片頭痛は日常生活に大きな影響を及ぼす頭痛であり、その頻度が多いと社会生活がまともに営めなくなる。なかでも、近年、頭痛薬の飲み過ぎで薬物乱用頭痛に陥っている方が増えていることが大きな問題となっている。この場合、原因となった頭痛薬の服用を中止すれば、治ってゆく可能性もあるのであるが、ことはそう単純ではなく、毎日のように頭痛が起こるので、辞めたくても、辞めるに辞められないという方がほとんどである。どうするかと言えば、片頭痛予防薬を服用することによって、頭痛の起こる回数を次第に減らしてゆき、頭痛薬の服用頻度を減少させ、時間をかけて薬物乱用頭痛の状態から脱するという風にして治してゆく方法がとられる。
(薬剤乱用頭痛(MOH:medication overuse headache)、薬剤誘発性頭痛)。
薬物乱用頭痛に多いパターンは、次のようなものである。
若い頃から頭痛持ち、これまでは頭痛は市販の鎮痛剤で治っていた。しかし年々、薬の効果が無くなってきた。そこで薬を変えてみたり、増やしたりするが効果がない。このところ毎日のように朝起床時から頭痛があり、そのたびに頭痛薬を飲んでしまう。頭痛が怖いので、不安から、つい頭痛が起こる前に鎮痛剤を服用してしまうようなことも増えてきた。そうこうしているうちに頭痛は毎日起こるようになった。
薬物乱用頭痛とは、鎮痛剤痛み止め)などの頭痛薬を飲み過ぎることにより引き起こされる難治性の頭痛である。乱用される頭痛薬には、NSAIDsなどの鎮痛薬(痛み止め)、エルゴタミン(クリアミンA)、トリプタンがある。
頭痛が起こるから頭痛薬を飲む、それを繰り返しているうちに頭痛薬の飲み過ぎのせいで頭痛の頻度が増えてきてくる。そうこうしているうちに、頭痛が起こることへの不安から頭痛薬を予防的に服用したりするようになったりして、さらに飲む回数や量が増えてゆく。そして悪循環を形成し、頭痛薬の飲み過ぎのせいで頭痛が毎日起こるようになってしまうことになる。慢性連日頭痛である。
しかし、鎮痛剤を連用すれば、誰でも薬物乱用頭痛になるわけではない。例えば、長期にわたり大量に鎮痛剤が使用される関節リウマチの方では、薬物乱用頭痛が問題となることはまずない。すなわち薬物乱用頭痛の大多数に、元々、片頭痛があることが分かってきた。すなわち薬物乱用頭痛は、素因としての感受性のある患者(主に片頭痛の体質をもっている患者)に起こる病態である。
なお、いわゆる痛み止めだけではなく、片頭痛特効薬であるトリプタン系薬剤でもやはり過剰の使用により薬物乱用頭痛が出現する。トリプタン系薬剤乱用による薬物乱用頭痛では、頭痛の性質として従来からある片頭痛の重症化や頻度の増加として現れることが多い。
ほとんど毎日のように頭痛が起こる場合の頭痛を言う。緊張型頭痛が慢性的に続く慢性緊張型頭痛と、片頭痛の方が薬の飲み過ぎでこじらせて慢性化してしまった変容性片頭痛(変換型片頭痛)との、ふたつのタイプがあり、どちらのタイプも頭痛薬の飲み過ぎ(薬剤乱用性頭痛)が関係していることが多い、やっかいな病態。頭痛薬を毎日飲んでいるうちに頭痛の回数が増えてゆき、毎日頭痛が起こるようになってしまう。そうならないためには、頭痛薬の服用を月10回までにすることが大切。
これで治す最先端の頭痛治療 「慢性頭痛の診療ガイドライン」市民版(旧版)
慢性連日性頭痛は(chronic daily headache:CDH)は、1日に4時間以上の頭痛が1ヵ月に15日間以上、3ヵ月を超えて続く頭痛です。生活支障度も高く、臨床の場合では重要な頭痛群です。変容性片頭痛、慢性緊張型頭痛、新規発症持続性連日性頭痛、持続性片側頭痛のサブタイプがあります。
変容性片頭痛は、もともと片頭痛があり、頻度が増して連日化した頭痛をいいます。国際頭痛分類第2版では、薬物乱用頭痛、慢性片頭痛などの病名がつく頭痛です。慢性緊張型頭痛は片頭痛の特徴のない頭痛が連日続く頭痛です。持続性片側頭痛と新規発症持続性連日性頭痛はまれなタイプの慢性連日性頭痛です。
(1)薬剤の連用が引き金となって痛みに対する感受性の亢進、すなわち脳が痛みに敏感になる。すなわち弱い痛みでも強い痛みとして感じてしまう。
(2)片頭痛を抑制する働きがあるセロトニンの、慢性的な枯渇状態を引き起こすことが原因と考えられている。
(日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会 訳:国際頭痛分類 第3版)
以前から頭痛疾患をもつ患者において、頭痛は1ヵ月に15日以上存在する
1種類以上の急性期または対症的頭痛治療薬を3ヵ月を超えて定期的に乱用している。
8.2.2 トリプタン乱用頭痛:3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的にトリプタンを摂取している
8.2.3 単純鎮痛薬乱用頭痛:3ヵ月を超えて、1ヵ月に15日以上、単一の鎮痛薬を摂取している
8.2.5 複合鎮痛薬乱用頭痛:3ヵ月を超えて、1ヵ月に10日以上、定期的に複合鎮痛薬を摂取している
ロキソプロフェンナトリウム製剤(ロキソニンSなど)
ロキソニン
バファリンEX (解熱鎮痛成分は、ロキソプロフェンナトリウム水和物)
非ピリン系鎮痛剤(イブプロフェン、アセトアミノフェンなど)
イブクイック(イブプロフェン、アリルイソプロピルアセチル尿素、無水カフェイン)
タイレノール(アセトアミノフェン300mg)
バフアリンプレミアム
(イブプロフェン、アセトアミノフェン、無水カフェインアリル、イソプロピルアセチル尿素)
ノーシン(アセトアミノフェン 30mgエテンザミド 160mgカフェイン水和物 70mg
バファリンA アスピリン(アセチルサリチル酸)
アスピリンは名前に「ピリン」の文字が入っているが、ピリン系の鎮痛剤ではない。
ピリン系鎮痛剤(イソプロピルアンチピリン配合剤)
セデス(イソプロピルアンチピリン、アセトアミノフェン250mg、無水カフェイン)
なお、市販の OTC 医薬品の多くが薬剤依存性をもつカフェインやブロムワレリル尿素を含んでいる
イミグラン(スマトリプタン)
マクサルト(リザトリプタン)
アマージ(ナラトリプタン)
ゾーミッグ(ゾルミトリプタン)
レルパックス(エレトリプタン)
片頭痛予防薬として用いられる薬剤を以下に示す。
なお、片頭痛予防薬は一般に速効性はなく、効果が出てくるのに1ヵ月はかかるので、根気よく服用することが大切である。1ヵ月以上服用しても効果が感じられない場合は他の予防薬に変更するか、他の薬剤を追加投与する。
Ca(カルシウム)措抗薬であるミグシス(塩酸ロメリジン)は、わが国で開発された薬剤で片頭痛予防薬の第一選択薬のひとつである。10〜20/日を用いる。保険適用が認められている。血管拡張薬であるミグシスが片頭痛予防に有効なのは、片頭痛の第一段階である「脳血管収縮」を抑制するからであるという。
ミグシスの臨床効果
頭痛発作回数の推移:12〜36週後で有意な減少を認めた。
頭痛平均持続時間、頭痛薬消費量(使用量)も有意な減少を認めた。
全般改善率(改善以上は55.2%)
プラセボとの二重盲検比較試験では10mg/日で64.4%、20 mg /日で66.7%(対照は33.3%)
前駆・随伴症状(閃輝暗点、悪心・嘔吐)にも30%程度の有効率あり
添付文章 ミグシス 片頭痛治療剤
【効能・効果】片頭痛
【用法・用量】通常、成人には塩酸ロメリジンとして1回5mgを1日2回、朝食後及び夕食後あるいは就寝前に経口投与する。なお、症状に応じて適宜増減するが、1日投与量として20mgを超えないこと。
ワソラン(ペラパミル)は120〜240mg/日を用いる。徐脈、心抑制、便秘に注意する。
どちらかと言うと群発頭痛の予防によく用いられる。
社会保険診療報酬支払基金 審査情報提供事例(薬剤)211 ベラパミル塩酸塩(1)(循環器科4・神経21) 原則として、「ベラパミル塩酸塩【内服薬】」を「ベラパミル感受性心室頻拍」、「片頭痛」、「群発性頭痛」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
デパケン(バルプロ酸は)、片頭痛予防効果のエビデンスがある。欧米ではすでに片頭痛治療薬として約20年の使用経験が蓄積されており第一選択薬のひとつである。わが国でも保険適用が認可された。用量に関しては種々の報告があるが、本邦では400mg〜600mg/日が推奨されている。バルプロ酸は妊娠中の患者には禁忌である。妊娠可能な女性に使用する際には、投与量1,000mg以下、血中濃度70ug/m/ 以下、徐放錠を用い他の抗てんかん薬と併用しないようにする。 400μg/日の葉酸を食事ないしサプリメントから摂取するよう推奨されている。
頭痛診療ガイドライン
デパケン(バルプロ酸ナトリウム)は500〜2000mg/日の用量を用いた7件以上の試験でプラセボより有意に片頭痛を改善ずることが示されている。罹病期間が2年以上で、4回/月以上の片頭痛発作のある片頭痛患者32名を対象にした試験 では、平均発作回数がバルプロ酸治療投与期には8.8±6.6回/月で、プラセボ期の15.5±8.3回/月より有意に少なくなった(p<0.001)。バルプロ酸は難治性の片頭痛の治療に特に有効との報告や、インデラル(プロプラノロール)との比較試験で、ほぼ同等の有効性が示されている。
添付文章
片頭痛発作の発症抑制 通常1日量バルプロ酸ナトリウムとして400〜800mgを1日1〜2回に分けて経口投与する。なお、年齢・症状に応じ適宜増減するが、1日量として1,000mgを超えないこと。
グルタミン酸AMPA受容体措抗作用があるトピナ(トピラマート)は、バルプロ酸とほぼ同等の有用性が示されている。片頭痛の予防に対し推奨されるトピラマートの1日総投与量は 100mg/日(1日2回) である。 成人への投与は25mg(就寝前、1週間)から開始し、以後、1週間ごとに25mg/日ずつ 増量すること。海外での評価の高いトピラマートだが、日本では現在、片頭痛の保険適応とはなっていない。
インデラル(β遮断薬、プロプラノロール)は海外でも、わが国の慢性頭痛診療ガイドラインでも第一選択薬のひとつとして推奨されている。20mg〜60mg/日の用量が使用されている。海外では多くの臨床試験で片頭痛予防における有用性が示されており、高用量の120〜240mg/日が推奨されている。
β遮断薬の抗片頭痛作用は末梢性のβ遮断作用のみではなく、中枢における神経伝達にも関与する可能性が示唆されている。妊婦にやむをえず予防療法を行う場合はプロプラノロールが選択される。インデラルはトリプタン系薬剤であるリザトリプタン(マクサルト)の血中濃度を上昇させるため、併用は禁忌とされている。片頭痛に対するプロプラノロール(インデラルR)による治療が2012年8月31日より保険適用となった。
添付文章
片頭痛発作の発症抑制に使用する場合 通常、成人にはプロプラノロール塩酸塩として1日20〜30mgより投与をはじめ、効果が不十分な場合は60mgまで漸増し、1日2回あるいは3回に分割経口投与する。
プロプラノロールによる片頭痛治療ガイドライン(暫定版)
プロプラノロールはβ遮断薬で、主に高血圧、冠動脈疾患、頻拍性不整脈の治療薬として使用されるが、片頭痛予防薬としても使用され、プラセボと比較した多くの良質の臨床試験で有用性が示され、メタアナリシスも行われている。作用機序、薬理学的根拠はいまだ明確でない点が多いが、末梢血管や自律神経へのβ遮断作用ばかりでなく、中枢における神経伝達に関与する可能性も示唆されている。
海外では、European Federation of Neurological Science(EFNS)の片頭痛治療ガイドラインでプロプラノロール40〜240mg/dayが片頭痛予防薬としてレベルAで推奨されている。また、 American Academy of Neurologyの片頭痛ガイドラインでもプロプラノロールはグレードAで推奨されており、プロプラノロールは片頭痛予防薬として国際的なコンセンサスが得られている。
片頭痛予防療法に対するプロプラノロールの承認用量は、米国では80〜240mg/日、英国では80〜160mg/日であるのに対し、わが国の高血圧などの循環器系疾患に対する承認容量は30〜60mg/日と低用量である。
頭痛診療ガイドライン(日本頭痛学会)
プロプラノロールは片頭痛の予防に有効か、また、片頭痛の予防薬としてプロプラノールは国際的なコンセンサスがあるか
月に2回以上の頭痛発作がある片頭痛患者にプロプラノロールを経口投与すると、1ヵ月あたりの発作回数を減少させることが期待できる。欧米のガイドラインでもプロプラノロールは片頭痛予防薬の第1選択薬のひとつとして推奨されている。
片頭痛治療に用いるプロプラノロールの用量はどの程度か
成人にはプロプラノロール20〜30mg/日より投与をはじめ、効果が不十分な場合には60mg/日まで漸増し、1日2回あるいは3回に分割経口投与する。
トリプタノール(三環系抗うつ薬、アミトリプチリン)は片頭痛の予防に有用である。眠気を訴えることがあるので、低用量(5〜10mg/日、就寝前)から開始し、効果を確認しながら漸増する。10〜60mg/日が推奨されている。慢性頭痛患者はしばしば抑うつ状態を併発しているが、臨床的に抑うつ状態に無い症例においても、アミトリプチリンの片頭痛予防効果がみとめられる。
頭痛診療ガイドライン
抗うつ薬(アミトリプチリン)は?頭痛の予防に有効か
アミトリプチリンは片頭痛の予防に有用である。低用量(10〜20mg/日、就寝前)から開始し、効果を確認しながら漸増し10〜60mg/日の投与が推奨される。
多くの抗うつ薬は、中枢神経系の神経細胞外のセロトニンやノルエピネフリンの濃度を高めることにより、抗うつ作用を発揮すると考えられている。抗うつ薬の抗片頭痛作用のメカニズムは不明であるが、片頭痛の病態にセロトニンなどの神経伝達物質の関与が示唆されており、古くから各国で使用されている。
三環系抗うつ薬は、抗コリン作用による副作用(眠気、口渇等)が、よく知られているが低用量から用いることにより副作用を軽減することができる。
トリプタノール(アミトリプチリン)とインデラル(プロプラノロール)との比較は2試験が行われている。アミトリプチリン50〜150mg/日とプロプラノロール80〜240mg/日が8週間の治療期間の評価でほぼ同等の片頭痛予防効果を示した。アミトリプチリン25-75mg/日とプロプラノロール60〜160mg/日を6ヵ月以上にわたり比較検討した報告では、いずれも有効であるが、緊張型頭痛を合併している片頭痛患者では、プロプラノロールよりアミトリプチリンの方が高い有効率を示した。
社会保険診療報酬支払基金 審査情報提供事例(薬剤) 275アミトリプチリン塩酸塩(2)(神経24)原則として、「アミトリプチリン塩酸塩【内服薬】」を「片頭痛」、「緊張型頭痛」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認める。
呉菜英湯(ごしゅとう)は片頭痛に対して有効性が報告されている代表処方である。
呉茱萸湯は古くから片頭痛の治療薬として用いられてきた漢方薬であり、飯田市立病院総合診療科医長の丸山哲弘氏は、呉菜英湯とカルシウム拮抗薬の慢性片頭痛改善効果をクロスオーバー比較試験で評価した結果、呉菜英湯が慢性片頭痛治療の第一選択薬となりうることを明らかにした。
丸山哲弘.片頭痛予防における呉菜莫湯の有用性に関する研究一塩酸ロメリジンとのオープン・クロスオーバー試験。 痛みと漢方2006; 16: 30-9。
有効性に関する記載ないしその要約
片頭痛患者に対し塩酸ロメリジン(ミグシス)とのオープン・クロスオーバー試験を行い塩酸ロメリジンより高い有効性を示した。
五苓散(ごれいさん)は片頭痛に効果がある。五苓散は片頭痛を含む頭痛診療や硬膜穿刺後頭痛での有効性が知られており幅広く使用されている漢方薬である。五苓散は最近、脳浮腫や慢性硬膜下血腫などに対する臨床効果注目されている。五苓散には強い鎮痛作用を有する生薬は含まれないが、体内の水分代謝異常を調整し、浮腫状態では利尿作用、脱水状態では 抗利尿作用を発揮する利水薬として古くから用いられてきた。脳内を含め、体内には、その水分バランスに関係しているアクアポリンというタンパク質がある。雨の降る前の日に片頭痛を起こす方がしばしばあるが(天気頭痛)、気圧が低下する際には、このアクアポリンの水分調節作用が病的になるため頭痛を起こし、五苓散はこの水分バランスを適正にコントロールする事で頭痛予防効果を発揮するのではないかと推測されている。呉茱萸湯との併用を進める意見がある。
小児の片頭痛予防には、シプロヘプタジン(ペリアクチン)(就寝前1回投与 0.1mg/kg/日、最大4mg/日)が用いられる。眠気を訴えることがあるので、低用量から開始し、症状をみながら増量する。その他。小児に用いられる片頭痛予防薬には、トリプタノール(アミトリプチン0.25mg/kg/日、最大10mg/日就寝 前分1)、インデラル、レスリン(トラゾドン)などがある。
ARB(アンジオテンシンIIタイプ1受容体拮抗薬)やACE(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)といった降圧薬(血圧を下げる薬)が片頭痛の予防薬として有効であることは国際的には認められている。しかし、わが国では未だ保険適用が認められていない。しかし高血圧と片頭痛を併せ持つ患者さんには有用な予防薬であると考えられる。なかでもカンデサルタン(ブロプレス)、オルメサルタン(オルメテック)、リシノプリル(ゼストリル、ロンゲス)には有効性を示すエビデンスがある。
従来の片頭痛予防療法は連日の内服が必要で、効果が不十分な場合もあった。2021年に片頭痛予防注射剤、抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide:CGRP)抗体と抗CGRP受容体抗体の使用が承認された。抗CGRP抗体としてガルカネズマブ(エムガルティ)、フレマネズマブ(アジョビ)、抗CGRP受容体抗体としてエレヌマブ(アイモビーグ)があり、皮下注射で1ヵ月ないしは4週間に1回、フレマネズマブ(アジョビ)については12週間に1回の投与も可能とされている。
CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチドという物質)は頭の硬膜や三叉神経にあり、片頭痛発作時の血管拡張や炎症反応の直接の原因とされている。この薬は、CGRPの働きをブロックすることで、発作を減らし、また発作を軽いものにすることができる。
エムガルテイ:初回2本その後月1回注射を行う。
エムガルティは、反復性および慢 性片頭痛に対する予防薬としての安全性と有効性が複数の大規模プラセボ対照ランダム化二重盲検試験によって実証されている。また、既存の片頭痛予防治療薬で治療が奏功しない症例に対しても有効性が確認されている(強い推奨、エビデンスの確実性:A)CGRP 関連新規片頭痛治療薬ガイドライン(暫定版)。臨床試験では慢性片頭痛や他の予防薬の効果が不十分な例で、片頭痛の日数が半減している。実際には平均で月の片頭痛の日数が8.6日から3.6日分減った。多くの例で使用開始翌月には効果が出ているという。
アジョビ:4週間おきに1回1本あるいは12週間おきに1回3本の皮下注射を行う。
片頭痛予防薬内服の有無にかかわらず、片頭痛の日数が減少する。
反復性片頭痛、慢性片頭痛ともに、片頭痛日数が初回投与1週目から減少するという。
1ヵ月当たりの片頭痛日数は、フレマネズマブ1回/12週投与群で−4.02日、1回/4週投与群で−4.00日であった(ともにプラセボ群と比較してp<0.0001)。1ヵ月当たりの急性期頭痛治療薬の使用日数のベースラインからの平均変化量(各群ベースラインでは約8日の使用を報告)は、1回/12週投与群で−3.29日、1回/4週投与群で−3.30日であった(ともにプラセボ群と比較してp<0.0001)。
米国・アルベルトアインシュタイン医科大学のDawn C. Buse氏らは、片頭痛に対する抗CGRP抗体フレマネズマブの長期的(52週間)な安全性および有効性を評価するために実施された延長試験を完了した。The Journal of Headache and Pain誌2020年9月4日号の報告。フレマネズマブの平均満足度は、6.1±1.4(非常に不満:1〜非常に満足:7で評価)であった。
アイモビーグ:4週間に1回皮下注射を行う。
片頭痛患者様における64週後の片頭痛日数50%減少率は64.8%。片頭痛の発作回数の減少、発作時の内服薬の減少、片頭痛による痛み、日常生活への影響が軽減されるという。
片頭痛急性期治療:NSAIDsよりトリプタン推奨
今回の改訂において、片頭痛の急性期治療におけるトリプタンとNSAIDsを文献から比較、分析した結果、トリプタンで有意に投与2時間後の頭痛消失率が高く、24時間以内の再発率が低いことが示された。多職種および患者代表も参加したGRADE方式による検討の結果、トリプタンを使用できない症例を適切に除外することで利益が不利益を上回るとされた。なお、推奨文の付帯事項として、片麻痺性片頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛でのトリプタンの使用は非推奨となっている(CQII-2-3)。
片頭痛の急性期治療はトリプタン製剤、制吐薬(吐き気止め、消化管機能改善剤)である。これらを組み合わせて使うと効果的である。頭痛が起こってからなるべく早く、1時間以内に薬を使うことが大切である。皮膚アロディニア(しびれ、感覚異常)が起こってからではトリプタン製剤の効果は減る。トリプタン製剤は十分な量を使用し、効果がなければ別のトリプタン製剤に変えてみると有効なことがある1ヵ月に10日以上、片頭痛発作がある時は、予防治療を考慮する。
片頭痛予防療法の対象:「生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上」に
CGRP関連薬剤を含む予防療法の対象について、今回のガイドラインでは推奨事項が変更されている。旧版では、「片頭痛発作が月に2回以上、あるいは生活に支障をきたす頭痛が月に6日以上ある患者」とされていたが、今回「片頭痛発作が月に2回以上、生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある患者」に改訂された(CQII-3-1)。海外のガイドラインなどを検証した結果、ほとんどの国で3日を超える場合として定義されており、委員会での検討のうえ変更され、より多くの患者が対象となる。
片頭痛予防薬:CGRP関連薬剤を強く推奨、開始1週間で効果がみられるケースも
2021年、本邦では抗CGRP抗体ガルカネズマブ、フレマネズマブ、および抗CGRP受容体抗体エレヌマブが片頭痛予防薬として相次いで承認された。本ガイドラインでも予防薬としてGroup 1(有効)に位置付けられ(CQII-3-2)、強い推奨/エビデンスの確実性Aとされている(CQII-3-14)。
適応外使用が認められた抗うつ薬のアミトリプチリンが予防薬のGroup 1(有効)として今回新たに追加されている(CQII-3-2)。