなった、背中に手が回らなくなったなどと言う症状で始る。50歳台の人によく起こることから、この名前がありますが、40歳台でも60歳台の方でも起こる。
五十肩のチェックの方法は、まず腕を自然に両脇にたらし、肘を脇腹につけたまま前腕を前方に直角に曲げる。次にそのまま前腕をゆっくり左右にひろげる。正常では前腕が体と平行になるまで回旋(回すこと、外旋)出来るが、五十肩が始っているとこれが出来なくなる。すなわち五十肩では、肩関節の周囲に炎症が起こるため、この上腕のひねり動作が出来なくなる。
なお五十肩ではレントゲンをとっても異常を発見することが出来ないことが多いが、五十肩の中で炎症が強い場合、腱や滑液包に石灰(カルシウムの塊)が沈着して激しい痛みを起こすことがあり、この石灰沈着はレントゲンに写るので、これがないかどうかや、他の骨の変形の有無などをチェックするためにレントゲン検査が行われる。
五十肩の予防には、日頃から意識して肩をよく使う心掛けが大切である
五十肩は普段から肩をあまり動かさない人によく起こる。そこで五十肩の予防のためには常に肩をよく動かすこと、肩を冷やないことが大切である。
五十肩の痛みの起こり方には2種類ある。ひとつは、次第に肩の動きが悪くなり、それに伴って痛みがひどくなり、衣服を脱いだり、着たりといった日常の動作が不自由となってくる場合。もうひとつは、ある日、突然に痛みが走り、夜も眠れない、日中も肩のこわばった感じと痛みがひどく、手を動かせないという場合である。五十肩の痛みは夜間に強いのが特徴のひとつで、痛みのある期間は、通常、半年から1年、長くて1年半くらいであり、後は自然に痛みが薄れて直ることになる。なお、これらの中に同様な症状を呈するものとして、変形性肩関節症、肩鎖関節炎、頸椎の病気、肩板損傷、リウマチなどがあり、血液検査やレントゲン検査、MRI検査などで他の病気ではないかどうかを調べておく必要がある。
なお五十肩では肩を冷やさないようにすることがとても大切である。
なお就寝に際し、肩がフトンから出ますと肩が冷えて痛みのために目覚めることもあります。エリマキや肩かけなどで肩を冷やさないようにすることで、痛みが和らぎ、よく眠れるようになる。
痛みや運動制限が強い場合、炎症が起こっているところ(滑液包)に炎症をおさえる薬や関節潤滑液(ヒアルロン酸、健保適応)の注入を行なって関節および関節周囲の動きをなめらかにすると非常に良い効果が見られる。また肩の周囲の感覚を支配する肩甲上神経ブロック注射など行なうことにより、早期に治療を行なえば悪化を防ぎ、より早く治すことが出来る。
肩の温熱療法に加え、関節包や滑液包の炎症や筋肉の緊張をとってから運動療法を行う。
運動療法には、有名なコッドマン体操がある。このような体操を徐々に行なって肩関節の運動制限を治してゆく。
肩が痛いからといって動かさないと、ますます肩関節が固くなってしまうので、肩の運動療法を併用するのが効果的
五十肩では肩が痛いからといって動かさないでいると、肩の関節がますます固くなってしまう。痛みが強い時には安静にし、痛みが安定したならば、早いうちに肩の運動療法を行なうのが効果的である。大切なことは肩を少しずつでも動かすことである。なお、あまり無理をしてはかえって悪化することもあるが、少し痛みを感じる程度まで動かすことが大事である。一方、痛みを全く感じない程度の運動では効果がない。少し痛い程度で押さえ、同じ運動を回数を繰り返して行なう。
五十肩の体操にはアイロン体操(コッドマン体操)が有効
五十肩の体操として代表的なものがアイロン体操である。まず机などの台の横に立つ。次に痛む方の腕にアイロンを持って、上半身を少し曲げて反対側の腕の肘を台の上につく。次いでアイロンを持った手を肩からぶら下げるようにして、肩の力を抜いて、アイロンの重みを利用して、振り子のようにゆっくりと腕を左右に振り、だんだん大きくしてゆく。また同じように弧をえがくように、腕を前後に振る。そして少しずつ弧を大きくしてゆく。
なお最も重要なことは、肩の運動機能の改善であり、拘縮の予防とその改善にある。そのためには、何らかの方法(内服、理学療法、注射)によって痛みを除去し、運動しやすい状況にして積極的な運動療法(コッドマン体操、肩回転運動など)をすることが大切である。
石灰沈着性腱炎は40歳代から60歳代の女性に多いといわれており、鞄を持つとか、後ろのものを持とうとしたちょっとしたことがきっかけで肩の痛みを覚え、その後、急激に痛みが増してきて、痛くて夜も寝れないぐらいになる。
肩関節のレントゲンを撮ってみると、腱板の中に生じた石灰陰影が写る。棘上筋の中では石灰化という現象がおこりやすく、腱自体が変性してしまった状態である。石灰のもととなる成分は「炭酸アパタイト」だといわれており、人体のpHに近い状態で石灰化しやすく、溶けやすいことから血中では白血球に貪食され、炎症を引き起こしやすいといわれている。そして石灰化した部分が肩峰下滑液包の中に漏れ出してしまうと、肩峰下滑液包の中で炎症を生じ、肩峰下滑液包は腫れて来て、熱を持ち、外から見ると皮膚が赤くなるぐらいになる。
肩関節の周囲は肩を動かすための筋肉や筋肉の先端部分である腱が取り巻いている。このうち肩甲骨と上腕骨をつないでいる棘上筋、棘下筋、小円筋の3つは上腕骨の大結節と言うこところに付いているが、この部分では3つの筋肉の筋膜がいっしょになって板状となり、ひとつの腱のようになっている。そこで、これを合せて肩板と呼んでいる。
肩板損傷とは、文字とおりこの肩板がチギレることを言い、そうなると肩の痛みと、手が上に上がらなくなると言う症状が起こる。肩板損傷は中年以降の高齢者の方、あるいは五十肩にかかられた方の経過中などによくみられる。そして、肩板は、このような方が、少しどこかで手をついたとか、肩をぐねったなどと言う程度の軽微な外傷でしばしば損傷される。肩関節の痛みと運動制限すなわち手が上がらないと言う症状は五十肩でもみられるが、五十肩と違って肩板損傷の特徴は、上肢を上げる時に、反対側の手で、少し持上げるようにしてやると上がると言うことである。
肩板は肩甲骨の肩峰と言う部分と上腕骨の骨頭との間に出来た狭い隙間を通っている。そこで、特に90度に肩を上げると言う動作のたびに肩板が骨と骨との間に挟まるような形になり、この部位に炎症が起こって、長い年月の間、これを繰り返しているうちに弱くなってしまいやすい。さらに五十肩の方では肩板の周囲が炎症を起こしていることから、いっそう弱く、すなわち損傷されやすくなっている。そんな時に、外力が加わると、簡単にチギレてしまうことになる。
手を上げる動作には、肩関節の外側についている三角筋が大きな役目を果たしているが、まずこの動作の最初に肩板が働いて、上腕骨の骨頭を肩甲骨の方に引っ張ってやる必要がある。言い換えれば肩板の役割は、肩の動かし始めに、この三角筋の働きを助けてあげることにある。つまり、車でいえば、ギアーをいれる動作をしてくれているのが肩板の働きである。まずギアーを入れないと、車は動いてくれないわけである。
肩板が損傷され働かなくなると、腕を上げた位置から下に降ろす時に、水平になったぐらいになった途端、腕が急にガクンと落ちたりする。これを、腕落下現象(アーム・ドロップサイン)と言う。
腱板損傷は五十肩と症状が似ている。しかし五十肩と大きく違う点は腱板損傷は他動的に肩を挙上できる点である。五十肩は他動的にも肩を挙上できない。他動的に挙上できるとは、力を入れずに他人に挙げてもらう、もしくは反対の手で腕を挙げようとすると腕を上げられるということである。つまり五十肩と違うところは、拘縮、すなわち関節の動きが固くなることが少ないことである。他には、挙上するときに力が入らない、挙上するときに肩の前上面でジョリジョリという軋轢音がするという訴えも多い。
なお五十肩と思われている方の中にも肩板損傷が隠れていることもある。そこで五十肩の治療だけで良いのか、肩板損傷はないのか、専門医による正確な診断を受けておくことが大切である。
肩の周辺が痛くなり、腕が上げにくくなるなどの症状で多い疾患は五十肩や、腱板損傷である。しかし、それ以外にも腕が上がらなくなるという疾患があり、その一つに、肩鎖関節症がある。
肩鎖関節は関節は、腕を一番上まで上げた時や、腕を水平に動かす時に強いストレスを受ける。そこで、そのような動作を繰り返しているうち、関節の軟骨が傷んで変形が生じたり、関節の炎症が引き金となって急に激しい痛みが出る場合がある。圧痛部位が肩鎖関節に限局しているので、五十肩や腱板損傷との鑑別は容易である。
炎症が強い急性期は三角巾などで肩を安静にするのが良い。同時に痛み止めを服用し、それでも痛みが治まらない時は、肩鎖関節へ注射が有効である。
Tietze症候群は、若い女性の第2〜5肋軟骨にみられ、肋骨の先端が痛む病態である。自発痛、圧痛があり、熱感や発赤はなく 、非化膿性である自然治癒することの多い「非炎症性肋軟骨疾患」である。痛む部分は、第2〜5肋軟骨は、胸の正中より数センチ側方で、乳房の内側上方部分である。「Tietze症候群は、本態は慢性肋軟骨炎であるが、その原因は分かっていない。これらの痛みは長引くことがありますが、自然に治癒することが多い。
近年、高齢化社会を迎え急速に年配の方が増えている。その結果、長年、関節を酷使したことによって起こってくる変形性膝関節症、変形性股関節症などの病気が増化し、問題となっている。変形性膝関節症は膝関節の老化現象からくる病気で、その症状としては、まず階段を降りる時の膝の痛みから始り、進行すると平地での歩行障害をきたすことになって、日常生活を送る上で大きな問題を生じることになる。
膝の痛みを訴える病気の中でもっとも多いものが、この変形性膝関節症と呼ばれる病気である。この病気は中年から高齢の方に多く、年齢による軟骨の変性(膝の動きをスムースにしている軟骨がすり減った状態)が主な原因である。その誘引としては、加齢、遺伝的な素因、肥満、ホルモン異常、膝に負担のかかる生活様式などが上げられている。わが国での患者数は約1,200万人で要治療者は700万人と言われている。中高年になって膝が痛む病気の中で最も多いのが、この変形膝関節症である。
この病気は膝関節の軟骨の変性と摩耗(すり減ること)によって起こり、病気が進行すると痛みや関節の機能障害から日常生活に大きな障害をおよぼすことになる。
40歳以上の男女の6割が罹患しているというデータもあるが、中高年の女性に多くみられる。すなわち、どの年代でも女性が男性に比べて1.5-2倍多く、高齢者では男性の4倍といわれている。変形性膝関節症の80%に肥満が認められる。膝関節の表面は軟骨で覆われており、この軟骨と膝関節間隙の後ろ側に挟まった半月板とが外的衝撃を和らげ、関節の動きを滑らかにする働きをしている。また、ヒアルロン酸を含み関節間を満たした関節液が潤滑と栄養補給の役割を果たしている。変形性膝関節症は、膝関節のクッションの役目を果たす膝軟骨や半月板が長期間に少しずつすり減り変形することで起こり、多くが炎症による関節液の過剰滞留(膝に水が溜まる)があり、痛みを伴う病気である。なお膝の痛みをきたす病気には他に、慢性関節リウマチなどの炎症、半月板損傷や靭帯損傷などの外傷、あるいは痛風などの代謝障害などの場合もあり、変形性膝関節症の症状とよく似ているため、そうでないかどうかを、念のため血液検査やレントゲン検査を行なってチェックしておく必要がある。
変形性膝関節症の主な症状としては:
1、歩きはじめ、動きはじめの膝の痛み
2、正座ができない
3、膝に水がたまる
4、膝の痛みのために長く歩けない。階段の昇降が困難になる
具体的には、初めのうちは、正座した時の痛みや、階段の昇り降り(特に降りる時)、長い距離を歩いた時、あるいは起立した時の膝の痛みで気付かれる。
病気の進行ととも、起床時の膝のこわばりや痛みがひどくなり、正座が出来なくなって、また膝が次第に曲げられなくなってくる。さらに進行すると、大腿骨と脛骨が直接こすれることで激しい痛みが生じ、歩行が困難になってくる。大部分の方では膝の関節軟骨の摩耗は膝の内側の部分に強く起こるので、膝の内反変形(膝が外側に飛出し、O脚:ガニ股になってくる)の状態となってくる。また膝の内側部に圧痛(その部分を押すと痛みがはしる)を認める場合が多いのも特徴のひとつである。
ここまで進行すると歩行は著しく制限され、例えば500メートルの連続した歩行も出来なくなり、また、30%の方には膝の関節に水が貯まるようになってくる。
変形性膝関節症の場合、軟骨が変性し、肥満や加齢、筋力低下、膝の不安定性などによる過剰な力が関節面に働くため軟骨が正常以上にすり減ることになり、その破片が関節炎をおこす原因となったりすること、またしばしば関節の袋である関節包や滑膜が炎症を起こすため関節液を増加させることになる。
一方、膝に水が貯まる病気はそれ以外にもいくつかあるので、それらの病気と区別するため、レントゲン撮影や血液検査を受けておくことも大切である。
さて、もともと、正常の関節滑膜は関節運動によるポンプ作用で関節液を分泌生産したり、吸収したりすると言うことをくり返して関節液の量のバランスを正常に保っている。ところが滑膜の炎症が起こると、この正常なバランスがくずれて生産過剰となった水が貯まったりすることになる。そして痛みのため、運動ができず、その結果、関節運動が減ってポンプ作用はますます低下し、また関節液の吸収が低下し、さらに水が貯まると言う悪循環におちいることになる。このような悪循環を断ち切るためには、痛みを何らかの方法でとって、正常の関節にもどすようにしなければならない。
正常では膝関節を形成する軟骨は生産と摩耗とを繰り返しバランスを保っている。変形性膝関節症で膝の内反変形(O脚となった状態)をきたしているような方では、膝の内側の関節軟骨の生産や再生が摩耗に追いつかないためすり減ってくる。そうすると膝の内側にある靭帯(内側側副靭帯)が相対的に弛緩(ゆるんでくること)してくる。また膝が完全に伸びなくなり、軽く曲げた形(屈曲位)で歩くようになる。この場合、膝の支えが不安定となり、歩行に際し悪い方の足に体重がかかった時、膝が外側にグラッと動く現象が出てくる。これを歩行時の膝の側方動揺性があると言う。この動揺性のある方では膝の痛みが激しく、歩行出来る距離が短くなる。
関節に水が貯まるのは軟骨が磨り減って炎症を起こしているからです。貯まった水を抜かないと、さらに炎症がひどくなったり、軟骨がもろくなったりすると言われる。クセになることはない。
膝の靱帯損傷、半月板損傷などの外傷が原因で、その後徐々に膝の不安定性が増大し、その結果、膝の軟骨の変性炎症が起こってくる場合がしばしばあり、これを外傷性変形性膝関節症と言う。そこで膝の外傷の後は、後で困らないように十分に治療しておく必要がある。
飲み薬や健康食品で膝の軟骨を増やせるようなものもありません。新聞などに、「コラーゲンを飲んだら治る」など言う高価な健康食品の宣伝が時々載っていますが、口から飲んだり食べたりしたものは、胃に入って、強酸である胃酸によりたちどころにアミノ酸にまで分解されてしまうため、膝の軟骨の再生に効果はありません。
1、肥満や運動不足が原因の場合
マイクロなどの理学療法で痛みを軽減しながら大腿四頭筋などの運動療法を行う。変形性膝関節症の80%に肥満が認められ、太っている人は、膝にかかる負担を軽くするため、まず体重を減らすことが大切であり、同時にカロリー制限、運動によりダイエット減量を行う。
2、疼痛、炎症の強い場合
抗炎症剤、鎮痛剤、湿布、軟膏などの外用剤の使用。膝への温熱療法、マイクロ波治療などの理学療法も有効。
3、軟骨障害による運動時痛の強い場合
軟骨の栄養剤、関節の潤滑油の役割をしてくれるヒアルロン酸などの関節内注入療法
4、膝のガタツキ、水腫、運動障害の強い場合
サポーターや装具をその時の障害の状態や程度にあわせて作成する。
膝が痛くて装具(サポーター)をつけようと思うのですが、どんな装具を選んだらよいのですか?
内反変形、O(オー)脚の強い人には:
膝の内側にばかり荷重がかかり、内側ばかり軟骨がすりへるのを防ぐために外側にも荷重がかかるように下腿の角度を変える目的のため、足挿板(そくそうばん)と言う装具を用いて足の外側を高くして膝部での荷重を均等にするための装具である。
膝関節水腫(水がたまること)をくり返す人には:
膝関節の内圧を上げて、関節運動によるポンプ作用を増加させるために、膝蓋骨(膝のお皿)の周辺をとりまくように膝蓋部をおさえるように工夫されたDuke Sympson(デューク シンプソン)装具が有用である。
不安定膝の方には:
歩く時に、膝が前後左右にガタツいたりして膝がよろけるような場合は、その動揺の方向を制限する支柱付サポーター(装具)により安定歩行が得られる。
大腿四頭筋訓練
変形性膝関節症では、大腿四頭筋の筋力が弱くなることが、症状の出現や病気の悪化に関係しているため、この筋力強化を行なうことが大切
変形性膝関節症では、大腿四頭筋(ふとももの前面にある筋肉)の筋力が低下し、また萎縮(筋肉がやせて、ちぢんでくること)がしばしば見られる。この筋力の低下は病気の比較的早期より出現し、次第にひどくなって筋力は正常人の半分程度にまで低下してくる。これにより膝の不安定感と痛みを生じるため、さらに筋力低下が進行すると言う悪循環が形成されるのである。また筋力が低下すると歩行時や階段昇降時の膝の不安定感が強くなり、また膝の痛みが強くなる。筋力の上でもこのような悪循環を断ち切るために筋力を強化する治療が必要となる。
大腿四頭筋の筋力を増強する訓練が大切で、訓練により筋力が強くなってくると膝の痛みは次第に軽減してくる。なお体重負荷をかけて膝を屈伸するような運動は膝の痛みをかえって強くするので禁止である。
等尺性訓練とは膝を屈伸させないで訓練する方法のことを言う。具体的には膝伸展位下肢挙上訓練が行なわれる。この場合、膝を伸展位(伸ばしたまま)に保持したまま下肢全体を挙上(持上げる)させることにより大腿四頭筋の訓練を行なう。
そして筋力が強くなるに従って足の関節の部分もしくは足に重錐(おもりのこと)、砂袋、などによる抵抗を加えるとさらに効果が高まる。膝をできるだけ伸展(真っ直ぐ)して下肢を水平から10から15度の高さに挙上させ、これを空間に5秒間保持させるが、具体的には下肢を挙げている間に1から5まで数えるようにする。そして、これを20セットとして1日に1から2セットを行う。
なお重りの重さは高年者で3から4キログラムとするが、痛みのある場合には1から2キログラムとする。なお必要以上頻回に訓練を行なっても意味がない。また下肢を15度以上持上げても意味がない。いずれにしても、最も重要なことは、四頭筋の筋力強化によって膝軟骨の負担を軽減させることである。その運動療法の方法や治療法の選択については、専門の主治医と相談の上治療を進めていくことが大切である。
膝の変形、破壊の強い場合
骨切り手術や人工関節置換術。これらは膝の変形を矯正し除痛効果が高い治療法である。
膝関節には大腿骨と下腿骨との関節以外に膝蓋骨(膝のお皿)と大腿骨との間にも関節があって、後者の関節の障害もしばしばみられる。膝蓋大腿関節障害は15〜20歳前後で発病することが多く、中でもX脚の女性によくみられる。
このような障害が起こると、大腿骨と膝蓋骨との位置関係がずれて、一般に膝蓋骨が外側へ偏位してくる。そして、時には正常な位置からはずれてしまって亜脱臼(はずれかけた)の状態となることもある。
この場合の症状としては、膝蓋骨周囲に痛みを感じるものの、痛みがどこにあるのかはっきりしないような漠然とした痛みを感じたり、起立や歩行時の膝の不安定感、あるいはスポーツ中に膝がガクンとなって膝蓋骨が外側へずれるような感じなどが起こる。
診察上、1、大腿四頭筋の萎縮(筋肉がやせてくること)、
2、膝蓋骨周囲の圧痛
3、押さえると膝蓋骨が異常に外側に動く
4、関節に水が貯まる(関節水腫)
5、時に関節血腫(血が貯まる)が起こる。
治療としては、膝蓋骨の外側偏位を内側へ移動させるようにすることであるが、まず大腿四頭筋の筋力強化、中でも特に内側広筋の筋力強化を行なうことが大切である。その方法は、膝を伸ばした位置で両方の下腿で30〜40p位のもの(枕でもよい)をはさむようにする運動を行なう。また膝蓋骨の安定化のためのサポーター装具を装着した上で大腿四頭筋の等尺性運動を初期より開始し、症状が、軽快した後、徐々に運動量を増やして行くようにする。
ジャンパー膝とはバレーボールやバスケットボールなどの運動でジャンプや着地動作を何度も行ったり、サッカーのキック動作やダッシュなどの走る動作を繰り返し、膝を伸ばす動作を繰り返し行うスポーツに多くみられる、オーバーユースに起因する膝のスポーツ障害である。10歳代の男性に多い。
大腿四頭筋の柔軟性低下および大腿四頭筋の筋力低下が要因に挙げられる。特に成長期の長身選手は、骨の成長に筋肉の成長が追いつかず、相対的筋短縮(筋肉が硬い)状態を招いた結果、そのストレスが末梢の膝蓋骨周辺に蓄積するために起こる慢性かつ疲労性の障害である。さらに、膝蓋腱にかかる負荷は、ランニング時には約670kg、ジャンプ時には約1200kgの負荷がかかるといわれ、他の研究では、歩行時にかかる膝蓋腱の負荷量を1とするなら、着地動作ではその約6〜8倍もの負荷がかかるといわれている。
自発痛と圧痛部位は
(1)膝蓋骨下端から膝蓋腱付着部(約70%)
(2)膝蓋骨上端から大腿四頭筋腱付着部(約20%)
(3)膝蓋腱中央から脛骨結節付着部(約10%)
ジャンプやダッシュなどによる膝関節の屈伸動作を頻回に、また長時間にわたって行う場合、膝伸展機構(大腿四頭筋が引っ張られることで膝蓋骨、膝蓋腱、脛骨結節にまで牽引力が加わる)に過度な牽引力が繰り返し加わることで、膝蓋骨周辺に微細損傷を引き起こすことになる。病態は腱実質部に出血、浮腫、ムコイド変性(結合組織の粘液変性)、フィブリノイド変性(線維素様のものが組織に沈着して組織傷害や炎症を引き起こす)などの変化をきたし、微少断裂や、最重症例ではまれに完全断裂に至ることもある。運動時に発生する膝前面の疼痛と圧痛、胴部には局所の熱感、腫脹を伴う。腹ばいにして膝を曲げると、大腿前面の突っ張ったような疼痛から逃れるために尻上がり現象が出現する。
治療としてはストレッチング療法(大腿四頭筋の柔軟性をつけるため)、キネシオテーピングを行うが、痛みが強いときにはスポーツ中止が必要となる。
腸脛靭帯は大腿広筋膜とも呼ばれ、太ももの外側をおおっている長い靭帯で、大転子という脚のつけ根の骨から、太ももの外側を通り脛骨(膝下の骨)にまでつながっていて、膝の外側の安定を保つ役割を果たしている。
腸脛靭帯炎は、別名「ランナー膝」とも呼ばれ、腸脛靭帯に炎症が起きた状態をいう。腸脛靭帯は、大腿骨の外側に位置し、膝を伸ばした時は大腿骨の前方に、曲げた時は後方に移動する。この移動の際に、大腿骨外顆という骨の外側のでっぱり部分にぶつかったりこすれたりするが、膝の曲げ伸ばしをするたびにこすれや摩擦が繰り返され、その回数が増えると炎症が発生する。たとえば登山や階段の上り下りにおいて、特に下りの動作で負担が大きくなり、発症しやすくなる。なお痛みが見られやすいのは、上りよりも下りの時である。ひどくなると痛みで膝の曲げ伸ばしが困難になり、膝を伸ばしたまま歩くといった状態になる。炎症は脛骨部分で発生することが多いが、まれに足のつけ根の大転子部分にも起こることもある。腸脛靱帯は明らかに緊張が増し、時に靱帯の走行に沿って疼痛が放散する。症状の誘発方法(徒手検査法)としては、膝を90度屈曲して外顆部で腸脛靱帯を押さえてから膝を伸展していくと、疼痛が誘発されるgrasping testが有用である。膝関節外側部での疼痛を主症状とする、外側半月板損傷との鑑別が必要である。
なお、「大腿筋膜張筋」、「腸脛靭帯」、「腸脛靭帯がつくスネの骨の辺り」どこででも痛みが起こる可能性がある。大腿筋膜張筋は「骨」と「靭帯」の間に挟まれている。「骨」と「靭帯」では、靭帯の方が伸縮性があるから、大腿筋膜張筋が硬くなったり、短くなったりすると腸脛靭帯が常に引っ張られ、伸びた状態が出来上がり、腸脛靭帯は常にストレスにさらされることになる。「靭帯」は伸縮性があるとはいえ「筋肉」の伸縮性には到底かなわない。そこで伸縮性に乏しい「靭帯」の方が、かかるストレスが大きい。その結果「靭帯」は両端から引っ張られ、やがて痛みを生じることになる。
鵞足とは、大腿部からの3つの筋肉、すなわち縫工筋(ほうこうきん)、薄筋(はくきん)、半腱様筋(はんけんようきん)がひとまとまりになって腱となり、膝の内側の部分で下腿の脛骨の上部に付着している部分のことを言う。この部分は、ガチョウの足のように3本に見えるので、鵞足と呼ばれる。この3本の腱の下には、鵞足包と言われる滑液包があり、そのおかげで、3本の鵞足は常にスムーズに動いており、膝が屈伸される際、腱同士あるいは腱と大腿骨とが擦れ合うことなく、滑らかに動くことができるのである。膝の屈伸をくりかえすことによって、その「鵞足」の部分がスネの骨の内側にこすれて炎症を起こし、そのせいで痛むのが、鵞足炎である。
鵞足炎が起こると膝のお皿の下の内側の部分がひどく痛むことになる。長時間にわたって膝の屈伸をくりかえすスポーツを行う人、陸上競技の長距離走ランナーやサッカーの選手に多く、ジャンプの繰り返し、長期よりのランニング動作などの際に起こる。
鵞足炎が疑われる症状
1、 膝の内側から膝下にかけて痛んだり腫れが生じてくる
2、 膝の曲げ伸ばしをした時、運動している時、患部を指で押した時、太もも裏の筋肉「ハムストリングス」の内側を伸ばすストレッチングをした時などに痛む。特に、膝をいっぱいにまで伸ばしたときに痛みが起こりやすいことや、階段の昇り降りに支障をきたすことが多いのが特徴である。
3、 初期は膝を動かした時のみ痛むが、ひどくなるとじっとしている時(安静時)にも痛みを感じるようになり、日常生活にも支障をきたすことになる。
ベーカー嚢腫は、その名前からは腫瘍であるかのように思われるむきもあるが、実は、腫瘍ではない。膝の裏、すなわち膝窩部(膝の裏の部分)のやや内側に存在するベーカー嚢腫という袋状のものに液がたまって腫れている状態を言う。ベーカー嚢腫が存在すると、膝に違和感や膝を深く曲げにくいといった症状が出現する。
ベーカー嚢腫ができる原因は、変形性膝関節症をはじめとする膝関節疾患と関係があり、関節腔内に水(水腫)がたまった場合、水腫は関節腔内で行き場を失って、膝の後ろの方へ流れ出てしまうことによる。膝関節内から後方に液体が流れ込むことは可能な仕組みになっているが、逆に関節腔内に液体が逆流しないような弁の様な仕組みが備わっており、一旦、後方に液体が流れ込むと溜まってしまうことになる。
変形性股関節症では、足のつけ根(股のところ)の関節が痛む。この関節の痛みは、人によっては殿部(おしり)や大腿の痛みとして感じることも多く、時々がんこな腰痛の原因になったりもする。そして股関節の痛みや運動制限をきたし、起立や歩行が困難となって困っておられる方も増えている。この病気の原因は主に2つある。1つは胎児期(お母さんのお腹の中で)あるいは乳児期における股関節の発育障害が原因で、大きくなってから発病する場合である。そこで、これを早いうちに発見し予防するために保健所では股関節検診やおむつの正しい付け方の指導などが行われている。
乳児期の股関節開排制限(おむつをかえる時、骨盤に対し左右対称に股が開かない状態をさす)は、この病気の早期診断の決め手となる。この症状を早いうちに見つけて治療すると、股関節の発育不全(臼蓋形成不全)に至らず完全に治すことが出来る場合が多い。ところが、それと知らずに、これを放置しておくと成人になってから、スポーツや山登り、あるいは出産などに際し、股関節の痛みが起こるようになり、そこで始めて見つかることになる。
さて、もう1つの原因は、年をとったことによって股関節が傷んできた場合や過度の体重(肥満)による股関節の関節軟骨への負担が変形を引き起こす。この場合は50歳頃より徐々に発症し、数年かけて悪化して行くような経過をとる。この他にも、この病気の原因として股関節、特に臼蓋(骨頭側)の骨折や脱臼、あるいは大腿骨頭壊死と言う病気などの後に起こってくることもある。
症状の決め手は、長距離を歩いた後の痛み、運動を行なった後の痛みなどであるが、症状が進むと、じっと安静にしている時にも痛むようになり、夜間 にも痛むようになる。また股関節の運動制限も重要なサインである。特に股関節の屈曲、外転、内旋の動きが悪くなりそのため正座、横すわや靴下をはく動作が出来なくなる。
治療の原則の前に、股関節の機能を説明する。股関節には、通常、体重の約 6倍もの力がかかっている。そして、その力を支えるために股関節の外転筋の働きをする中殿筋が体重の約 3倍の力で働かないと体重が支えられない。もしこの中殿筋の筋力が十分でない場合には、上体が歩行のたびに左右に揺れるトレンデレンブルグ歩行と呼ばれる歩き方になるし、この場合、股関節が不安定となって股関節機能を悪化させることになる。以上のことから想像される通り、治療の原則としては、体重の減量と股関節周辺の筋肉の筋力強化、なかでも外転筋である中殿筋の筋力強化体操が大切である。その体操の方法は、まず良い方の側を下にして横になって寝る。次に悪い方の下肢を、股を開くようにして上に向けて持上げる。入浴後などに30〜60分、一度に50〜100回くり返し下肢を挙上する。それを1日に1〜2回行う。少し筋力がついたなら足首に500gぐらいの重りをつけて体操するとさらに有効である。水の中で行なう水泳療法は体重の関節への負担を少なくした上で筋力強化の出来るすぐれた方法である。疼痛の強いとき、手術後などの場合には水泳による股関節の運動が最も勧められる。関節軟骨や骨に負担がかからず、また筋力も水中でならより軽い力で関節運動が可能となるので、空中では出来なかった動きができるようになり、ムリなく筋力をつけることが出来る。
他に、温熱療法により筋肉をリラックスさせ疼痛をとった上で運動することも大切である。なお痛みの強い時には、股関節の安静が大切で、無理をして動かしたり、必要以上に歩いたりしてはいけない。そのような場合、歩行に際し杖を使って股関節にかかる体重を肩代わりしてやることも、股関節に対する思いやりであると言える。
大腿骨頚部骨折とは、太ももの骨(大腿骨) の脚の付け根、股関節に近い部分の骨折である。骨粗鬆症と関連し、高齢者の骨折のなかでは最も頻度の高いもので、日本では年間約10万人の人がこの骨折を起こし、骨粗鬆症にかかりやすい女性は男性の3倍の発生率となっており、高齢化が進むにつれて今後もさらに増えていくものと予想されている。
このタイプの骨折は骨粗鬆症と深い関係があり、90%以上は高齢の方に起こる。この骨折の95%は転倒により起こるが、転倒によることが多いといっても、若い人では起こりえないような軽い力(つまずく、ベッドから落ちるなど)で起こることがほとんどである。すなわち高齢の方では軽く転倒しただけで、あるいは股関節をひねっただけで大腿骨の頚部を骨折することがある。特に原因が思い当たらず、いつの間にか骨折していたということも3%から5%の方に見られる。そして高齢者の寝たきりの原因の実に20〜25%は、この骨折がきっかけで、歩けなくなることによる。なお寝たきりになった場合、約1年以内に、50%以上が余病を併発して死亡することになる。まさに命取りの骨折と言える。
この骨折を防ぐためには、普段から骨粗鬆症の予防を行なっておくことが大切である。次に、もし不幸にして骨切を起こし床に伏したなら、足腰が弱って寝たきりになってしまうので、1日も早く手術を行なって、普通の生活が行なえるようにすることが大切である。
そのためには約1週間以内に手術を行なう。そして早期離床、すなわち手術の翌日より座るようにして、1週間後には立つ訓練を始める。このようにすれば、肺炎、痴呆の出現(脳血管性痴呆)、消化菅出血(ストレス潰瘍)、尿路感染症などの余病を防ぐことが出来る。
高齢者の方が、転倒した後、太ももの付け根を痛がって歩けないというような場合、まずこの大腿骨頚部骨折を疑う必要がある。すなわち骨折した直後から脚の付け根の痛みがあり、歩くことができなくなる。しかし骨折のタイプや程度によっては、骨折直後は痛くなかったり、立ち上がったり歩いたりできてしまう場合もある。また脚の付け根ではなく膝が痛くなることもある。また認知症のある方の場合、骨折にしばらく気づかれないこともあるので注意が必要である。
大腿骨頚部骨折には、内側骨折と外側骨折がある。具体的には関節包の付着部より内側に骨折が起こった場合を内部骨折、外側に起こった場合を外側骨折と呼ぶ。なかでも問題があるのは内側骨折で、骨折により関節包が損傷されるため、その中を走る血管が切れて二次性の大腿骨頭壊死を引き起こすことになる。そのため内側骨折では、骨切の治癒がまず期待できないため、始めから関節を人工関節に取り替える手術(人工関節置換術)が行なわれる。
一方、外側骨折では、しばしば骨片の転位が大きく、不安定骨折となりやすいことから、一般に治療に長期間を要することになる。なお大腿骨頚部骨折の診断は、内側骨折、外側骨折ともに、大変に難しいところがある。
このようなエピソードは内側骨折の場合、よくあることである。と言うのは、大腿骨の頚部は、体重を支えている骨頭と股関節を動かす筋肉が大腿骨(大転子、小転子と頚部の外側と下)についている部分の丁度、真ん中にあって、そこには常に大きなストレスがかかっているからである。つまり、繰り返しストレスがかかることにより疲労骨折が起こることによる。疲労骨折とは針金を曲げても1回では切れないが、何度も同じ部位をくり返し曲げていると、切れてしまうのに似ている。これはかつての日航機事故の原因であった金属疲労と同じで、同様のことが、骨にも起こるのである。なお骨折に気付かずに、無理に歩いていると、骨折部が転位し、ずれて急に歩けなくなったりすることがある。
外側骨折の場合、大腿骨頚部の外側は骨が薄いこと、また、そこに大きな筋肉が、たくさんの方向についていることから、しばしば筋肉の力が頚部の骨をずらせる方向に瞬間的に作用します。そこで極めて骨折しやすいのでであるが、このタイプの骨折は起こったとしても、わずかのヒビみたいに、かすかにしか写らないことがあって、X線でも診断困難な場合がしばしばである。そのため、診断にはRI検査や、MRI検査などの精密検査を必要とする場合がある。
いずれにしても、大腿骨頚部骨折は予防が大切であり、骨折したら一日も早く、日常生活に復帰する努力を、本人はもとより、家族、医療スタッフ全員、一丸となって取り組むことが大切である。
股関節は大腿骨の骨頭と骨盤の関節面との間で関節を形成している。大腿骨の骨頭は血管を通じて栄養を受けているが、大腿骨頭壊死と言う病気は、その血液の流れが悪くなって骨頭内の骨が腐ってくる病気である。この病気は、別名、乏血性壊死、無血管性壊死とも呼ばれ、あるいは感染が原因ではないので無腐性壊死とも言われる。
大腿骨の骨頭は、丸いボールのような形をしており、関節の動きをスムーズにするため、そのほぼ全周を軟骨でおおわれている。そして、骨頭自体の栄養は、その根元で関節包がくっついている部分のごくわずかのすきまから血液供給を受けているにすぎない。一方、体の中のほどんどの血管は、たとえその血管がつまったりしても、回りの血管からの血流で、なんとか助けてもらえるような構造になっており、このような仕組みを側副血行と言う。ところがそれと違って、大腿骨の骨頭への血管は、心臓や脳の血管と同じく、終動脈といって、一旦詰まると、回りからの血流で助けてもらえないような構造になっている。つまり、一本の血管がつまるだけで、骨頭が腐ってしまうことになる。また、血管が詰まっても、心筋梗塞のように、すぐ痛みとなって症状は出ないので、気が付かず、しばしば発見が遅れることになる。
大腿骨頭壊死は、かって美空ひばりさんがかかった病気として有名である。この病気は肝障害の人、中でもアルコール性肝障害の人やアルコール愛飲者に多くみられる。ひばりさんは、実は孤独な人であったようで、そんなことから、よく悲しい酒を飲んで(歌って)おられたらしく、肝臓の障害もあったそうである。
肝障害以外に、高脂血症の方、あるいはステロイド剤の大量投与を受けた方、その1/4がSLE(全身性エリデマドーデス)で、以下、ネフローゼ症候群、再生不良性貧血、腎移植を受けた人などの順に多くみられる。
この病気は別名、潜水病(減圧症)とも言われる。これは海中から急に浮上すると体内気圧(水圧)の変化のため血中に気泡(炭酸ガス)ができるが、この気泡が栓となって血管を塞ぐ空気塞栓の状態となり骨頭が腐ることになる。最近、流行しているスキューバーダイビングを行なう際には、ぜひ気をつけて頂きたいものである。
大腿骨頭壊死の初症症状としては、やはり股関節の痛みが多いが、それ以外に大腿部の痛や、坐骨神経痛様の痛み、時には膝関節の痛みとして始ることもあり注意が必要である。そして病気が進行するにつれ歩行時や動作時の股関節の痛み次第に強くなってきて、日常生活動作が困難となってくる。ひばりさんも、最後は、舞台で、つかまって歌っていたとのこと。
臨床検査では、高脂血症、高尿酸血症、GOT・GPTの高値、肝障害、蛋白尿などの異常所見がよく見られる。
進行するとと骨頭が壊死を起こし、ついには体重を支え切れなくなって、骨頭が、ピンポン玉を押した時のようにつぶれ(陥没骨折)、変形してくる。そうなると関節の相手である骨盤側の軟骨(臼蓋)の障害を生じることになり、股関節の変形(二次性変形性股関節症)が起こってくることになる。
この病気の治療には、早期診断と早期治療が大切である。治療としては、まず骨頭が変形陥没骨折しないように、骨頭に負担をかけないための免荷装具を作ったり、また、歩行や起立に際しては、松葉杖を使い同部に体重をかけないようにするなどの日常生活上の注意を行なう。
なおこの病気の予防としては、肝障害の治療とアルコールを控えることが最も大切である。なおダイビングを行なう方では、時間的余裕をもって行なうことが必要である。
23歳女性、キーパンチャー会社に入って2年位してより、前腕から手にかけての痛みが起こるようになったこの痛みはだんだん強くなり、最近では物をにぎれなくなってきました。
50歳女性、主婦、右手のヒラの中指の付け根のあたりに痛みを感じるようになり、また指を伸ばすのが困難となって、無理に伸ばすとコクンと言う音がして指が伸びると言う状態となった。
手の指の節は、医学用語では指の先の方から遠位指節間(DIP)関節、近位指節間関節(PIP)、中手指節間(MP)関節と呼ばれる。手の指を曲げたり伸ばしたりする(屈曲、伸展)作用を果たしている腱は、指の中で腱鞘、正確には外側の繊維鞘と、その内側で腱との間にある滑液鞘からなる)と言うトンネルの中を通っている。そして腱は手指の動きにあわせて腱鞘のなかを動いている。滑液鞘の中には滑液と言う液があって、手指を動かす際の、腱の滑りをスムースにする作用を果たしている。手指を繰り返し長時間使ったり、慣れない仕事を急激に行なったりするようなことがあると、この滑液鞘に炎症が起こって痛むことになるが、これを腱鞘炎と言う。
成人の腱鞘炎は50歳台の婦人によく見られ、過度の指の使用が原因となっていることが多いと言われる。腱鞘炎は母指(親指)に75%が起こり、中指、環指、小指の順に多い。
なお、いくつもの複数の指に腱鞘炎が起こる時にはリウマチや糖尿病などのチェックを行っておく必要がある。
治療としては理学療法、また腱鞘へのブロック注射が有効。なお、それでも良くならない場合や繰り返して腱鞘炎が起こる場合に腱鞘切開手術が行なわれる。
腱鞘炎は普通、指の屈曲する側、あるいは手首の関節の近くによく起こる。腱や腱鞘の炎症あるいは腫れなどがひどくなると、腱の通り道が狭くなって、手指のMP関節部で手指を曲げたり、伸ばしたりと動かそうとすると、指がひっかかったりするように感じて動かなくなって、それでもさらに力を入れるとカクッと音がして動くようになると言う現象が起こり、こう言ったものをバネ指(弾発指)と呼ぶ。
手をよく使う女性では、手首の関節の背側で母指の側の痛みを起こすことがあるが、これをドオケルバン病と呼ぶ。母指(親指)を広げると手首(手関節)の母指側の部分に腱が張って皮下に2本の線が浮かび上がる。ドオケルバン病では、手首(手関節)の母指側にある腱鞘(手背第一コンパートメント)とそこを通過する以上の腱に炎症が起こった状態で、腱鞘の部分で腱の動きがスムーズでなくなり、手首の母指側が痛み、腫れたりする。母指を広げたり、動かしたりするとこの場所に強い疼痛が走る。短母指伸筋腱は主の母指の第2関節を伸ばす働きをする腱の1つであり、また長母指外転筋腱は主に母指を広げる働きをする腱の1つである。
妊娠出産期の女性や更年期の女性に多く生じる。そして手の使いすぎやスポーツや指を良く使う仕事の人にも多いのが特徴である。手関節背側拇指側の部位に腫脹や圧痛があり、母指と一緒に手首を小指側に曲げると痛みがいっそう強くなる(フィンケルシュタインテスト変法)。自分で調べるには手首を直角に曲げ母指を伸ばしたときに疼痛が増強するか否かで判定する(岩原・野末のサイン)。
30歳女性、手首の背側に小指の先ぐらいの大きさのできものが出来ました。痛みはありませんが、心配です
ガングリオンは、手首の関節のしばしば背中側に出来る、小指もしくは親指の先ぐらいのゴムのような固さのふくらみで内部には粘液が入っている。押しても痛みはない。この病気は10から30歳台の女性に多く、まれに手に行く神経を圧迫して麻痺を起こしたりすることもあるが、癌のような心配な病気ではない。
治療としては、ふくらみの上から金ヅチで叩いたり、あるいは注射器で内部の粘液を抜いたりするとふくらみはなくなり、そのまま治ることもある。しかし再発がみられることが多いようで、再発を繰り返す人には、手術で治すことになるが、手の外科の専門医にしてもらった方が無難である。
53歳の主婦、両手指の一番先の関節が盛り上がり、電話の受話器を持つのも不便なほどです
指先の爪に近い方の関節を第1関節(DIP関節)と言うが、ここが変形して指が動かしにくくなったり、痛んだりする病気である。ヘバーデン結節では、指の第1関節の指先の方の骨の根元が異常に出っ張ってふくれてくる。そして関節の背中がはれてコブが出来たように見えてくる。
最初は痛みが強いが、半年から数年して、ある時期になると痛みが消え、その頃になると第1関節があまり曲らなくなる。しかし、もともと曲る角度の小さな関節なので、日常生活にそれほど不自由になることはない。
この病気は中年以降の女性で手をよく使う人に多く、原因はまだよく分かっていないが、遺伝性があるのではとも言われている。治療にはあまり良い方法はないが、特に寒い時期に痛みが強いので、患部の保温に注意して、消炎鎮痛剤や湿布などの対症療法を行なう。そして就寝時に痛い指を筒状に湿布するとかなり楽になることが多い。
肘が痛くて、タオルをしぼったりすると、そこがよけいに痛みます。
40歳の女性、普段から編み物をよくしていましたが、数週間前より右肘の外側の部分の痛みが強くなり、特にタオルをしぼったりするとひどい痛みが走ったりするようになりました。
テニスなどをやりすぎると肘、特に肘の外側が痛くなってくることがよくある。一般に、これをテニス肘と呼ぶが、正式には上腕骨外側上顆炎と言う。この病気は、テニス以外に手や腕を繰り返し使う方や家事を行なう主婦にもよく見られる。症状としては肘の外側に強い痛みが起こるが、この痛みは物を握ったり、タオルをしぼったりするとひどくなる。そして肘の外側の部分に軽い腫れがあって、そこを押さえると痛み、手の方に痛みが走ることもある。
肘を伸ばした状態で手首の関節を背中側に曲げたり、あるいは腕を回外(外側に回す)したり、回内(内側に回す)したりすると肘の外側の部分に強い痛みが起こる。手関節や手指を伸ばす筋肉は上腕骨の外側上顆部と言うところについている。この病気は、その筋肉を過度に、あるいは長く使った場合、この腱(筋肉の端のことを腱と言う)が上腕骨に付着している部分に強い負担がかかって、そこが炎症を起こして痛むようになるのが原因である。
テニス肘が肘の外側が痛いのに対し、肘の内側の部分に同様の原因で痛みが起こるものを上腕骨内側上顆炎(野球肘)と言う。手関節を曲げる筋肉は上腕骨の内側の部分についているが、野球肘では野球の投球動作の関係でこの部分に繰り返し負担がかかって炎症が起こるため痛むのである。
治療としては痛みの部分に理学療法を行なったり、あるいはブロック注射を行なったりする。こうした治療により普通 2から3ケ月で良くなる。
足の裏が痛くて歩けません。
最近、立ち上がって歩こうとすると足の裏が痛くて、4から5メートルの間は足の裏の痛みのため歩けません。
この病気は体重オーバーの方、立ち仕事の方など、足に負担のかかることが多い方によくみられる。足の裏の土踏まずの形を作っている足底腱膜と言う腱は踵骨と言うカカトの骨に付いている。この付着部には、負担がかかりやすく、ここで慢性の炎症を生じたために痛みが起こるのである。
足底腱膜炎では、歩く時に足の裏に刺すような痛みが起こり、また痛みのため爪先立ちが困難となる。そして足底部の痛みのために歩行が困難となるが、この痛みは起床時に強く、しばらく歩いていると楽になると言う特徴がある。足底腱膜炎では踵骨の足底部分の中央よりやや内側に、押すと強い痛みを認めるのが普通である。治療としては飲み薬、理学療法、あるいは、炎症を起こしている足の裏の部分へのブロック注射が行なわれる。
歩くとカカトの後が痛むんですが。
42歳女性、通勤に地下鉄の長い階段を上がったり降りたりします。半年ほど前から歩いた時に足関節後面の痛みと腫れが起こるようになり、これがだんだんとひどくなってきました。
フクラハギの筋肉であるアキレス腱の下部は、カカトの骨(踵骨)についている。スポーツなどの繰り返しの負担が足にかかると、あるいは長く立ったり歩いたりするようなことがあると、カカトのすぐ上のアキレス腱の付着部に繰り返し負担がかかる。そうするとアキレス腱の付着部に炎症が起こって、その部の腫れや痛みが出てくる。つまり、アキレス腱の動きをスムースにするため、腱の周囲には腱鞘や滑液包が存在しており、そこに炎症が起こって痛むのである。この場合、アキレス腱の付着部から2から5cm以内の部分に腫れがあって、その部分を押さえると痛みがある。そして、ひどい時には歩くのが困難となったりします。
アキレス腱周囲炎では、運動した時については痛みが起こるが、安静にしている時には痛みはほとんどないと言う特徴がある。治療としては理学療法や同部へのブロック注射が有効です。
足の親指が内側に曲ってきて、ひどく痛みます。
60歳、主婦、以前より足の親指が内側に曲っていたが、半年前より靴をはくと痛み が強くなり、また親指の付け根が腫れて徐々に固い袋 状となって痛みがひどくなってきた。
足の親指(母趾)が小指(第5趾)の方へだんだん曲ってきて、母趾の付け根の関節が非常に痛む病気。母趾が内側に曲って、くの字状変形となる。そして外反母指では母趾の付け根のところにある滑液包(かつえきほう)と言う袋の中に炎症が起こって、その部分にこぶが出来て痛むことになる。このこぶのことを、医学用語ではバニオンと言う。
始めの頃は家に帰って靴を脱ぐと痛みがとれるが、病気が進むと家に帰って靴をぬいでも痛みは治らず、親指の付け根がいつまでも痛いと言うようになってくる。
ゲタやぞうりなどはな緒のついた履き物を履いていた頃の昔の日本には、この病気はほとんど見られなかった。ところが最近になって、西洋式の生活スタイル、すなわち靴やハイヒールを履く生活になったことが、近年、この病気が急増している原因と考えられている。また、人間が裸足で歩くことが少なくなった結果、足のアーチ状のカーブが減って土踏まずがなくなる偏平足の方が増えているが、これも外反母趾の方が増えていることに大きく関係している。例えば、外反母指で手術をな受ける方の数の増え方と、日本における革靴の生産量の増え方とが比例している事実があげられる。
外反母指も初期の段階であれば、保存的治療、すなわち治療用の靴をはくとか、湿布をするとか、あるいは足底挿板(そくていそうばん)を使用するようなことで、手術をしないで治すことが出来る。また、進行した方でも手術によって治るようにもなっている。日常生活では、なるべく゛はな緒゛のある履き物を履くと良いが、そうもゆかないから、靴を履く際には、はな緒の変りにガーゼをタバコ位の太さに丸めておいて、母趾と第2趾の間にはさんで絆創膏で止めておくようなことでもかなり治ることがある。
40歳、女性、昨年の暮頃より朝起きた時に、手の指がこわばるようになってきました。その上、次第に手足の関節が痛んで、時には夜も眠れないほどとなりました。
慢性関節リウマチは、いろいろな関節の腫れや痛みを伴う関節炎を主な症状とする慢性の病気である。慢性関節リウマチは全身の結合織と言う部分を侵す病気で、医学用語では略してRA(アールエー)とも呼ばれ、膠原病と言う一群の病気のうちのひとつである。しかしまだ原因がはっきりとは分かっていない。
慢性関節リウマチでは、最初、関節の中にある滑膜と言う部分の炎症から始って、次第に軟骨、さらに骨にも影響して、最後には関節を破壊し、関節の変形や、その機能障害を起こすようになる。また、その他、腱鞘炎(スジの炎症)なども起こるし、貧血、あるいは心臓や腎臓などの症状が出ることもある。病気が進行すると手足や脊椎の関節が破壊され、関節の変形、強直(固くなって動かなくなること)が起こって手足に特有の変形をきたすことになる。慢性関節リウマチは、20から50歳ぐらいの女性に多く(女性は男性の2〜3倍かかりやすい)、現在、日本では約50万人がこの病気にかかっているとも言われ、決して珍しい病気ではない。
朝に起こる手指のこわばりが慢性関節リウマチの初期症状
慢性関節リウマチは、始めは手指の関節や手首の関節のこわばった感じや腫れ、痛みなどの症状で始ることが多く、関節炎は次第に肘、肩、膝関節など全身の関節に広がってくる。なお、手指のこわばり感は、しばしば朝に起こり、それが数時間におよぶこともある。この初期症状である「手指のこわばり」を早く見つけて、出来るだけ早く治療を開始することが、慢性関節リウマチを早目に治してしまうことにつながる。
それ以外に、全身の疲労感や微熱、体重減少などの症状もみられ、また関節に水がたまる症状も結構多い。
痛みの強さは天候に左右されることが多く、曇の日(低気圧の接近)では症状が悪化する方が多くみられる。血液検査では抗CCP抗体陽性、赤沈値の亢進、CRP反応が陽性、リウマチ因子陽性、血液中のα2グロブリンやγグロブリン値の上昇などの所見がみられる。
慢性関節リウマチの経過は大きく3つのタイプに分けられ、病気が進むと次第に関節の運動制限や変形を引き起こしてくる。
すなわち2年以上の間隔で症状の軽快と悪化を何度も繰り返す方が全体の約50%、約2年の経過でほとんど良くなって行く方が約35%、そして残りの15%の方では徐々に悪くなって行くような経過をとる。
薬物療法としては、まず非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAIDと呼ばれます)が用いられます。そして、この薬剤のみではリウマチの活動が治らない方では、遅効性抗リウマチ剤(DMARDと呼ばれます)、ステロイド剤、免疫調節剤などの薬剤が使用される。
なお非ステロイド系消炎鎮痛剤は、一般に胃を荒らすことがありますので、胃薬がいっしょに処方されることが多い。また遅効性抗リウマチ剤(DMARD)は効果が出るまでに1から2ケ月かかるが、ひとたび効果が出ると、劇的に症状の改善が得られることが多い。
足の親指の付け根が赤く腫れてひどく痛むんですが。
40歳男性、ある日、急に足の親指の付け根が赤く腫れて、ひどく痛むようになりました。とにかく非常に痛いのでなんとかして下さい。
痛風は高尿酸血症(血液中の尿酸の値が高い)があって関節炎が起こってくる病気である。関節炎は普通、急激に起こり、関節炎の起こる場所としては、足の母指(親指)の付け根が最も多い。しかし足の関節炎は、いくつかある痛風のひとつの症状に過ぎない。高尿酸血症が続き、尿酸が体内に異常に貯まる状態が何年も続くと、尿酸は体内のアチコチに沈着し害をおよぼすようになる。例えば尿酸性の尿路結石を生じたり、腎臓の障害を起こしたりする。また関節、骨、軟部組織、軟骨に結晶が沈着して出来る痛風結節を生じたりすることもある。
さらに痛風では心臓の問題、すなわち虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)に対する注意が最も大切である。例えば痛風の方の60%以上は心筋梗塞や脳梗塞などの血管の病気で亡くなっていると言うデーターがある。また、先に記したように腎臓の障害で亡くなる方も多い。
血液中の尿酸値が8mg/dl以上、多くは10mg/dl前後で痛風発作が起こってくる。そのため血液中の尿酸の値が8.5mg/dlを越えると治療が必要となる。そして治療によって4.5から5mg/dlになるまで落とすが、下がったからと言って治療をやめてしまうと、すぐに元に戻ってしまう。
さて痛風、高尿酸血症は最近では遺伝病と考えられるようになりつつある。そこで食生活の改善はもちろん大切であるが、それだけでは改善しない場合も多く、やはり継続して薬を飲み続けることが大切であると言える。
さて高尿酸血症で起こる関節炎は半数が母指、足関節(30%)、膝関節(20%)、その他手足の関節に起こる。この病気は95%以上が男性と、圧倒的に男性に多くみられる。肥満、アルコールの飲み過ぎ、食べ過ぎ、運動不足の方では体内からの尿酸の排泄が悪いため、高尿酸血症が起こりやすいと言われる。高尿酸血症は、なかでも肉食や飲酒との関連が高いと言われている。
高尿酸血症の食事療法としては、まず総カロリーの制限(腹8分目)が大切である。次に肉類などプリン体を多く含む食物を取りすぎないようにする。なおビールにはプリン体が多いので控えること。
それでも血液中の尿酸値が高い方では、のみ薬を飲んで頂く必要がある。高尿酸血症では、体内の尿酸の量を常に正常範囲に維持し続けることが大切なので、治療上、薬は痛風の発作の時だけではなくずっと続けてゆく必要がある。薬を飲んで血液中の尿酸の値が下がったからと言って、飲むのをやめてしまうと、尿酸値はすぐに元に戻ってしまうことになる。
「こむら返り」とは、ふくらはぎや足の裏の筋肉が突然けいれんを起こし、強い痛みを伴う状態を言う。就寝中に足を伸ばした時、普段運動不足の人が十分に準備運動をしないままスポーツをした時、冷たいプールで水泳をした時などに起こりやすく、また、糖尿病や肝臓病のある人、高齢者や妊婦の方にも起きやすいと言われる。その原因は、血液中の水分が不足していたり、電解質のアンバランスがあったりすると、筋肉の収縮が正常にできなくなるからだと言う。実際、スポーツなどで多量の汗をかいた時、下痢による脱水が起きている時では、電解質のバランスが崩れ、神経や筋肉は興奮しやすくなる。また、下腿の静脈のうっ血やふくらはぎの腓腹(ひふく)筋の過労が原因で、こむら返りが起こることもある。糖尿病や腎不全、肝硬変のある人では、やはり代謝異常が原因であると考えられている。
こむら返りの予防には、カリウムやカルシウム、マグネシウムなどの電解質を補給するために、野菜や果物、海藻類、牛乳、小魚などをバランスよく食べることが大切。また、ビタミンB1も筋肉代謝には重要な成分なので卵や豚肉、ぬか漬けなど、ビタミンB1を多く含む食品を積極的に摂取することが大切である。また、運動をする際には、準備運動を欠かさないこと、そしてスポーツドリンクなどを飲んで水分や電解質を補給して予防するようにすること。
むくみ(浮腫)は、健康な人にも起こる。例えば、長時間立っていると血液が、その重さのため心臓に戻りにくくなり、足がむくんでくる。むくんでいる部分を指で押して、指の形にへこめば、むくんでいる証拠。靴下の痕がつく場合もむくんでいる。夕方に強くなるけれど、一晩寝て、翌朝にはむくみが消えているような場合は心配ないと考えてよい。しかし、むくみが一日中、あるいは何日も続く。急に体重が増えた。顔やまぶたがむくむ。尿の出が悪い。坂道や階段で息が切れる、疲れやすいなどと言う症状を伴う時は、心配なむくみの場合がある。
1)、心不全では心臓から全身へ血液を送り出すポンプの力が弱まるため、余分な水分(血液)が静脈のうっ血を起こし、足にむくみを起こす。
2)、腎臓病や肝臓病では、血液中のタンパク質が不足し血管の外に水分が出てゆくので足がむくみます。心臓が原因のむくみは足に起こりやすく、腎臓や肝臓病では全身(顔、手足、腹部)に起こりやすい特徴がある。
3)足の静脈瘤では、静脈の流れが障害されて足がむくむ。静脈瘤の場合、外から見てみみずのように曲がりくねった静脈が見えるので、それとすぐに分かる。片側の足だけがむくむ場合は、静脈が詰まっている場合や、骨盤の中に出来た「できもの」でリンパ管が圧迫され。リンパ液の流れが障害されてむくんでいる場合もあり、注意が必要である。
4)甲状腺のホルモンが不足した場合(甲状腺機能低下症)も足がむくむことがある。このむくみは、指で押してもすぐに元に戻り、指の跡が残らない。
5)、いろいろ検査しても病気が見つからないのに、強いむくみが顔や足に起こる方があります。更年期以降の中年女性に多いことから、女性ホルモンの影響と考えられている。
むくみの解消には、寝ている時に、足枕を用いて足を上げるのもひとつの方法である。足の筋肉は、ポンプとして働いて、血液やリンパ液を心臓に戻す働きをしている。足の屈伸運動で足の筋肉、特にふくらはぎを動かすと、血液循環が改善され、むくみを軽くできる。5人のエレベーターガールに休憩時間ごと2分ずつやってもらった結果、ふくらはぎの体積は、足枕(−0.6%)、青竹踏み(−1.0%)。屈伸(−2.4%)。結局、一番効果があるのは屈伸運動ということが分かった。
背中にブツブツが出来て、ひどく痛み、夜も眠れません。
70歳、男性、2ー3日前から左胸の前と後が痛みだし、痛みはだんだんひどくなってきた。そうこうしているうちに痛んだところにブツブツが出できました。
帯状疱疹は帯状疱疹ヘルペスウイルスによる発疹を伴う感染症である。発疹は顔や胸に多く起こる。また帯状疱疹は普通、ひどく痛む特徴がある。
帯状疱疹の起こり方は、次のとおりである。帯状疱疹ウイルスに感染すると、ウイルスは一旦、脊髄神経節の後根と言うところに潜んでしまう。そして、その後、何年もがたってから、何かのきっかけでこのウイルスに対する体の抵抗力が落ちた時に発病することになる。つまり体の体力の落ちた時に発病するため、癌の方に起こることも結構あって、帯状疱疹がきっかけで、逆に癌が見つかったと言う方もある。
帯状疱疹の初期症状は神経痛に似たピリピリとした痛みである。顔や頭では片頭痛や歯痛、胸では助間神経痛と間違えられたりする。この痛みが始って2から3日してから発疹が現れることになる。そこで、発疹が出ない痛みだけの段階で、この病気を診断することはなかなかに難しい。
発疹は最初、虫に刺されたような少しふくれた赤い斑点で、ふれるとピリピリとした痛みがある。しばらくしてこの赤い斑の中に粟粒から米粒の半分くらいの大きさの水泡が現れ、数日のうちに帯のように並んでくる。通常、発疹は神経痛様のかなりの痛みを伴う。
帯状疱疹の出来やすい場所は胸から背中、頭や首、顔などの片側である。なお額から眼のまわりに出来た場合には、眼球が侵されて視力に影響が出ることがあり注意が必要である。
帯状疱疹では早期に適切な治療を行なわないと、帯状疱疹後神経痛(ヘルペス後神経痛)と言って、後で神経痛の後遺症で悩むことになる。
現在、帯状疱疹についてはゾビラックスと言う特効薬が開発されていますので、これを発病早期に使用することが大切である。
また、痛みのひどい時には、硬膜外ブロックと言う注射をしてもらう必要のあることがある。なぜなら、ひどい痛みを放っておくとヘルペス後神経痛になりやすくなるからである。なお、帯状疱疹が出るのにあたっては体の抵抗力が落ちていることが多く、抵抗力が落ちた原因についても一応検査を受けておいた方が良いと思われる。
帯状疱疹の治った後に約10%の方に、何年にもわたって頑固な神経痛が残ることを言う。帯状疱疹後神経痛は、一般に高齢の方に多く、70%が60歳以上の方に起こる。
ヘルペス後神経痛は、持続性のピリピリするような、あるいは焼けるような痛みで、着衣の一部が触れるだけでもひどい痛みが走る。そのため体を全く他人に触れさせようとしない方もある。始めの帯状疱疹の経過を軽く出来れば、帯状疱疹後神経痛を残さないですむと言われる。
骨粗鬆症は、鬆(す)が入ったように骨の中がスカスカの状態、軽石みたいになり、骨がもろくなる病気
骨がスカスカになると、わずかな衝撃でも骨折をしやすくなる。背骨がもろくなると、体の重みで背骨がつぶる圧迫骨折が起こりやすくなり、背中が曲がって猫背になったりする。
骨粗鬆症は圧倒的に女性に多い病気である。閉経を迎える50歳前後から骨量が急激に減少し、60歳代では2人に1人、70歳以上になると10人に7人が骨粗鬆症といわれる。これは、女性ホルモン(エストロゲン)が骨の新陳代謝に関わっているからで、閉経後の女性ホルモン減少による。国内では、約1200万人の患者がいると推定されているが、そのうち約900万人は、閉経により女性ホルモンのエストロゲンが減少することで、骨形成よりも骨吸収が上回り骨量が減少する、いわゆる「閉経後骨粗鬆症」の女性患者であるとされる。60歳以上の女性の3割以上が、閉経後骨粗鬆症に罹患しているとも推定されている。
骨は常に「古くなった骨を取り除き、新しく骨を形成する」という作業が繰り返されている。
骨は一度できあがってしまうと、その後変わらないもののように思われがちであるが、実は古くなり劣化した骨はメンテナンスされて新しい骨へと生まれ変わっている。これが骨の新陳代謝で、「骨のリモデリング(骨改変)」とも言う。リモデリングは、古くなった骨を溶かす破骨細胞と、新しい骨をつくる骨芽細胞の働きによって営まれている。破骨細胞が骨を溶かすことを骨吸収、骨芽細胞が新しい骨をつくることを骨形成と言う。骨吸収が数週間続いたあと、数カ月にわたって骨形成が行われ、溶けた部分に新しい骨が埋められてゆく。
エストロゲンの分泌量が減ると骨吸収が異常に高まり、骨形成が追いつかなくなります。つまり、骨吸収によって溶けてしまった部分を、新しい骨で埋めることが間に合わなくなり、スカスカの状態の骨になってしまうのである。
1、 骨密度検査
2、 「尿NTX(尿検査)」と「BAP(血液検査)」という検査を行い、
骨の代謝の具合を見て、将来どうなるかという予測をたてる。
破骨細胞は骨から古いカルシウムを放り出す。これに対し、骨芽細胞は骨に新しいカルシウムをくっつける。「尿NTX」という代謝マーカーは破骨細胞の活動量を示している。「BAP」という代謝マーカーは骨芽細胞の活動量を示している。若い人では、NTXは35以下で、BAPは29以下であるが、これに対し、高齢者はNTXは35以上、BAPが29以上の数値を示していることが多い。代謝回転亢進の程度が高いほど骨密度の減少が大きくなり、骨折の危険性が高まることから骨密度とともに、骨代謝マーカーが骨折リスクの優れた代用指標と考えられている。
高回転骨粗鬆症患者のほうが骨吸収抑制剤による骨密度の増加が大きい。すなわち骨吸収が亢進している症例には骨吸収抑制剤を選択し、亢進の程度が少ない場合には、その他の薬剤による治療も考慮する。したがって、薬剤の選択に際し骨代謝の評価が参考となる。
骨を形成するにはカルシウムが重要となる。また骨粗鬆症では骨を形成する速さ(骨形成の速さ)よりも骨が溶ける速さ(骨吸収の速さ)の方が上回っている。そこで、骨粗鬆症の治療薬としては「腸管からのカルシウム吸収量を増やす薬」、「骨形成を助ける薬」、「骨吸収を遅らせる薬」の三つが主に使用される。
活性型ビタミンD3製剤
食事で摂取したカルシウムの腸管からの吸収を増す働きがある。また、骨形成と骨吸収のバランスも調整する。
ビスフォスフォネート製剤(アクトネル、ベネット、フォサマック、ボナロン、ダイドネル)
骨吸収を抑制することにより骨形成を促し、骨密度を増やす作用がある。骨粗鬆症の治療薬の中で有効性が高い薬である。ビスフォスフォネートは腸で吸収され、すぐに骨に届き破骨細胞に作用して、過剰な骨吸収を抑える。骨吸収のスピードがゆるやかになると、骨形成による新しい骨が埋め込まれ骨密度の高い骨が出来上がる。ビスフォスフォネートは、破骨細胞に作用して過剰な骨吸収(骨が溶ける状態)を抑えることによって骨密度を増やし、さらに骨の形成を促すのに大きな効能を持つ。歯科治療を受ける際は、歯科医に、この薬を飲んでいることを伝える必要がある。
SERM(サーム:ヱビスタ:塩酸ラロキシフェン)
女性ホルモンの減少にともなう「閉経後骨粗鬆症」のための薬であり、女性ホルモンの卵胞ホルモン(エストロゲン)と同様に作用して、骨を溶かす破骨細胞の寿命を縮めその働きを抑制する。その結果、骨のカルシウム分が血液に溶け出すのを防ぐことにより(骨吸収抑制作用)、骨密度が増加する。骨以外の臓器(乳房や子宮など)には影響を及ぼさない。
カルシトニン製剤(注射薬)
骨吸収を抑制する注射薬。強い鎮痛作用も認められているため骨粗鬆症に伴う背中や腰の痛みに対して用いられる。高齢になるとカルシトニンの分泌量が減少し、骨吸収が進んでしまう。カルシトニンとは副甲状腺から分泌されているホルモンであり、腎臓から尿へとカルシウムが排泄されるのを抑制し、骨にカルシウムをとり込んで骨形成を促進し、また骨吸収を抑える作用もある。