高血圧症とは、くり返して測っても血圧が正常より高い場合をいいます。血圧は1日のうちでもかなり変動します。そこで、たまたま測った血圧が一度だけ高かった場合、血圧が高いとは言えますが、「高血圧症」とは言い切れません。くり返し血圧を測って最高血圧(高い方の血圧、収縮期血圧)のほとんどが140mmHg以上、あるいは、最低血圧(低い方の血圧、拡張期血圧)が90mmHg以上の場合、高血圧と診断されます。
高血圧の方のほとんどは本態性高血圧症と呼ばれるもので、高血圧の原因の判らないものを言い、高血圧症の方の90%以上がこれに入ります。しかし、この本態性高血圧症は遺伝的な因子や生活習慣などの環境因子が関与していて、生活習慣病であると言われています。一方、体の中に血圧が上がる原因となるはっきりした病気がある時には、これを二次性高血圧症と呼びます。血圧が上がる原因には、例えば腎臓への動脈に狭窄がある場合、あるいは原発性アルドステロン症、褐色細胞腫などのように血圧を上げるホルモンを分泌する「できもの」が体の中に出来ている場合もあります。
血圧が高いので血圧の薬を飲むように言われました。普段どうもないのですが?
高血圧が長く続きますと脳や心臓、あるいは腎臓など重要な臓器に障害が起こってきて、ある日突然、脳や心臓などの重大な病気にかかってしまうことになります。その時点で、「しまった」と思っても手遅れになっていることが多いのです。高血圧の恐しいところは、高血圧そのものによる症状と言うものが普段ほとんどないということです。そのため血圧が高くてもそれに気付かない、あるいは高いと分っても治療を受けようと言う気になりにくい点に注意が必要です。
血圧が高くても、普通、痛くもかゆくもない。しかし放っておくと、いつの間にか心臓や脳がやられてしまう
高血圧はサイレントキラー(静かなる殺人者)と呼ばれる
症状がないからと言いましても、血圧が高ければ月日の経過とともに、確実に体はむしばまれてゆくのです。そして、そうこうしているうちに何年もが経ってしまい、結局、手後れになってしまうことが多いのです。結局、脳や心臓などの合併症が起こってからでは遅いので、症状のないうちから治療を行なっておくことが必要です。そのためには、常に自分の血圧に関心を持ち適切な血圧のコントロ−ルに心掛けるということが大切なのです。
どのくらいの血圧になったら薬を飲まなければいけませんか
どのようにして高血圧と診断するのかと言いますと、血圧は1日のうちでも上がったり、下がったり刻々変化するものですから、1回の測定だけで高血圧と診断することはありません。日を変えて少なくとも2回以上測定します。測定の際は安静の後、何回か測定して、その平均値が140/90mmHg以上の時に高血圧と診断するのです。つまり収縮期血圧(高い方の血圧)が140 mmHg(ミリ水銀柱)以上、あるいは拡張期血圧(低い方の血圧)が90 mmHg以上の場合を高血圧と言い、このような方では高血圧の合併症が出やすいことが分っています。そこで、このような方では何らかの治療が必要となってくるのです。
どの位の血圧になったら、薬を飲まなければならないのかと言う点に関しては、現在、日本高血圧学会2000年版、日本老年医学会2002年版をもとに判断されることが多いので、これを紹介しておきましょう。高血圧以外にリスクファクター(危険因子)のある方では特に合併症が起こりやすいので、それぞれの場合の降圧目標がより厳しくなります。
カテゴリー | 降圧目標 | |
年齢別 | 60歳未満 | 130/85mmHg未満 |
60歳代 | 140/90mmHg未満 | |
70歳代 | 150/90mmHg未満 | |
80歳代 | 160/90mmHg未満 | |
糖尿病 | 130/85mmHg未満 | |
腎疾患 | 130/85mmHg未満 | |
尿蛋白>1g/day | 125/75mmHg未満 | |
虚血性心疾患 | 140/85mmHg未満 | |
脳血管障害(慢性期) | 2-3ヶ月間 | 150-170/95mmHg未満 |
最終目標 | 140-150/90mmHg未満 |
家で測ると血圧が低いのですが?病院で測ると高くなります。家の血圧計はあてにならないのですか?
6つの血圧計のメーカーの家庭用血圧計146台を用いて、7000名を対象にした血圧測定の結果から、家庭用血圧計と水銀血圧計との誤差は7mmHg以下であることが分かり、水銀血圧計と比較して家庭用血圧計の数値はほぼ信頼に足ると言うデーターが得られています。但し手首や指で測るものはこれに劣ります。
家では良いのに、病院では緊張して血圧が上がると言う人もある
47人の高齢の方について、診察室へ入る後と前でどれくらい血圧が変動するかを調べたところ、診察室へ入っただけで17mmHgくらい血圧が上がることが分かったと言います。すなわち病院では緊張するせいで血圧が上がり、家で測るとそうでもないと言う方もおられるのです。高血圧と診断する上で、あるいは血圧をコントロールしてゆく上で、この点を考えにいれておく必要があります。例えば、白衣高血圧の方のように、普段の血圧が高くない人に、病院での血圧だけを元に血圧の薬を処方した場合、血圧が下がりすぎてしまうようなことがないとは言えません。そこで血圧を判断する参考に、家庭で血圧を測って、それを記録してきて頂くことをお勧めしています。
家庭で血圧を測定される場合の注意点(参考、2003年日本高血圧学会家庭血圧測定条件設定作業部会による家庭血圧測定ガイドライン)
血圧は、運動・安静・入浴・排便・食事・睡眠・体調・精神緊張などの条件で大きく変わります。そこで、血圧を測る前には、1〜2分くらい安静にしてから座位で測ります。
(1)左右の腕で差があることもあります。いつも左と右で血圧が10mmHg以上違う場合には、高い方の腕で測りましょう。(2)測るときは上腕(肘関節より上)にカフを巻きますが、きついシャツ等で腕の上部を締め付けないようにします。巻く強さは指が2本くらい入る強さにしてください。強く巻きすぎると高めに出ます。またカフの高さが心臓の高さ(乳頭の位置、右心房の高さ)になるようにして下さい。腕は伸ばした状態で前腕を机やテーブルの上に置いて測定します。 (3) 最高血圧が1回目の測定より、2回目が20以上も低くなる人は2回目を血圧と判定して下さい。そうでなければ1回の測定で十分です。血圧は朝晩2回測りましょう。朝は起床後1時間以内、排尿後、座位1〜2分間の安静後、服薬前、朝食前に測りましょう。また晩の家庭血圧は就寝前、座った姿勢で、1〜2分間の安静後に測りましょう。入浴後、お手洗いの後、運動直後、食直後、飲酒後などは安静時血圧ではありません。また、深呼吸した後は血圧より低くなりますので、これを普段の血圧とするのは適当ではありません。(4) 高血圧の薬を飲まれている方では、主治医の指示がない限り、自分の判断で、高いからたくさん飲むとか、低いからと減らしたり中止したりしないようにしましょう。特に薬を途中で中止すると、血圧は以前の値に戻り、時にはそれ以上に上昇して高血圧による合併症を起こすことがあります。
血圧が朝に高くなります。大丈夫でしょうか?
血圧は季節により、あるいは1日のうちでもかなり変動します。例えば1年のうちでは、血圧は冬に高くなり、夏には低くなる傾向があります。また、日中の血圧の変化をみましても、正常な方の血圧は、一般に朝方に低くて夕方に高くなり、夜間すなわち午前3時ごろに最低を示す日内変動がみられるのが普通です。昔は、朝にふとんの中で測る血圧を基礎血圧と言って、ストレスがなく一番低い血圧と考えられていました。
早朝高血圧(モーニングサージ)は脳卒中や心臓病の危険因子
モーニングサージ
最近の調査によって高血圧の方のうち、大体20から30%の方では、朝起きて1時間以内の血圧が1日の血圧の中で1番高くなっていることが分かってきました。こう言った朝に血圧が高いことをモーニングサージ(早朝高血圧)と言います。もともと脳卒中や心筋梗塞などは朝方に発症することが多く、この早朝高血圧と、これらの心血管イベントの発症とは関係があると考えられています。すなわち早朝の異常な血圧上昇は心血管イベントの危険因子であることから、この時間帯の血圧を適切にコントロールすることの重要性が指摘されています。
夜間高血圧
高血圧の方の一日の血圧の変化を調べてみますと、軽症から中等症の高血圧の方では、一般に血圧は昼間は高いのですが、夜間には低下し、再び日中は高くなると言うことを繰り返しています。こう言った方を夜間血圧低下型と言います。一方、重症の高血圧の方では夜間にも血圧は下がらない方が多く、このようなタイプを夜間非低下型と言います。そして、このような夜間に血圧の下がらない方(夜間高血圧)は、将来、心臓や脳の臓器の障害、すなわち心臓の左室肥大や多発性脳梗塞などにかかる頻度が高く、脳や心臓疾患の発症により長生きしにくいと言われています。
食事性低血圧症
食後に血圧が低下し、ふらつき、めまいなどの症状があらわれることがあります。老年者に見られることが多く、なかでも糖質を多く含む食品の食後にみられることが多いようです。食後の安静などで血圧低下を予防出来ます。
血圧を気にしすぎて、そのせいで血圧が上がると言う血圧不安症の方が増えている
血圧を全く気にしない方も困りものですが、逆に気にしすぎて自分で病気を作ってしまう方もあります。家庭用の血圧計が普及するにつれ自分で計った血圧の数値が気になって1日に何回も測らないと気がすまなくなると言う「血圧不安症」の方が、特に年配の方に増えています。なかには、計った時の血圧がたまたま高かったと言うのにすぎない場合でも、その数値にビックリしてしまい、不安が増し、そのせいで、さらに血圧が上がると言う悪循環に陥って、夜眠れなくなったり、心配で救急外来を訪れたり、あるいは救急車で運ばれたりする人もあるようです。血圧は1日に10万回も変動する微妙なもの、運動やちょっとした精神的な動揺でも上がったりすることもあります。一時的に血圧が普段より上がることはよくあることなので、こう言う場合はしばらく安静にしていると下がることが多いのです。
高血圧が長く続くと、脳や心臓など重要臓器がやられてしまう
高血圧が続きますと脳や心臓などの病気が起こってきます。このうち代表的なものが脳出血です。かっての日本では脳卒中が死因の第1位を占めていましたが、当時の脳卒中の大部分はこの脳出血でした。要するに国民の大部分が脳出血で亡くなっていたのです。ところが最近になって脳出血は減少してきています。
ところで、高血圧は脳出血ばかりでなく脳の血管がつまる脳梗塞の原因にもなります。最近、脳出血に変って脳梗塞が増えていますが、これは食生活の西洋化などにより動脈硬化にかかる方が増えたことが一因です。しかし、脳梗塞には、高血圧が原因で起こるタイプのものもあり、従来から日本人の脳梗塞のかなりの部分を占めています。こういった高血圧が原因で起こる脳梗塞は、現状ではあまり減っていないと言うのが本当のところです。この高血圧が原因で起こる脳梗塞は、日本人に多い穿通枝と言う細い動脈がつまるタイプのものです。このタイプの脳梗塞が知らないうちにいくつも起こってボケの原因となることがあり、このようなタイプのボケを多発脳梗塞性痴呆もしくは脳血管性痴呆と言います。
高血圧は脳出血ばかりでなく脳梗塞の原因ともなる
ここで以前に脳出血が多かった理由、また最近になってこれが減ってきている理由から、高血圧の予防法を探ってみましょう。
以前の日本では塩分が多く、蛋白質や動物性脂肪の不足した食事が一般的でした。例えば塩からい漬けものとみそ汁だけで、おかずなしにごはんをかき込むようなことが多かったのです。ご存じのように塩分の取りすぎと高血圧には強い関連があります。また蛋白質や動物性脂肪の摂取が不足すると血管がもろくなり脳に出血しやすくなるのです。最近では食生活は改善され、むしろ動物性脂肪の取りすぎが問題となっている位で、不足の心配はほとんどなくなりました。そして一般の方の血圧への関心も次第に高まり、高血圧の方の数が目に見えて減って来ています。その結果、脳出血が次第に減ってきたと言うわけです。しかし塩分の摂取量に関しては、日本では欧米にくらべてまだまだ多く、さらに減らす必要があると言われています。
寒さは血圧を上昇させます。そのため脳出血にかかる方は圧倒的に冬に多いのです。以前の日本の住居にはスキマが多くて冬には大変寒かったのです。なかでもトイレで脳卒中を起こして倒れる方が多かったのです。その理由は以前によく見られた和式のトイレでは、用便に際し腹圧がかかるため血圧が上がりやすく、これにトイレの寒さが加わって血圧がいっそう上ることが多かったからでした。近年、脳出血が減少した第2の理由としては暖房の普及など住環境が改善されたこと、また和式のトイレが減って洋式トイレが普及したことなども上げることができます。
血圧を上昇させる原因としては塩分のとりすぎ、アルコールの過飲、寒冷、肥満、運動不足などをあげることが出来ます
血圧と塩分との関係
塩分のないところに高血圧はない
世界中の人の血圧を研究したデータによりますと、グリンランドのエスキモー、中央アメリカのインデイアン、あるいはアフリカのカラハリ砂漠に住むブッシュマンたちには高血圧のものがほとんどいません。その理由は彼らの摂取する食事には塩分がほとんど含まれておらず、1日に摂取する塩分が2グラム以下だからです。
なんと言っても塩分を制限するのが第一
「塩分のないところに高血圧はない」と言う事実から分るように、血圧を下げる第一のポイントは塩分を制限することです。参考までにあげますと1日に摂取する塩分を普段より、例えば5グラム減らしますと、薬なしで血圧は5から10mmHg下がることが分かっています。また、住民の尿中のナトリウムが少ない地域では脳卒中が少ないと言う研究結果も判明していて、塩分を控えると脳卒中を予防できることが分かります。
1日5グラム食塩摂取を減らせば5〜10mmHg血圧を下げることが出来る
日本人の食塩摂取量は、以前は1日15〜20グラムでしたが、その後、1日12〜13グラムまで下がっていました。そこで国は国民栄養所要量として「1日10g以下」と定め、さらに厚生省は1日の摂取量を7グラム以下にするように指導していました。ところが最近、塩分摂取量が再び増加傾向にあって、注意が呼びかけられています。
塩分を制限する具体的方法
三大調味料(食卓塩、しょう油、ソース)の使用をなるべく避け、漬け物を控える。これだけでずいぶん違います
高血圧の方では食塩をぜひとも1日7グラム(出来たら5グラム)以下に制限する必要があります。「うす味でとてもだめだ」と思っていた減塩食も10日から14日ぐらい続けてみますと次第に慣れてくるものです。はじめからあきらめないで頑張ってみましょう。さて日本人の食生活の中で、塩分摂取の増加に関係しているものに、まず三大調味料(食卓塩、しょう 油、ソース)と、漬け物を上げることができます。1日7〜8グラムの減塩食は以下の注意を守れば達成出来ます。
高血圧では塩分を控えてさえいれば大丈夫なのでしょうか?
血圧の高い方では塩分を控えることが大切で、その重要性は言うまでもありません。しかし最近の研究によりますと、高血圧の方の中には塩分制限だけでは血圧の下がらない方のおられることも分かっています。この原因は塩分に対する感受性にかなり個人差があるからです。例えば、高血圧の方に食塩制限行なってみますと、1日6〜8グラムの軽度の塩分制限では約20%の方、また3〜5グラムの中等度の制限では40%位の方で血圧が下がります。こう言った方の高血圧は、食塩制限で血圧が下がっていますので食塩感受性高血圧と言います。
一方、残りの60%の方は減塩では血圧が下がりません。このタイプを食塩非感受性高血圧と言います。こう言った方では、中等度の減塩にとどめ、極端な減塩を行なうよりもカリウムを多く含む食品をとったり、良質の蛋白質を含む食品を積極的に摂取して血管を強くしたりして、バランスの良い食事にするのが良いと思われます。もちろん血圧を下げるには、積極的に運動を行なうことも大切です。
脳卒中の予防には、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのミネラルを摂取することが大切
家森による「脳卒中の少ない地域」の研究から以下の事実が分かりました。
脳卒中の少ない地域では
血液中のコレステロールが低いと動脈硬化にかかりにくいことはもちろんですし、尿中のナトリウムが少ないということは「塩分の摂取が少ない」ことを示しています。また、尿中のカリウムが多いということは、「カリウムの摂取が多い」ということです。
カリウムやカルシウムの多い食事は血圧を下げることが多くの実験で判明している
カリウムの摂取がなぜ血圧を下げるのかについてはよく分かっていませんが、種々の研究から、血圧を下げて正常に保つには食塩の摂取を減らすだけでなく、カリウムとカルシウムを積極的にとることが有効であることが分かっています。なお、腎臓病の方ではカリウムをたくさん摂取してはいけません。
さらにカルシウムの摂取が血圧や心臓血管系の病気に良い影響を与えることはいろいろな面から確認されています。例えば高血圧自然発症ラットに高カルシウム食を与えて育てますと、高血圧の発生が遅れ、またその程度が軽くなると言う結果が得られています。また若年者の高血圧に対してカルシウムの多い食事を与えたところ血圧の降下が認められたと言う報告もあります。さらに沖縄県など、カルシウムやマグネシウムなどミネラルを多く含む水を飲料水を飲んでいる地域では、心臓血管系の病気による死亡率が低く長寿者が多いと言う事実もあるのです。
カリウム、カルシウム、マグネシウムは脳卒中の予防に役立つのは間違いがなく、これらを積極的に摂取することが大切である。
カリウムはトマトやホウレンソウなどの野菜類、海藻、豆類に多く含まれています。またカルシウムは牛乳や小魚、海藻に多いのです。一方、マグネシウムは海草に多く含まれています。
魚のたんぱく質には血圧を下げる効果があり、例え脳卒中の遺伝が強くても長生き出来ることが分かった
魚のたんぱく質には血圧を下げたり、コレステロールを排泄したりする作用があり、その作用の一部はタウリンと言う成分によると言われます。例えば尿の中のタウリンの量を測ってみて、魚をたくさん食べているかどうかを調べる事が出来ます。この方法で行なった世界的な疫学調査から尿の中のタウリンが飛び抜けて多かったのが日本でした。また脳卒中自然発症ラットの実験、すなわち魚のたんぱく質で育てたラットでは脳卒中を発症するものがほとんどいなかったと言う事実からも伝統的な和食が長寿のために最も優れていることが分かっています。
このタウリンは魚貝類に含まれ血圧や血液中のコレステロールを下げる作用があります。タウリンの多い食物としてはアワビ、スルメイカ、ズワイガニ、タコ、アサリ、カキなどをあげることができます。
アルコールを飲む量が増えるにつれて血圧が上がる。血圧の高い方はアルコールを控える
アルコールの摂取量が増えると、それに正比例して血圧が高くなってきます。このような飲酒が血圧を上昇させると言う事実をご存じない方が多いようです。高血圧の患者さんでは、例えば節酒するだけで血圧の下がる方がかなりおられます。
なお大量のアルコール飲用者では飲まない人にくらべ脳卒中にかかる率が4倍になると言う報告もあります。血圧の高い方では、お酒はなるべく控えましょう。まさらにお酒には結構カロリーがあり、肥満の原因となることにも注意が必要です。
血圧の高い方では寒冷を避けることが大切
寒さは末梢血管を収縮させ血圧を上昇させます。その結果、血圧は一般に冬に高くなるのです。そこで血圧の高い方は冬は要注意ですし、血圧が高くて血圧を下げる薬を飲んでおられる方でも、冬には普段より血圧が高くなって、血圧の薬の量を増やす必要のあることもあります。いずれにしましても、寒い時期には暖房に注意し室内を常に暖かくしましょう。なかでもトイレは特に寒い場所ですから、ここの暖房に気をつけることは脳出血の予防にとても大切なことです。また外出時には薄着を避け、重ね着をして温かい服装で出かけるようにしましょう。
肥満は高血圧を招くことがますます明確になり、上手にやせれば高血圧の薬が不要になる
肥満の方では一般に血圧が高くなります。例えば体重が1キロ増えますと、最大血圧が1.6 mmHg、最小血圧が1.3 mmHg上昇すると言う事実が分かっていますし、また4キロやせると血圧の薬がひとついらなくなるとも言われます。そこで肥満で血圧が高い人がまず行なうべきことは減量です。
日本肥満学会の定めた標準体重、すなわち一番病気にかかりにくいと言う体重は次のような方法、すなわち身長をメートルに直し、(身長)×(身長)×22で計算します。
例:身長が165cmの方では 1.65×1.65×22=59.895 約60Kgとなります。
この体重より20パーセント多い71.9Kg以上の方は医学的に、明らかな肥満状態と言うことになります。
毎日、根気よく運動を続けると、次第に血圧が下がってくる
高血圧の方では肥満を解消するためにも、運動不足に注意することが大切です。すなわち血圧の高い方で太りぎみの場合には、カロリーを制限するだけでなく、散歩やラジオ体操などの運動を日常生活に積極的に取入れ、なるべく歩くようにしましょう。
毎日30分、約10週間続けると血圧はだんだん下がってきます。なお、アメリカでは最近、ジョギングに変って歩くのがブームとなっており、車やバスによる通勤から徒歩通勤に変えた人がこの1年間に3割も増え、今や600万人に達したと言われます。
ごはん1杯分(160Kcal)を消費するには、以下の運動が必要と言われています。
高血圧の運動療法
高血圧の患者さんが運動で血圧を下げようと言うのが高血圧の運動療法です。研究の結果、運動を続けることによって血圧は5〜20mmHg程度低下することが実証されつつあります。
ただ高血圧の患者さんが運動療法を始めるにあたっては、心臓病を始めとする病気のチエックを行なった上で、運動を始めて良いかを確かめてから行なって下さい。運動種目で勧められるのは歩行、ジョギング、自転車などです。運動の時間は目標とする運動強度を1回に30分から60分間続け、これを週に3回程度行なうのが好ましいと言われます。
高血圧の薬は危険か?
「血圧の薬を飲み始めると一生やめられなくなるから、医者が飲めと言っても絶対に飲んではダメ」と近所の人が言います。どうなんでしょうか。
「血圧の薬が怖い」と言う話には、高血圧があって、その高い血圧を放っておくと、近い将来に全身の種々の臓器に重大な合併症が起こり、生死にかかわるような大変なことになるんだと言う事実が全く考えにいられていません。
高血圧の方の経過を追跡したあるデーターによりますと、高血圧で治療を行なわなかった場合、5年以内に全体の30%以上の方に重症の脳卒中あるいは生命にかかわるような事態が起こったと言います。また高血圧に対して全く治療を行なわなかったと言う方々の経過をみた別の研究では、5年後に全体の75%の方しか生存していなかったと言います。実際、高血圧を放置すると、これほど恐ろしことが起こるんだと言う事実を、ご存じの方はほとんどないようです。ところで現在、使用されている高血圧の薬、すなわち降圧剤は、医師の指示のもとに正しく服用すれば安全なものばかりです。「高血圧の薬を飲んだら怖い」などと言う話は、それなら、高血圧を治療もせずに放っておくといかに恐ろしいかという肝腎の点を忘れた無責任な話です。
なお降圧剤は高血圧そのものを治す薬ではなくて、血圧を適切なレベルに下げて高血圧のため起こってくる余病を防ぐためのものです。例えば降圧剤を飲んで血圧が下がったからと言って、途端に飲むのをやめてしまう方もありますが、普通やめるとまた血圧はすぐに上がってもとに戻ってしまいます。そこで血圧を常に適切なところにコントロールしておくため、降圧剤を飲み続ける必要があるのです。このように降圧剤は長く続ける必要があるため、最近では1日1回の服用で良い薬剤が主流となってきており、便利になりました。
高血圧の薬を飲み始めた場合、飲み続ける必要のある人が80%、食事や運動など生活の改善で飲まなくてよくなる方が約20%
さて、高血圧のため血圧の薬が必要であって、これを飲み始めた人のうち約80%の方では降圧剤をずっと飲み続ける必要があるようです。一方、食事療法を含めた生活の改善で降圧剤がある時期から必要なくなる方も約20%ありますので、薬を飲むばかりではなく、普段の自己努力が大切であると言えます。
血圧を下げる薬(降圧剤)にはいくつかの種類がありますが、良く使われるものには以下のものがあります。
最近の高血圧の薬の使用状況をみますと、日本ではカルシウム拮抗剤が一番よく使われていますが、最近、アンギオテンシンU受容体拮抗薬の使用が次第に増えているという状況です。
高血圧の薬を飲み始める際、血圧はゆっくりと日にちをかけて下げて行った方がよい。
「薬を飲み始めたがなかなか下がらない」などと心配される方もあります。血圧をどのように下げてゆくのが良いかという点について、高血圧の薬は、まず、患者さんに最適なものを選び、それを少ない量から始めて丁度良い血圧になるまで少しずつ増やしてゆきます。このような方法をとる理由は、高血圧の方では、それまで血圧が高かったせいで脳や腎臓、心臓などの重要な臓器が高い血圧に慣れてしまっていることが多く、急激に血圧を下げたりしますと、かえって体の調子がおかしくなったりする場合もあるからです。そこで、体に無理がかからないように1〜2ヶ月かけてゆっくりと最適な血圧まで下げた方が良いと言われています。なお、ひとつの薬をある程度の量使用して、それでも十分に下がらない時には、どんどんその薬を増やすよりは、他の薬を併せて使用する方が良いと言われています。そこで、血圧の高い方では、一般に何種類かの薬を組合わせて使用することが多いようです。
無理に血圧を下げてはいけない場合もある
血圧が高いといって、むやみに下げてよいというものではありません。病気が起こった際に、人間の体には、それを治そうという防御反応が起こることがあります。例えば、体の重要な臓器の血液の流れが悪くなった場合、血圧を上げて血液の流れをよくし病気を治そうというような反応が起こる場合もあるのです。例を挙げますと、脳の血管がつまる脳梗塞が起こった場合、体は血圧を上げて悪くなった血液の流れをよくしようとします。そこで、普段より血圧が高くなるのですが、そのような場合、それに気付かずに薬を使って無理に血圧を下げたりしますと、かえって脳梗塞がひどくなったりすることになります。
血圧が低かったからといって、血圧の薬を勝手にやめたり、高かったからといって、たくさん飲んではタメ。医師の指示を受けることが大切
血圧の薬は規則正しく服用することが大切です。そして血圧の薬を飲み始めてから、その効果が出るまで、すなわち血圧が安定するまでには、普通、何日かの日にちがかかります。なお、血圧の薬を飲んでおられても、血圧は1日のうちでかなり変動するのですが時々、自分で血圧を測って高い時だけ飲み、低い時には飲まないような方があります。これは正しい飲み方ではありません。高いからと飲んでも、すぐに効く訳ではないからです。
グレープフルーツとカルシウム拮抗剤は食い合せが悪い
グレープフルーツジュースを飲むとカルシウム拮抗剤の血中濃度が上昇し薬が効きすぎて、血圧が下がりすぎたりすることがあります。グレープフルーツに含まれる成分が肝臓でのお薬の代謝を抑えるからです。そこでカルシウム拮抗剤を飲んでいる方では、グレープフルーツジュースは避けた方が良いでしょう。
血圧の薬を飲み始めた頃から咳がでるようになりました。薬と関係あるのでしょうか?
最近、血圧の薬のなかでもアンギオテンシン変換酵素阻害剤と言う薬が副作用も少なく、効果がマイルドなのでよく使われるようになっています。ただこのお薬では、約1割の方に咳が出ることがあります。あなたの咳はそのせいかもしれませんので医師に相談されることをお勧めします。なお、最近では、このアンギオテンシン変換酵素阻害剤にかわって、アンギオテンシンU受容体拮抗薬が使用されるようになり、こちらは咳の副作用が非常に少なくなっています。
血圧の薬を規則正しく服用し、定期的に血圧のチエックを受けることが大切
診察を待つのが面倒なため、中には、「診察はいらない血圧の薬だけ欲しい」と言う方もあります。しかし同じ量の薬を飲んでおられても季節(冬には一般に高くなり、夏には低くなる)や体の状態によって血圧は変動してくることがしばしばで、その場合、薬の量を調節しなければなりません。そこで面倒でも定期的に診察を受けて頂く必要があるのです。
高血圧の方の中には、二次性高血圧症と言って、腎臓の病気やホルモンを分泌する腫瘍(できもの)など、はっきりとした原因によって高血圧が起こっている方があります。この場合、その原因疾患の治療を行なえば、高血圧が治ることになります。一方、実際のところ、高血圧の方のうちのほとんどは、高血圧の原因がはっきりしないタイプで、血圧が高くなる体質であると言う方々です。こういった方の高血圧を本態性高血圧と言います。そして高血圧の患者さんの90%以上が本態性高血圧症にはいります。なお、特に若年者で血圧の高い方では、先に申しました二次性高血圧症の可能性が高くなりますので、一度は詳しい検査を受けておいた方が良いと思われます。
本態性高血圧は、片親が高血圧の場合は20〜50%、両親ともに高血圧なら50〜70%とかなり高率に遺伝します。そこで親が高血圧の場合には、その子供さんは、普段から血圧に注意し、高血圧の予防に努めた方が良いと思われます。
脈圧(高い方の血圧と低い方の血圧の差)が少ないと異常であると聞きました?
血圧のうち高い方の血圧を収縮期血圧、低い方の血圧を拡張期血圧と言います。そのどちらも高くなくて、その間の脈圧が少ないと言った方は特に心配ありません。但し、収縮期血圧があまり高くないのに、拡張期血圧だけが異常に高い場合、それを引き算した脈圧は少なくなります。この場合、脈圧が少ないのが問題であるのではなく、低い方の血圧(収縮期血圧)が高いと言うことが問題なのです(収縮期高血圧)。そして収縮期血圧が90mmHg以上、なかでも95mmHg以上の場合には、高血圧としての治療が必要となります。一方、脈圧が大きくなる病気には大動脈弁閉鎖不全や大動脈挟窄症などの心臓や血管の病気があります。