脳卒中とは?

脳卒中とは?

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  1. 脳卒中の現状
  2. 脳卒中の分類
  3. 脳卒中の特徴
  4. 脳出血
  5. 脳梗塞
  6. 脳塞栓
  7. 一過性脳虚血発作
  8. 無症候性脳梗塞
  9. 慢性脳循環不全
  10. 脳卒中と血圧
  11. 長寿地域の研究
  12. くも膜下出血
  13. 未破裂脳動脈瘤

三大成人病と言えば、皆様、ご承知の癌、脳卒中、心臓病ですが、脳卒中とは、いったいどんな病気なのかと言う点につきましては、実際のところあまり良く知られていません。これでは、この病気に対する十分な予防など行えないでしょう。

脳卒中とは?

脳卒中は、現在、正式には脳血管障害と言う名で呼ばれる病気です。脳卒中とはひとつの病気ではありません。この病気は脳血管障害と言う言葉のとおり、脳の血管になんらかの障害が起こることによって発病するいくつかの病気を集めて、そう呼んでいるのです。脳の血管に起こる障害は大きく分けて、ふたつのタイプの病気に分れます。ひとつは脳の血管が破れて出血するタイプで、それには脳出血やくも膜下出血があります。もうひとつは脳の血管がつまり血液が流れなくなって起こるタイプで、それには脳梗塞や脳血栓があります。脳卒中の最大の特徴は、今まで全く症状のなかった人に、晴天の霹靂(へきれき)のように突然に起こることです。そこで、手足の麻痺やしびれなどが突然に起こった時には、たとえそれが軽くても、脳卒中を疑うことが大切です。なお脳卒中は、かかってからでは、手遅れになることも多く、結局、普段から、それにかからないように予防しておくことが最も大切です。脳卒中でも、そのタイプによって危険因子はそれぞれ異なっているのですが、例えば、脳出血の最大の危険因子は「高血圧」です。血圧が高くても一般に症状といったものはなく、痛くも、かゆくもありません。しかし、血圧の高い状態が長く続きますと、知らないうちに脳の血管が次第に蝕(むしば)まれてしまい、ある日、脳の血管が破れて脳に出血することになります。ところで最近の日本では、脳出血が減って、脳梗塞が非常に増えてきています。

1.脳卒中の現状

高齢化社会の到来とともに、脳卒中にかかる方が増えている

近年、日本は急速に高齢化社会を迎えつつあり、その結果、お年寄りの方がどんどん増えています。ところで脳の病気にもいろいろなものがあるのですが、その中で、年配の方々にとって、最も身近な病気が脳卒中なのです。

脳卒中は最近、増加傾向にあり、なかでも脳梗塞が増えている

例えば、現在でも脳卒中は日本人の死因の第2位となっていますが、年配の方を中心に、この脳卒中にかかる方がさらに増えているのです。なお、脳卒中のなかでも脳の血管がつまることによって起こる脳梗塞(のうこうそく)が著しく増加しているのが、最近の脳卒中の特徴と言えます。

2.脳卒中の分類

脳卒中はひとつの病気ではなく、なかには脳出血や脳梗塞、くも膜下出血などがある

脳卒中は、現在、正式には脳血管障害と言う名で呼ばれる病気です。すなわち、この病気は脳血管障害と言う言葉のとおり、脳の血管になんらかの障害が起こることによって発病するいくつかの病気を集めて、そう呼んでいるのです。例えば、心臓病と言いましても、その中には心不全や心筋梗塞、あるいは不整脈など、いくつもの病気が含まれていますが、それと同じことで、脳卒中とは総称であって、ひとつの病気ではありません。

脳卒中の分類

  1. 血管が破れて出血するもの   脳出血、くも膜下出血
  2. 血管がつまるもの       脳梗塞、脳血栓

さて、脳卒中、すなわち脳の血管に起こる障害は大きく分けて、ふたつのタイプの病気に分れます。ひとつは脳の血管が破れて出血するタイプで、それには脳出血やくも膜下出血があります。もうひとつは脳の血管がつまって血液が流れなくなって起こるタイプで、それには脳梗塞や脳血栓があります。

3.脳卒中の特徴

脳卒中は突然に起こるのが最大の特徴

脳卒中は、その原因が分かっていなかった昔には、「中風」と呼ばれていました。この「中風」と言う言葉のうちの「中」と言う文字には、「何かにあたる」と言う意味があって、脳卒中は「悪い風にあたって突然に倒れる病気」と言うふうに考えられていたため、そう呼ばれていたのです。それから、しばらくしますと「卒中」と呼ばれるようになりましたが、「卒中」と言う言葉のうちの「卒」と言う文字には、「にわかに、急に、突然に」と言う意味があって、「なにかに急にあたって、突然に倒れる病気」と言うふうに考えられていました。

手足のしびれや麻痺(力がはいらない)、言語障害などの神経の症状が突然に起こった時は、脳卒中を疑う

近年になって、この病気の原因が脳にあることが分かり、最初に脳と言う文字がついて、脳卒中と呼ばれるようになったのです。

脳卒中は、何の前触れもなしに、ある日、突然に起こる

一方、脳卒中のことを、西洋では、古くからストロークと呼んでいました。これは「打つ、たたく」と言う意味のストライクと言う言葉に由来しています。脳卒中の原因の分からなかった時代には、「神の手でたたかれて急に倒れる病気」と言う風に考えられていたため、こう呼ばれていたのです。以上から分かりますように、脳卒中の最大の特徴は、今まで全く症状のなかった人に、晴天の霹靂(へきれき)のように突然に起こることなのです。

脳卒中の予防には、普段から高血圧、高脂血症、糖尿病、心臓病などの危険因子に対処しておく

さて、脳卒中にかかる方は、単に年をとったからと言うばかりではなく、ほとんどの場合、以前から、何らかの危険因子と呼ばれるもの、例えば高血圧とか、高脂血症(血液中のコレステロールが高い)、糖尿病、あるいは心臓病などと言ったものを長い間、持っておられ、それを基にして発病することが多いのです。

4.脳出血

脳出血の危険因子は高血圧

病気によって危険因子はそれぞれ異なっているのですが、例えば、脳出血の最大の危険因子は「高血圧」です。なお、かっての日本では脳出血にかかる方が多く、なかでも東日本(東北地方)で多かったのです。その理由は第1に塩分摂取が多くて高血圧の人が多かったこと、第2に動物性脂肪の摂取が不足しており血液中のコレステロールが低い方が多く、そのために動脈の壁がもろくなって、脳に出血する人が多かったことがあげられます。つまり血液中のコレステロールは高くてもいけませんが、逆に低すぎて(150mg/dl以下)もいけないのです。すなわち脳出血の第2の危険因子として、動物性脂肪や良質のタンパク質の摂取不足をあげることが出来ます。

血圧が高くても痛くも、かゆくもないが、そのうち血管がやられてしまう

普段、血圧が高くても普段、症状といったものはなく、痛くも、かゆくもありません。しかし、血圧の高い状態が長く続きますと、知らないうちに脳の血管が次第に蝕(むしば)まれてしまい、ある日、脳の血管が破れて脳に出血することになります。

高血圧が長く続きますと全身の臓器に障害が起こってきます。なかでも脳、心臓、腎臓は特に高血圧によって特に障害を受けやすい臓器です。また同じ脳の中でも特に高血圧に弱い部位があるようです。高血圧が長く続きますと、そういった部分の血管はもろくなって、ついには破れて出血を起こすことになります。脳の中でも大脳基底核(きていかく)と言う大脳の中央にある部分が最も出血が多い部位です。そしてこの大脳基底核のうちでは被殻(ひかく)と視床(ししょう)と呼ばれる2つの部位に多く、出血した場合、それぞれ被殻出血、視床出血と言います。この被殻や視床のすぐ近くには内包(ないほう)と言う部分があります。この内包は脳の運動中枢から手や足へ行く命令の通り道として重要な所です。被殻や視床に出血した場合にはこの内包が同時に障害を受けることが多く、それによって半身の手や足、また顔面の麻痺が起こることになります。さらにこの大脳基底核のすぐ下には脳幹部(のうかんぶ)という大事なところがあり、意識や呼吸、そして循環(心臓)をつかさどっています。すなわち大脳基底核部の出血が大きくなりますと脳幹部の障害のため意識の障害が出現し、昏睡状態となってゆき、ついには生命の危険を生じることになります。

この大脳基底核以外にもやや少ないのですが、出血のよく起こる部位があります。それは大脳皮質下(ひしつか)、橋(きょう)そして小脳(しょうのう)です。このうち小脳は大脳基底核よりさらに脳幹部に近いため生命の危険を生じやすく、ここに出血した場合には救命のために早く手術を行う必要のあることがほとんどです。一方、橋は脳幹部の一部であり、ここに出血した場合はまず助かりませんし、手術も出来ません。

脳の中の出血はCTスキャン検査で白く写ります。このCTスキャンでは出血を起こした脳の部位や大きさがたちどころに診断出来ます。先に説明しましたように脳出血にもいろいろな部位のものがあり、出血の起こった部位また出血の大きさによって治療が異なります。そのためCTは、現在ではなくてはならない検査となっています。ところが高血圧の方には長い年月にわたり自覚症状のないことがほとんどですので、すすんで血圧を計ってもらおうという方は少なく、また血圧が高いと分かっても治療を受けようという方はさらに少ないのが現状です。そして大部分の方は結局、病気にかかってはじめてしまったと思うことになります。

高血圧を悪化させる因子には次のようなものがあります。すなわち塩分の取りすぎ、飲酒、肥満、ストレス、寒冷などです。寒さは血管を収縮させ血圧を上げます。そのため通常夏よりは冬には血圧が高くなります。冬にトイレの中やふろ上がりの脱衣場、また玄関先などで脳出血を起こす方が多いのは、暖かい所から急に寒い所に出たため血圧が急激に上昇するためです。

 

高血圧の方は以下のような注意が必要です。

  1. ストレスを避け、生活を規則正しくする。
  2. 塩分すなわち塩辛いものを極力控えます。
  3. 冬には寒さを防ぎ、室温を一定にする。急に寒いところに出たりせず、外出時には暖かい服装を心がけます。
  4. 肥満を防ぎ、適度な運動に心掛ける。運動は毎日少しずつ持続して、体力に見合った程度で行うことが大切です。まず散歩やラジオ体操を行うことが最も良い方法で、また車に頼らずになるべく歩くようにします。
  5. お酒は控えます。タバコはすぐにやめます。
  6. 薬は一度飲み始めたら勝手にやめてはいけません。せっかくの今までの努力が無駄になります。夏は一般に血圧が下がり、冬には血圧が上がります。従って同じ薬の量を続けていても血圧が変動することがありますので必ず定期的に外来を受診しチエックを受ける必要があります。

脳卒中には、かかってからでは手遅れ、かからぬように普段から予防しておく

そうなれば、突然に手足の麻痺や言語障害、あるいは、ひどい時には昏睡状態となって発病することになります。しかし、そうなってからでは手遅れのことが多いのです。

普段から、高血圧や高脂血症などの危険因子に対処しておくことによって、脳卒中を予防出来る

そこで、このような危険因子のある方では、前もって、それに対処しておくことが大切で、それによって脳卒中などの発病を予防することが出来るのです。

脳の中でも、大脳基底核と言われる大脳の中央にある被殻(ひかく)と視床(ししょう)と言う部分の動脈(穿通枝)は、高血圧に特に弱くて、破れ易く、そこで脳出血はこの部分に好発します。次いで小脳、そして皮質下(ひしつか)と言う部分の順に起こりやすいのです。

いずれにしましても、脳出血は大きくなると生命にかかわることが多く、また、例えそうでなくとも手足の麻痺などの後遺症を残すことが多い病気で、以後の人生にハンデイキャップを背負うことになります。

脳卒中では、いったんかかると手足の麻痺や言語障害などの後遺症背負うことが多い

なお、一般に脳出血の原因は高血圧ですが、高齢者の方の皮質下出血の原因としては、それ以外にアミロイドアンギオパチーと言われるものも多く、これは動脈の壁にアミロイドと言う物質が沈着して動脈が破れやすくなって脳に出血するものです。

脳出血は血圧の上がりやすい冬に多い

血圧は夜間に下がりやすいことから、血管がつまる脳梗塞は夜間に起こって、朝、起床時に気付くことが多いのです。一方、脳出血は血圧の上がりやすい日中に多い特徴があります。さらに血圧は一般に寒い冬に高くなって、暖かい夏には下がることが多いため、脳出血は血圧の上がりやすい冬に多いのです。特に、冬の朝、寒いトイレで脳出血を起こす方が多く、なかでも和式トイレは腹圧を上昇させやすく、そのせいで血圧が上がりやすいことから、洋式トイレの使用が勧められます。

5.脳梗塞

さて、脳梗塞(のうこうそく)とは、脳への血管、すなわち動脈がつまることによって、脳へ血液が流れなくなり、その結果、脳の細胞が死んでしまった状態のことを言います。この脳の動脈がつまる原因には、高血圧による血管の傷害、もしくは高脂血症や糖尿病による動脈硬化(アテローム硬化)、あるいは心臓病などをあげることが出来ます。すなわち、高血圧高脂血症糖尿病心臓病などが脳梗塞の危険因子となります。

高脂血症と動脈硬化

最近、高脂血症からくる動脈硬化によって起こるタイプの脳梗塞が増えている

なかでも最近、食生活の西洋化から血液中のコレステロールが高い高脂血症の方が増え、そのせいで動脈硬化にかかる人が増化しています。そして、このタイプの動脈硬化をアテローム硬化と言います。つまり高脂血症がありますと、長年の間に、動脈の壁にコレステロールなどの脂肪が貯まって、動脈の壁が、動脈の内腔、すなわち血液の流れる側の方に次第に膨らんできます。そして、動脈硬化が起こりますと動脈がその部分で細くなって、最後にはつまってしまうことになるのです。高脂血症の人の増加とともに、最近、このタイプの脳梗塞が増えています。

正確には、動脈硬化が起こり動脈が狭くなりますと、血液の流れが悪くなってきて、ある日、狭くなった部分に血栓と言う血液の塊が出来て、それにより突然につまってしまうことになるのです。このように血栓が出来て脳の動脈がつまってしまった場合を脳血栓と言い、その結果、脳に血液が流れなくなって脳梗塞が起こることになります。

皮質枝梗塞

皮質枝梗塞の危険因子はアテローム動脈硬化

このタイプの動脈硬化は一般に皮質枝(ひしつし)と言われる、脳の動脈の中でも太い血管に起こります。そこで、高脂血症から動脈硬化(アテローム硬化)を起こし、それによって起こるタイプの脳梗塞は皮質枝梗塞と呼ばれます。そして、このタイプでは太い血管がつまりますから、脳梗塞を起こしますと、一般に広い範囲の脳がやられてしまうことになります。そこで言語中枢のある左側の脳の脳梗塞の場合、この言語中枢がやられて手足の麻痺に加えて失語症と言う言葉の症状も同時に出ることが多いのです。

脳血栓の症状は、2〜3日かけて悪くなることがある

なお、脳血栓の場合、しばしば進行性卒中と言って、2〜3日かけて症状が悪くなることがあります。つまり最初、手足のしびれだけでも、次の日には手足が動かなくなってしまう場合もあり、あるいは最初、軽い手足の麻痺だけでも、次の日には全く動かなくなってしまうような場合もありますので、油断せずに、なるべく早く治療を開始することが大切です。

穿通枝梗塞

日本では、動脈硬化性の脳梗塞が増えたとは言え、高血圧により穿通枝がつまるタイプの脳梗塞の方がまだまだ多い 一方、皮質枝から分れて、脳の中へ直接入って行く細い動脈のことを穿通枝(せんつうし)と言います。この穿通枝は高血圧の影響をとても受けやすいのです。すなわち高血圧が長く続きますと、この穿通枝の壁がもろくなって破れやすくなり脳出血を起こしたり、あるいは逆に狭くなって、つまったりすることになります。

穿通枝梗塞の危険因子は高血圧

つまり、高血圧を放置しますと、穿通枝が障害されることによって脳出血と脳梗塞と言う正反対のタイプの両方の病気が起こる可能性があるのです。高血圧によって起こる脳梗塞がまだ、まだ多いのです。

もともと、日本人には高血圧の方が多いので、脳梗塞のうちでも、高脂血症による皮質枝梗塞よりも、高血圧によって起こる、このタイプのものがほとんどでした。最近、動脈硬化による太い血管がつまるタイプのものが増えてきましたが、それでも、まだまだ高血圧による穿通枝タイプの方がまだまだ多いので油断できません。結局、現状では高血圧が脳梗塞を含めた脳卒中の最大の危険因子であると言えます。

さて、穿通枝がつまりますと、太い血管と違って、ごく限られた狭い範囲の脳梗塞が起こります。このタイプの脳梗塞のことを穿通枝梗塞と言いますが、別名、ラクナ梗塞とも呼ばれます。このラクナと言う言葉は、このタイプの脳梗塞を起こした脳の切断面が、西洋のチーズの切断面に出来たプツプツとした空気の穴に似ているところからきています。

脳血管性痴呆(ちほう、認知症)

穿通枝梗塞が何ヶ所も起こるとボケてくる

なお、このタイプの脳梗塞が何ヶ所も起こると、次第にボケてくることがあり、そのようなものを多発脳梗塞性痴呆(脳血管性痴呆)と言います。痴呆の原因としてはアルツハイマー型痴呆が有名ですが、別名、脳血管性痴呆と呼ばれる脳梗塞によるタイプの痴呆は、日本ではアルツハイマー型痴呆よりまだまだ多いのです。しかし、アルツハイマー型痴呆には現在、有効な治療はありませんが、脳血管性痴呆の場合、普段から脳梗塞の危険因子に対処しておけば、ボケることを予防することが出来るのです。

脳梗塞の知識

脳梗塞は夜間、あるいは朝、起床時に気付くことが多い

脳血栓による脳梗塞は、血圧が下がりやすい夜間に起こりやすい傾向があり、夜間トイレに起きた時に、あるいは朝、起床時に気付くことが多いのです。

脳梗塞は夏に多発する

かっての日本では、脳卒中は高血圧を原因とする脳出血が多かったので、血圧が高くなりやすい冬に多かったのです。そんなことから脳卒中は、冬の病気と思っておられる方が多いのではないでしょうか?

夏には水分をよくとって脳梗塞を予防する

ところが最近、脳梗塞が増えたことから、脳卒中は夏に多い病気となっています。その理由は、誰しも、夏には暑さのせいで汗をかきやすいのですが、にもかかわらず水分の補給を怠りますと、脱水(体の中の水分が少なくなった状態)となって血液が濃くドロドロとした状態となり、そのせいで血管がつまりやすくなるからです。炎天下で汗をかいてスポーツをするのは大変健康的に見えます。しかし、若い方はともかく年配の方では、これは大変に危険なことなのです。

実際、夏にテニス場やゲートボール場で、あるいは登山の際に脳梗塞を起こして倒れる方が非常に多いのです。そこで脳梗塞にならないためには、汗をかいたら、それに見合った水分を補給することを心掛けて下さい。

タバコは脳梗塞の大きな危険因子

喫煙と多血症と脳梗塞との関係

喫煙は肺ガンの危険因子であると、やかましく言われていますが、喫煙者に脳梗塞が多いと言う事実はあまり知られていません。その理由は喫煙を続けますと、多血症と言って、血液中に赤血球が異常に増えた状態になるからです。

なぜかと言いますと、まず、タバコの煙の中に含まれる一酸化炭素が、血液中の赤血球と結びつき、赤血球の役目である酸素の運搬能力を奪ってしまいます。すると新しい赤血球がどんどん作られるようになって、血液中の赤血球が増えることになるからです。その結果、血液はドロドロとした状態となって、詰りやすくなってしまうのです。

脳梗塞を起こした直後は、普段血圧の低い人でも血圧が上がっていることが多い

脳梗塞を起こした後、血圧が高いと言うのは、血液の流れが悪くなった部分の血液の流れを、血圧を上げることによって良くしようと言う、自己防御反応とも言える状態なのです。

そこで、脳梗塞を起こした後の人の血圧が高いからと、安易に血圧を下げたりしますと、血液の流れが悪くなって脳梗塞の範囲が広がったりすることがあります。つまり、脳梗塞が悪化することがありますから、注意しなければなりません。一般に高い方の血圧(収縮期血圧)が200mmHgか、それより少し高い位までの血圧であれば、血圧については、血圧を下げない方が良いと言われています。

6.脳 塞 栓(のうそくせん)

不整脈が原因で起こる脳梗塞もある ― 脳塞栓

脳梗塞の原因について高脂血症による皮質枝梗塞、高血圧による穿通枝梗塞と説明してきましたが、3番目にあげなければならないのが、心臓病が原因で起こる脳梗塞で、これもまた、最近、増えているのです。と言いますのは、心臓病の中で脳梗塞に関係あるのが、心房細動(しんぼうさいどう)と言う不整脈ですが、これが年配の方に増えてきているからなのです。

さて、この心房細動が起こりますと、心臓の中に血液の塊が出来やすくなります。その場合、心臓内の血液の塊が時々、チギレて脳の動脈の方に流れて行くことになるのです。そして脳の動脈をつめてしましまい、そうなりますと、やはり脳に血液が流れなくなって脳梗塞が起こりますがこのタイプの脳梗塞を脳塞栓(のうそくせん)と言います。なお、脳塞栓では、症状は突発的であって、脳血栓の場合の進行性卒中のように、症状が1〜2日かけて悪くなると言うようなことはありません。

年配の方に非弁膜性心房細動が増えており、それが原因で脳塞栓を起こす人が増加している

心房細動と言う不整脈は、もともと心臓の弁膜の病気の方や甲状腺の病気を持った方に多かったのですが、最近では、弁膜や甲状腺の病気のない年配の方に起こる心房細動が増えており、これを非弁膜性心房細動といいます。そして、そのせいで脳塞栓が増えているのです。最近では、脳塞栓の約75%がこの非弁膜性のものによると言われています。

非弁膜性心房細動の脳塞栓発症率は年間5%

この心房細動がありますと、いつ脳塞栓を起こすか分かりませんので、飲み薬で脳塞栓を予防する必要があります。なお、非弁膜性心房細動の方の脳塞栓にかかる率は年間5%、すなわち100人あたり5人と言われています。

脳梗塞の予防にはアスピリンなどが使われるが、脳塞栓の予防にはワーファリンが使われる

一般の脳梗塞の予防には、抗血小板剤と言われる薬を使用します。それにはアスピリン(小児用バッファリン)、パナルジン、セロクラールなどの薬がよく使われます。これらの薬は、血液中の血少板と言う血球に働いて、血栓が出来にくくする作用を持っています。なお、この薬を飲んでいる方が歯を抜いたり、あるいは手術をしたりする時には、あらかじめこの薬を中止してから行なった方が良いので、前もって医師に相談するようにしましょう。但し、抗血小板剤はその効果がなくなるまで、1週間から10日かかりますので、薬をやめてから、その位、日をあけて処置や手術を行なうのが普通です。

一方、心房細動の方では、脳塞栓の予防のため心臓の中に血栓(血液の塊)が出来ないようにしておく必要があります。この目的のためには抗血小板剤は効果がありませんので、一般に抗凝固剤のワーファリンと言うお薬が使われます。

ワーファリンを飲んでいる方は、納豆を食べてはダメ

このワーファリンを飲んでいる方では、納豆や緑黄色野菜を食べますと、薬の効果がなくなってしまいますので食べてはいけません。また抜歯や手術の時に医師に相談するのも抗血少板剤と同じことです。なお、ワーファリンを飲んでいる方では、その効果を調整するために、定期的にプロトロンビン時間、もしくはトロンボテストと言う血液検査を受けて頂く必要があります。

なお、心房細動に高血圧を合併していると脳塞栓を起こす頻度が高いと言われますので、併せて血圧のコントロールを行なうことも大切です。

7.一過性脳虚血発作

一過性脳虚血発作では一時的に手足がしびれたり、動かなくなったりする

脳の動脈がつまりますと、脳に血液が流れなくなって脳細胞が死んでしまうことになり脳梗塞が起こります。一方、脳の動脈がつまっても、その後、つまったところがすぐに通って血液が流れるようになった場合とか、あるいは動脈硬化のため脳の動脈に非常に細い部分がある方では、そこに血圧の低下などが加わりますと、その間、一時的に脳への血液の流れが悪くなったりします。いずれにしましても、その間、脳の症状、すなわち手足の麻痺(動かなくなること)やしびれ、あるいは言語障害、視力障害など様々な症状が短時間出現することになります。

このように脳への血液の流れが悪くなっても、これが一時的なものである場合を一過性脳虚血発作(いっかせいのうきょけつほっさ)と言って、一般に症状は24時間以内に治ります。

一過性脳虚血発作の原因の9割は、頚の動脈に起こった動脈硬化の部分からの血栓が脳へ飛ぶこと

首の内頚(ないけい)動脈あるいは頭の中の太い血管がアテローム性動脈硬化を起こした場合、その部分の動脈の壁に血栓が出来やすくなります。実際のところ、一過性脳虚血発作の原因の約9割は、首のところで動脈硬化を起こした動脈の壁に血栓が出来て、それが時々はがれて小さな血液の塊(微小栓子)となり、頭の動脈の方へ流れて行って、そこを一時的に閉塞するために起こるのです。

典型的には内頚動脈起始部付近のアテローム性動脈硬化病変が原因となっていることが多く、その部分の動脈硬化の有無、あるいは、その程度を知るには頚部超音波検査が役に立ちます。

一過性脳虚血発作は脳梗塞の前触れ

さて、この一過性脳虚血発作は脳梗塞(のうこうそく)の前触れと言われ、すぐに治るからと放置していますと大変なことになりますから、油断できません。脳梗塞にならないように、すぐに治療しなければなりません。

一過性脳虚血発作の30%が5年以内に脳梗塞に移行する

一過性脳虚血発作を起こした後の経過を見た報告によりますと、一過性脳虚血発作の約30%が5年以内に脳梗塞に移行したと言います。また、別の報告では3年以内に1/4で脳梗塞が発症したとも言います。

脳の血管がつまって脳細胞が一旦、死んでしまいますと脳梗塞が起こって、症状はいつまでも治らないと言うことになります。つまり、かかってからでは遅いのです。

なお、一過性脳虚血発作の患者さん100人を調査した報告によりますと、そのうち、もともと高血圧であった方が49人、糖尿病の方が22人、また高脂血症の方が61人あり、脳梗塞と同じく、動脈硬化を起こしやすい基礎疾患を持った方に多いと言うことが分かっています。

急に視野の一部が黒く欠けて見えることが何度かありました。

最近、右側の視野が急にカーテンを引いたように暗くなって10分位で治ると言ったことが、何回かありました。心配ないでしょうか?

一過性黒内障(いっかせいこくないしょう)

飛蚊症とは少し違いますが、一過性脳虚血発作に似た一過性黒内障と言うものにも注意が必要です。一過性黒内障とは、片側の目の視力障害が急速に起こって、普通10分以内で回復するものを言います。視力障害とは、例えば、片側の視野の一部もしくは全部に「急に影が見えるような感じがした」、「急にカーテンを引いたように暗くなった」と言うような訴えがよくみられます。この一過性黒内障は頚動脈(けいどうみゃく、首のところにある頭に向かう動脈)に動脈硬化によって起こった挟窄(狭くなって)があって、この頚動脈がつまりかけている場合によく起こります。つまり頚動脈の挟窄部に出来た小さな塞栓(小さな血液の塊)がはがれて、目の網膜へ行く動脈の方に時々流れて行って、その血管の血液の流れが一時的に途絶えて起こると考えられています。

この場合、後に脳梗塞が起こる危険性が高いと言われていますので、すぐに良くなるからと言って安心していないで、すぐに脳外科で精密検査を受けておいた方が良いでしょう。

なお、片頭痛の発作では、発作の起こる前兆として、一時的に視野の一部が欠けることがあります。この場合、視野の欠けた部分が青白く見え、欠けた部分の周囲がギラギラと輝くことが多いようで、この場合、もちろん30分ほどしてから片頭痛の発作が起こります。

気が付くと別の所にいて、何時間か前までのことが、全く思いだせません。

50歳、女性、午前中、八百屋の店番をしていた。主人が帰ってきたところ、様子がおかしく、本人に聞いても午前中のことを全く覚えていない。午前中に来たお客さんが、おくさんがボーッとしていて、ダイコンを買っておつりをくれたが、何度、違うと言っても、間違ったおつりをくれたとのこと。

一過性全健忘

中年以上の方に多く、突然に起こる30分から8時間、平均4時間続く一過性の記憶障害の発作のことを言います。普通、発作の間、意識は保たれていて食事、洗面、会話などの日常動作も普段どおり行なわれていますが、患者は「自分はどうしてここにいるのか?」、「今日は何月、何日だ?」などと同じ質問を繰り返したりすることがよく見られます。そして発作中のことは後で聞いても、全く覚えていないのが普通です。この病気は、普通、成人病年齢と言われる50歳以上の方に起こること、また高血圧、高脂血症、糖尿病など脳卒中の危険因子を持つ方によく起こることから、脳卒中に近い病態と考えられています。つまり記憶を司どる大脳のうちの側頭葉と言うところにある海馬回(かいばかい)への動脈に動脈硬化が起こって、そのせいで一時的な血流障害(虚血)が起こることが原因であると考える学者が多いようです。なお一過性全健忘を起こした方のうち、同様の発作を繰り返したり、脳卒中に移行する方もあることから、安全のために脳卒中、特に脳梗塞に対しての予防的な投薬が行なわれることが多いようです。

一度、起こった脳梗塞はまた起こることが多い。そこで再発予防を行なうことが大切

脳梗塞は、もちろん、一度起こったなら、二度起こる可能性が高いのです。そのため再発予防の処置を講じておかなければなりません。

8.無症侯性脳梗塞

知らないうちに脳梗塞にかかっていました

頭痛で頭の検査を受けたところ、脳に脳梗塞が出来ていて、予防の薬を飲んだ方が良いと言われました。

脳ドックなどで頭の検査を受けたところ、今まで症状がなかったのに、知らないうちに脳梗塞にかかっていることが分かったと言う方が、年配の方を中心に増えています。あるデーター(人間ドックなど)によりますと、今まで特に症状のなかった方に対し脳の精密検査(MRI検査など)が行なわれた場合、約7%の方に脳梗塞がみられ、その割合は40歳台から年齢とともに増加し、70歳以上では、なんと過半数の方に脳梗塞が見られたと言います。こう言った知らないうちにかかっている脳梗塞のことを無症侯性(むしょうこうせい)脳梗塞と言います。

また、頚動脈に狭いところがあった患者さんに行なわれたCT検査の結果、それまで特に症状はありませんでしたが、やはり16〜21%の方に無症侯性脳梗塞が見られたと言う報告もあります。

ところで大脳には、機能の局在と言うものがあります。すなわち運動中枢(ちゅうすう)、感覚中枢、言語中枢、あるいは視覚中枢と言った具合に、手足を動かす命令を出す部分、言葉に関係する部分などが、それぞれ別の決まった場所にあるのです。例えば、運動中枢そのもの、あるいは運動中枢から出る神経の通り道に脳梗塞が起こりますと、麻痺と言って、手足が動かなくなる症状が出ます。ところが、脳には、こう言ったはっきりとした機能を果たしている場所、以外の場所もあって、そう言ったところに脳梗塞が起こった場合、症状がほとんど出ませんので、それにかかったことに全く気付かないと言ったことが起こり得るのです。

また、一般の方は脳循環不全(脳の血液の流れが悪くて起こる症状)の症状と気付いておられない頭重感、めまいと言った症状を訴える方に対して検査を行ないますと、やはり高頻度で脳梗塞が見出されるとの報告もあります。

無症侯性脳梗塞でも脳梗塞に違いなく、再発予防の処置を行なうことが大切

さて、このようにして見つかった脳梗塞であっても、症状がなかったからと言っても脳梗塞は脳梗塞に違いがないのです。つまり、このタイプの脳梗塞であっても、たまたま症状を起こさないような脳の場所に起こっただけと考えられます。そして一度、起こった脳梗塞がたまたま症状がなかったからと言って、次の脳梗塞が起こった時にも無症状であるとは限りません。つまり脳梗塞は一度起こると何度も再発があると言う事実をふまえ、再発作を防ぐことが大切なのです。

例えば、島根難病研究所における調査では、無症候性脳梗塞が見つかった人の、その後7年間の脳卒中発生率は8.3%であったと報告しています。そして無症侯性脳梗塞を認めなかった人の0.8%に比べ10倍と高率の脳卒中発症率であったと言います。

無症侯性脳梗塞も脳梗塞に違いありません。すなわち、無症侯性脳梗塞が見つかった人では、やはり脳梗塞の再発予防を行なっておく方が安全であると言えます。

無症侯性脳梗塞の原因には高血圧が多く、血圧のコントロールを行なっておくことが大切

さて、その方に脳梗塞が起こったことについては、血管がつまるような原因が元々あったに違いありません。このような原因のことを危険因子を言います。危険因子には、例えば高血圧、糖尿病、高脂血症など様々なものがありますが、その中で一番多いのが高血圧です。例えば、無症侯性脳梗塞が発見された人のうち60%に高血圧がみられたと言い、高血圧は、やはり脳梗塞の大きな危険因子であると言えます。逆に、70歳以上で高血圧を持っている人の55%に無症侯性脳梗塞がみられ、さらに境界域高血圧の方では30%に、正常血圧群の方では17%にみられたと言います。すなわち、高血圧の程度が強いほど、無症侯性脳梗塞の頻度が高いと言うことが分かります。

長年、高血圧であった場合、急に血圧を下げずに時間をかけてゆっくりと正常に戻してゆく

そこで高血圧のある方では、再発作を防ぐため、まず、血圧のコントロールを行なうことが大切です。しかし、コントロールを行なうと言っても、今まで長い年月慣れていた血圧から、急に下げてしまいますと、かえって調子がおかしくなったりすることがあります。そこで、ゆっくりと、時間をかけて徐々に血圧を下げて行くことが大切なのです。それ以外に、高脂血症や糖尿病、多血症などの危険因子が見つかった方では、併せて、その治療を行なうことも大切なのです。

9.慢性脳循環不全

年配の方で頭重感、めまい、ふらつき感などの症状を起こしている方の脳の血液の流れ、すなわち脳血流を測定してみますと、これが低下している方が多いことが分かっています。そして、その原因は、脳の動脈の全般的な動脈硬化によると言われています。

脳の動脈が動脈硬化を起こし細くなって、脳の血液の流れが悪くなるとフラツキ感が起こる

ところで、脳の動脈が全体に動脈硬化を起こして狭くなってきますと、脳の血液の流れが悪くなってきます。このような脳循環障害によると考えられる頭重感、めまいなどの症状が出没する場合を慢性脳循環不全症と言います。この慢性脳循環不全症も、脳卒中のひとつであって、やはり高血圧や糖尿病を基礎に持つ方に多いことが分かっているのです。

さらに、そのような方にCT検査を行なってみますと、すでに無症侯性脳梗塞にかかっているような方も結構おられるのです。

つまり、慢性脳循環不全の方も将来、脳卒中を起こされる可能性も結構ありますので、脳卒中の予防を行なっておいた方が良いと言われています。

なお、慢性脳循環不全症の方のフラツキ感、めまい感の症状に対しては、血流改善剤の内服に加えて、脳血流改善効果の高い低分子デキストラン液の点滴などが効果があります。

10.脳卒中と血圧の知識

脳卒中に、最も関連の深い危険因子は高血圧

1990年に行われた循環器疾患基礎調査の結果から推定しますと、我が国において140/90mmHg以上の血圧値を示す高血圧の人の数は約3300万人もおられます。そして、このうち、お薬の服用が必要な血圧が160/95mmHg以上の人は約2000万人おられます。

ところが血圧の薬の、実際の服用者はその半数に過ぎないのです。別の調査では、血圧の薬を飲んではおられるのですが、それでも血圧が160/95mmHg未満に下がっていない、すなわちコントロールが不十分にしか出来ていない人が27%もいると言うデーターもあります。

ところで、高血圧の方に対する、血圧の薬による脳卒中の予防効果は、種々のデーターから明らかです。

高血圧であれば、たとえ症状がなくとも治療を継続することが大切

高血圧の方の血圧のコントロール

長く高血圧であった方の体や脳は高い血圧に慣れてしまっていることがしばしばです。そこで高血圧の方の血圧を、高いからと言ってあわてて急速に下げますと、ふらつき、脱力、眠気、時には失神などを起こすことがあります。

高血圧の方の血圧は日にちをかけてゆっくりと下げてゆく方が安全

すなわち、高血圧の方の血圧は、極端に高い場合を除いて、あわてずに日にちをかけて、ゆっくりと下げて行く方が望ましいと言われています。

血圧が下がりすぎると、かえって脳梗塞になりやすくなる

なお、血圧は高くても、低くてもいけませんので、下げすぎないことも大切です。血圧を下げすぎることによって、かえって脳梗塞の再発の危険が増すことも報告されており、これをJカーブ現象と呼んでいます。

夜間に血圧が下がりすぎると脳梗塞になることがある

一方、国立循環器センターの調査では、高齢の女性の方々において、夜間の過剰な血圧低下が無症侯性脳梗塞と関連していたと報告しています。すなわち、高血圧の方では、夜間に血圧が低下しないのもいけませんが、これは正常範囲内の血圧の変動のことであって、薬が効きすぎて夜間に血圧が下がりすぎないようにすることも大切なのです。

血圧の薬は、規則正しく気長に飲むことが大切

11.長寿地域の研究から分かったこと

長寿地域では高血圧が少なく、心臓、血管系の病気が少ない

世界を見渡してみますと、いわゆる長寿村と言われる場所が何ヶ所かあります。考えてみますと、元気で長生きである長寿の方が多いと言うことは、当然、心臓病や脳卒中などの病気が少ない普段から健康な方の多い地域であると言うことになります。

この点について、WHO循環器疾患予防国際共同研究センター所長の家森(やもり)幸男先生による長寿地域の食生活の長年の研究から、長生きの秘訣と言ったことが明らかになってきています。

ところで、日本人の平均寿命は現在、男女とも世界一となっています。しかし、長生きと言いましても健康で元気に社会生活を営めるのではなければ意味がありません。

しかし、世界一の平均寿命である日本のなかでも、65歳以上の人の割合が日本一であるのが島根県です。この島根県で行なわれた老人ホームで亡くなった方の脳の研究では、実に、その1/3が痴呆であって、さらに脳の血管がつまって脳梗塞になっていた人が1/2もおられ、すなわち脳血管性痴呆が非常に多かったと言うデーターが得られています。つまり、せっかく長生きしても、脳卒中から寝たきりや痴呆になるようでは、単なる「長命」であって、健康で活動的な状態で長生き出来る「長寿」ではありません。

コーカサス地方の長寿村

ロシアのコーカサス(グルジア)地方は長寿の方が多いので有名です。ところで、この地方では保存食にかなり塩分を使うため、決して塩分の摂取が低い分けではありません。それでも長寿の人が多い理由として、この地方では野菜や果物を多く食べているのが良い影響を与えているのではないかと考えられています。つまり、野菜や果物の中には、カリウムや食物繊維が豊富に含まれており、これが食塩の害を打ち消しているものと思われます。

もうひとつ、この地方の食事で食塩の害が出ない理由は、蛋白質をしっかりとっていることです。グルジアの人が毎日飲むヨーグルトには良質の蛋白質がたくさん含まれており、さらにヨーグルトにはカルシウムもたくさん含まれていますので、これも塩分の害を打ち消すのに働いているのです。

アフリカのマサイ族

アフリ大陸の中央に住むマサイ族はライオンを槍で倒すと言われる勇敢な民族として有名です。ところが、マサイ族は食塩摂取量も血圧も世界一低く、高血圧の人も少ない健康な民族であることは、あまり知られていません。マサイ族の主食である小麦やとうもろこしから作ったウガリと言う食べ物には食物繊維とカリウムが豊富に含まれています。また、牛の乳を1日に3から10リットル位も摂取しますので、大量の蛋白質を摂取していることになります。もちろん、牛乳にはカルシウムも含まれています。またキドニービンーンズと言う豆をたくさん摂取していますが、一般に豆類には塩分を体外に排泄する作用のある蛋白質が豊富に含まれており、それ以外に食物繊維やカリウム、あるいはマグネシウムなど高血圧の予防にすぐれた効果のある栄養素がほとんど含まれているのです。

日本一の長寿県、沖縄

沖縄では、昆布の消費量が日本一であると言うことはあまり知られていません。この昆布には、食物繊維とカリウムなどのミネラルが豊富に含まれています。また、沖縄料理の特徴には豚肉をふんだんに使った多彩な料理が挙げられます。ただ、脂肪の多い豚肉ですが、これを角煮などのように長時間、煮込んだ料理が多くのです。すなわち煮込むことにより、脂がおちるので、脂肪分を多く摂らずにすみ、蛋白質だけをうまく摂取することが出来るのです。また、日本人全体より5グラムも少ない塩の摂取量で、食塩の摂取量が日本一少ないのも特徴のひとつです。さらに、魚をたくさん食べるので良質の蛋白質を摂取すること、また豆腐などの大豆料理も毎食顔を出しており、植物性蛋白質の摂取も多いのです。

長寿村の食生活のまとめ

  1. 塩分摂取が少ない。
  2. カリウムやカルシウムなどのミネラルの摂取が多い。
  3. 食物繊維の摂取が多い。
  4. 良質の蛋白質をたくさん摂取している。

実際、脳卒中ラット(ネズミ)の研究では、食塩を取りすぎるとラットは3ケ月で脳卒中を起こして全滅しましたが、野菜や果物に多いカリウムや食物繊維、海草や豆に多いマグネシウム、乳製品に多いカルシウム、それに大豆や魚など十分なタンパク質を与えてやりますと、食塩の害を打ち消して脳卒中を予防することができたと言います。

12.くも膜下出血

くも膜下出血は脳卒中のひとつであり、40〜50歳台の働き盛りの方を襲う恐ろしい病気です。その原因の約80%は脳動脈瘤と言う血管のこぶが知らない間に出来て、これが破裂することによります。ひどい頭痛と嘔吐が突然に起るのが特徴で、頭をハンマ−でたたかれたようだとか、いまだかって感じたことのないほどの痛みだなどと表現されます。また出血が強いときには昏睡状態になることもしばしばです。この脳動脈瘤と言う血管のこぶは小さな風船のようなものですが、非常に小さなことがほとんどですので破れる前に症状を出すことはまずありません。この病気は結構多いものであり、年間10万人あたり約12人の方に起こります。すなわち日本では1年間に約1万3000人の方がかかられていることになりますから結構多い病気と言えます。

このくも膜下出血は脳血管障害のなかでも最も恐ろしい病気なのです。といいますのはいったん脳動脈瘤が破れてくも膜下出血をおこしますと、血止めの薬や点滴などのいわゆる内科的な治療を行いましても、約70%の方が亡くなられるからです(アメリカでの共同研究のデ−タ− 1966年)。またたとえ生命をとりとめましても、重篤な後遺症が残ることが多いのです。

この点につきましては、いろいろな報告があるのですが、最も新しくまた信頼できるデ−タ−から詳しく説明します。

−くも膜下出血を起こされた方のうち、約50%は初回の出血により死亡するか又は社会生活不能の状態となり、治療を行わねばさらに25〜30%の方が再出血により死亡する(ドレ−ク氏の報告 1981年)。ここで再出血と言う言葉が出ましたが、どういうことかと申しますと、一度破れた脳動脈瘤は必ずと言ってよいほどもう一度、しかも割りと早い時期に破れるのです。すなわち一回目の破裂で助かっても、二回目の破裂を起こされて亡くなる方が大変に多いのです。

先にも申上げましたように、この再出血は点滴や薬などの内科的治療で防ぐことは出来ません。この再出血を防ぐためには手術を行う必要があります。脳動脈瘤は脳の奥深い所にできますので、けっして簡単な手術と言う訳にはゆきませんが、顕微鏡を用いての脳の手術の進歩により、現在では手術の成功率は大変高くなっています。結局のところ、この病気は手術を行うしか助かる方法はないと考えて頂いて間違いがありません。

しかも手術は手後れにならぬうちに行う必要があります。最も新しい報告では、この再出血が最も多かったのは初回出血が起こったのと同じ日であったと言います(カッセル氏の報告 1983年)。また出血がその日に起こらなかった場合でも、それ以後の日も毎日起こる可能性があることになります。大事なことは、特に早い時期に再出血を起こされて亡くなられる方が多いということです。すなわち手術は出来るだけその日のうちに行うのが良いのです。しかし出血を起こされた後、意識の悪い特に重症の患者さんや非常に高齢の方などでは、手術の成功率が低くなりますのでしばらく状態の改善を待って手術を行うこともありますが、手術が必要なことには変りがありません。この場合、状態が悪く手術が出来ないために待つわけで、この間、状態が改善せずに亡くなられる方もありますが、この時はどうしようもありません。

突然に起こった頭痛では、くも膜下出血を考える

脳の太い動脈に出来たコブのことを脳動脈瘤(のうどうみゃくりゅう)と言い、それには小さな風船のようなものを想像して頂くと良いと思います。この風船が圧力に耐え切れなくなって破裂しますと、くも膜下出血を起こすのです。

さて、頭蓋骨の中で脳は、くも膜と言う薄い膜につつまれています。そして、そのくも膜と脳との間の薄いスキマのことをくも膜下腔と言うのですが、そこは髄液(ずいえき)と言う液体に満たされており、いわば脳はこの髄液の中に浮んでいるような形になっているのです。

脳の太い動脈は、脳の表面すなわち、このくも膜下腔を走りますので、動脈に出来る脳動脈瘤もくも膜下腔に出来ます。そこで、それが破れて出血を起こしますと、くも膜下腔全体、すなわち脳の表面全体に出血が広がるのです。これをくも膜下出血と言います。

くも膜下出血の約80%は、この脳動脈瘤破裂によるものが占めており、他の原因には脳の血管に出来た奇形(脳動静脈奇形)によるものがありまして、これが10%位と言われています。なお、脳卒中のうちでも、くも膜下出血は脳出血や脳梗塞に比べて、やや若い40〜50歳代の年齢の方に多いと言う特徴があります。

くも膜下出血では、かって経験したことがないほど、ひどい頭痛が起こる

くも膜下出血を起こしますと、突然に激しい頭痛が起こります。また、出血が激しい時には、突然、倒れて昏睡状態となったりします。一般にくも膜下出血の頭痛は、かって経験したことがないほどひどく痛い、あるいは突然、バットでなぐられたような痛みと表現されます。いずれにしてもくも膜下出血の頭痛の特徴は、突然に起こることであって、頭痛は出血が起こった時が一番、痛いのです。頭痛が起こった時から、時間とともにだんだん痛みが強くなってきたと言うのはくも膜下出血ではありません。逆に、突然に起こった頭痛ならば、痛みの程度がたとえ軽くても、くも膜下出血を考えねばなりません。

くも膜下出血は、すぐに処置をしないと命にかかわる

くも膜下出血は命にかかわる病気です。一度、破れた脳動脈瘤が再びやぶれて出血することを再出血と言います。これが、死亡の原因となることも多いのですが、この再出血は初回の出血後の24時間以内に起こることが一番多いと言われています。そこで、頭痛が起こって、くも膜下出血が疑わしい時は、例え夜中であっても、すぐに精密検査を受けなければなりません。

くも膜下出血は大変に恐ろしい病気で、初回の破裂の時点で死亡する方も結構多く、心臓病とならんで突然死の原因のかなりの部分を占めています。例えば、ウイン氏の報告によりますと脳動脈瘤の破裂後、病院に到達する前に死亡する者は全体の20%、次いで病院に到達した者のうちの約30%は初回出血と、その合併症のために死亡する。さらに初回出血から回復しても、残りのうちの1/3は、治療されなければ再出血のために死亡したと言います。また、ドレーク氏の報告では、初回出血で全体の50%は死亡するか、廃人となり、治療しなければ、さらに25〜30%は再出血により死亡するとしています。

くも膜下出血では、警告発作として、本物の発作の前に、何度か頭痛が起こることがある。

さて、脳動脈瘤の大出血の前に、しばしば何度かの小出血がみられることのあることが指摘されています。例えば、オカワラ氏の報告では全体の48%に、あるいは、ワガ氏の報告では、全体の59%において大出血の前に、小出血がみられたと言います。この小出血の症状もやはり突然に起こる頭痛なのです。この小出血のことを警告発作と言い、この頭痛の時点で精密検査を行ない、未然に処置を行ないますと大出血を防ぐことができるものと考えられるのです。すなわち、突然の頭痛では、くも膜下出血の警告発作の可能性も考えておかねばなりません。

物が二重に見える。片方のマブタが下がって来たと言う症状は、くも膜下出血の前触れのことがある

脳の動脈に出来た脳動脈瘤は、一般に非常に小さなものなので、破れる前には症状が出ることはありません。一方、脳動脈瘤のうち内頚動脈、後交通動脈分岐部と言うところに出来た脳動脈瘤のみは、例外で、そのすぐ横を動眼神経と言う眼球を動かす神経が通っていますので、破れる位、大きくなってきますと、その神経を圧迫して動眼神経麻痺を起こすことが多いのです。具体的には、片側のマブタが下がってくる症状と物が二重に見える症状(複視、ふくし)が起こります。

なお動眼神経麻痺の原因には、他に糖尿病などいくつかのものがありますが、もし脳動脈瘤の場合であれば、これを放置しますと生命にかかわります。そこで、すぐに精密検査を行なう必要があるのです。

13.未破裂脳動脈瘤

脳ドックでたまたま、あるいは脳梗塞などに対する血管の検査で破裂する前の脳動脈瘤が偶然に発見されることがあります。こう言ったものを未破裂脳動脈瘤と言います。未破裂脳動脈瘤は一般の成人の約4〜6%位がこれを有すると言われており、比較的頻度が多い疾患です。以前よりこれはくも膜下出血という予後不良な状態を起こしうる原因として恐れられてきました。くも膜下出血は一旦発生すると、現在の医療をもってしても約1/3が社会復帰可能となる程度であり、その他は重篤な障害を残したり、亡くなってしまうことがあります。問題は、この偶然に発見された未破裂脳動脈瘤が、その後、どのぐらいの割合で破裂するのか?という点です。

未破裂脳動脈瘤が破裂する頻度

報告によって違いますが、少ない報告では1年間に0.7%の方に、多い報告では2%の方に破裂が起こると言われています。つまり100人の未破裂脳動脈瘤の患者さんのうち、毎年1〜2人の方が破裂することになります。しかし、未破裂脳動脈瘤が将来、破裂する頻度は、民族によっても差があるとも言われ、また完全には分かっていないところもあります。そこで、日本人での破裂の頻度を明らかにするため、現在、「脳検診(脳ドック)で発見される未破裂脳動脈瘤の経過観察(日本未破裂脳動脈瘤悉皆調査 UCAS Japan)」と題した健康科学総合研究が全国的に行われていますので、ほどなくその結果が判明するものと思われます。

脳動脈瘤については、手術もしくは血管内手術しか治療法はありません。脳動脈瘤の発生部位や大きさ、そして患者さんの年齢、脳梗塞の既往、高血圧や糖尿病などの合併症の有無などを総合的に判断して、手術を行なうかどうかを決めます。一般的には1センチ以下の未破裂脳動脈瘤であれば手術により何らかの合併症が出現する可能性は3〜4%、死亡率は1%未満と報告されています。治療リスクに関しては、一般に治療後の合併症率は4.2〜17.5%、死亡率は0.3〜3.8%と報告されています。

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